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#16 女神

 いきなり現れた我が戦車隊に、敵は驚く。が、すぐに敵は反撃に移る。

 が、そこにいたのは対戦車砲を持つ歩兵ではなく、機関銃による攻撃だった。そんなもので、我が4式はびくともしない。

 が、敵の真打ともいえるあの巨大戦車が、回頭を始めた。

 まさか、こちらに向けてあの砲を放つ気か? いや、いくらなんでも無理だろう。拳銃でハエを叩き落とすようなものだ。

 と思いきや、敵は30両の34式をも繰り出してきた。我々を両側から挟み込み、追い詰める。

 そのど真ん中に、あの巨大戦車が火を噴いた。


「うわっ!」


 強烈な衝撃と爆発音が、車内にまで達する。直撃ではないのにこの威力。もしあれに当たろうものなら、4式戦車などバラバラに吹き飛ぶ。


「後退! 林の中に後退だ!」


 幸い、全車両が無事だった。が、30両の34式と、あの巨大戦車の主砲はこちらを向いている。林に潜んだ途端、第2射を受ける。

 バキバキと、林の木々が折れる音が車内にまで聞こえてくる。だめだ、これではいつかやられる。そう思った俺はハッチを開けて、敵の戦車を見た。


 どう見ても、弱点らしきものが見当たらない。どうやってあれと戦うんだ? しかも多数の34式というおまけ付きだ。

 が、ちょうどいいタイミングで、空から爆音が聞こえてきた。それは、まさに急降下中のブリッツクレーへだ。

 その先には、あの巨大戦車。あれに250タウゼ爆弾を叩きつけようとしていた。

 34式の機銃による攻撃を巧みに避けつつ、3機の攻撃機が急降下し、その巨大戦車に爆弾を放つ。やや旧式のブリッツクレーへは、この狭い岩肌の合間でくるりと回頭し、その場を去る。

 落とされた3発の内、2発が巨大戦車に直撃する。猛烈な火柱の熱と、爆発による衝撃波が林の中にいる我々にも届く。

 俺はその巨大戦車を見る。さすがに34式をも一撃で葬る250タウゼ爆弾を2発も喰らった。無事で済むわけが……

 いや、その巨大戦車、まるで何事もなかったかのように動き出したぞ。再び砲身の先をこちらに向けて、撃ってきた。

 また地響きのように、戦車ごと揺らすほどの衝撃が届く。身を乗り出したままの俺は吹き飛ばされそうになる。

 攻撃機の爆撃をも跳ね返す戦車なんて、どうやって倒せばいいんだ?

 再び回頭しつつ、一撃を放ってくる巨大戦車を前に、俺はなすすべもない。

 が、ブラウン大尉が俺に、こう言い放つ。


「あの戦車ですが、回転砲塔ではありませんよね?」

「あれほどの巨砲だからな、回転砲塔とする余地がなかったのだろう」

「と、いうことはですよ。履帯さえ破壊してしまえば、やつは狙いを定められなくなる、ということではありませんか?」


 この大尉の一言に、俺はひらめいた。そして、無線機を片手に全車へ呼びかける。


「全車両に告ぐ。次の砲撃をかわした後、敵巨大戦車の左前方の履帯目掛けて、一点砲撃を行う」


 分厚い履帯だ、一撃ではとても無理だろう。が、10両の戦車による一点集中砲火ならば、どうかいけるか。

 そうこうしているうちに、またあの戦艦並みの砲を持つ戦車が一撃を放ってきた。こちらの戦車が浮き上がるほどの衝撃波が襲い掛かり、周りの木々がなぎ倒されていく。

 が、こちらの攻撃のターンが、回ってきた。


「全車、砲撃用意!」


 俺の指示と同時に、10両が一斉に停車する。砲身を、敵巨大戦車の左側の履帯に向ける。


「撃てーっ!」


 4式戦車10両による一斉砲撃が、その敵の左側のキャタピラに集中する。たちまちのうちに、履帯が破壊される。

 が、その巨大戦車は回頭しようと車輪を回し出す。が、破壊された履帯がずるずると剥がれ落ちていく。しまいには、左側のキャタピラへの動力伝達が不可能になる。

 こうなると、重すぎるその戦車はただの「鉄の塊」と変わる。砲身は上下には動かせるものの、左右に狙いを定めることは不可能だ。悔し紛れか、一撃放ってくるが。我々はその軸戦上にはいない。

 さて、敵の超大型の厄介な戦車は、これで戦闘不能に陥れた。が、30両の34式は残る。

 すでに森の木々の大半をあの巨大戦車がなぎ倒した今となっては、身を隠す場所はもはやない。となると、逃げ回るよりほかはない。

 まだ、味方は来ないのか? 攻撃機の追加攻撃すらも、まだない。ともかく、逃げ回るしかない。


「2番車に続け!」


 俺は指揮車を先頭にして、10両の戦車が敵に撃たれぬよう逃げ回ることにした。まったく、巨大戦車などやっつけたところで何の役にも立たない。

 が、逃げ回るその先に、俺は燃料タンクの集積所を見つける。あれは元々、森の中から攻撃して炎上させ、敵をかく乱させるために使おうと思っていたものだ。


「シュミット軍曹! あのタンクを狙えるか!?」


 俺の言葉に、無言でうなずくシュミット軍曹。自動装填装置で弾を込めると、燃料タンクに狙いを定め、移動したまま砲撃を加える。

 移動しながらの砲撃は本来、命中率が下がるものだが、さすがはシュミット軍曹だ。相手も馬鹿でかい無防備なタンクなだけに、あっという間に炎上する。


「全車、炎の中に飛び込め!」


 で、俺はその炎上する炎の中へと飛び込むよう、全車に命じる。4式戦車なら、多少ならば火の上を走り抜けることができる。あれを隠れみのにして、味方が現れるまでの時間稼ぎをしようと考えた。


 炎を突破し、その裏側に回り込む。炎が味方の10両を隠すのに役立ったが、たった一つ、問題がある。

 それは、異常に暑い、ということだ。

 すぐわきで、戦車のガソリン燃料が燃えているところに飛び込んだのだ。それは当然だろう。が、今飛び出せば、30両の34式の餌食となる。

 くそっ、味方は現れないのか? イラつくなか、暑さに耐えながら、味方の現れるのを待つしかない。


「あ、暑いですよ、大佐殿!」


 真っ先に値を上げたのは、操舵手のウェーバー兵長だ。ついで、車長のクラウス曹長まで根を上げ始める。


「こ、このままでは、我々が持ちませ……」


 困ったものだ。どうやら車長と操舵手の座る下部から、熱が伝わってくるらしい。一方の砲手のシュミット軍曹、そしてブラウン大尉が座るところはまだましなのか、彼らはまだどうにか耐えられているようだ。

 と、思っていたのだが、ブラウン大尉の様子がおかしい。なにやら、ごそごそとしている。


「大尉、どうした。まさか気分でも……」


 俺がそう声をかけた途端、なんとブラウン大尉は軍服の上着を脱ぎだした


「暑すぎます。上着くらい、脱いでも構わないでしょう」

「お、そりゃいい考えだ」

「私も脱ぎますわ」


 ウェーバー兵長にクラウス曹長まで、上着を脱ぎ始めた。さすがに砲手のシュミット軍曹は脱ぎはしなかったものの、上着の前を止めるボタンをはずして下着を露わにする。


「お、おい、そんな恰好でいいと……」

「男と言ったら、大佐殿しかいないじゃないですか。構いませんよ」

「そうですね、裸になるわけではないのですから」


 といって、今度は下まで脱いで下着姿をさらすウェーバー兵長とクラウス曹長だが、ちょっと待て、ここに立派な男が一人、いるのだぞ。

 と、そこにようやく、通信が入ってくる。


『味方本隊到着! 敵戦車群との戦闘を開始しました!』


 森の中で待機し、周囲を探索していた通信士のシュナイダー軍曹から、やっと味方の到着を知らせる通信が入る。それを聞いた俺は、無線機を取り叫ぶ。


「全車、全速前進! この灼熱の場を抜け出すぞ!」


 エンジンをかけ、一気に炎を突破する。熱くなったハッチを開けて、俺は外に身を乗り出す。

 峡谷の出口付近には、3式と4式が数十台、砲撃を仕掛けていた。それを迎え撃つべく、30台の34式の大半が本隊へと向かう。

 が、我が大隊は当初の予定通り、弾薬庫の破壊へと向かう。あれを破壊し、炎上させれば、敵の戦意を失わせることができる。


「よし、そのまま前進し、弾薬庫を破壊するぞ!」


 およそ300ラーベ先にその弾薬庫がある。が、手前に積まれた食糧などの備蓄品が邪魔で撃てない。周囲には戦車はいないが、敵の兵士が多数、現れる。

 と言っても、小銃を持つ者が大半だ。幸い、対戦車砲を持つ奴は少ない。小銃でこちらを狙って撃ってくるが、戦車に小銃など効果があろうはずがない。多分、身を乗り出した俺を狙って撃っているのだろうが、移動する物体を狙い撃ちするのは至難の業だ。

 が、そんな俺の横のハッチが開く。そこから、上半身が下着姿のままのブラウン大尉が姿を現す。俺は、思わず叫ぶ。


「おい、大尉! 危険だから出てくるな!」

「何をおっしゃってるのですかぁ~。大佐だって、身を乗り出しているではありませんかぁ~」


 どうやら熱でのぼせすぎて、正常な判断力を失っているようだ。外の涼しい風を浴びて、ぼーっとした表情のまま、笑みを浮かべる。

 が、そこまではまだ、よかった。問題は、ここからである。

 なんとこの大尉は、その下着すら脱ぎ始めたのである。素の上半身は、この硝煙とガソリンの臭い漂う戦場のただ中でさらされた。


「おいバカ! 何やってるんだ!」


 敵の兵士にしてみれば突然、上半身が素っ裸な女が戦車から現れた。何事が起きているのか、混乱に陥るのは当たり前だ。


「あ~すずしぃ~っ、生き返るぅ~」


 などと戦場であることを忘れさせるその悩ましい姿に、敵の目は当然、釘付けとなり、動きが止まる。

 俺は脇にあった機銃で、そんな敵を撃つ。なぜだかわからないが、大尉のこの姿を見られることが妙に腹立たしい。その機銃掃射を受けて、バタバタと倒れる敵兵。行く手に敵の兵は幾人も現れるが、目の前に現れたあの胸を無防備にさらす女士官の姿を前に、敵兵士の多くがその場で硬直する。

 そんな敵を、俺は機銃で薙ぎ払いながら叫ぶ。


「おい、大尉! さっさと下着を着ろ! いつまでその姿を晒すつもりだ!」

「大佐~っ、どうせ死ぬ相手に見られたところで、どうってことありませんよぉ〜」

「ちょっと待て、俺も見ているだろうが!」

「大佐なら、すでに何度も見てるじゃないですかぁ~。いまさら~ですよ、いまさら~」


 だめだ、暑さで思考がおかしくなってしまったらしい。ともかく俺は機銃を撃ち、全速で突っ走る2番車は、その裸体にためらう兵士らを機銃とキャタピラの餌食にしていく。

 そうこうしているうちに、手前にあの弾薬庫が現れた。


「シュミット軍曹、今だ、あの弾薬庫を撃て!」


 無言でこの砲撃手はうなずくと、目の前にある弾薬庫に向けて一撃を放った。途端に、大爆発が起きる。

 ものすごい爆音と爆風で、身を乗り出した俺とブラウン大尉が、その風にあおられる。その猛烈な風で、さすがのブラウン大尉も我に返る。


「はっ! なぜ私は……」


 正気に戻った大尉は慌てて車内に飛び込み、ハッチを閉じる。俺も車内に戻ったが、その脇でそそくさと下着と上着を着ている。


「て、敵は!?」

「大半が、味方の主力と交戦中だ。我が隊は今、敵の弾薬庫を爆破、このまま敵の34式の後方へと回り込み、攻撃を始める」

「りょ、了解であります!」


 さっきまで素っ裸な上半身を敵にさらしていた人物とは思えないほど真面目な態度だ。が、どうやら先ほどまでの自身の愚行を思い出しているのか、顔が真っ赤なままだ。

 まあ、あまりそのことに触れないでおこう。ともかく今は、この場を乗り切ることが先決だ。


「敵戦車隊の後方に向け、斉射!」


 10両が停車し、我が軍主力と交戦中の34式の後方から砲撃を加える。エンジンや後部に搭載した予備燃料タンクに命中した何台かから、火の手が上がる。


「よし、そのまま前進し、位置を変えて砲撃を行うぞ!」


 これに味方攻撃機からの攻撃支援も加わり、どうにかこの場にいた敵戦車隊を全滅に追い込んだ。残った敵兵は逃げ出す。難攻不落とまで言われた峡谷陣地の突破は、こうして成し遂げることができた。


 これは、この戦いからしばらく経った後に聞いた話である。

 あの時、裸体をさらけ出して笑みを浮かべるブラウン大尉は、生き残った敵兵士たちの間ではこう呼ばれたのだという。

 「戦場の乳女神(ビーナス)」と。

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戦場の乳女神、誰が上手いこと言えとwww 死ぬ前に立派なおっぱい拝めたのだからヨシッ!(良くない) 巨大戦車、平原等開けた場所の拠点防衛なら無類の強さを発揮出来る?
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