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君の瞳に恋してない  作者: バカノ餅
桜のあと
10/19

4月19日

ピンポーン


「はーい。ん?卯月?どうしたんだ?」


「おはよー!あれ?まだ準備してないの?ほらほら!早く準備して行こ!」


「お前...約束の時間は何時だっけ?」


「午前11時!」


「じゃあ今は?」


「午前10時...?」


「はえーんだよっ!」


「えへへ〜」


「はぁ、まあいいや、とりあえず上がってくれ。」


「おっじゃっましま~す!」


 今日は土曜日。ボクにとっては少し特別な日だ!


「〜♪」


「機嫌いいな〜」


「いいじゃん!今日ぐらいは!」


「別にダメとは言ってないぞ」


「えへへ」


 リビングにある大きなふわふわソファー!これ横になると気持ちいいんだよね〜!

 あ、今気づいた。これ、人間をダメにするやつだ...!

 へへ、こういうの欲しいな〜!


「完全にくつろいでるな...」


「早く行かないの?」


「ん?ああ、昨日の帰り道に店予約しておいたんだよ。」


「ふぇ!?...ハッ!」


 ***


「いい、ウズキ?相手はあの羽田君。アイツはなんか堅実そうだから、絶対に、エスコートしてくるはず...!その時は、アンタにどんな計画があろうと、エスコートされな!男の子ってのはね...女の子にいいとこ見せたいっていう、本能があるのよ...!」


「へ〜!」


 ***


「なるほど...知世ちゃん...凄い......!」


「...卯月?」


「え!?あ、いや!気にしないでいいよ!なんでもない!」


「そうか。そうだな、まだ時間あるし...神経衰弱のリベンジマッチと行こうじゃねぇか!」


「へへーん!かかってきてよ!」


 そして...


「もうすぐだね!ほら早く行こ!電車に間に合わないよ?」


「...はい.......」


「...ま、まあまあ!前回より1回多く勝てたじゃん!進歩してる証拠だよ!」


「.........はい...」


 だ、ダメだ、連敗のショックで真っ白になってる...


「スバルくん!ほら早く!この電車逃したら間に合わないんでしょ?どこのお店を予約したか知らないけどさ、さっきからお腹鳴ってるのに気づかないとでも思ったの?」


 真っ白なスバルくんの腕を引っ張りながら、ボクはスバルくんに訴えた。


「よ...やく...カ...レー...」


「へ!?カレー!?カレー食べに行くの!?!?」


「うわ、うるせーな。」


「なっ!ぐぬぬ...!は~もう!正気に戻ったんなら早く行こ!」


「は、はい。って、悪いその前に少しいいか?」


「ん?どうしたの?」


 そしてスバルくんは、ある場所へ、言葉を伝えに行った。


「行ってきます。母さん。」


 午前11時。ボクたちはスバルくんの家から出る。

 静かな道を歩く。


「ねぇ、スバルくん。」


「ん?どうした?」


「...今なら話してくれる?昨日のこと。」


「.........ごめん、まだまってくれ」


「ああ、気にしないで!いつでもいいし、いいたくないならそれでいいよ!喋りたくないことなんか誰にでもあるからさ。」


「いや、これはいつか話す。話さないといけない。でも、今じゃない。」


「......?」


 スバルくんは真剣に何かを考えてるみたいだった。

 ボクはこの瞳に見覚えがある。

 鮮やかな、冷たい赤い瞳。

 でも、どことなく一瞬。何か、鮮やかな赤とは違う、別の『赤』が見えた気がした。 


「どうしたんだよ?じっと見つめて。」


「え?あ!ちがっ!これは違うの!」


「何が?」


「何も!」


 気づいたらいつものスバルくんに戻っていた。

 ......あれ?スバルくんにとっての、()()()()ってなんだろう。

 あたたかい瞳?冷たい瞳?

 それとも、まだ見たことがない別の瞳?

 わからない。知りたい。知ってみたい。

 でも、これ以上余計な詮索をすると、スバルくんは絶対に怒る。怒らせたくない。ボクのせいで嫌な気持ちにさせてはいけない。ずっと支えてきてくれたのに。

 まだ待まってみようかな。

 今日話してくれなくても、明日話してくれなくても、()()()()()()()()ずっと。


「卯月。」


「ひゃい!」


 スバルくんは、ボクを真っ直ぐ見る。


「聞きたいことがある。」


「はい!」


 真っ直ぐに...じ~っと。


「ずっと気になってたんだが...」


「はい...!」


 な、なんなのさ!早く言ってよぉ!もうこれ以上、目を合わせると恥ずかしさで倒れちゃうよぉ!


「昼、本当にカレーでいいのか?」


「はい...?」


 はい...?


「知世から聞いたんだよ、カレーが大好物だって。その時、お前に聞く時間がなかったからさ。それでとりあえず予約してみたんだが...」


「ああ、なーんだ!そうゆうことね!ふふっ。そうそう、カレー大好物なの!特にピリ辛なの!スバルくんなんでボクの好物知ってるのかなって思ったら、知世ちゃんからだったんだ〜!」


「まあな。」


「えへへ。あ、そうだ!スバルくんは、何が好物なの?」


「ん?俺は唐揚げかな。俺の記憶にバッシリ刻まれてるんだよな」


「唐揚げかぁ、いいね!あ、そうだ!なんならいつか作ってあげるね!」


「おう!」


 グゥ~

 誰かのお腹が鳴った。


「ヘヘッ、食べ物の話しして、さらに腹減ってきちまったな。」


「確かに、ボクもお腹ペコペコ!」


 ボク達は、お腹が空きつつも、食べ物の話に花を咲かせた。

 そうやって話してる間に駅に着いた。


「あれ。そんなに人居ない?」


「あとでたくさん来るんじゃないか?。」


 少し静かな駅のホーム。

 とりあえず、先に進み、車両の真ん中に位置するところで電車を待つ。


「おかあさん!でんしゃまだ〜?」


「ふふ。こらこら線路に落っこちゃうわよ?まっててね、もうすぐ来るわよ。」


 少し経つと、四季ノ大通りに向かうであろう人達によって駅のホームはいっぱいになった。


「多いな、親子連れ。」


「そうだね。」


 スバルくんは、ボクの反対側にいる親子を見守る。

 スバルくんは、何を思ったのだろうか?


「そろそろ電車来るね!えへへ〜。カレ〜♪カレ〜♪」


 その時、スバルくんは、何を思ったのだろうか?

 駅のホームまで、あの人達が追いかけてきたことに。


「.........おい」 


「ヒッ!」


「え?」


 聞き覚えのある声がした。脳裏にこびりついて、聞きたくない女性の声。

 ボクは、その声のする方へ振り向く。

 そこには、スバルくんに腕を掴まれた、黒いフードの偉自子がいた。


「ご苦労なこった。気づかないとでも思ったのか?家から尾行しやがって。どうせ俺を落とそうとしてたんだろ?」


 偉自子にとっては絶望的な状況。自分の策略がバレた時、人は一瞬でも動揺するはず。

 でも、この時の偉自子は異常だった。


「ヒヒッ。」


 ニヤリと笑ったからだ。

 ボクは、一瞬ある思考が頭をよぎった。

 『狙いはボクだ』って。

 身構えたよ。スバルくんに迷惑かけないようにって。

 でも、甘かった。

 ボクは相手のことを何も分かっていなかった。


「きゃっ!」


「...は?」


 なんで分からなかったのだろう。少し考えれはわかったはずだ。もし、この場にボクじゃなくて知世ちゃんが居たら、どう行動するべきかわかったはずだ。

 本当に甘かったんだよ。理解していなかったんだよ。

 相手はどんな手も使う悪党だってことを。

 ボク達とは関係のない、幸せな人達を利用するただの外道だってことを。


「おかあさん!」 


「...クソッ!卯月、このクズ任せた!」


「スバルくん!待っ」


「ヒヒッ!行かせないよぉ?」


 やめて!邪魔しないでよ!ああ、まずい。電車がもう...来てるって言うのに!その手を離してっ!


 ダッ!


 スバルくんが落ちる女性のもとへ飛び込む。


「手を!」


「はい!」


 女性の手を掴んだスバルくんは、彼女の子供のもとへ投げ飛ばした。


「うっ!」

 

「おかあさん!うぅ、おかあさん!おかあさん!だいじょうぶ?」


「卯月!」


 ああ、もう...なん...で....


「気にす──」


 




 




 2025年4月19日土曜日 午前11時頃

 とある町、とある駅で、人身事故が発生。

 負傷者 男子高校生1名。原因は人命救助。

  



  

 

 


「.....スバ...ル...くん?」



「キャー…ー!」

「ひ、人…轢か…たぞ!」

「な…ヤバく……か?」

「…い!誰…駅員呼…!」


  ザ…ザワ…ワザワ


「き、君、大丈…かい?轢…れた子と一緒…いた子は君だ…う?」


 何を言っているの?あなたは誰?駅員さん?

 ハハ、何も聞こえないよ?ハッキリ言ってよ....


「はっ.......はっ.......くっ.......」


 ...スバルくん?

 まだ生きてるの...?まだ線路(そこ)にいるの...?


「...助け...ないと...」


「ちょっ!君何してるんだ!降りたら危ない!」


 震える体を動かして、スバルくんのもとへ向かう。


 バタッ


「うっ!」


 降りるときにうまく着地ができず転んでしまった。

 ハハ、体がうまく動かないや...


「スバルく.......ん.......」


「...はっ.......はっ.......」





  


 負傷した高校生は、

 頭蓋骨陥没骨折、右脚骨折、右鎖骨骨折、右腕骨折、出血が維持し、意識不明の重体であった。

 



 



「は.........え.......?」


 

 忘れないで欲しい。



「やめて....よ....」



 『幸せ』が壊れる瞬間ってのは、


 

「はぁっ.....はぁっ.....うっ........」



 死に一番近くて、ずっと残る苦痛だってことを。

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