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強襲

感想をいただきました。

ありがたいことです。




   ○




 数度、立っていられないほどの大きな揺れに見舞われた。

 しかしそれ以降は静かなもので、振動すらほとんど感じなくなる。

 その隙に、僕は進む。向かうのは魔物の気配がより濃いほう。建物というよりは洞窟のような起伏や勾配を、どうにか乗り越えつつ進んでいき――


「これは……」


 ほどなく、奇妙なものが目に留まる。

 壁になかば埋めこまれるように存在する、金属質の管。

 あたかも根っこのようにうねうねと先へ続くそれは、はっきりと魔物の気配を発していた。


「――これも本体というわけじゃない、か」


 ひとまず【弱体化】を使ってみるが、やはり手応えは感じない。

 たぶんこれは神経や血管……いや、送電線と言ったほうが的確だろうか。魔力かなにかを供給しているが、魔物本体そのものとは独立した部位というか。

 管は見た目どおり金属の硬さで、壊せるような代物じゃない。それにここだけ壊しても、全体が止まるようなこともないだろう。

 そう。この場を収めるには、やはり大本を叩くしかない。


「……」


 意識を集中させる。

 ヤシュトさんに習った、魔力の流れを掴む感覚。

 それが進むべき先を教えてくれる。魔力というこの世界には実在するものが、魔物の気配という曖昧なものよりも正確に、本体と思しきものがある場所を示してくれる。


 あらためて気を引き締め、進む。

 下り勾配の道が続く。進むたび、管は他のものと合流して太さを増している。それが本体へ近づいている確信を抱かせる。

 先の大きな振動以来、周囲に動きがないのは幸いなのか、それとも……


「! 見つけた」


 やがて、辿り着く。

 無数の管が行き着き繋がっている、概ね球状の巨大な機械のような物体。

 直径にして三メートルほどか。振動や駆動音といったものはなく、

 しかし代わりに、拍動するような魔力の強弱を感じられる。

 心臓、もしくは電源。そんな印象を受ける。


「……」


 慎重に、近づく。

 攻撃の気配は、ない。

 どころか、目に見える動きそのものもない。


 おもむろに抜剣するが、やはり動きは見られない。

 ほどなく、手を伸ばせば届く距離まで接近。


(ここまで来ても攻撃してこない。警戒しすぎだったのか……?)


 てっきり防衛機構みたいなものがあると思っていたのだけど。

 だとしたら、僕がこの場にいられたことこそ本当の、不幸中の幸いだったのかもしれない。外の様子はわからないので確かなことは言えないが、外部からここへ入り込むのはけっして容易ではないはず。


(役目を、果たす。未然には防げなかった。けど、だからこそ、ここで今――)


 決意とともに、対象に触れ、

 僕は【弱体化】を、




 凄まじい力の急接近を、感じた。

 直後、突如、

 まばゆいばかりの、白い光が――


「“メェテオドラィイーーーブッ”!!!」




 爆発的な衝撃。

 その一瞬、僕は、

 親友の、朋矢の姿を光の中に捉えた気がして。

 けれどもほどなく、意識が、すべてが、真っ白に塗り潰され――




〈side:others〉




 凄まじい闘気の、高空からの急速な接近。

 それを察知した魔族三体の反応は早く、


『うわあ、一撃かよ』

『新手の勇者でしょうカ』

『であろう。むしろあれこそが本来の主力、か……』


 跳躍し上空に離脱。

 のちに飛翔可能なムジョウが他二体を把持し、空中に留まり眼下を窺う。

 崩れ去る巨像。街を覆わんばかりの粉塵。


『――退くぞ。ムジョウ、転移の術式を』

『戦われないのデ?』

『俺たちでなら、なんとかやれそうな気もしますが……』


 ややあって、ガエンからの端的な指示。

 尚早に思える判断に、部下二体も意外そうな様子。巨像を一撃で葬り去ったのにはたしかに驚いたが、あの程度ならガエンにも可能であり、自分たちもまた決死をもってすれば不可能ではない。


『あれはおそらく、魔王様にも届きうる』

『!』

『なんト……!』


 しかし、二体が主とする魔族の幹部、その判断。

 臆病ゆえでは、けっしてない。

 生粋の武人と称されるガエン。その目が先の勇者の一撃のその向こう、真に秘めた実力の一端を正確に見極めたがゆえと、部下の二体は理解したのだ。


『ここでぶつかれば、こちらとて無事では済むまい。無理に今叩くより、情報を持ち帰り万全を期すが先決……異論は?』

『まさか』

『転移、起動しまス』


 なればこそ、やはり決断は早く。

 飛翔を維持しつつ、組み上げられていく転移の術式。


 立ち込める粉塵も晴れつつある眼下。

 その中心に立つ人影がかすかに窺えはじめるのと同時に、

 転移の術式は成り、三体の魔族はその本拠へと、方陣の輝きを残し去っていった。




〈side:others〉




「――逃げられたかー。げっほ」


 空を見上げ、そうぼやくのは【神槍】の“加護”を持つ勇者、厚美(あつみ)朋矢(ともや)

 自身の攻撃の威力圏外へ即座に逃れ、その後もしばしこちらを窺っていた魔族らの存在には、当然気づいていた。

 見逃した、つもりはない。突如強大な魔の存在を感じ取った朋矢は、一も二もなく【神槍】の力で飛翔しこの場、迷宮都市へと直行し、今振るえる最大出力の一撃をもって、見るからに驚異的なデカ過ぎる魔物を粉砕せしめ――

 要は今、余力がない。仮に追いかけても十全に戦えるか不安だったし、ひとまずは放っておくしかなかった。今、精々出来るのは、周囲に鬱陶しいほど立ち込めている粉塵を槍の旋回をもって吹き飛ばすことくらいだろう。


 ぶおぉん! と、砂煙は晴れ、


「うう、ぅう゛……っ」


 ふと目についたのは、倒れて呻くボロクズのような人影。

 近づいて顔を覗きこみ、なんか見覚えあるような、と思う朋矢。


 他でもない、奥田だった。高高度強襲攻撃(メテオドライブ)の余波で巨像から落ちた彼は、必死の思いで“防御力UP”と“落下ダメージDOWN”の術を自身にかけ、どうにか一命を取り留めたのだった。


 たっぷり時間をかけ、たぶん勇者(クラスメイト)の誰かだろうと朋矢は気づく。男子の顔など例外を除きろくすっぽ認識しない彼は、その無関心のまま俯せの奥田の体を足蹴にしてひっくり返す。


「よー、大丈夫かーえーっと、……田中君?」

「……」

「や、待った! 覚えてる覚えてる(ナカ)までは出てきてるんだよ! 山中? 中村……あーもーここまで出てんのになーっ」


 喉元を手で示しながら、一人賑やかな朋矢。

 学校の、教室にいるときと変わらない軽いノリ。

 死に体の自分を前にそのように振る舞う彼に、奥田は怒りより、どこかうすら寒ささえ覚え――


 不意に、


「で? お前ここでなにしてんの。トールと一緒に迷宮攻略してるんじゃなかったっけ」


 一転、真顔で声を一段低めた朋矢に、今度こそ本当に戦慄する。


「王都との定期連絡で聞いてんのよ。ここを拠点とする誰だかと協力して、アイツが迷宮廃棄の任に就いてるってことはさ」

「っ……」

「迷宮が災害級の魔物の呼び水になる――いやホント大変だよな! 他んトコも逐次迷宮廃棄に乗り出しちゃって、ただでさえ魔王軍相手に手が足りねーって時なのによ」

「う、う……っ」

「で、だ。――見たとこコレ、間に合わなかった感じだよな? オレが駆けつけられたからよかったとはいえ」

「うう、ぐっ」

「おかしいよなー、迷宮都市の完全攻略は大詰めってウワサ。そこに力の使いかたを理解したっつートールが加わったんなら、廃棄はとっくに済んでても不思議はねえ。二週間もあれば十分可能って、エリカさんも読んでたくれーだし」

「ぐう、うっ」

「なーのーにー、だ。どういうことなんだろな? こりゃ」


 滔々と語り、腰に手をあてこちらを見下ろす朋矢。

 見透かし、見下すような、目。

 不可解なのは、

 その目に非難や憤りといった色が、いまいち窺えないこと。


「ところで、その肝心のトールは?」

「――っ!」

「この状況で、あのお人好しがじっとしてるはずがねぇ。雑魚なら雑魚なりに(・・・・・・・・・)出来ることをー、つって、避難誘導なり人命救助なりやって、なんだかんだ目立ってんのがアイツの常套だ」


 出し抜けに、最も触れてほしくなかった話題。

 奥田の全身から、たちまちいやな汗が噴き出す。


「…………」

「おかしいなー、この街にいるのだけは確かなはずなんだけどな。――なあ中ナントカクン、アイツが今どこにいるか知らん? もしやいまだに、この街じゃ一度も顔を合わせてねーとか、」


 間近に迫る、やけににこやかな表情。

 そして、


「――あるいは、もう()っちゃった?」


 笑顔のままでの問い。

 奥田は思わず息を呑み、


「ぎゃ?! あ――ッ!!」


 衝撃。

 瓦礫の上を幾度かもんどり打って、

 ようやく、蹴り飛ばされたのだと気づく。


「――ぅ、ぐッ」

「あー。あーあーあーそっかそっかそっか殺っちまったかー……あー台無しじゃねえかよクッソが。せっかく待ちかねてた、一番のお楽しみがよォ……!」


 再び俯せに倒れた奥田へと、ゆっくりと歩み寄ってくる朋矢。

 苛立ちのままに吐き捨てるその様は、親友を悼む態度では明らかにない。


 得体の知れない恐怖。

 この男は、なんだ?

 皆元の相方の、二枚目半のお調子者。

 ちょっと鬱陶しいが、概ね無害な陽キャ……

 その認識は、あるいは根底から間違っていたのか?


 フーッと、ひとつ大袈裟に溜息を吐く朋矢。


「……まぁいいや。好都合っちゃ好都合だし。アイツの吠え面がもう永久に見れねーのは残念極まるが、ま、過ぎたモンは仕方ねぇ」


 再び見下ろされ、見下される奥田。

 思いのほかあっけらかんとした朋矢の顔にも、もはや恐れしか抱けない。


「それでナントカクン、まさか証拠とか残してねーよな?」

「しょう、こ……」

「トールを殺った痕跡とか! まあたとえ残っててもオレの力と権限で消すけど。知ってっか? すげーぞ勇者の威光ってのは。大抵のことは真っ黒クロでもオレが白っつったら白だぜ?」

「……」

「でさ、黙っててやるし便宜も図ってやっから、――オレに協力してくんねーかな? つっても拒否権ねーから。お前この先ずっとオレの駒な」


 厚美、お前はいったいなにを考えている?

 いったい俺に、なにをさせるつもりだ……?


「――っ」


 聞けない。

 理解の及ばない不気味さと、明白すぎる実力の差。

 厚美朋也という存在に完全に打ちのめされ、逆らうことなどとても考えられず。


「んじゃ、今後ともよろしく頼むぜ、奥田(おくた)卓磨(たくま)クン?」

「ッ?!」


 さんざん巫山戯たあげく、普通に名前を把握されていたこと。

 その事実さえ、恐怖をいや増す要因にしかならなかった。

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