偽物達の会話
アタシは今ベッドの上で仰向けになりながら天井をボーっと見つめる。
あの2人は恋人同士になった。
卯月には幸せな生活が待っている。
あの子が幸せなら、アタシも幸せだ。
幸せ…なんだ…
「また…独り…」
…っ!ダメだ!独りなのは当たり前だ。今さらそんな事考えるのはあってはならないことだ。
別のことを考えるように記憶の整理をする。
そして頭の中に卯月の言葉がよぎった。
『もう死んでる人ってなに?』
…あの時は誤魔化したけど、やっぱ聞かれてたんだね。
偽物達との会話。
***
「少し席を外す。いいか?」
「大丈夫大丈夫!行ってきな!」
スバル君がポッケからスマホを取り出しここを離れる。
「よし…ようやくお話が聞けるね偽物。」
アタシは縛られてる偽物達の方へ向かい、見下ろすようにしゃがみ込む。
同じ年代の偽物は見上げるようにアタシを見る。
「正直大人と対談したいんだよね〜。お前じゃ話にならなそう。」
「…」
そいつはアタシを睨みつける。
「ああ!そうだね、女の方起こせばいいよね。」
そう言ってくたばっている女の髪の毛を引っ張り、朝だよ〜と話しかける。
効果があったようで、女はゆっくりと目を開ける。
「…うっ…確か私は…」
「よーし。出番が少ないお前達に聞きたいことがある!」
「…お前は…誰…?」
「そんなことは後ででいいよ!アタシが聞きたいのは…」
女と同年代の髪の毛を掴み、ハッキリと聞こえるように話す。
「何でお前らが朝日家を騙ってるの?」
「…な、何言ってるの?騙る?どうゆうこと?」
「はぁ~。」
そうだよね。根拠を見せないと。
黒い縁の四角いメガネを外し、目のカラーコンタクトを取ってみせる。
その姿を見た女はゆっくりと青ざめていく。
「お、お前…なんで…死んだはずじゃ…!」
「そうだね。過去のアタシは死んだよ。朝日家と一緒に…ね?」
「じゃあ…なんで…!」
そんなの簡単だよ。でもね…
「それは秘密。」
口角が自分で抑さえられないほど上がり続けてしまう。時間が経つに連れて偽物達は冷や汗をかいていく。
「アハハ、今アタシとお前らしかいなくて、見ているやつは誰もいない。それにお前らはアタシの支配下にある。苦しめて殺すことだってできる。アタシにはそれができるんだよ。なんたって…」
「あ…ああ…!」
女は小刻みに震えだし涙目になっていく。
情けない。寄生虫の分際で今さら命乞いとか。
でも、いい気味だ。
「もう死んでいる人がお前達を殺しても罪にはならないから。」
アタシはゆっくりと糸を偽物達の首に巻き、偽物達の首を──
「おーい、嘘之!…嘘之…?なにやってんだ?」
「ちっ。」
カラーコンタクトを付け、メガネを掛けながら糸を巻き取る。
何事もなかったように笑ってみせる。
いつもの嘘之知世で。
「何でもないよ〜!」
***
「いつか…話すべきかな…?」
そう呟いて瞳をゆっくりと閉じる。
あれからどのぐらい経ったのだろう。
ベランダの方からポツポツと雨音がしてきた。
「雨…?」
立ち上がって、カーテンから外を覗き、雨の強さを確認してみる。
どんどん雨は強くなると同時に心に抱く胸騒ぎも強くなる。
「…っ!?」
誰かが見ている。
瞬時に状況を理解し、カーテンから離れると同時に、最悪な思考が頭の中を走る。
「誰!?…まさか…バレた…?いや、そんな…!」
顔は出してないし、遮光カーテンだから影を見られることはない。
でも、だからといって…
「まだ大丈夫っていう確証にはなってない…」
ダメだ…こんなところでヤツらに連れて行かれるわけには…いかないのに……
「ああもう…最悪だ。」
夢であってほしい。
ただの通行人であってほしい。
ただのストーカーのほうがまだマシだ。
「そうであってほしいな…」
アタシは玄関にトラップを仕掛けベッドのそばに逃走用のバッグを置いて寝ることにする。
もうそれしかやることがない。
あの2人に相談なんかできない。
###
「…あ…れ…?もう…昼…じゃん。」
何重も設定したスマホのアラームにより目が覚める。
起き上がるとともに昨日の出来事を思い出す。
「…っ。はぁ~…外行きたくない…」
今日は四季ノ大通りで小道具の素材を調達する日。
必ず行かないといけない…セールだから…
憂鬱な気分と一緒に出かける準備をする。
いざとなった時のために身を守るための装備を固める。
「よし…行くぞっ!」
頬を両手でパシッと叩き、家から飛び出した。
###
「はぁ…はぁ…」
よ、よし、なんとか着いた…!
賑やかな四季ノ大通りを見て少し安心する。
人だかりが多いから捕まる可能性もあるが、同時に助けをもらえる可能性もある。
フードで顔を隠しながら目的の雑貨屋まで向かう。
呼吸を整え、ピリピリして店へ向かう途中、ある笛の音色がアタシの耳を撫でる。
聞き覚えのあるその音色によりアタシは足を止めた。
「あ。あの人…また笛吹いてる。」
魔女っ子が被るような濃い緑の帽子と木製の横笛を吹いている銀髪で長髪の目元が見えない人。
前回会った時は急いでてよく見ていなかったが...
今の時代と国には合わない、緑色の短いマントや濃い緑のズボンの衣装…
なんか…緑色が多い…みんな少しボロボロだし…
「ありがとうございました!」
その人は深くお辞儀をしながら笛を右腰につけてあるケースに入れる。
人がどんどん散っていく中、アタシはまだ足を止めていた。
時間が経つとその人とアタシだけになる。
「聴いてくれましたか?私の笛。」
その人はアタシの方へ近づく。
なんかとてもソワソワしているような…
「ああ…はい。すごく良かったです。」
フードを握り斜め下を向いてしまう。
失礼なことをしてしまった。
「…何か悩み事でも?よ、よかったら私にお聞かせいただけませんか…!」
…えぇ…何この人…
「えーっと…」
「ああっ!だ、ダメならいいですよ!見ず知らずの人にお話は少し危険ですからね!」
あれ…?
この人もっと中性的な声だったはずだ。
なんか…全体的に少し高い…?
「その…もう一曲お聴きになりませんか!悩み事なんか吹き飛びますよ!」
その人は帽子のつばが当たりそうなところまで、ぐっと顔を近づけた。
帽子のつばにより顔は見えないが、目を輝かせていることはわかる。
「…ご、ごめんなさい。今急いでて…」
「そ、そう…ですか…」
「で、では…!」
そのままお店の方へと駆け出す。
少し不審者ではあったけど…
なぜだろう…あまり危険には見えなかった。
少しあの人が気になって後ろを振り返る。
しかし、あの人はもうそこにはいなかった。
悩み事なんか吹き飛ぶ…か…
「何もわかってないくせに…」
###
その後アタシはセールが終わるギリギリの時間で目的のものを買うことができた。
さっきの出来事により不安が少しだけなくなった気がする。
そんなことを思いながらマイバッグを片手に顔を見られないよう俯いて帰り道を歩く。
─カラン
「…っ!」
裏路地に缶のような物が倒れた音と同時に人影が動く。
逃げなきゃ…!
帰り道を走りながら、上着のポッケに入れてある、糸と催涙スプレーを取り出す準備をする。
「あ~もうっ!もっと体力つければよかったっ!」
裏路地を警戒しながら人混みをかき分け全速力で走る中、さっきの緑の人が裏路地の近くに佇んでいた。
って、まだいるのか!
「あっ!一曲聴き──」
「今それどころじゃないから!裏路地に気をつけて!」
そのまま通り過ぎる。
助けを求めることもできただろうけど、やっぱり人を巻き込むわけにはいかない。
どうする!考えろ!
何処かに隠れてあの2人に助けを…
ダメだ!そんなの危険すぎる!
ヤツらと2人を会わせちゃいけないことなんかアタシが一番知ってるくせに!
どんどん体が重くなっていく。
息苦しくなり、走っているかどうかすらも分からなくなってきた。
「誰か…」
「やっぱり何かあるんですね?」
ビルの上から裏路地へ緑の人がザザザっと降りてきた。
「あ、アンタ…どうやって…」
「どうやっててって…人の邪魔にならないようにビルの上伝ってパッパッパッっと…」
か、簡単に言ってる…
「というか、顔色悪いですよ?それにとても緊張している。」
「走りすぎただけだよ…」
「嘘だね。」
「…確証なんかないでしょ?」
「分かるよ。声でわかる。」
「は、はぁ?」
「とにかく助けがいるんでしょ?どうしたの?」
きゅ、急に言葉を崩すようになってるし。
この人なんなの?
「アンタには関係ないよ…アタシに構わなくていい。命が惜しいならこれ以上踏み込まないで。」
「…意外だね。」
「なにが?」
「君が言ってることは本当なんだって。よかったら私が手助け──」
「だーかーらー。」
壁から離れて緑の人を睨みつける。
「アンタが思ってるものとは全然違うの。アンタのようなただの笛吹きが踏み込んでいい『闇』じゃないの。」
この言葉を聞いて緑の人は諦めてくれるだろうと、アタシは思っていた。
でも、緑の人はニヤリと笑い...
「『闇』…か。ますます気になってきた。もしかしたら……いや、何でもない。」
そう言ってアタシの前を通り過ぎここから立ち去る。
「いつかお話しようよ。話したいことがいっぱいあるんだ。」
そう言い残して人混みの中へ消えていった。
「…内容によるよ。」
そう呟いてここから歩き出す。
息は整ってきたし、どことなく緊張がほぐれた気がする。
「ホントに…どうなってんの…」
△△△
外は暗くなり家の明かりがどんどんつき始める。
山の上からキラキラと町が光って見える。
「ねぇ、君たちが住んでるこの山って四色山っていうらしいよ?春は桃色、夏は緑色、秋は橙色、冬は白って感じで四つの色があるから四色だって!」
座りながら笛を片手に、鳥たちと大通りで演奏する時の声でお話をする。
森の草木たちもザワザワと反応してくれている。
どんどん動物たちが集まってくる。
みんなみんな穏やかな声をしている。
「君たち今日も聴きに来てくれたの?」
小リスが手のひらに乗る。
「あっ!この鳴き声は…昨日、木の実をくれた子だね?お母さんは元気?」
可愛らしい声を発して手のひらから帽子へ登ってきた。
「あはは!特等席だね!」
今日は満月だ。
体の調子も絶好調。
「でも、みんなごめんね。今日は演奏できないや。」
小リスを優しく帽子から下ろして地面へと放す。
「今日は向こうで特別公演をするんだ!」
その場から立ち上がり、町をまっすぐ見る。
「今日は素敵な夜になるよ。」
始まりました。第二章!ここから、あの伏線やある謎などを回収、展開していくのでどうぞ楽しんでいってください!




