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君の瞳に恋してない  作者: バカノ餅
ミックスジュース
23/31

"春桜の笛吹き"

「すぅ…すぅ…」


 満月の夜。

 窓から漏れる光が麗しい寝顔を照らしている。

 吐息が聞こえて温かい息が手のひらにかかる。


 寝れねぇ!!!


 *** 


 少し前…

 

「「最初はグー!ジャンケン」」


「「ポン!」」


「わーい!またボクの勝ちー!」


「俺の…パーが…俺の…ベッドが…」


 膝から崩れ落ち両手を床につける。


 俺達は今争奪戦をしている。

 そう…ベッドの。


「スバルのふかふかベッドは今日もボクの支配下だよ〜!」


「ち、ちくしょ〜…」


 昨日から卯月と過ごして気づいたことがある。

 

「えへへ!ふふふっ!最高ー!」


 こいつ…くっそ可愛い…

 

 そして、ノリが知世と似ているものがある。

 知世まではいかないがよく喋るようになったし、今までとは違って瞳がキラキラしている。

 これは、あざとさが増したともいうのだろうか?


「ホントに下で寝るの?」


「今更なんだよ。2人で決めたろ?」


「うーん...」


「お前も色々怖いだろうし、俺は下のソファでも十分すぎるんだぞ。」


「…」


「それじゃ、おやす──」

「…まって」


 卯月は俺の裾を掴んだ。


「な、なんだよ?」


「確かにスバルの家のふかふかソファは全然寝れると思うよ?でも…さ…少し…寂しい気がするんだ。」


「…お、おい?」


 う、うず…き…?


「ちょっ!おい!?まて!男子と、2人きりって!」


「危なくない!スバルなら危なくない!」


「お、おま──」

「ボクが言いたいのは…!」


 卯月は俺の言葉を遮り深呼吸をする。


「ボクが言いたいのは…スバルと一緒に寝たいってことっ!」


 ?????


 いや、知ってた。こうなる流れは。

 俺はこの状況を作った神がいるとしたら言ってやりたい。


 ぶん殴らせろって。

 

 …ヤバい…これは…ヤバい…


 女子と寝るということは男子にとっては夢のようなことであろう。

 

 だか、それにもリスクというものがある。


 相手の許可なく体に触れたり、意図せずとも触れたりしたらもうそこで…

 人生が終わるということ…


「…」


「…」


 俺らの間に沈黙が漂う。


 思考がバグる俺と、オーバーヒートする卯月。


 な、何か…言わないと。


「いいぞ。」


 ***


 そして今に至る。


 この馬鹿野郎め!

 だ、ダメだ…そっぽを向こうにも俺の手が卯月の手の下にあるから下手に動かしたら起こすかもしれない!

 卯月が寝返りを打つのを待つか…?

 いつまで待つんだ!?


 …もう諦めよう。


 俺はそのまま瞳を閉じた。


 それでも睡魔より緊張が勝ち、全然寝付くことができなかった。

 どのぐらい経った?

 もう遅いと思うが…


 しかし、突然の異変が俺の緊張をまた、別のものに変えた。


 外から笛の音がする。


 穏やかな音色はゆっくりと家の前を通り過ぎていく。 


 トイレか笛の音で目が覚めてしまったのかどうか分からないが、しばらくして卯月が起き上がり下へと降りていった。

 

 しかし、卯月はいつまで経っても帰ってくることはなかった。


「…遅い。」


 とある不安が胸の中に浮かび上がる。


「まさか…!」


 不安を閉じ込めたまま俺は準備をして家から飛び出した。


 ###


 そして今、笛の音が移動したであろう道を駆ける。

 

 しばらく走るうちに住宅地のとある十字路に到着する。そしてそこには歳が近い女子学生が群がっていた。


 笛の音も一緒に紛れて…


「アイツか…!」


 小声で呟き確信を得る。 

 ある家の屋根の上で満月を背負いながら笛を吹いている人間…アイツが原因だ。

 帽子のせいで確証は持てないが、体を見ると、卯月と知世の身長である164cmよりかは約1cm小さいことがわかる。


「あれ?知らない声…貴方を招待した覚えはないんですけどね。」 


「お前は誰だ…?」


「…!へぇ…こんな()()あるんだ。」


 こんな偶然…?


「とにかく質問に答えろ。お前は誰だ?」


「ああ、私はただの笛吹きだよ。」


 言葉を崩した?

 おいおい、もう仲良くなったつもりか?口調はハッキリしてくれよ。


「『ただの笛吹き』にしちゃあ、ずいぶん特定の層の客を呼び寄せてるんだな?まるで()()()()()ように。」


「まあ、今は()()()()()を吹いているからね。」


「悪いな…俺の連れがそこに紛れ込んだみたいでよ。連れ帰らせてもらうぜ。」


「うーん。それはどんな子かによるよ。」


 俺は塀の上に立ち、元からある石像のように、動かず並んでいる異様な光景から卯月を探す。


「いた!」


 十字路の中心に紛れ込み突っ立っている卯月を見つけ、そのまま飛び上がる。卯月の目の前へ着地したあと体を向けて肩を掴み、少しだけ揺さぶる。


「おい卯月!大丈夫か?」


「…」


 返事がない…?

 よく見ると目が虚ろで力なく突っ立っている。

 それは周りの女子も同じでとても異様だった。


「なんだ…これ…」


「今、ある女の子を探しているんだ。」


「…は?」


「連れ帰る前にその子を確認してもいいかな?」


 そいつは屋根から塀へ、そして地面へと軽やかに降りてこちらに近づいてくる。

 女子たちは道を開けるようにして離れていく。

 やがて俺と卯月を中心にして囲まれてしまい、みんなマネキンのように動かず均一でこちらを見るだけだ。


 笛吹きは卯月の方へどんどん近づく。


「おい。それ以上近づくな。」


「手厳しいね。まあいいよ。」


 そして笛吹きは立ち止まりパンっと両手を一回叩いた。


「あ…れ…?」


「卯月!」


 卯月はキョロキョロを周りを見回しこの異様な状況に困惑する。


「ああ、君だったんだ。」


「は?」


 笛吹きの言葉により思わず声が出てしまう。

 コイツ、卯月を知ってんのか…?


「そっか〜…うーん。とりあえずその子と2人きりにしてほしいな。」


「ダメだ。」


 卯月を俺の後ろに立たせて笛吹のことを睨む。


「…だろうね。でもこれは譲れないんだ。ごめんね。」


 そして笛吹きは横笛を口元へ寄せ…


「みんな聴いてて、いくよ。」


 〜♪


 笛の音により周りを囲んでいた女子たちは一斉にゆっくりと前進し、俺を拘束しようとする素振りを見せる。


「卯月逃げるぞ!」


「…」


「卯月?って、うわっ!?」


 卯月はいつもの優しさがない別人のような力で俺の腕を掴んで背負い投げをし、そのままうつ伏せに拘束されてしまった。


「ぐっ…」


「みんな、彼女の代わりに拘束してあげてね。もし抵抗したら…」


 クソッ…大人数じゃ分が悪すぎる…!


「あ~わかったわかった!降参だ!」 


「…へぇ?」 


「大人しく拘束されておくからその()()をしてくれ。」


「そう、わかった。」


 うつ伏せのまま大人数の女子が拘束してくる。


 それを見向きもせずゆっくりと卯月は笛吹きの元へ歩いていく。

 やがて笛吹きとの距離が近くなると…


「すぅ~ふぅ~。頑張れ私。」


 深呼吸をした笛吹きはもう一度、手を叩く。


「…っ!…え!?なんで!?」


 再び卯月は周りを見回し困惑する。


 今までのを見た感じ、笛吹きの能力は笛を吹いて人を操り、解除できる能力。催眠術に近いものだな。

 そして操られた人は操られた時の記憶を覚えていないと…

 

 ハッ、どこの童話だよ。


「え、えっ!?スバル、大丈夫なの!?」


「大丈夫だ!それより笛吹きに気をつけろよ!」


「う、うん!」


 そう言って卯月は構えをとる。


「ちょっ、ちょっとまって!」


 笛吹きは、慌てる素振りで卯月をなだめた。


「は?」「え?」


「わ、私はただ君と話を…!」


「それにしちゃあ話をするようには見えないな?この女子達を操ってる時点で怪しいやつには変わりないんだぞ。」


「わ、わかったから!」


 そう言って笛吹きはさっきより両手を高く上げ同じように手を叩く。

 

「あ…れ…?」

「ここどこ…?」

「私たち帰る途中だったよね…?」

「今って夢の中なのかなぁ…」

「あーっ!私の鞄がない!」

「あの緑の人…どこかのコスプレイヤー…?」


 目が覚めた女子達は混乱している。


「…催眠術が一斉に…?」


「え?あっ!すみません!」


「ん?ああ、大丈夫ですよ。」


 俺を拘束していた女子達は慌ててその場から離れ、何度も謝罪をする。

 やはり本人達もよくわかっていないようだった。


 ###

 

 少し経つと、みんなは納得しない顔をしながら、いるべき所へ帰っていった。


「ほ、ほら!もうこれで信頼してくれるでしょ!危害が加えられることはなくなったし!」


 …確かに人数で攻められることはなくなったが…

 

「まだ…足りないな。」


「じゃ、じゃあどうすればいい?」

 

 まだヤツの武器がある…一番危険な武器が…


「その笛をこっちに渡せ。」


「…!」


 今までは女子を操っていたが、男子を操れる可能性だってある。…いや、なんならその両方だって……

 

 俺か卯月…どちらかが操られることになったら……

 どっちも厄介なことになる。


「さあ、早く渡せ。それなら卯月と話をさせてやる。」


「そ、それは…できない……」


「そうか…交渉決裂ってとこか。」


「くっ…!私はただ、この子を()()()来ただけだよ!」


「…へ!?」


 卯月が目を丸くして一歩下がった。


「………貰う…か…」


「す、スバル…?」


 卯月は心配そうにこっちを見る。

 

「卯月は渡さねぇ…!」


「うっ…!ほ、ホントにごめん!やっぱり君は寝てて!」


 汗を垂らした笛吹きは素早く笛を口に近づける。


「…させるかぁっ!」


 笛を吹かれる前にその場から最高速度で駆け出す。


 笛吹きの武器は笛による催眠。

 なら…吹かれる前に笛を蹴り壊すっ!


「…っ!?はやっ…!」


 笛めがけ回転をつけた後ろ蹴りは、家の塀にめり込んで一部が倒壊してしまった。


「ちっ!」


 アイツ、紙一重で避けやがった…!


「おっと、帽子が…って、君!私を殺すつもり!?」


「お前の態度次第だな。」


「へ、へぇ?」


 声を震わせながら冷静を保つ笛吹きは塀から家の瓦へ跳んでいき、家から家へと飛びつ移る。


「逃がすかぁ!」


 倒壊した塀に乗せたままにしていた足を降ろし、笛吹きに追いつくよう道を走り、並走する。


「おい!今何時だと思ってやがる!さっさとそこから降りろよ!」


「大声出す君もモラルがないね!」


 うぐ…


 と、とにかく!上を取られるのは少し厄介だ。

 そんじゃあ取る手段といえば……!


「はぁ!?そこから跳び上がるの!?」


 ─カタッ


「同じ高さまで跳ぶしかねぇよなぁ?」


「くっ…!何mだと…!」


 笛吹きはまた笛を口元へ寄せる。


「だから吹かせねぇよっ!」


 笛めがけストレートパンチを放つがまたしても空振りをしてしまう。

 吹かせず壊せば勝ち。吹かせれば負け。

 相手の反応速度は化け物級…


「とんだ理不尽だな。」


「まったく、理不尽は誰だい?」


 その場で素早く正確に拳と蹴りを繰り出すが、どれもギリギリで避けられてしまう。当ててもかすめるだけだ。

 だが、笛吹きは余裕がないように見える。


「ああっもうっ!君手数が多いんだよ!」


「いつになったらまともに食らうんだよお前は!」

 

 なんなんだよコイツ…!

 深く帽子をかぶってこの反応速度…視界は狭いはずだ…どう判断して…


「…微かだけど呼吸のリズムがずれてきたね。そろそろバテてくれるの?」


「…ハハッ…そういうことかよ…!」


「ん?」


 理解できた。なんだ…簡単なことじゃねぇか…!

 

 アイツは耳が良いんだ。

 

 屋根の上に立ちながら、俺が小声で呟いた言葉にアイツは反応した。

 そうすれば人間の数倍は聴覚が敏感なはず。

 じゃないと説明ができない……


 残酷だが…これしかない……!

  

「悪りぃな…医療費は出すからよ!」


「…っ!」


 吹かれないよう注意し、近距離を保ったまま両手を素早く笛吹きの顔の前に伸ばす。

 そのまま勢いよく両手を……! 


 ─パァン!


「うぐっ!あ゙あ゙っ!」


 手のひらから繰り出された俺の渾身の一音が町中に響く。うめき声を上げながら笛吹きは両耳を押さえて膝から崩れ落ちた。


「はぁっ…!はぁっ…!」


「さて、お前には色々聞きたいことがある。なぜ卯月を狙うのか、お前は何者なのか。まあ、今のお前には聞こえてないだろうから後で話す。一旦、笛は預かっておくぜ。」


 笛吹きが片手に持っている笛へと手を伸ばす。


「はぁっ…はぁっ……渡す…?渡す…もんか……!()()を渡すもんか!この…"鬼"め!」


「っ!」


 笛吹きが立ち上がり、そのまま殴りかかってきた。

 さっきの雰囲気とは違う余裕のない荒れた声で…

 さっきの中性的な声とは違う…


「はぁぁあっ!!」「くっ…!」


 ()()()()()()の声で…


 

 ###

 


 ……大きな帽子が風に流れ飛んでいく…

 月光に照らされてなびく銀色の髪。

 両者から緊張の息遣いが微かに聞こえ、お互いの顔をかすめた硬い拳は次第に緩んでいく…


 

 宝石のようなピンクの瞳がそのまま鋭く俺を睨んだ。


「お前…女…だったんだな……」


「…だから…なんだよ…」


「いや、別に何も言うことはない。」


 屋根の上から飛び降り卯月の方へと向かう。


「ねぇ!」


「…なんだ。」


「戦うの…やめるんだ。」


「ああ。」


「…そう……」


「女とやり合うのはダメって親に叩き込まれてんだ。」


「…また…笛吹くかもよ…?」


「それで悪事を働くならなら今度は容赦しない。」


「…」


「…本当に今更だがお前に敵意がないとわかったよ。…悪かった。」


「………っ…」


 俺はそのまま歩き出す。頬にかすめた傷を押さえながら、屋根の上で立ち止まる"笛吹き女"を背にして…


 どうして俺が戦うのをやめたのか。

 親の教えだから?

 それもあるが…一番の理由はそれじゃない…


 一瞬…あの一瞬…笛吹きが殴りかかってくる時…

 笛吹きとは決定的に違う()()のようだった…


 今でも思う。あのままその()()と戦ってはいけないと。


 だって、俺は…こんなところで()()()()()()()()()()から。

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