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君の瞳に恋してない  作者: バカノ餅
桜のあと
19/19

桜のあとから

「よしっ!これでいいかな!」


 知世は手を叩き、腕を組む。


「わりぃな。全員縛るの手伝えなくて。」


「いいのアンタは怪我人だし。」


「まあな。」


「ンー!ンーンー!」


 俺らと同じぐらいの年齢の子が必死に訴えかけるようにもがく。


「...で、たしか来るんだよね?スバル君のお父さん。」


「ああ、さっきメールで話したら行くって。」


 そして俺のポケットから着信音がなる。

 

「誰から?」


「父さんだ。噂をすれば何とやらだな。」


「ふふっそうだね。」


「少し席を外す。いいか?」


「大丈夫大丈夫!行ってきな!」


 そして俺は階段の踊り場まで向かい電話に出る。


「もしもし?父さんどうしたんだ?」


「ああ、スバル。奴らはどうだ?」


「なんとか拘束してるぜ。意識は取り戻したみたいだがな。」


「わかった。もうすぐ着くから待っててくれ。」


「なあ、父さん...」


「ん?どうした?そんな疲れた声して。『最後に〜』とかやめてくれよ。」


「言わねぇよ!そんなの!」


「ハハハッ!」


「はぁ...。...これで母さんは報われるのかな?」


「...どうだろうな...それは胡桃次第だ。」


「...そうか...そうだよな!わりぃ!変なこと聞いた!」


「スバル。」


「ど、どうした?」


「...胡桃はお前の元気な姿見るだけでも報われると思うぞ。」


「...それもそうだな。」


「でもまあ、やるようになったじゃねぇか!殺し屋を撃退するなんて!」


「それは助けがあったからで俺1人じゃ...」 


「ああ、そうだな。お前1人じゃ死んでただろうな。」


「...でも、俺が褒めてるのは人と協力して倒したってことだ!昔のお前だったら1人で突っ込んで死んでただろうよ。」


「そ、そうか...」


「そうだ!いくらなんでも闘い方を学んでいたからって、お前はまだ未熟なんだよ!」


「...未熟...」


「そう。未熟。未熟だからこそ()()()()()()()()こだわる必要もないんだ。」


「は?どうゆう意味だよ?」


「ヘヘへッ。さあな?」


「なんだよ!変にもったいぶんなよ!」


「まあ、詳しい話は病院でな!」


 プツ


「はぁ~。」


 そうやって強引に電話を切られたあと、パトカーの音と救急車の音が聞こえてきた。


「一応解決だな。」



















 あ...れ...?


 真っ暗な空間がボクの目の前に広がっている。

 

 ここはどこだろう?

 確かボクは頭を蹴られて、気を失って...


 スバルはどうなったのかな?


 何かこもった音がする。

 ボクは少し経ってから気づく。

 これは非常ベルの音だ。


 どんどん非常ベルの音がクリアになっていく。 


「...あれ?」


 冷たい何かがボクを覆っている。

 どこかこの冷たさに覚えがある。

 そしてボクは顔を見上げてみた。


「...」

 

 顔を見上げてみると顔はあまり見えない女性がボクのことを抱きしめていた。

 ボクはこの人が誰だか思い出せる。

 多分この人は...ボクの...


「お母...さん...?...っ!?」


 突然後ろからボクの服が引っ張られる。

 あまりにも強い力で、抵抗ができない。

 されるがままでボクは冷たい手から離れることとなってしまう。

 ゆらゆらと揺れる『赤』がお母さんを囲っていた。

 

「あ...つい...」


 男の人に抱えられ熱いこの場所から連れ出される。


 

 ボクが瞬きをすると別の景色が目に映った。



 家が燃えている。

 男の人が倒れている。


「お父...さん...?」


 そして誰かがボクの手を握る。

 大きな手がする方へと顔を向けると、知っている人達が笑顔で見ていた。


 朝日家の人だ。


 ...あれ?


 暗い。


 瞬きして、目を開いているはずだ。

 それでも暗い。

 ボクは今どこにいるんだろう?

 ボクは今どこに向かうんだろう ?


 でも、わかるとしたら

 ただ暗い道を歩いていることだけだ。


 ボクの手を握る朝日家の顔が見えない。




 








 男がいる。







 



 


 その男はとても背が高く黒いネクタイと黒いスーツをしていて、顔の部分にノイズがかかっている。

 

「......!?」


 声が出ない。


 男が近づいてくる。


 そし■ボクの顔■手を伸ば■■■


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」




















「うわあああああああ!」


「う、ウズキ!?どうしたの!?」


「はぁっ...はぁっ...はぁっ...」


「卯月...落ち着いて...」


 息遣いが荒いボクに知世ちゃんは背中を擦ってくれた。

 その後、知世ちゃんのおかげで、なんとか息を整えることができた。


「ここは...清夏病院...?」


「うん。そうだよ。ねぇ卯月。怖い夢でも見たの?」


「...うん。」


「どんな夢?聞かせてほしいな。」


「...家が燃えてた。」


「......ほかには?」


「あの朝日家の人に連れて行かれて...えっと...あれ?」


「卯月 ?」


「ごめん...その後が分からない。ノイズが走ってて...」


「ノイズ...?」


「...ごめん分からない...」


「...まあ、仕方ないよ。夢って忘れるから。悪夢なら忘れてなんぼだよ!」


 そう言って知世ちゃんはボクの頭を撫でてくれた。


「そういえばスバルは...?」


「左見てみて。」


 言われた通り左を見てみるとスバルが眠っていた。


「スバル...」


「卯月のせいじゃないよ?」


「分かってる...分かってるよ...」


「...卯月」


「どうしたの?」


「ぎゅーってしていい?」


「な、なんで!?」


「してみたいから!」


「...いい...けど...」


 そう言うと一瞬でボクの体は知世ちゃんに覆われる。


「卯月...卯月...」


「知世ちゃん!?どうしたの?泣いてるの?」


「い、いや泣いてないよ!」


「でも、力強いし...ボクの首らへんちょっと濡れてるから...」


「アハハ...嘘下手だねアタシ...」


「知世ちゃん...あっ。そういえば聞きたいことがあったんだった。」


「えっ?どうしたの?」


 ボクに抱擁をやめて、涙を拭きながらきょとんとしている。


「知世ちゃんさ、スバルと一緒にボクの家来てたでしょ?」


「う、うんそうだよ?なんでわかったの?」


「聞こえたの。朝日家の人との話が。」


「えっ?」


「ねぇ、知世ちゃん......()()()()()()()ってなに?」


「.........え...?」



















 


 

 それから翌日。日曜日。

 アタシは今清算病院に向かっている。


「よってらっしゃーい!」

「ねぇ!そこの君たち、今なら安いよ!」

「いえ、遠慮しときます。さあ、行こうか。」

「うん。」

 フルルル〜♪

「わあ!不思議な音色!」

「綺麗だわ〜!」


 このようにいつも騒がしい四季ノ大通り。

 呼び込みや、路上ライブをする人まで十人十色だ。

 何か買ってあげようかな...?


 何か買うものを調べている最中に卯月から電話がかかってきた。


「もしもし〜?」


「もしもし知世ちゃん!スバルおきたよ!」


「え!?本当!?」


 アタシは少し歩き出す。


「どう?スバルの様子は。」


「結構元気だよ!ほら! おーい!知世!今どこだ〜?」


「今、四季ノ大通り!そっち向かうからまってて!」


「はーい! 了解!」


 とりあえず走るか! 


「あのーすみません。」


 突然右から声をかけられる。

 魔女っ子が被るような帽子をして、笛を持った中性的な声をする銀髪で長髪の人...

 だ、だれだ?


「は、はい?どうしました?」


「よかったら私の演奏聴いていきませんか?」


「え、演奏?す、すみません今急いでて...その...帰りまたいたら聴きますので!」


「ああっ、そうですよね。すみません。これから病院に行くっていうのに呼び止めてごめんなさい。では、行ってきてください!」


「そ、それでは!」


 アタシは、そのまま2人の元へ走り出す。

 その笛の人は手を振ってくれた。


 ...あれ?さっきアタシ病院行くって言ってたっけ?


 


「はぁ...はぁ...やっとづいだ...」


「ふふっお疲れ様!」


「よー!もぐもぐ」


 スバルが何かを片手に食べている。


「あ、アンタ何食べてんの...?」


「肉まん」


「...そ、そう...」


 


「ふぅ~ごちそうさまでした。」


 スバル君が満足そうに座る。

  

「美味しかったねスバルのお父さんが持ってきてくれた肉まん。」


「あれ?スバル君のお父さん来てたんだ。」


「ああ。報告でな。」


「結局アイツはどうなったの?」


「アイツは今身柄を拘束されて、いろいろ尋問されてるぜ。なんせいろいろ殺しまくった殺し屋だからな。」


「殺し屋...なんでウズキの元に?」


「まさに知世を呼んだのがそれだ。2人に聞いてほしい話がある。」


 スバル君は深刻な表情をしてアタシ達を見つめる。


「これは仮説なんだが今回の件...裏に何かがいる。」


「...なっ!?」


「卯月...俺さ、あの戦いのとき皿とか投げまくったよな?」


「う、うん。」


「え!?そうなの!?」


「それはお前の家にあった()()()()()を壊すためにもやったんだ。」


「...え...?」


「監視カメラ...!?なんでそんなのがウズキの家に?まさかストーカー?」


「そんなことはない。そもそもその家にはプロの殺し屋がいるんだぞ?カメラがあってもすぐ気づくはずだ。」


「...うぅ確かに。」


「......スバル...聞きたいんだけどさ。監視カメラってどこについてたの?」


「玄関、キッチン、リビングの隅、風呂、トイレ、そして、卯月の部屋だ。どれも上手く隠されていた。...気持ち悪ぃ。」


「ボクの...部屋...っ...うぅ...」


「ウズキ...」


「...大丈夫だ!この件は父さんが調査してくれてるし、もうあの気味が悪い家に住むことはないぞ!」


「...え?」


「卯月。聞きたいことがある。これからは俺の父さん、羽田剣竜が保護者として預かるってのはどうだ?お前が言ってくれればすぐにでも手配できる。」


「...え!?ボクが!?そんなのって...」 


「...俺らならお前を守れる。お前が何かに狙われたとして、保護者に矛先が向いたとしても、俺の父さんなら大丈夫だ。」


「ウズキ、受けてみたら?」


「ありがたいけど、結局住む場所は...」


 あっひらめいた。


「ウズキ...ごめんね。アタシの家、人泊めるの無理なんだ。」


「...そ、そうなの?」


「ってことでスバル君の家に住んだらいいんじゃない?」


「あー、確かに...って!はぁ!?ち、知世ちゃん!?」


「...それのほうが、正直ありがたいが...まあ、いろいろと危ないしな...」


「そ、そうだよ!知世ちゃん!スバルの言う通りだよ!」


「えー?でもそれしかなくない?」


「...う、うぅ...ほ、ほか...に...ある...はず...」


 卯月はもじもじしてチラッとスバル君のことを見る。

 しかしスバル君は気づかない...

 ええい!じれったい!


「で、どうするの?野宿?同棲?」


「い、言い方ぁ!」


「えー?このままだと埒が明かないよ?」


「う、うぅ...。ず、ずるいよぉ...。......どう...せい...」


「よし決まりぃ!スバル君電話!」


「お、おう。わかった。」

 

 よし。勝った!


 











 翌日。 

 

「ウズキ、スバル君、退院おめでとう!」


「ありがとうね。」「ありがとな。」


「そんじゃあ、これからの同棲生活頑張ってね!アタシは帰るから!」


「ちょっ!知世ちゃ...」


「すごい速さで行っちまったな。」


 ど、同棲って言われても...


「...じゃあ、とりあえず行くか?」


「う、うん。」


 今は朝の時間帯。

 ボクたちは四季ノ大通りの外れにあるあの、河川敷を歩いている。

 

 ここは、とても物静かだ。

 川の流れる音が聞こえる。

 川の水が太陽の光を反射して輝いて見える。

 雀の鳴く声、砂を踏む音。


 そしてボクの心臓の音。


「スバル...」


「ん?どうした?」


 ...ボクは足を止める。

 もう何も気にしなくていい。

 もう自由になっていい。

 思うと、解放された喜びと同時に、別の感情が浮かび上がってくる。

 今まで感じてこなかったこの気持ち。


「スバル...!その...!えっと...!」


 頑張るんだ。


 言いたいことがたくさんあるんだ。

 全部君に聴いてほしい。

 全部君に届いてほしい。


「ボクと...!」


「卯月!」


「え?わわっ!?」


 スバルはボクの手を掴んで走り出す。


「もっといいところがある!そこで話そう!」


「もっといいところ...?」


「ああ。」


 スバルに連れて行かれていた場所は、

 四季ノ大通りとボクらの町が丁度見える山の中腹にたどり着いた。


四色山(しいろやま)っていうんだここ。」


「...この町にこんな所が...!」


 額に涼しい風が当たる。

 草木が揺れる音がして、自然の匂いがする。


「座ろうぜ。」


「うん。」


 少し冷えてる雑草がボクの手に触れる。


「スバル...隣にある木はなに?」


 ボク達が座っている広い山のスペースの端に大きな木が生えていた。


「ん?あれか?あれは桜の木だ。」


「桜...」


「ここの桜綺麗に咲くんだぜ?来年観に行こうな。」


「うん!」


 そよ風により草木が揺れる音がしばらく続く。

 初めて見るこの光景につい見惚れてしまう。


「...なあ卯月。」


「どうしたの?」


「ここには誰もいないぜ。さっきの話が聞きたい。」


「そう...だね。」


「...」


「...」


 今だ沈黙は続く。

 さっき覚悟を決めたはずなのに。

 心に決めたはずなのに。

 内容は考えたはずなのに。


 ボクは忘れることができない。

 一度考えたことだってよく覚えている。


 でも...なんで...何も出てこないんだよっ...!


「...」


「...っ!」


 ボクの手の甲にあたたかい手のひらが重なる。


「スバっ...」「卯っ...」


「「あっ...」」


 お互い目が合う。

 吐息が感じられるほどの距離で。


「...スバル...!」


「はい。」


「...大好きです。ボクと付き合ってください...!」


 言って...しまった...

 心臓の音がうるさい!

 手の汗が、たくさん...っ


 でも...心が軽い...


「卯月。」


「はい!」


「...後悔したまま死ぬかもしれないし、幸せにしてやれる保証なんかできない」


「...やっぱりボクじゃ─」

 

「...でも!本当にこんな俺でいいなら。お前を一生護らせてくれ!」


「えっ...いい...の...?」


「ああ。」


「こんなボクのことを...?」


「お互い様だろ?」


「そっか...そっか...!」


「う、卯月!?へ、変なこと言っちまったか?」


「あ、あれ?ど、どうしたの?そんな顔して?も、もしかしてボク...泣いてたりする...?」


「あ、ああ。すごい涙出てるぞ?」


「そ、そんなことないよ...!だって、嬉しいんだもん!別に泣くことなんかないもん!ひっく...でも、なんで...?」


「...卯月知ってるか?嬉しい時も泣いていいんだぞ?」


「そう...なんだ...ボク...泣いて...いいんだ...弱いとこ...見せてもいいんだ...こんな...ボクに...う、うぅ...」


 その後どのぐらい泣いていたのだろうか?

 どのぐらい涙を流していたのか。

 どのぐらい泣き言を言っていたのか分からない。

 

 覚えているとしたら、あたたかい胸の中で泣いていたことぐらいだけだった。


 気づけばもう夕方になっていた。


「...ありがとう。こんな時間まで付き合ってくれて。」


「いいんだよ。」


「本当に...ありがとう。」


「ああ。こちらこそ。」


 スバルは立ち上がって伸びをする。

 そしてあの桜の木の元へ近づく。


「スバル?」


「なあ、卯月。覚えているか?あの時の『約束』。」


「うん。覚えてるよ。守るっていう約束。」


「あの頃から俺はお前のことが大好きになったんだ。」


「ふぇ!?」


「そんなに驚くなよ?」


「い、いや...でも...あの時ボク何かしたの?ただ本音話しただけだよ?」


「その後の初めて見せてくれた笑顔に惚れたんだ。桜の花びらが舞うあの日から。お前を守るって誓ったんだ。」 


「そっか...もう好きになってくれてたんだ。あの『桜のあとから』。」


「ちょっと恥ずかしいけどな!」


「ふふっお互いそうだね!」


「そんじゃ、帰ろうか。」


「うん。『帰ろう』!」

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