"復讐の鬼"
「おはよー!ウズキ!」「おはよう。」
「2人ともおはよう。」
やっと会えた。
やっぱり2人と顔を合わせると安心する。
「ウズキ〜!今日の時間割は〜?」
「今日はね─」
「...そ、そんぐらいは自分で覚えとけよ...」
「ふふっ大丈夫だよスバル。頼られるって嬉しいことだからね。」
「はぁっ~!ウズキ〜!」
そう言ってボクの胸へ飛び込んできた。
「可愛い可愛い可愛い可愛い」
「えっ!?知世ちゃん...!?」
そのまま知世ちゃんは顔をスリスリしてくる。
そしてそのスリスリが早すぎるが故、摩擦により熱く感じてしまう。
「あ、あついよ!知世ちゃんとにかくあついよぉ!」
「卯月への愛なら誰にも負けないっ!」
「スリスリ止めてから言ってよぉ!」
「あっごめん。」
離れる知世ちゃんの顔から蒸気らしき物が出てきていた。多分ボクからも。
「え、えぇ...」
スバルが引いてる...
「な、なに見てんのさ!ウズキが元気になったらこういう反応もするでしょ!?」「しねぇよ。」
「...へ?」
即答だった。
「お前それ姉にもやるのか...?前言ってただろ?姉いるって。」
「え?スバルいつの間に話してたの?」
「ああ、病院にいる時、雑談程度にな。卯月は知ってたのか?」
「うん!結構前からだけどね。」
そう話してる間、知世ちゃんの足が止まる。
「知世ちゃん?」
「......あっ。よ、よくやられるよ!スリスリ!」
「...?なんか意外だな?やられる側なのか。」
「...知世ちゃんどうしたの?」
「なんでもないよ!ちょっと思い出しただけ!」
「そうなのか?とりあえず行くぞ。」
「はいはーい!」
再びみんなで歩き出す。
...あの時の知世ちゃんの顔は少し寂しそうに空を見ていた。とても真面目に。
「ふぅ~」
ボクは一息ついて鞄を机の上に置く。
今日の学校は少しヒソヒソとしていた。
「ね、ねぇ知ってる?悪山達が行方不明になったんだって。」
「負けたのが悔しくて不登校って意味じゃないの?」
「違うの。誰かが言ってたんだけど、悪山の家の前に通って見ると何もなかったんだって!」
「えー?どうゆうこと?」
と、このような噂が学校中に出回っている。
最後まで聞きたかったが、ボクの存在に気づくとそそくさとどこかへ行ってしまった。
「気遣いなのかな...?」
「卯月。」
スバルが背後から声をかけてきた。
真面目な声のトーンで話しかけてくるので少し驚いてしまう。
「スバル?どうしたのそんな深刻そうな顔をして。」
「昨日の件で話したいことがある。」
「昨日の件...?」
まだホームルームが始まるまで時間があるので、人けがいないところまでついていった。
そこには知世ちゃんもいた。
「聞いたか?あのグループが行方不明になったこと。」
「うん。スバルが呼ぶ前には聞いたよ。たしか、何もなかったって...」
「え!?それって家自体が?」
「そ、それは...まだ...。でも、1日で家がなくなるなんてことはないでしょ...?」
「ああ。そうだ。卯月が思っている通り、家は残っている。だか、名札、車、カーテン、など人が住んでいない空き家の状態になっているだけだ。」
空き家...どうしてだろうか...?
「昨日の件が関係あるとしても、『喧嘩に負けたから』の理由で住む場所を売り払うなんてことはありえない。」
「そうだよね...。というかスバル君。何処でその情報を手に入れたの?」
「さっき、通学路で悪山の家の前を通り過ぎる子に聞いてきた。」
「行動はや...!?」
「ねぇスバル。悪山のことは分かったけど他の人達も同じように蛻の殻だったの?」
「そうだ。でも1人だけまだ生活してるって言われてる」
「スバル君、誰なの?」
「すまん。それは分からない。一応噂だからところどころ曖昧でな。」
「ああ、いや全然いいよ!...不気味だね...」
「...」
不気味...たしか似たような体験を最近したことがある。急に変わるようなこと。
「ウズキ?大丈夫?」
「あっ。大丈夫だよ!」
いや。考えるのはよそう。ロクなことがないから。
「...とにかくこの件はどこかおかしい。2人とも分かったら俺に言ってくれ。」
「「わかった!」」
それからは普通に過ごしていった。
人から話を聞こうとしても謝られるだけだったので、噂に関してはスバルに任せた。
なんだ実感がわかない。
あの悪山達がいなくなったことに関して。
「ウズキ〜!一緒に帰ろー!」
「いいよ。」
カラスの鳴き声と学校のチャイムが町中に鳴り響いている。
「あれ?スバルは?」
「何か用事があって帰ったよ。」
「そうなんだ。」
知世ちゃんと2人きりで帰るなんて久しぶりだな。
そのまま寄り道したり、どこか食べたりして帰り道を歩く。
「ねぇウズキ!明日土曜日でしょ?どっか行く予定あるの?」
「...全然空いてるよ!なんなら知世ちゃんの家に...」
「ああ、アタシの家は無理かも。家族に会いに行くんだ。」
「...そっか。」
「だからその代わりにスマホゲームで遊ぼうよ!」
「す、スマホゲーム...?」
「そうそう!オンラインのやつ!前インストールしたでしょ?」
「そ、そうだね」
「明日こっちから電話にかけるからちゃんと出てね?まあ、心配はしてないけど。」
「...うん!わかった!」
そして少し知世ちゃんの家で遊んでから、あの人達の元へ戻る。
...スマホゲーム...スマホのギガがちょうどないから家で遊ぶしかない。
明日はあの人達と顔を合わせることになる。
「......部屋に籠もればいいだけだもんね。」
「うずきー!おきなさーい!ごはんよー!」
扉の向こうから声が聞こえる。
...気持ち悪い。
「...もう...食べました...」
ボクは必死に耳を塞ぎながら返事をする。
聞こえるように、聞き返されないように。
ピーンポーン
突然家のチャイムがなる。
「まだ...午前9時だよ...?」
どうせ宅急便とかだろうとあまり気に留めなかったが、少しあの人達がザワザワしていた。
「...どうしたんだろう...?」
そっとバレないようにリビングを覗いてみる。
視線の先にはソファに座ってテレビを観る麻衣がいるだけだった。
見回したあと、扉をもう少し開けて玄関を見てみたら、対応をする由花子と本来居てはいけない人を目にしてしまった。
「だーかーらー貴方のお宅に、神美卯月って女の子が─」
聞き覚えのある男の子の声。
ここに来てはいけない人の1人である声。
ボクの大切な人の1人でもある声。
「スバ...ル...なん...で...?」
思わず声を発して扉を開けてしまったことで、スバルと由花子に気づかれる。
「お邪魔します。」
「ちょっと!犯罪よ!勝手に上がらないで!」
「犯罪者に言われたくありませんね。」
「うっ...」
由花子の静止を振り切って、土足のまま上がり込む。
「おはよう!元気か?」
この家とは、場違いな元気な笑顔で話しかけてくるスバル。
「スバル...なんで...ここが...?なんで...ここへ...?」
「ああ、勝手に上がり込んでごめんな。気持ち悪いよな。伝えてもないのに、黙って特定して。でも...もっと気持ち悪いのがいつもの家にいたんだろ?」
「ダメ...なんだよ...!」
ボクはスバルの胸ぐらを掴む。
「ホントにこれだけはダメなんだよ!ボクはスバルに死んで─」
「しーっ」
「...っ!」
スバルは右手の人差し指をボクの口の前に立てる。
突然のことに手の力が抜けていく。
「今回ばかりは怪我を負うかもだが、死にはしない。だって死んだらそれ以降何もできないからな。」
笑顔でウィンクをするスバルに対してボクは何も言えなかった。
「...でも...でも...」
「...おい」
「ひっ」
もう一つの部屋から晃が出てくる。
あの人の言葉がボクの胸に重くのしかかる。
背筋が寒くなる。
体の震えが止まらない。今立てるのがやっとだ。
「わっ!?えっ、スバル!?」
スバルはボクの背中に片手を回し、スバルの肩の方へと寄りかかってしまう。
スバルの顔は、あの時のような冷たい瞳を向けて晃を見ていた。
「よぉ。久しぶりだな。殺し屋。」
え...?久しぶり?殺し屋?
「誰だ、お前。」
「ああ、そうだよな。忘れているよな。一瞬だからな、仕方ない。」
「は?」
「でも、過去は消えない。殺し屋...よくも母さんを殺ってくれたな。」
「...」
「...え!?」
スバルのお母さんを...!?
「でもそれはついでだ。今はそうだな...卯月を貰いに来たって言ったほうがいいか。」
「え!?ちょっ!スバル!」
な、何を言ってるの!?
そんな真面目な顔して何言ってるの!?
「卯月隠れてろ。」
「でも...」
「いいから。」
「う、うん。」
そうしてボクは少し離れてリビングの隅にまで寄る。
「じゃあ...やるか...」
そうして構えを取ったスバルは、ものすごい速さで距離を詰め右手で顔面へパンチを放つ。しかし、殴ったのは顔面ではなく空気だけだった。
風を切る音がハッキリと聞こえる。
「もういっちょ!」
晃は拳を右に避けたが、スバルの左肘が顔面に突き刺さる。
「グッ...!」
「ふぅ...危ねぇ危ねぇ...お前今背中刺そうとしてただろ。」
晃の片手にはボールペンが握られていた。
「...貴様何者だ。」
「だから言ったろ?羽田スバル。復讐に燃える高校生...だっ!」
そしてスバルの攻撃が続く。
でも晃もそれに避けて対応していく。
どんどん晃が攻撃を捌く回数が増えていく。
「フンッ!」
「うぐっ!」
しまいにはスバルのお腹に蹴りが入れられてダイニングテーブルごと地面に倒れてしまう。
「いてて...くっ!」
痛がるスバルに間髪を入れず蹴り、刺しがスバルに向けて放たれる。
「こんの!」
なんとか晃を蹴り飛ばし体勢を立て直した。
「さっすがプロ。手慣れてんな。」
「...チッ」
「卯月!物陰に隠れてろ!」
「う、うん!」
スバルの指示通りに荒れたリビングにひっくり返る小さな机を盾にする。
「ヘヘッ!俺昔からやりたいことがあったんだよなァ...!」
そうしてスバルはキッチンに立ち皿を持ち上げる。
「皿をこんな感じに投げてみたかったんだよな!おらぁ!」
スバルから無数の皿が晃の方へ飛んでくる。
まるでフリスビーのように。
だが晃は、それを躱していく。
皿は壁に当たっては割れ、当たっては割れを繰り返している。
「きゃーー!」「お父さん早く終わらせてぇーー!」
2人は壁に寄ってしゃがみながら頭を押さえる。
皿が割れる音...2人が叫ぶ音...
どれもこれも狂っている。異常だ。
でも、これはボクの恐れるものじゃない。
なんなら...
「もっと...やっちゃえ...」
「おいおい?どうした?避けてる割には血だらけじゃねぇか?」
「貴様...!」
晃は躱してはいるが徐々に直撃しており、頭から血を流していた。
「へヘヘッ!」
そしてスバルは皿を投げ止めてものすごい速さで、アッパーを当てた。
「グハァッ!」
「このっ...!」
スバルは空いた胴体を一瞬で連打し、壁へと突き飛ばした。
「グゥッ!」
晃は壁に直撃して、そのまま座り込んでしまう。
「卯月大丈夫だったか?」
「う、うん。」
スバルはボクの方を見るが...
パリッ
「うっ!」
大きな影がスバルの前に立つ。
ガードをするスバルの腕から一滴の赤が滴り落ちる。
「スバルっ!」
「大丈夫だ。卯月!...マジで危なかったぜ...やっぱり皿は割るもんだな。」
「スバル!危ないも何も腕から血が...!」
「気にするな!見たくなきゃ目を閉じろ!...うっ...!」
皿の破片がどんどんスバルの腕に入っていく。
入っていくにつれて血の量も多くなる。
「大人って...力強いよなァ...いいよなァそれ。しかも体重をかければもっと強い...。でも...!」
するとスバルは、刺された腕を利用して晃を投げ飛ばした。
「クッ!」
勢いよく地面に叩きつけられる晃は、地面にある皿の破片により、背中が血だらけになってしまった。
「体重かけまくると足元すくわれるぜ?」
「ハァ...ハァ...ガキが...」
「まだやれるぞ...?」
「...フン。そうか。」
ニヤリと笑った晃は足払いをする。
しかし、スバルはこのことを予想していたかのように後ろに下がる
「......」
「ガキだな。」
スバルは壁の方へと追いやられてしまう。
避けようにも左には壁が近く、右は空いているが、晃が逃すとは到底思えない。
「死ね。」
「ちっ。」
晃はスバルがズボンに隠していたナイフを取り上げ、
スバルを突き刺そうとした。
「ハハッ、くすねたの気づかれたか...」
「これだけだと思ったか?」
「なっ!?」
「...っ!晃、まっ...あっ...」
「...確かに...俺はまだガキだからな...未熟だし、バカだ。でも、子供に刃物を刺すのは良くないってガキでも分かるぜ...?」
スバルのお腹から血が出てきてしまう。
ドロドロと血は止まらず、ナイフは深く刺し込まれる。
「スバル!晃、やめろっ!」
ボクは止めに入るが立ち上がった瞬間、背中から縦に熱い感覚を覚える。
「うっ...!」
倒れ込んでしまうが、幸い自分のところには破片がないので手を怪我をせずに済んだ。
でも、背中が痛い。
「斬ら...れた...っ!」
「卯月!ぐぁっ!?」
もう一つの刃がスバルの体に突き刺さる。
「うずき。お父さんの邪魔はよくないよぉ?」
「麻...衣...!ぐあ゙っ!」
斬られたであろう背中を踏みつけられる。
斬られた痛みと、踏まれる痛みが同時に来て暴れようにも力が入らない。
「お前のせいで!」
「あ゙あ゙っ!」
「卯月!この...離せっ!おら!」
スバルはなんとか晃を突き飛ばしボクの元へ向かって来るが...
「逃さんぞ、小僧が!」
「っ!これはっ!」
スバルの腕を掴んでから、片手で破片を持ち、ある体勢を取る。
「...まずい!スバルっ!」
「...くっ!」
そしてスバルは宙に舞ってしまった。
赤い血が弧を描くようにスバルから流れ出る。
バタッ
「スバルっーーー!!!」
「うるさいっ!」
「がはっ!」
麻衣により頭を蹴られてしまう。
まずいっ...意識が...あっ...だ...め...だ.........
「ハァ...ハァ...ガキが手間かけさせやがって...」
「あ、あきら...どうしましょう。」
「問題ない。どうせ奴らが来る。それまでにコイツらは玄関に置いておけ。」
「お父さーん。玄関に運ぶって言っても重いし大変だよー!」
突然、外から非常ベルがなった。
「ハァ...次は何だ?俺は外を見に行く。俺が戻るまで少しでも片付けておけ。」
「はーい。」「わかったわ。」
俺はガキ共を玄関まで運ぶ。
「クソッ...動きにくい。」
気づかれないよう玄関から出て外の様子を見に行く。
外を見ると多くの人がここから逃げていた。
「いったいなんなんだ?ん...?」
女...?
人が逃げて静かになった廊下の真ん中に若い女が佇んでいる。
「ハロー。偽物。オマエも逃げるの?」
女は顔をゆっくりとあげて、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
「ガキの仲間か...」
即座に俺はポケットに入れた破片の確認と、武器になりそうなものを探す。
「オマエが1人で出てきたってことは...そっか。スバル君負けちゃったんだ...一応聞くね?あの男の子は死んだ?」
「ああ。殺した。」
「...ふーん。そう。」
わかる。この女は大して強くない。だが強くないほど、他人に頼ろうとする。
...叫ばれる前に早く済ませるのが最適だろう。
「忠告ー!オマエ、アタシに殴りかかると死ぬよ。」
「どうやって死ぬ?」
「死んでからのお楽しみ。」
「...気に食わん。」
とりあえず間合いを詰めこの女の首元に破片を─
「ア...アァ...こ...これは...ッ!」
息ができない...これは、釣り糸...!
「あーあ。もう少し強くやってくれれば、首が飛んだのに。」
「この...アマがぁ!」
伸ばした腕を引っ込め、一旦距離を...
「グッ!」
足に刺さっていた皿の破片により体勢を崩してしまう。
だが、問題はないこのまま...なっ!?
「はいはい。距離取るのは知ってるし、アマって言葉ももう聞いた。もっとバリエーション増やしてほしいよ。いい刺激にならないじゃん!」
立ち上がろうとして、進もうとするがいつの間にか身動きが取れなくなっていた。
こ、この女どうなってる...!?
いつの間にこんな...!
「最初からだよ?」
「ッ!?」
「お前がスバル君と戦ってからずっと丁寧に罠を仕掛けておいたんだよ。いや~しかし、いい眺めだね!ここって10階建てのマンションでしょ?そしてここは6階!風は通るし、空も見える!そしてもうすぐやってくる警察の人達も...ね?」
「その前に...貴様を殺す...!この釣り糸で何分か耐えるつもりだろうが、俺ならこんな拘束なぞ数秒もかからずに抜け出せる。その後お前に何ができる?」
「...?何言ってんの?アタシがオマエを倒すなんて言ってないじゃん。」
「...は?...グハァッ!」
突然背中から刃物を刺されてしまう。
拘束は解けるが、刺された勢いでその場で倒れ込んでしまう。
「ひひひっ!」
「き、貴様...!生きて...!」
「くっくっくっ...ああ、マジで危なかったぜ?初見だったらヤバかった...。あの時、卯月が悪山を投げ飛ばしていなかったら、あの技を観ていなかったら、今頃死んでたよ。」
「卯月はね、覚えるのが上手なの。そして真似をすることもね。」
「ヘヘッ今回は卯月に救われた。なぁ?殺し屋ァ!」
ガキの押さえる力が強くなる。
「クッ...!」
「...そんじゃあな?」
そしてスバル君は偽物に鋭い手刀をきめる。
「......」
「よし。気絶したな。」
「...ね、ねぇ...大丈夫?」
「...ああ。行くぞ。卯月が怪我をしている。」
「う、うん。わかった!」
...全身が『赤』に染まりながら、とても恐ろしい形相で復讐のために獲物を狩る...
偽物を刺す時、確信した。
アレは..."鬼"だ...
"復讐の鬼"だ.....