20.「これが何を意味するのかわかるか?」
「リチャードやアルファイが予想していた通り、月の星団側はスキルタイプ・インファイターが多そうだな。ぱっと見の印象だが」
俺は、壁を壊そうとする委ねる者たちの猛攻を見てそう結論づけた。
「ええ。オーク族やゴブリン族とかもそうだけど、砂漠地方に暮らす種族は傾向的にもインファイターが多いとされているわ」
「元からインファイターが多いから過酷な環境でも生き残れたのか、あるいは淘汰の過程でインファイターが多くなったのかは知らないけど。委ねる者の大半が砂漠地方の出身であるなら、インファイターが多いはずよ」
魔術訓練校で得た知識なのかは知らないが、ジュダスの学説的な話は後々で聞くとして、相手のスキルタイプが、インファイターが多いなら、こちらの戦い方は決まってくる。
まず、接近戦は禁物だ。それは奴らの十八番だからだ。さらには、インファイター特有の耐久力で一体一体そう簡単に死なないということだ。となると、今のようにできるだけ遠距離攻撃で対処するのが安全だと思うが……
「教祖。この後、どうするッスか? 籠城戦で、できるだけ時間を稼ぐつもりッスか?」
ヴェダがこの後の動きについて確認する。
「いや、戦いを長引かせるつもりはない。むしろ無駄に戦いを長引かせたら、奴らが有利になりそうな気がする……タウンの食料が尽きて、外に調達しようにもままならないだろうからな」
「短期決戦だ……俺たちインチキタウンが勝つには、短期決戦で勝負を決める。これが活路だ」
「短期決戦って……インくんはどうやって決めるつもりなの?」
ジュダスが確認を取る。
「やり方は決まっている」
短期決戦。俺たちの勝利条件は、なにも月の星団の者を全滅させる必要はない。撤退さえしてもらえればいいのだ。もっと言えば、撤退をさせて、二度と俺たちのタウンを攻めさせないようにするのが理想だ。
撤退させるには、具体的なやり方は二つだろう。
一つはインチキタウンの攻略は不可能だと諦めてもらう。
二つは敵のボスに撤退を指示させるように働きかける。
そのどちらかだ。俺のやり方は――
「イブリースだ……敵の教祖であるイブリースを捕える。半殺ししてでも、撤退をしてもらうように命令する。このやり方を選ぶぞ」
「「!!」」
二人は俺の発言に驚いていた。
「イブリースを捕える? それこそどうやって? 私たちはイブリースがどんな見た目をしているのかもわからないのよ?」
「そうッス……仮に見た目がわかったとしても、この大軍の中で見つけるのは至難の業ッスよ?」
ジュダスとヴェダが疑問を投げる。
「そんなことは俺だってわかっている。その辺の委ねる者を締めあげてイブリースの見た目や居場所を吐かせるとかいくらでもやりようがあるだろう」
「ただ待っているだけでは、勝機はないだろう?」
「あっ……あれは?」
話の途中でヴェダは何かに気付いたのか、びくびくしながら指を差す。
その指の指す方向を俺とジュダスも見る。その方向を見ると、十メートルはあろう巨大な人型の種族が三人も現れた。あれは人間なのか? そう疑問に思っていたところ、ヴェダが俺の疑問に答えるように敵の正体を言う。
「巨人族ッス!」
◇
三体の巨人がドシンドシンとタウンに向かって歩みを進める。
巨人族。平均身長十メートルはある巨大な人型の種族。主な生息地は砂漠ではなく、森林が多いのだが、どうやら月の星団に入信した巨人族であるようだ。
巨人族の三体の格好は、一般的なイメージされる原始的な裸の恰好ではなく、砂漠迷彩服のようなどこか近代的な軍服を着用していた。その上、巨人族のアリフは砂漠用のゴーグルを、巨人族のバーはサングラスを着用までしていた。
「ロウジョウセントハ、オロカナセンタクヲシタナインチキタウン。ソウハオモワナイカバー?」
アリフはバーに話を振る。
「アア。アリフノイウトオリダ。ロウジョウセントハ、キホンハエングンノトウチャクマデタエルタメノセンポウ。エングンナドイナイインチキタウンガヤッテモムイミダ」
そして、ターも話に加わろうとする。
「ソレニチョウキセンニナロウトモ、ダンジキヲケイケンシテイルワレワレノホウガユウリ。タタカイガナガビケバナガビクホドコチラノカチハカクジツ」
「トハイエ、タタカイガナガビクノハメンドクサイ。ワレワレノチカラをミセツケ、ソッコーデケッチャクヲツケヨウ。アリフ。バー」
「「アア」」
三体の巨人は、それぞれ片手を大きく広げた。そして。
「「「バシリカ砲」」」
そう唱えたとき、大きく広げた手のひらから魔法陣が発生し、そこから武器が飛び出てきた。
「モトモトハタイホウダッタ、コノブキヲイブリースノシジノモトカイゾウシタ」
「ヤツラハオドロクダロウ。コノイガイナブキヲミテ」
アリフ、バー、ターの三人は不敵な笑みを浮かべ、クククと笑った。
◇
「まさか、巨人族まで付き従えているとは……巨人族は恵まれた体格を誇りにし、武器も持たずに、ステゴロで戦う者が多いとされている……スキルタイプもインファイターが多いとされているわ」
ジュダスが巨人族について解説をする。
ジュダスの解説を信じるなら、恐らくあの巨人たちはこの壁にタックルとかで壊そうとするだろう。いや、あの巨人族たちがオールラウンドなら魔術で遠距離攻撃することもあり得ると思うが……うん?
巨人族の行動を観察していると〝武器転送魔術〟で魔法陣から武器を取り出すのが見えた。
その武器は三つとも形状が異なっていた。そして俺から見て、一番右の巨人はその武器を肩に担ぎ、片膝を地面について狙いを定めていた。そして。
ドォーン
その武器から砲弾のような弾が放たれ、壁に当たると巨大な爆発が生じた。
それだけじゃなかった。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
今度は真ん中にいる巨人も武器で攻撃をする。一番右の巨人と違うのは、連続射撃式の武器らしい。
「なっ、なんっスかー!? 巨人族は武器を使わないんじゃないんッスかー? しかもあれ何の武器なんッスか!!?」
「なっ なんなの!? あの武器は?」
勢いよく壁が剝がされていく中、ヴェダとジュダスにとっては、初めて見る武器に戸惑っていた。
激しい銃声の中、俺は二人に教える。巨人が何の武器を使っているのか。俺は知っているから。
「一番右の巨人が手にしているのは、バズーカだ。見ての通り、一発一発の威力が高い兵器」
「そして、真ん中の巨人が手にしているのは、機関銃だ。一発一発は、バズーカに威力が劣るが、連射できるのが強み」
「そして一番左の巨人が手にしているのは~~」
「シネェ! インチキキョウソ!!」
バン
一番左の巨人が俺に狙いを定めて、銃弾を放つ。
「龍門飛鳥」
ジュダスも武器転送魔術を行使し、魔法陣から刀の柄が現れる。そして、抜刀術のようにして、銃弾を叩き切る。
「ありがとう。ジュダス。今の一番左の巨人が撃ったのは、狙撃銃だ」
ジュダスもヴェダも俺の話を聞く。
「バズーカ、機関銃、狙撃銃……いずれもこの新しき世界では、オーバーテクノロジーだ。この世界での遠距離攻撃の武器は、弓矢、クロスボウ……大砲くらいがやっとのはずだからな」
「この世界で生まれ、この世界で育った生きとし生ける者なら作れるはずがない。たとえ、思いついたとしても作り方なんてわかるはずがないだろう……つまりこれが何を意味しているのかわかるか?」
月の星団がバズーカ、機関銃、狙撃銃を作れる方法。このたった一つの方法を俺は答える。
「俺と同じように異世界転生した人間が月の星団の中にいる!! そうとしか説明できない!!」
「バズーカ、機関銃、狙撃銃この銃の作り方を知っている人間が、この世界に転生してそして月の星団の中にいるということだ」
「もしかして……その人間がイブリースだと教祖は言うんッスか?」
ヴェダが疑問を投げかける。
「いや、そこまでは断定できない。だが、今言った通り、転生者がいるならバズーカ、機関銃、狙撃銃が作れてもおかしくはないということだ」
俺は考える。信者たちの多くは、壁の修復に急いでいる。それにあの巨人どもを放っておくわけにもいかない。それに月の星団の中にいる転生者。イブリースの居場所……数々の情報が俺の頭の中に駆け巡る。
やがて俺は自分がこれからすべき行動を、その答えを出す。
「ジュダス。悪りぃけど、あとは頼んだ。俺はこのままあの巨人たちを倒して、そのままイブリースを探してくるわ」
「えっ!?」
ジュダスは当然のように俺が言った意味をわからず、聞き返す。
「お前にここの指揮を丸投げするということさ。やっぱりさぁ。俺ただ待っているのは性に合わないんだ」
「ちょ、待って」
慌てて止めようとするジュダスと動揺しているヴェダにかまわず、俺は言いたいことを言ってさっそく行って来る。
「俺の戦いのポリシーは先手必勝だ。むしろ動くのが遅すぎたのさ。じゃあ、そういうことであとは頼んだぞ!」
俺は妖精族の魔術を発動して飛ぶ!
「妖精族の翅」
補足)
・この作品での巨人族についての設定
巨人族。主な生息地は森林で平均身長十メートルはある巨大な人型の種族。
恵まれた体格を誇りに素手で戦うのが伝統であるが、月の星団に入信した者は、その伝統を守っていないらしい。
食性は、植物や土や岩石を好む。また、肉やヒトは食べない。というか食べる必要なし。
というのも、巨人族の腸内に存在する特殊な細菌が、植物、土、岩石を分解し、筋肉を作るアミノ酸を生成しているからだ。
・バリカン砲
元々は、約八メートルはある巨砲だったものを、バズーカ、機関銃、狙撃銃へと改造した。
その巨大な武器は、月の星団では巨人族の怪力でなければ使えないらしい。武器がデカい分、威力も凄まじい