21.「八寒冷山」
バンジージャンプするように俺たちが作った壁から俺は飛び降りる。
高さ100メートル以上はあろう高所から飛び降りた影響か、ゴオオと地面に近づくように落ちているはずだが、身体は軽く、まるで宙に浮いているような浮遊感をもたらした。
そして、地面激突まで残り約30メートルは切ったタイミングで俺は妖精族の魔術を発動して飛ぶ!
「妖精族の翅」
俺がそう唱えると、俺の背中に四枚の翅。蜻蛉のような翅が生えた。
そして、地面に激突する直前になって、急旋回上昇でそのまま巨人族三人組に向かって飛ぶ。
魔術名【妖精族の翅】。これは信者である妖精族の魔術。魔力で作った四枚の翅を一枚ずつ上手に動かすことで、自由自在に飛ぶことが可能。この魔術を発動しているときは、新しい手足が生えたような感覚となる。
この魔術で俺は空中戦も可能になった。とはいえ、人間の赤ん坊が立って歩けるようになるまで訓練が必要なように、妖精族も自由自在に飛べるようになるまでは本来は長い訓練が必要なのだ。
だが、コネクトが魔力譲渡を受けた場合は、譲渡者の技量まで再現できる特性がある。
この特性を活かすことによって、飛ぶのが上手な妖精族から魔力譲渡を受ければ、訓練せずとも、最低はその妖精族と同じレベルの操縦技術が可能なのだ。つまり俺は初めてこの魔術を行使しているにもかかわらず、自由自在に飛ぶことができるってわけだ。
「フム。向かって来るかインチキキョウソ!!」
一番左の巨人がそう言ったと同時に、巨人族三人組がバズーカ、機関銃、狙撃銃を一斉射撃してくる。
ドォーン
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
バン
俺はその射撃を紙一重で躱す。
「(巨人族のみならずこの辺り一帯の敵をまとめて倒したほうがいいな……そうだ! あの魔術を使うか)」
俺は一撃でまとめて敵を倒すためと、銃の射程圏外に入るため、上空へと一気に加速する。
「フン! 空が飛べるからっていい気になりなりおって、飛べるのがお前だけだと思うなよ」
「こんなに早くに見せるつもりはなかったのだがな……見せてやろう。これが月の星団が使う空中戦用の魔術だ」
「「「「「「「「「「「「「「「「嵐風装束」」」」」」」」」」」」」」」」
ふと視線を下に向けた。するとそれは衝撃の光景だった!
ゴブリン族、オーク族、獣人族、そして巨人族三人組が空を飛び、俺を追いかけてきたのだ!!
その見た目は、風で作られたトーブを皆一同に着ていた。
「な、なにぃ!?」
空からなら安全に攻撃できると思っていた俺は油断した。
巨人族三人組の射撃とゴブリン族のナイフとオーク族の斧から放たれる風の斬撃を、俺はなんとか躱せた。追撃を撒くために、俺は近くの森へと向かったが、その森の中からも待ち伏せのようにオーク族が空中飛行しながら襲ってきた。その見た目は、先の飛んで行った敵と同じように、風で作ったトーブを着ていた。
「敵の大将だぁぁあああ! やっちまえ!!」
「うぉ!?」
その攻撃も奇跡的に躱せた。
「(こいつら……嵐風系魔術を利用して飛んでいる!? )」
嵐風系魔術。魔力を風に変換し、発動できる魔術だ。奴らは、魔力で作った風を推進力に空を飛ぶことができるのだろう。俺も嵐風系魔術でロケットのように飛んだことがあるからよくわかる。そして、風で作ったトーブを着ているのは、落ちないように抵抗力を弱めている効果も発揮しているのかもしれない。
「(しかもある程度飛べるならいずれは俺たちが作った壁すらも乗り越えることも可能ということに……)」
敵が飛べることは計算外だった。月の星団がなりふり構わず突破しようとすれば、壁を乗り越えることも時間の問題だ。幸いジュダスたちも今の状況を目撃しているはずなので、後はジュダスたちがいい対策を打ってくれることを願おう。俺は俺で、そろそろこいつらを片付けなければ。
そうと決めた俺はそのまま垂直に天に向かって最高速度で飛ぶ。
「フン! 何度飛んでも無駄だ!! お前らここで決めるぞ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「オオ!!」」」」」」」」」」」」」」」」
委ねる者たちは、天に向かって皆一同に遠距離攻撃をした。その範囲は弾幕のように広く、俺が躱そうとしても当たるほどの規模だった。だが、これで反撃の準備は整った。奴らが一斉攻撃でその場に留まったおかげで、逆に俺の魔術が当てられる。俺が先ほどからずっと使いたかった魔術を。
俺は委ねる者たちを狙うように、大地に向かって両手を向ける。その両手の形は横向きの指鉄砲にして唱える。
「八寒冷山」
指先から冷気を広範囲にスプリンクラーのようにまき散らす。そして、委ねる者たちの攻撃を、委ねる者たちをも巻き込み巨大な氷山を大地から俺の指先までの高さで創り上げた。
魔術名【八寒冷山】。氷水系魔術の基本技である寒山の上位魔術。
寒山が氷のボールを銃弾のように放ち、被弾した者とその周辺を凍らせるのに対し、こちらは冷気を広範囲に放ち、寒山を超える規模で辺りを凍結させることが可能。炎火系魔術の炎天のように魔力を消費し続ける限り出し続けることができる魔術だ。
「偏見かもしれないが、熱い地域に住んでいる者は寒さに慣れていない。逆もしかり。お前らなら氷水系魔術が弱点だと踏んでいたぜ」
「まあ今のは、半分冗談で、一番の理由は、イブリースがこの中にいるかもしれないから、生かして捕える魔術を選択したけどな」
この魔術をくらった委ねる者たちは死んでいない。あまりにも時間が経てば、結果は変わるかもしれないが、今は生きたままだ。イブリースが万が一ここにいた場合、殺傷能力が高い魔術だと死ぬかもしれないからだ。イブリースは殺せない。殺したら撤退させるように命令する作戦が終わることもあるが、下手に殺したら、弔い合戦のように委ねる者たちの士気が上がり、戦いが余計に激化する可能性があるからだ。
「まあ、この氷山は簡単に解けないだろうからひとまず制圧完了ってことにしていいだろう」
「さて……ここからどうするか?」
「お~い! インチキ教祖」
俺が考えている頃、バサバサと飛ぶ音とともに、俺を呼ぶ声が聞こえた。その声がする方向に顔を向けると。
「グーリュ!」
その正体は、グリフィン族のグーリュだった。アンナ隊救出に加わったメンバーの一員だ。
「どうした?」
「ヴェダから聞いたぞ。イブリースを探しているってな? だから役に立てばと思って飛んできたのじゃ」
「なっ――もうイブリースを見つけたのか!?」
イブリースの居場所どころかそもそも見た目すらわかっていない状態だったのに、俺は期待してグーリュの言葉を待つ。
「いや、残念ながらまだ見つけていない……だが、当てがあるぞ」
流石にいきなり発見まではそう都合よくいかないか。だが、手掛かりゼロだった状態から考えば大きな前進だ。
「聞かせてくれ。その当てとやらを」
グーリュはコクンと頷く。
「タウンから離れたところに大きなテントをいくつか見つけた」
「司令官とは、後方のテントでふんぞり返って指令するものじゃろ? ならそこから探していけば……」
「イブリースはテントのどれかにいるかもしれないということか」
あり得る話だ。なら言う通り、このままテントを探すか。
「グーリュ悪いけど、そのテントまで案内してくれるか? 戦うのは俺がするから案内してくれるだけでいいんだ」
「そう言うと思ってな、ほれワシに乗れ。魔力と体力を少しでも温存しておいたほうがいいじゃろう」
そう言うと、俺が乗りやすいようにグーリュは大きく背中を広げた。
「ありがとう。ならその気遣い受け取らせてもらおう」
俺はグーリュの背中に乗る。
「つかまれよぅ~いきなり飛ばすからなぁ~~ベイビー」
グーリュは軽くその場を羽ばたいて飛ぶ。そしてインファイターのグーリュは、お得意の肉体強化系魔術を発動する。
「神速飛行」
音速すらゆうに超える速度で飛ぶグーリュ。尚、俺はグーリュにしがみつくのに精一杯なことと、圧倒的な強風で歯茎をさらすほど顔がくしゃくしゃになったのは言うまでもない。
読者の皆さんにクイズ! テテン!!
Q.インチキ教祖は嵐風系魔術でロケットのように飛んだことがあると言っていますが、具体的にどこのエピソードでしょうか
ヒント:第二章でザスジーの城に入るあたりのエピソードで書いています
次回はイブリースの視点で描こうと思います。