16.「混血(カオス)な魔力」
インチキ教祖ついに最強無敵になる!?
タウンに残る者は行列になって魔力を順番に貰うことになった。
一方でタウンから去る者たちも少なからずいた。仲間や家族を連れてこの集会から離れていく者は、おそらくこのままタウンから離れていくのだろう。もちろん止める気もない。出てもいいと言ったのは俺自身だから。
そんなことを考えているうちに、一番目にアルファイが俺の前に来た。
「アルファイ」
「インチキ教祖。どのくらい魔力を渡せばいい?」
「そうだな……総魔力の八割は欲しい」
「八割か……わかった。渡そう」
俺は右手をアルファイに向けて差し出す。
そして、アルファイはその手を掴む。これからアルファイの魔力を貰うということだ。
「あっ、渡す時はゆっくりと少しずつ渡してくれよ。急激に魔力がなくなると貧血のような症状が」
「わかっている。今までマスターに渡してきたのだから、説明は不要だ」
ニュルニュルニュルニュルニュル
アルファイの魔力が手を通して俺の魔力に流れていくのを感じる。そして、確実に俺の魔力の総量は今も増え続けている。
今までインファイターの魔力は持っていなかった。が、今回アルファイから貰ったことで、俺はオールラウンド、インファイター、ヒーラー、コネクト全てのスキルタイプの魔力を揃えることができた。
「……インチキ教祖。あらためて言うが、マスターと違う道に行くと言ったお前の行く末を見届けさせてもらおう」
「だが、もし、マスターと同じ道に行くようなことがあれば――渡した魔力は返してもらうからな」
「ああ。それで頼む」
「魔力を渡したことを……後悔がないように祈っている」
そう言って、魔力を渡し終えたアルファイは元の立ち位置へと戻っていった。
ドスンドスン
二番目にルーベンスがドスンドスンと大きな足音を鳴らしながら俺の前に来る。そして、前かがみの姿勢で手を差し出す。
「ルーベンス。アルファイの次に進んで参戦してくれてありがとう」
「ああ。正直アルファイのことを見直したぞ。タウンを守りたい気持ちはアルファイもオレも一緒だ」
「インチキ教祖よ。ドラゴン族は大きい身体に併せて魔力量も多い。オレの魔力をふんだんに渡そう。だから存分に利用してくれよ」
「ああ! 余すところなく利用してやるぜ!!」
ニュルニュルニュルニュルニュル
ルーベンスと俺が握手をして魔力を貰った。
そして三番目にリチャードが来た。
「リチャード。後から聞いたが、ヴェダが襲われそうになったとき助けてくれたそうだな。しかも二度も。ありがとうな」
「フッ。ヴェダちゃんにも言ったが礼を言うまでもないさ」
「旦那。やっとアンタの役に立てる時が来た。おれは旦那に感謝しているンだ」
「感謝!? 何のことだ?」
「いや……そうだ。今夜空いている時間がねぇか? 前から旦那とは一度サシ飲みしたかったンだ。そこで詳しく話そう」
「サシ飲みか……いいだろう。でも、実は俺、酒が苦手なんだ。だからお手柔らかに頼むよ」
「おうよ!」
ニュルニュルニュルニュルニュル
リチャードと俺が握手をして魔力を貰った。
そして四番目は。
「プーラン!」
俺がその名を呼ぶより先にヴェダがそう答えた。四番目は元ダークカイトのリーダーにして現在はタウンの門番であるプーランだ。
しかし、プーランの顔は何だか……いつもより不機嫌そうな表情に見えた。
ニュルニュルニュルニュルニュル
嫌な予感がしながらも、俺はプーランと握手して魔力を貰う。
そして、プーランはプルプルと体を震えながら口を開く。
「月の星団は私もぶっ飛ばしたかった……アンナ、エルザ、ヴェダ、マミー、スザンナ。私のかわいい妹分を――傷つけたのだからなぁぁぁあ」
ギュウゥゥウウウウ
「痛ッ!? ちょ、プーランさん!! 砕けるって! 手が!!!」
怒りをこらえられないのか、プーランは握った手の力を強めていく。魔術を発動していないはずだが、プーランの身体からゴオオオと怒りの炎が燃え上がっているように見えた。
普段、冷静沈着なイメージを持つプーランにこんな一面があったとは。
門番の立場として、アンナ隊救出に参加出来なかったプーランは歯がゆい思いをしていたのだろう。俺も待つ立場だったから、プーランの気持ちは理解できるつもりだ。
それにしても手が痛い……プーランは我を忘れて今も強く握り続けている。
「ヴェダ!! また月の星団に襲われそうになったら、私かインチキ教祖を呼べ!! 今度こそお前を助けに行くからな!!!」
「有り難いッス……有り難いッスけど、今は教祖を助けて欲しいッス。このままだと教祖の手が砕けそうッス」
「なに!? も、申し訳なかった!! インチキ教祖!!!」
ヴェダに言われてプーランはようやく気づいた。慌てて手を緩めて魔力を渡し続ける。
「いや謝る必要はないさ……それにお前の怒りも無駄じゃない。四、のルールよりただ魔力を渡すより強い感情を乗せて魔力を渡す方が強化度合は違う気がするからな。とりあえず、一緒にタウンを守ってくれプーラン」
プーランの次は元ダークカイトのメンバーたちだった。
「皆でタウンを守りましょう!! インチキ教祖さん!!!」
ニュルニュルニュルニュルニュル
マミーと俺が握手をして魔力を貰った。
「私の魔力もお願いします」
ニュルニュルニュルニュルニュル
エルザと俺が握手をして魔力を貰った。
「ところでザスジーは本当に死んでいるのよね? 良かった~」
ニュルニュルニュルニュルニュル
アンナと俺が握手をして魔力を貰った。
「全スキルタイプを使えるなんて……考えるだけでワクワクします」
ニュルニュルニュルニュルニュル
スザンナと俺が握手をして魔力を貰った。
次はアンナ隊のメンバーたち、そして続々とタウンに残る側の信者たちの魔力を貰い続ける。
「最後は私たちね! インくん」
「教祖! あらためて魔力をあげるッス」
並んでいた全ての信者から魔力を貰い終わった頃、背後にいたジュダスとヴェダがそう申し出た。
「二人とも……」
「ほら! 早く手を出してインくん」
「四十時間以上もあれば、魔力は十分回復するはずッス!!」
「そうだな」
二人の気持ちに応えるために俺は両手を差し出す。
ジュダスは俺の左手にヴェダは俺の右手を掴む。
ニュルニュルニュルニュルニュル
最後に二人の魔力を貰った。この場で俺が貰える魔力は全て貰ったことになる。
◇
信者から魔力を貰い続けている間、俺の心境は目まぐるしく変わっていた。
最初にアルファイから魔力を貰ったとき。
全てのスキルタイプをコンプリートしたことで、ゲームのやりこみ要素をすべてクリアしたような嬉しさというか達成感に近い感情を味わった。
その後もルーベンス、リチャード、プーランと魔力を貰い続けているうちに着実と強くなっていく自分に陶酔し、また恐ろしくも感じた。
だが、全ての信者たちから魔力を貰った今の感覚は興奮や全能感といった感情の高ぶりは一切なかった。
むしろ、意外にも安心感、心地よさ、虚無にも似た感情をもたらした。
“”世界を征服する力を手にした“”という感覚ではなく、“”世界を征服してもしなくてもどっちでもいいじゃないか“”という感覚に近かった。
ふと見上げる。当たり前だが、この世界でも空は青いんだな……と今まで気づかなかったことが急に気づいた。
喜びや不安を超越したらこんな感覚を味わうのか、それともこの心境の変化は魔力譲渡を受け続けると起きるコネクト特有の感覚なのだろうか。
これが悟りという感覚なのだろうか……もし、神がいるとするなら俺と同じような感覚なのだろうか。
そんなどうでもいいような考えが次々と頭の中に浮かび上がっていった。
……わかっている。今は物思いにふけている場合ではない。
今度は俺が魔力を渡す番だ。オールラウンド、インファイター、ヒーラー三つの魔力を混ぜた魔力を信者たちに渡さないといけない。
当然、魔力を少し渡すだけでも俺の魔力量は減り弱体化する。
魔力を渡すとなると、今あるこの感覚も同時に消えていくのだろうか……
わかりたくはなかったが、真実教教祖のウンコウや前の長のザスジーの気持ちが少しはわかった気がする。
できることならこのままどんな不安もない最強無敵な俺の状態でいたい。
だが執着してはいけない。彼らと違う道を行くなら手放す勇気を持たなければならない。
俺は前を向いて、信者たちに告げる。
「待たせたな……今度は俺から皆に渡そう。俺と信者で作り上げたこの混血な魔力を」
次回インチキ教祖とリチャードのサシ飲み!?
その後、残り二話のエピソードを終えたら、月の星団と戦う予定です。




