勇者の幸せハーレム計画
前話ちょこっとだけ修正。
やっぱり展開は変わってません。
〈side:others〉
私はいったい、なにをしているのだろう。
どうしてこんなことになってしまったのだろう……
そんな思いが、ぼんやりと守永優愛の頭に浮かぶ。
思い起こされるのは数日前。
厚美朋矢の呼びつけに従い、ひと気のない場所へと赴いた深夜。このごろは皆に隠れて外で……などということもしばしばあり、内心うんざりしつつも結局は強く断れずに流されるままという、あまり褒められたものでない状況にあった。
今日こそはいい加減、嫌なものは嫌と言ったほうがいいかも……
そう思いながら、約束の場所へと差しかかる。
そんな優愛の目に入ったのは、
「……!」
「~~~……っ」
声を押し殺し、密着し絡みあう、男女二人。
一人は朋矢。これはある意味当然として、
もう一人はあろうことか、王国宮廷魔術師イリス・エヴァレッド。
「あらら~、もうおっぱじめてるねあの二人。よっぽど溜まってたのかな?」
(!? なんで……っ)
さらに音もなく背後から現れ、優愛の口を塞ぎながらそう囁いたのは、
親友、椎名風子。
慮外の人物の存在、登場に、優愛の頭は一気に混乱に陥る。
図らずも物陰から覗くことになってしまっている、視線の先の二人は行為に没頭しつづけていて。
「うわー、こーしてあらためて他人がしてんの傍から見ると……すごいねーなんか。あーあーイリスさん、普段はあんなキリッとしてるのに、や、だからこその反動だったり?」
「――ぷはっ! なに、なんで、風子あなたッ、あれいったい、どういう……!」
「わ、そんな声出したら、」
「あらら、優愛たちもう来ちゃった」
「えッ?! モリナガさ、あっ、や、んお゛――っ!!?」
ようやく我に返って風子を振りほどき、振り向いて思わず声を荒げる優愛。
当然向こうもこちらに気づく。
いやにあっさりした反応の朋矢。
一方でイリスは酷く慌て、体を引きつらせつつも落ちていた衣類をかき集め、早々にこの場を去ろうとしている。
「まー待てってイリス。今日は話つけるためにここに呼んだんだからさ」
「御勘弁をトモヤ様っ……こ、このような姿を晒しつづけるなどッ」
「よーしよしおちついてーイリスたん。どのみちそんなの、どーせそのうち気にならなくなるからさ?」
しかし朋矢が、腕を掴んでそれを引き留める。
おまけに風子まで加わって、彼女を宥めるように抱きすくめさえしている。
どういうこと?
これはいったい、なに?
ぶり返す優愛の混乱。
あらためてこちらへ向きなおる朋矢は、さっき言った「話」とやらを今からするつもりか。
知りたくない、聞きたくないという思いが、急速に膨れ上がる。
「まぁ見てのとおりなんだけど、イリスとも致しちゃったんだよねオレ。あ、ついでに風子とも」
「ついでかアタシャ。あ、けど優愛、アタシはともかくイリスたんを責めないであげて? だいぶ強引に迫っただろーから。アタシんときもそーだったし」
思いも虚しく、あっさり暴露される知りたくもない事実。
温厚なほうであると自覚している優愛も、
「なにいって、なんのつもりなの二人して……こんな、こんなの、最低だわ……ッ」
これには激昂せざるをえず。
「っちゃー……まぁ怒るよな普通。けど考えを、価値観をアップデートしよーぜ? 優愛」
「なに、を……?」
「ここは日本でも、まして地球ですらねーんだ。レガスでは一夫多妻なんてお偉さんの間じゃ普通だし、だったら男女一人ずつの縛りに囚われる必要なんて、もはやどこにもねーとは思わね?」
「……ふざけてるの?」
精一杯睨みつけても、朋矢は反省はおろか悪びれた様子すらない。
信じられない。一夫多妻なんてそんなもの、優愛からしたら浮気となにが違うのかわからない。
レガスの人間にとってはどうなのか。イリスを見やれば気まずげに目を逸らし恐縮した様子。こちらのほうこそむしろ優愛の感覚に近そうだった。
やはりおかしいのは朋矢だ。確信を強めあらためてそちらを見やれば、
「まーまー優愛もおちついてー」
「風子っ?」
不意に後ろから抱きつくのは親友、風子。
とまどう優愛の耳元で、彼女は囁くように言葉を続ける。
「ね、考えてもみてよ優愛。はっきし言って、一人じゃコイツの相手大変すぎるとは思わない?」
「ッ!」
「でしょ? 化物みてーな体力のクセに全然加減しないし、疲れ抜けなくて昼間の戦闘ヤバかったこと、正直一回や二回でもないでしょ?」
「それはッ、でも……っ」
「三対一でよーやく互角、いやまだ足りないかも? ともかくそんな感じでさ、アタシらにとっても悪い話じゃないと思うんだー」
「いやー英雄色を好んでもうしわけねぇッ! っとと睨むなって。そのへんはマジで悪いと思ってんだからさ?」
どこまでも軽い朋矢はいったん置くとして……
風子だ。心当たりのある指摘ではあるし、理由としての分もなくはない。
けどそうではなく、それよりも、
なぜ彼女は朋矢の肩を持つ?
浮気を許容してでも朋矢と離れがたい――ということはないはず。そもそも風子は朋矢に惚れてなどいない。気のある素振りは微塵もなかったし、それは今も。優愛には直感でそれがわかる。
あるいは風子もまた朋矢と同様の好き者で、この状況を楽しんでいる?
そういう面は……少なからずあるかもしれない。
けど、違う、はず。
風子は優愛の親友なのだ。多少享楽的なところもなくはないが、
心根は優しい子のはず。優愛が沈んでいたときも気にかけてくれたし、他にも、ずっと……
わからない。
優愛を傷つけるようなことなんて、風子がするはずない。
けど、わからない。
今柔らかく自分を抱きしめているこの親友が、いったいなにを考えて、こんなことを――
「まぁそーゆーワケで、せっかく四人揃ってることだし、今夜はひとまずおためしって感じで、さ?」
「ちょっ?! やッ」
不意に、間近に迫った朋矢は優愛の衣服に手をかける。
とっさに身をよじって抵抗するも、
「はーい暴れなーい。そんなイヤがらなくても、始めちゃえば案外イイかもしれないし?」
「む、ぐ……っ」
「お? フーコナイス! ほらイリスもしょげてないでこっち!」
「……申しわけありませんモリナガ様。失礼いたします――」
背後の風子に羽交い絞めにされ、あっさり抑え込まれてしまう。
【神槍】に【遊星】――純戦士の“加護”を持つ二人に、支援特化術士の【聖女】の“加護”持ちが、元より敵うはずもなく。
「やだっ、やだぁッ! こんな不潔で、浮気で、」
「それ優愛が言う? ひょっとしてトールのことはもう頭にも残ってねぇ?」
「ッ!?」
さらには追い打ちのような、朋矢のその一言。
あなたのほうこそ、それを言う?
こんなときに彼の名前を出すなんて、
違う、ごめんなさい、そうじゃないの、
私はちゃんと話をするつもりで――
いろいろな感情でぐちゃぐちゃになる。
怒り、悔しさ、後悔に罪悪感。
感情の奔流に呆然とするうち、そのままその夜の優愛は最低の行為に巻き込まれ、流され、身をゆだねさせられ……
「なにをッ――なんのおつもりですか、皆さまッ!」
……そして優愛は今、今度はその最低の行為に加担する側。
手口もほぼ同じ。大切な話があると寝室に呼び出し、四人がかりで憐れなその人を手籠めにする。
「勇者といえど許されぬことも――!」
「まーまーそうイキリ立たないで。べつに危害を加えようってんじゃない。むしろ慰労? と思ってくださいよ。アンタが日頃頑張ってるのはよく知ってんだから、王女様?」
王国王女、エリカ・エヴァーグリーン。
優愛たちだけに飽き足らず、朋矢の毒牙はとうとう対魔大戦の最高司令にまで及ぶ。
「たわ言、ですわねっ。慰めたいのは己だけでしょう、貴方はッ」
「…………」
「貴女がたも、斯様なことになぜ加担をっ? 他二人はいざ知らずモリナガ様、乗り気な様子にはとても窺えませんが――ッ」
「……黙って。あなただって、……のにっ」
貞淑さか、あるいは矜恃か、エリカの抵抗は思いの外強く。
さらには内心を言い当てられ、思わず彼女を押さえつける手により力がこもる。
たしかにこんなの、望んでもいないことだけれども、
優愛は気づいている。まだ王都にいたころ、この女が利に気のある素振りを見せていたことを。
あなただって、こちらに墜ちてしまえばいいのに。
そうすれば自分の罪だって、すこしは――
「――好い加減に、なさって!!」
不意に、掌に鋭い痛み。
「ハァ、ハァ……ッ」
見ればいつのまにか、エリカは四人の包囲を抜けて部屋のドア側へ移動している。
隠し持っていたのか、手には雅な装飾のナイフ。抑えつける力の一瞬の緩み、その隙を突いた彼女がひと息に四人を切りつけ怯ませて、身を翻したのだと、
この時の優愛には、そこまで理解が及ばず。
ただ、切りつけられた痛みと熱さに呆然としていて。守護の術と後方支援という立ち位置から、戦いの中にあっても滅多に傷を負わない彼女には、その小さな傷さえも衝撃的で。
「うわぉ、勇者に刃を向けんのか? レガス人類の守護者たるオレに?」
「……すべてを、尊厳まで差し出さねば救わぬというのなら、魔族に踏み躙られるのとなにが違いましょう。他の者はどうあれ、少なくとも私は、家畜にも情婦にも成り下がるつもりは御座いません」
「ハッ、情婦ってまた人聞きの悪い。自由恋愛と言ってほしいなァ。てかこんな時間にホイホイ訪ねてきたんだし、そっちだってその気があったんでないの?」
「御戯れを。この先を占う大事な話があるからと、貴方が……!」
「間違っちゃいねーだろ? やんごとなき王家の跡継ぎに関わるんだから。聞けばあんたの輿入れこそ魔王討伐の褒章、その目玉らしーじゃん。順当に行きゃ魔王倒すのはオレなんだから、べつに今だって構わねーんじゃ?」
「王家の次代はこちらの都合。勇者様の御配慮には及びません。それでもと仰るのなら、話は実際に魔王を倒せてからになさいませ」
「……」
「……」
朋矢との応酬。その最中でも、エリカの毅然とした態度は崩れない。
思わず気圧され、それを誤魔化すついでに周囲の顔色を窺う優愛。
イリスの表情は沈み、気持ち蒼褪めてもいる。主君の言葉がこたえた様子。
一方でなにを思っているのか、どこか楽しげな風子。親友の内心は、今もなおわからぬまま。
そして、朋矢。
一見余裕そうな、いつものおちゃらけた雰囲気。
けれどもその目は笑っていない。思いどおりにならない苛立ち、それが垣間見える。
勇者最高戦力。機嫌を損ねれば、あるいは命さえ危うい相手。
にもかかわらず、エリカに怯んだ様子はない。
こちらに向けられた切っ先同様、瞳に宿る意志はどこまでも、強く――
どうして、あなたはそんな風にいられるの?
王女様だから? 私と違って、戦う力も持っているから?
(私だって欲しいよ、そんな強さ。それさえあったらあの時だって、きっと……っ)
ふと弛緩する空気。見れば朋矢が両手を挙げている。
折れた、というよりは、興ざめだとでもいう態度。
「……わーった。今日のトコは俺の降参だ。けど傷くらい、ちゃちゃっと治してくれてってもいーんじゃね?」
「勇者様方に手向かったこと、そこは御詫び申し上げます。治療のほどは、“聖女様”にでも御頼みください。私などより余程適任かと」
踵を返すエリカ。
けれどもなにかあれば、即座に対処する。そんな気配がにじんでいる。
それが務めであったとしても、これまで敬意をもって接してくれた彼女。
しかし今や、その目の冷ややかさは隠しきれず。
「それでは御休みなさいませ、皆さま」
そうして形式的な一礼を残し、去っていく。
優愛の内に去来するのは、綯い交ぜの感情。ミコという少女に、会ったとき以来の。
以前と違って、そこに加わる敗北感が、より苦く……




