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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第3章月の星団編

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22.「犯人はあなただ」

 野営地のテント。戦場にて、ワタクシ、イブリースは五行緑月を召集させていた。いくつかの兵も含め、部屋の中は十人もいるほどだが、それでもこのテントは狭さを感じないほど広大だ。


「イブリース。我々五行緑月も戦場に向かうべきでは?」


 サラーフは当然の疑問を述べる。他の五行緑月のメンバーも口には出してはいないが、サラーフと同じ疑問を抱いているだろう。

 なにせ、月の星団が戦うときは、いつの時でもワタクシたち五行緑月が最前線で戦っていた。ワタクシたちが前線で戦うことによって、委ねる者たちの士気を上げていたのだ。


 なのに、今回はいつもと違うやり方をしている。それも理由も言わずに。サラーフたちが釈然としていないのは当然である。


「ワタクシたち五行緑月ももちろん戦場に参ります。ですが、その前にどうしてもやっておくことがあるのよ」


「やっておくこと?」


 サラーフはますます疑問に思っているだろう。そろそろいいでしょう。そのやっておくことを説明するときね。


「この戦争が起きたキッカケ……相次あいつぐ委ねる者が殺されている事件。その真犯人についてよ」


「「「「「!!?」」」」」


 驚く五行緑月たち。フン……よくもそんな演技ができるわね。


「その犯人がインチキタウンの中の誰かという話でしょう?」


 イブンも確認を取る。


「いいえ、委ねる者たちを殺してきた真犯人は――この中にいる!」


「もう誰の事を言っているのかは、その人ならわかっているのでしょう……犯人はあなただ」


「ハサン・アッ=サイヤード。礼拝の称号を持つあなたよ」


「「「「!!」」」」


 ワタクシはハサンに指をさす。当然他の五行緑月は驚いた。そして、当のハサンは。


「ハハン! いきなり何を言っているのですか? イブリー『いいえ、〝ディオネロ帝国のスパイ〟こう言っておきましょうか?』」


「!」


 当然、シラを切ろうとしたハサンに追撃を与える。


「殺された委ねる者たちには、背中にインチキタウンのマークが刻まれていた。それ以外の証拠は一切なく、まるでインチキタウンの犯行だと疑わせるように」


「……」


「シャフリヤール、シェヘラザード、アリババ、カシム、アジズ、アジザ……殺された者はいずれもつわもの。襲われたからと言ってそんな簡単に殺されるような者ではない。それを魔術の痕跡も残さずにそんな高度なことができるかしら……」


「ワタクシが知る限りそんな高度なことができるのは一人しかいない。教団一の暗殺術を持つ男。ハサン。あなたしかね」


「本当にインチキタウンの連中が殺していたら、魔術の痕跡が残るはずでしょ?」


「そんな……確固たる証拠もないのに、彼を『いつからですか……』真似を」


 擁護しようとしたサラーフの途中にハサンが口をはさむ。


「一体いつから気づいていたのですか?」


最初はじめから気づいていたわ。あなたが犯人だってね」


「違います……いつから私が()()()()()()()()()()()だと気づいていたのですか?」


「それも最初はじめからよ。教団に害をなす行為がない限りは泳がせておこうと思っていたのよ。まあ、当初の目的は、我々教団の動向を探る程度だったのでしょうけど、戦争を引き起こそうとあんやくするとはねえ~~」


「……ふぅ~~ハァ。そこまで知っているならいいでしょう。戦争にもなりましたし、目的は達しました。もう取り繕う必要はないですね」


「ハサン……君は……」


「すみません。サラーフ。イブリースの言っていることは正しいですよ……君と過ごした時間は悪くはなかったのですがね」


「あらぁ。随分とあっけなく認めるのね。てっきり、もっとシラを切るかと思っていたわ」


「シラを切ったってあなたはお構いなく、私を斬るでしょう? あなたはそういう人だ」


「ハサン。なぜこんなことをしたのです!」


「イブン。さっき言った通りですよ。目的のためですよ。昨今の月の星団の勢力が強まる状況は目に余るとディオネロ帝国から思われましてね……どうしようかと思っていたとき」


「ちょうどタウンもザスジーからインチキ教祖に代わったのですよ。あのタウンも豊富な資源と多種多様な異種族が多く、戦力としてのポテンシャルはそれなりにあった」


「ザスジーが長の頃は、ザスジーの私利私欲を満たすための居場所だったので、そこまで脅威に感じていなかったのです……問題はインチキ教祖だ。彼が長に代わってから、豊富な資源を活用してタウンの拡大に動こうとしていた。そうなれば、いずれこちらもディオネロ帝国の脅威となる可能性がある。だからこれを機に両教団に潰し合って貰おうとしたのですよ」


 ハサンは自身の目的とディオネロ帝国の思惑をぺらぺらと説明する。そんなハサンにワタクシは。


「あなた……スパイならねえ~~そういうこと漏らしちゃいけないでしょ! 何を言っているのよ」


「そういったって、あなたならすでに気づいているでしょ! だから漏らしてもいいと思ったのですよ」


「イプシロン・アックス」


 今まで黙っていたアミーラが己の武器である斧を取り出す。


「まあ〜〜なんだ。要するにハサンが裏切り者でコイツこそ犯人だったんだろう? 理由も知ったことだし、そろそろ次に行こうよ」


「今こうして喋っている間にも委ねる者は傷つき倒れていく……早くボクたちも戦いに参加しないと」


 アミーラは斧をハサンに突きつけ、処刑を告げる。


「ハサン。ということで、最後に残す言葉さっさと決めてってくれる?」


「……ガキが。お前にだけ殺されるのは癪だ……と思っていましたが、そういう生意気なところも嫌いじゃなかったですよ」


「ですが、私も最後の悪あがきをさせてもらいますね。雷電装束アースィファ


 ハサンはワタクシが教えた魔術で雷の速度で逃げようとする。


「逃がす『待ちなさい!! アミーラ』」


 追いかけようとするアミーラを制止させ、ワタクシは告げる。


「制裁はワタクシの手で」


 ハサンは逃げながら、切り札の魔術を発動しようとする。


「出し惜しみはしない。真実(ナッシング)などない(イズトゥルー)すべては(エブリシング)『その魔術(切り札)は発動させないわよ』」


「!」


 ハサンはワタクシが声を掛けるまで、背後を取られたことに気付いていなかった。反撃しようと振り返る頃にはとっくにワタクシの手刀がハサンの首を斬っていた。


「まったく、相変わらず早すぎますよ……イ・ブ・リ――……」


 ゴト


 ハサンの首は胴体と分かれそのまま落ちた。その後、遅れて胴体も落ちた。


「ハサン……」


 サラーフは友の死に悲嘆に暮れていた。


 グツグツ


 やがてハサンの顔、胴体共に肉体が鉄の熔解のように溶けだした。


 プシュー


 そして、溶けた肉体は、紫色の煙と化して、服を残して消えていった。


「イブリース。これは何?」


 奇怪な現象を目の当たりにしたアミーラはワタクシに尋ねる。


「これがハサンの正体よ。ハサンは人間ではない」


「〝魔人〟と呼ばれる魔術で造られた人造人間。ハサンは魔人だったのよ」


「公にはされてはいないけど、ディオネロ帝国で開発された魔術よ。魔人が生を終えた場合は、今のように煙と化して、肉体を消すのよ。魔人の製造方法を漏らさないようにしているのでしょう」


 ハサンが人間族でないことに五行緑月含め、この場の委ねる者たちは余計に戸惑っていた。


「さて……やることは片付いた。これで我ら五行緑月も戦場に参りましょう。サラーフもいいわね?」


「お、お待ちくだされ。イブリース」


「イブン。どうした?」


 イブンは何か迷いがあるような態度だった。


「委ねる者を殺害していた犯人がハサンだったということは……インチキタウンは無実ということですな?」


「……そうなるわね」


「なら、我々がインチキタウンと戦う理由はないのでは?」


「イブン……前にも言ったでしょう? 仇を抜きにしても、インチキタウンを攻めるメリットがこちらにある。教団の繁栄のために、タウンは何としても確保しておきたい」


「たとえ、今後ディオネロ帝国と戦う道になったとしても――豊富な資源があれば戦える! タウンがあれば布教は広げられる!!」


「ですが! イブリース――」


「覚悟を決めろイブン! インチキタウンとの戦いは、始まりに過ぎない!! 本当の戦いはこの先にある!!! 時計の砂は流れ落ちている。逆さにして戻すことはできないのよ」


「雷音」


 一瞬そう聞こえた。その声の先は――上。空の方から――


 その瞬間テントの屋根であるむねは燃える。


 ズギャギャギャ! と獅子の叫び声にも聞こえる雷がテント全てを燃やしそのまま地面へと落雷していた。

 すでにテントから外に出ていたワタクシは瞬時に電撃の発生源である上空を確認する。


 眩しい。


 一瞬生じた感想はそれだった。その方向は太陽の方向だったので、よく見ることはできない。が、シルエットから二体の敵を確認できた。


 一体は、シルエットからしてグリフィン族だろう。もう一体の方は……なんだ? それは見たままで言えば、四枚の羽を生やした人間のようなシルエットだった。太陽を背にしているためか、まるで天使のような存在と錯覚させるような雰囲気を放つ。よくよく見れば、その四枚の羽を生やした者は右手に電流が迸っていた。つまり今の不意打ちは奴の仕業か。


「これでも雷音の威力を抑えたけどな……まさか躱せる奴がいるとは、武闘派教団は伊達じゃないということか」


 不意打ちした者はそう語った。


 今の攻撃を躱せたのは、ワタクシ含め、五行緑月だけだった。残念ながら、他の委ねる者たちは躱せず、立てないほどダメージを受けていた。


「おい、マジかよ……雷電系の基本技程度でこんな威力を出せるのか?」


 アミーラは冷や汗を垂らしながら、薄ら笑いを浮かべていた。その表情から、半分は強敵と出会えた興奮。もう半分は底が見えない敵の実力に恐れているような感情が読み取れた……恐らくはワタクシもアミーラと気持ちは同じでしょう。


「さてと……」


 四枚の羽を生やした者は、ゆっくりとゆっくりと地に舞い降りる。まるで、天界から人間界へと降臨するように。そして、つま先からそのまま着地した。


「イブリースはあんたらの中にいるのか?」


 太陽の光から外れたため、その者の姿をやっと確認できた。妖精族のような翅。黒髪。白衣に黄金色の羽織を着た。ワタクシと同じ人間……翅については知らないが、それ以外の特徴は間違いない。奴の正体は……


「イブリースとはワタクシのことよ」


「あなたね。敵の頭目でもあり、インチキタウンの長でもあり、インシュレイティド・チャリティ教の教祖の――」


「ああ。俺のことはインチキ教祖と呼んでくれ」






 邂逅する天使と悪魔

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