18.「インチキ教祖ってどんな人かな?」
本日で執筆始めてから半年になります。
昨年の11月から執筆を始めてもう半年……あっという間ですね。
小説家として若輩者ですが、ここまで続けられているのは、読んで下さる読者の皆さんのおかげです!!
読んで下さる読者が一人でもいる限り絶対にエタらないと約束します。
これからも異世界インチキ教祖をどうかよろしくお願いいたします。
「シュ! フン! ハア!」
「あれ? イブリースここにいたんだね~~」
月の星団の聖地にある道場。イブリースは木刀を持って、一人で自主トレーニングをしていた。
「……誰かと思えばアミーラじゃないの。何の用かしら?」
イブリースに声を掛けたのは断食のアミーラだった。
アミーラは太さ四、五センチ。長さは五十から六十センチはあろう三本の棒を鎖で繋いだ三節棍と呼ばれる武器を手にしていていた。
アミーラは、道場の入口前で壁にもたれかかり、笑みを浮かべながらイブリースに話しかける。
「ちょっと、トレーニングに付き合って欲しくてね。ボクと戦おうよ?」
アミーラが手にしている三節混は練習用であるためか、本体である棒はゴム製だった。
「トレーニング? なら他の五行緑月……サラーフやハサンあたりに頼んだらいかがかしら?」
「いや、こういっちゃなんだけど……サラーフやハサン相手だと正直物足りなくてね。イブリースならボクが本気だしても問題ない相手だしさ」
「……随分な言い草ね」
「これでも気を遣っている方だよ? イブン相手なら堂々と言えるけど、サラーフやハサンだと力不足って言ったら本気で傷つきそうだからね」
「あらぁ。ワタクシからすれば、あなたとトレーニングするより自主トレする方が、よっぽど修行になるわ」
「まあまあそう言わずに戦ろうじゃないの」
アミーラは強引にでも、道場の中に入り、イブリースの前に立ち、三節混を構える。
「フッ。あなたにワタクシの相手が務まるかしら?」
イブリースはやれやれと雰囲気を漂わせながらもアミーラに応じて木刀を構える。
「ルールは? イブリース」
「魔力なしによる戦いはいかがかしら?」
「上等! 今日こそ絶対一本取って見せるッッ!!」
アミーラはその言葉を皮切りに三節混を回す。
ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブン
高速で∞の字で回しているためか、空気を叩く音が響く。アミーラは回しながらジリジリとすり足でイブリースへ近づく。
イブリースは冷静に攻める機会を伺いながらも、一旦はアミーラが進む分、後ずさりをする。
イブリースが持つ木刀の長さは、一般的な木刀の長さと同じ約101.5センチ。アミーラの三節混の一本の棒よりは長いが、三本分の棒を一つにして振り回されたら、その間合いの差は歴然だ。
この戦いは間合いが劣るイブリースが不利ではあるわけだが。
両者は観察する。この戦いを表すなら、やみくもに攻めるのではなく、どちらが先に隙をついて一撃を与えるかの勝負であった。
「(そこだ!)」
フェイントを混ぜながら、イブリースを翻弄しようとしたアミーラ。叩く瞬間が来たと感じ、テニスラケットを振るように三本分の棒を一つに思いっきり右手でスイングする――……のではなかった。
右から迫るスイングをイブリースの手前から急に引き、アミーラは軽くジャンプしながら時計回りに身体ごと動かしながらスイングする! つまり先の攻撃もフェイントでこの回転斬りこそがアミーラの真の狙いだったのだ。
「シュ!」
カン
しかし、イブリースはその攻撃を軽くいなし、あっという間に間合いに詰め、アミーラの首に木刀を寸止めする。
「一本」
「ぐっ。もう一勝負だ!」
「いいでしょう」
両者は距離を離れて仕切り直す。そして、もう一勝負が始まった。
先ほどのような隙を見て攻める静かな戦いとは違い今度は両者とも前に出て打ち合う戦いとなった。
バシカキンカンバシカキンカンバシカキンカン
木刀と三節混の打ち合う音が道場の中で激しく響く。
「中々やるじゃない」
「イブリースもね」
どちらが一本取ってもおかしくない激しい攻防の中、イブリースは仕掛ける。
イブリースは片手を伸ばし、フェンシングのように突く最速最短の攻撃を仕掛ける。
それに対し、アミーラは。
トン
アミーラは棒の先端を道場の畳に叩き、棒高跳のように反発力を使って天井付近までジャンプして回避して見せた。
「なに!?」
意表を突かれ、イブリースはこの戦いで初めて動揺した。
「うぉら!」
今度は天井を叩き、その反発力と併せて思いっきり三節混を振り下ろすアミーラ。
「なんの」
イブリースはその攻撃に逆袈裟斬りで対処する。
「うぶぅ!?」
木刀が顔面にあたり、空中からそのまま畳に倒れる。アミーラ。
「いてて……くそぉ今のはいけると思ったのによぉぉぉ」
アミーラは気絶することもなく、すぐに立ち上がる。
「ククク。確かに今のはヤバいと思わせたわ。だから全力を出しちゃったわ♡」
「(なんの! もう一勝負だ)」
そう言おうとした矢先、アミーラは三節混の先端がスパっと切れていることに気付いた。
「マジかよ……木刀でこんな綺麗な切れ味持つか? 普通」
「どうする? ここまでにする?」
「いや! まだだ。このままやられっぱなしで済みたくないね」
「予備の三節混持ってくるから待っててよ」
「フフ。いいでしょう」
あきらめが悪いアミーラにイブリースはどこか楽しそうに微笑む。
そして、道場から出てしばらくした後、アミーラは再度道場に戻る。
「じゃーん。お待たせ」
アミーラは自慢するかのように新たな練習用の三節混を見せる。
「フフ。ならいつでもどこからでもかかってきなさい」
こうして、アミーラとイブリースの再戦が始まる。
打ち合いの中、アミーラはイブリースに話題を振る。
「ねえ? イブリース! インチキタウンはどう動くと思う!?」
「ワタクシ相手に雑談する余裕があるとはいただけないわね」
イブリースはギアを上げて、アミーラに襲い掛かる。
「おっとっと! いいじゃん! せっかくだからこうやって話しながらトレーニングしようよ」
「キャッチボールをしながら会話するようにさ」
アミーラは引き続き喋りながらなんとかイブリースの攻撃を防ぐ。自分に劣るとはいえ、ここまでついてこれるアミーラの実力にイブリースはどこか誇らしげな顔をしていた。
イブリースはアミーラの強さに免じて、打ち合いながら話すことにした。
「いいでしょう。答えてあげるわ。インチキタウンが降伏するにせよ戦うにせよ。我ら月の星団が取る選択は一つ」
「全軍を持って、タウンに向かうのみよ。彼らが改宗するか、タウンからいなくなるなら、タウンを頂くだけだし、戦うならそのまま決戦よ! インチキタウンに勝利後、占領させてもらうわ」
イブリースはハッキリと月の星団の指導者としての考えを述べる。
「ま。そうだよね。ボクたちがやることは変わらない。今夜の新月でやっと〝断食〟が終わる。そうすれば、ボクたちは飲んで食べて本来の実力を取り戻せる」
「ハサンは言い訳をするような奴じゃないけど、あいつがリチャードやエルフに遅れを取ったのは、断食による弱体化もあったのだろう……もし断食中でなければ、結果は違ったかもね」
月の星団はこの一か月間。教えとして断食を実施していた。イブリースやアミーラなど五行緑月も含め、委ねる者たちの大半は、日の出から日没まで食べ物も水も接種していなかった。それによってエネルギー不足による身体能力などの低下も著しいはずだ。だが、その断食も今夜の新月で終わる。
「よりによってあなたが断食を悪く言うとは……称号が泣いているわよ。断食のアミーラ」
「ボクは思っていることを正直に言っているだけさ。教えって融通が利かないところが良いところでもあり悪いところでもあるよね」
「ねえ? もう一つボクが興味を持っていることがあるんだ? 知りたい?」
「何だ? アミーラは何に興味を持っているのだ?」
アミーラは露骨に聞いて欲しそうな言動をするのでイブリースは素直に聞くことにした。
「敵の頭目でもあるインチキ教祖ってどんな人かな? イブリースと同じ人間なんでしょ?」
本当はアミーラとイブリースの会話。一話にまとめる予定だったのですが、長くなったので分割となります。次回、アミーラとイブリースの会話を終えたら、インチキタウンと月の星団の決戦となります!




