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19.「開戦」

 迫る決戦

「敵の頭目でもあるインチキ教祖ってどんな人かな? イブリースと同じ人間なんでしょ?」


 アミーラはインチキ教祖について話題を振った。


「どんな人って……知らないわよ。会ったことがないのだから……でも奴がタウンに残るなら会えるかもね」


「リチャードもオールラウンドの力を持つヒーラーのエルフも気になるけど、やっぱり、それらをまとめているトップのインチキ教祖が一番気になるんだ。イブリースみたいに信仰心が強い糞真面目な奴なのか。あるいは宗教を悪用して、信者をマインドコントロールしているカルト教祖みたいな奴なのか」


「さあ……どんな人間だろうとワタクシからすれば特に興味がないわ。異教徒の教祖なんて」


「ねえ! カルト教祖って教えを信者に押し付けながら……当の本人は教えを守らずやりたい放題したりするらしいよ」


「もしインチキ教祖がカルト教祖みたいな奴なら、やっぱり、教えは守らずハーレムを作ったり、酒池肉林のような毎日を送っているのかな?」


「あらぁ。やけにカルト教祖に興味を持つじゃない?」


「だってそうだろ。カルト教祖は酷いとは思うけど、やりたい放題できる環境があれば、やりたい放題したくなるのが普通でしょ?」


「逆にイブリースは教祖みたいなもんなのに、なんでやりたい放題しないの? カルト教祖みたいに」


「なんでって……そうしないのが、月の星団の教えだからじゃない?」


「ええ~~っ!? ボクが月の星団の指導者になったら、ぜってぇやりたい放題するのに~~本当に真面目だね」


「委ねる者の皆が断食しているところをボクは女を侍らせて肉を喰いながら優越感を抱いて鑑賞してやるんだ。しんどい教えなんか一切守ってやらないからな」


 アミーラはニヤニヤしながら妄想を語る。イブリースはそんなアミーラの言動に引いていた。


「ねえ? イブリースの次の指導者は誰にするの? 実力順で考えるなら次の指導者はボクだよね? それとも年功序列で考えるならイブンかな?」


「次の指導者か……そういえば、考えていなかったわね。後十年は現役でいようと思っていたし」


「でも……あなたを指導者にしたら、それこそ月の星団は終わりね」


 明らかに良からぬ発言を繰り返すアミーラにイブリースはそう切り返した。アミーラはてへぺろっとウザイ顔を見せる。


 だが、イブリースは何だかんだわかっていた。アミーラが本気でカルト教祖になろうと考えていないということを。もし、やりたい放題するために指導者になろうとするなら、こんな考えを漏らすはずがないから。


「あと、わかっていると思うけど、月の星団では、一夫多妻はOKよ。ちゃんと結婚して妻の人生の責任を取るつもりならね。アミーラ。あなたにそれくらいの覚悟がある?」


「あるわけないでしょ! ボクはそんな面倒くさいこともしないでカルト教祖のようにやりたい放題したいんだよ」


 ……冗談を言っていることはわかっていてもイブリースはキレそうになった。なんでこんな奴の入信を許したのか一瞬後悔するほどに。


 イブリースは気を取り直して、別の話題に変える。


「ああ、でも、そうね……もしインチキ教祖と会う機会があれば、これだけは聞いてみたいかもね」


 イブリースは考え込みながら、こう述べた。


「あなたは神を信じて教祖をしているのか? それとも信じていなくて教祖をしているのか? どちらだ?」


「……イブリースらしい考えだね」


「とはいえ、インチキ教祖がどんな人間なのかはもうすぐわかる」


「戦わないならワタクシが彼に興味を持つこともないし、仮に戦うにしても信者を前線に、自分だけ安全圏にいるような奴ならワタクシが手を掛けるまでもない。アミーラ。あなた辺りに始末をお願いするわ」


 アミーラはお手上げのように両手を広げ、やれやれと言うようなポーズをしながら「はいはい」と返事する。


「だが、もし」


 イブリースの話はまだ終わっていなかった。


「もし、インチキ教祖が信者の誰よりも()()()()()()()()()()()()、このイブリース敬意を払い自ら相手しよう」


 アミーラは最初イブリースのこの話を聞いたとき、キョトンとするほど目を見開いてぼんやりとした顔になった。だが、やがて「フッ」と鼻で笑う。


「イブリース……流石にそれは期待しすぎだよ。インチキ教祖がかわいそうだ」


「そうね……ワタクシも彼がそこまでの者とは思っていないわ。もしもの話よ」


 二人はそれくらいでインチキタウンとインチキ教祖の話を打ち切り、勝負に戻った。


 だが、相変わらずアミーラはイブリースに押されていた。


「くそぉ~~このボクを子ども扱いしやがって~~」


「子どもでしょ?」


 この日も結局アミーラはイブリースから一本も取ることはできなかった。


 ◇


 時は経ち、ある大軍がぞろぞろとぞろぞろと森や川の中を進む。

 その大軍はよくよく見れば、オーク族やゴブリン族、獣人族が大半だった。中には、人間らしき種族もいた。さらには、人間にしてはデカすぎる巨大な人型の者も見られた。


 この大軍こそが月の星団の委ねる者たちである。この大軍が目指している先は言うまでもなく、インチキタウンである。


「インチキ教祖! 来ましたよ!!」


 妖精族のシルヴァーナはインチキ教祖に伝える。


「そうか……ついに来たか」


 インチキ教祖は静かにそうつぶやいた。


 一方インチキタウン側の方では、信者たちが慌ただしい動きをしていた。


「敵戦力の数およそ千以上!!」

「タウン全方位囲まれています!!」

「みんな!! 準備はできているか!?」

「大丈夫です!! 後は、インチキ教祖から合図を待つだけですね!!」

「あっごめん。もうすぐ着くから」

「早く持ち場につけぇ!!! バカが」


 時には、怒声が聞こえるほどに。

 

 そうして、インチキ教祖を含めインチキタウンの信者たちは月の星団の進軍を防ぐようにタウンの全域360度立ち塞がる。「ここから先を通りたければ、俺私を倒してから行け」と言わんばかりにプレッシャーを放っていた。


「一旦、止まれぃ!」


 上官らしき、オーク族が声を掛ける。そして瞬く間に月の星団の進軍はパタリと止む。


 そして、月の星団の大軍の中から一人のゴブリン族がタウンにいや正面のインチキ教祖に向かって歩き出した。


 そして、インチキ教祖も両隣にいるジュダスとヴェダを置いていき、一人でそのゴブリン族へと歩き出した。


「黒髪で白衣に黄金色の羽織を着た人間族……お前がインチキ教祖か?」


「ああ……そうだ」


「使者のラスールだ。こうやって会うのは初だなインチキ教祖よ」


 ゴブリン族のラスール。この者は、インチキタウンとインチキ教祖宛に要求の羊皮紙を渡しに来た使者だった。


 その時は、インチキ教祖と顔を合わせることはなかったのだが。


「答えを聞こうか……インチキ教祖よ。このタウンを引き渡してくれるかね? それとも我々と同じく偉大なる神へと委ねる」


 ラスールの話の途中にインチキ教祖は黙って羊皮紙をスッと出し、ラスールへそれを見せる。


「これがあんたらから貰った羊皮紙だ」


 羊皮紙の記載内容をラスールに見えるように広げるインチキ教祖。そして。


 ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ


 その羊皮紙をインチキ教祖は破った。


 それだけではなくインチキ教祖は、もはや紙くずと化した元羊皮紙を、喧嘩を売るようにラスールの顔面にポイっと投げた。


「これが答えだ……タウンに残っている者は、お前らの教団に改宗しねえし、ましてやタウンを渡す気もない」


「今すぐ帰りやがれ。そうイブリースに伝えろ。あいつが腰抜けでないならこの軍の中にいるのだろう?」


 羊皮紙を目の前に破られ、顔面に紙くずを当てられ、そしてインチキ教祖の回答を聞いたラスール。ここまでの一連の流れに対し、黙っていたが、ついに口を開く。


「それが答えか……後悔することになるぞ」


 ラスールは取り乱すこともなく、ゆっくりとそう話した。その声は静かな怒りやこれから起きる激しい戦いを予感させるような威圧感があった。


「お前らがな」


 インチキ教祖は動じずそう切り返した。


 インチキ教祖とラスールは互いに背を向け、そのままそれぞれの持ち場へと戻っていた。ラスールは今のインチキ教祖とタウンの回答を月の星団に伝えるために。インチキ教祖はある作戦を実行するために。

 それからしばらくした後、月の星団側が攻める合図のように大きな雄叫びを次々と上げていった。


「開戦だぁ!! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

「久々さの戦争バトルだぜぇ!!」

「覚悟しやがれ インチキタウン!! インチキ教祖!!!」

「火獄以上の恐怖を教えてやろう」


 それに対しインチキ教祖はある作戦を実行するように手を上げる。


「今だ! 始めろ」


 インチキ教祖はそう宣言する。そして、ヴェダの近くいたマミーが合図のように手から花火の魔術を打ち上げた。


 それを合図に、インチキ教祖含めタウンの全域360度立ち塞がっている信者たちは一斉に地面に向かってパンチをした。


「「「「「「「「「「「「「「「「「地空界」」」」」」」」」」」」」」」」」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 これから大地震、あるいは地割れが起きるのではないか。そう思わせるほど、地面から不気味な軋む音が聞こえてくる。


 ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 そして、その音の正体は、地震や地割れではなく、大きな地面の壁が発生した音だった。


 その壁は、断崖絶壁と思わせるほど大きくそして高くタウン全域を守るように立ち塞がった。


「な……!! なんだ!? あの規模の壁は?」


 月の星団側も驚いていた。


 魔術名【地空界】。ハサンたちとの戦いでヴェダも発動した土砂系魔術。これは土砂系魔術の中でも上級魔術にあたる強力な魔術だ。元々はジュダスが覚えていた魔術だったが、インチキ教祖によりジュダスの魔力をタウンに残る信者たちに渡していたので、当然信者たちもこの魔術を発動できるようになった。


「あれだけの信者が土砂系魔術を発動するということはオールラウンドが多いんだな。インチキタウンの信者たちは」


「上等だ! インチキタウンの連中がオールラウンドの軍隊なら、こちらインファイターが多い軍隊だ。目の前に壁があるというなら、それを砕いてみせるまでよ!」


 月の星団が壁を壊そうと攻めていく中、インチキタウンはろうじょう戦で対抗する。

 とにかく壁を壊そうと、委ねる者たちが、壁に突撃したり、魔術やクロスボウや大砲など様々な攻撃で突破しようとする。インチキタウンの信者たちは、黙って見過ごすことはせず、壁上や壁の隙間から遠距離攻撃の魔術を使って委ねる者たちの攻撃を妨害する。


 開戦当初の戦況はインチキタウンが有利だった。月の星団は中々壁を突破できず、攻めあぐむ中、信者たちからの攻撃を受けていた。

 委ねる者側の死者も出ていく中、インチキタウンの信者は未だに死者は発生していない。


「くそぉ……あの壁、思ったよりも厄介だ。ちょっとやそっとの攻撃では突破できないぞ」


「ああ。硬い上に壊しても壊しても、信者たちが魔術で壁を修復したり、新たに生やしたりしている……このままでは長引くぞ」


「……なら、ここはもう()()()()にやってもらうか」


 委ねる者たちの上官のような存在がそうつぶやく。


「えっ!? ()()()()って……もう()()()()を投入するのですか!? あの巨」


 上官らしき存在はそんな返答に答えず、別の委ねる者に以下の指示を出す。


「巨人族にこの壁を突破してもらおう」


「アリフ、バー、ターの三人を呼べ!!! 奴らに巨人族の力を見せてやれ!!!」







 壁。巨人……うっ…頭が

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