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14.「選べ! タウンに残るか? それともタウンから出るか?」

 迫りくる月の星団の脅威!?

 ヴェダたちから月の星団という教団を知らされて一日が経った。午前六時頃、俺は緊急で、タウンの全信者を集めて集会を行った。


「急に呼んで悪いな。この全体集会も俺がタウンの長に就任して以来久しぶりだな」


 マイクがない代わりに俺は魔術で拡声器のように声量せいりょう増幅ぞうふくして話す。ここに暮らす信者数は六百を超えるが、問題なく全員に俺の声は届いていることだろう。


 全信者を集めているということはタウンを守るための門番まで集めているということだ。


 今この瞬間にも月の星団やその他の敵が攻めてきたら大変かもしれないが、タウン全体に張っている結界術が機能している以上、侵入されてもすぐに対応できることと、今回の内容は門番含め全員知って、一緒に考えて欲しいから門番も集合してもらった。


「一部の者は知っているだろうが、昨日うちの信者が月の星団という名の武闘派教団に襲われた。幸い皆無事に帰れたので良かった。が、問題はここからだ」


 信者たちはざわざわと騒いでいた。反応から見るに多くの信者はヴェダたちが月の星団と交戦した件はとっくに知っているように見えた。


「日付が変わった頃、月の星団の使者からこんなメッセージが届いた。ジュダス読み上げてくれ」


 俺は右隣に立っているジュダスに話を振る。ジュダスは「ええ」と返事をした後、使者からもらった羊皮紙を手にそのまま読み上げる。


「         インチキ教祖並びにインチキタウンの全住民へ

 ============================================

 ワタクシは月の星団の指導者イブリース・タージュ・マリク。

 あなたたちにこの羊皮紙を渡す理由、もうわかっているでしょう?

 教団の信者である「委ねる者」。その命をあなたたちインチキタウンが奪っているからよ。

 ワタクシたちは此度こたびの事件を我が教団に対する挑戦と受け取った。

 よって、この本書をもって、ワタクシたち月の星団はインチキタウンへ報復を正式に通告する。

 とはいえ、ワタクシたちが信じる偉大なる神は寛容かんようで大変慈悲深い。神のためにもあなたたちに最後のチャンスを与えましょう。教団の要求は以下である。


【要求内容】

 一、月の星団への改宗

 あなたたちインチキタウンはインチキ教祖の教えを捨て、我が教団に改宗せよ。

 これにより、ワタクシたちはあなたたちの罪を許し、偉大なる神へ委ねる者の一員として受け入れましょう。

 尚、タウンの長でもあるインチキ教祖もこの要求の例外ではないので安心せよ。


 二、インチキタウンの完全なる引き渡し

 もし一、の改宗を拒むのであれば、あなたたちは本書を受け取ってから四十八時間以内にタウンを我が教団に引き渡すこと。


 当然、タウンにあるすべての土地、資源、建造物、そしてタウンの周辺地域も全て我が月の星団の支配下に置かれる。

 信仰を貫きたいなら、タウンさえ引き渡して去れば、追うことはしないと約束しましょう。今のうちに必要最低限の物を持って出る準備をすることね。

 これらの要求はあなたたちに対する寛容と慈悲であり、最後のチャンスであることを再度伝えましょう。

 要求を飲まなければ、タウンの全ては跡形もなくこの世界から消え去ることになるでしょう。

 このイブリース。インチキタウンの全住民が最良の判断を下すことを願うばかりよ。

                                  以上」


「という内容だ。この羊皮紙が届いたのが、午前零時頃なので、残り時間は約四十二時間程度だ。この時間内に改宗するか、またはタウンから出ていかなければ――月の星団と戦争になる!!」


 俺がそう宣言した時、信者たちは露骨に動揺していた。無理もない。この羊皮紙が届いたときは俺も動揺した。できれば避けたかったが、本当に月の星団と戦いが差し迫るとは。


 信者たちはパニックになるような勢いで会話していた。


「月の星団って何? 自分世間に疎くて……」


「戦争!? 戦争なんてヤダよ! でも外の世界も安全じゃないし、このタウンから出たくないなー」


「いくらなんでも急過ぎるだろう! 誰だよ! あっちの信者を殺した奴。なあ、真犯人突き出して貰えば許して貰えないかなぁ?」


「逃げるなら今の内よね?」


「俺ミスターヤースが怪しいと思う。 アイツ前からヤバそうな奴だったし、いつか殺しとかしそうな雰囲気あったもん」


 当然といえば当然かもしれないが、ガヤガヤと一向に収まる気配がない。そろそろ俺の考えを伝えようと思う。


 パンと手を頭の上に叩き、皆に俺を注目させる。そして皆が黙って俺を見たところで俺は口を開く。


「俺がこの宗教インチキを立ち上げたのは、インチキ教祖としてハッピーライフを送るためだ」


「ハッピーライフを送るのは、教祖の俺だけじゃない、インチキの信者、信じていなくてもこのインチキタウンに住む者は俺にとって信者だ。つまりここにいる皆全員にハッピーライフを本気で送らせたい」


「だからこそ、戦いによって大勢の犠牲が出るのは、できれば避けたい。犠牲はハッピーライフと相反するものと考えているからだ」


「もしここにいる()()が、命が惜しくてタウンから出たいならそれを尊重しよう。全員出ていくなら俺もついていく。皆で新天地を探そうじゃないか!!」


 俺の発言に安堵する表情を浮かべる者や逆に不満そうな表情を浮かべた者まで様々な反応が見られた。


「だが」


 俺は一呼吸置いてそう告げた。俺の話はまだ終わっていない。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がいるなら……信者ソイツの思いを実現させることはハッピーライフにつながる。信者ソイツのために教祖として俺もタウンに残って戦おう。もちろん俺が残るからといって、皆も残れと言うつもりはない。前から言っている通り、タウンからはいつでも出てもいい。皆には皆のハッピーライフがある。よく考えるんだ」


「選べ! タウンに残るか? それともタウンから出るか?」


 俺が言っていることは無茶苦茶かもしれない。俺自身気持ちが整理できていない。だが、これが今の俺の噓偽りがない正直な気持ちだ。


 皆は黙っていた。当たり前かもしれない。普通は命が惜しいし、わざわざタウンに残って戦いを選ぶにはそれ相応の覚悟がいるだろう。やはり誰もタウンに残ろうとは考えないか。


「インチキ教祖!」


 そう思った瞬間、俺を呼びかける声が聞こえてきた。


「!? アルファイ?」


 そう俺に声を掛けたのは中央にいたアルファイだった。


 マテオが「待てよ」と言いながらアルファイの腕を掴むも、アルファイは意に介さず、その手を振りほどく。


 そして、アルファイは周りの信者をかきわけながらも、真っすぐと最前列まで、俺がいる壇上(だんじょう)の目の前まで進んだ。


 俺の目の前にいたアルファイは昨日のような敵意を込めた目つきではなく、何か迷いがあるようなそんな目つきをしていた。


「インチキ教祖……あなたに聞きたいことがある」


「なんだ? アルファイ」


「あなたは……マスターを殺したのか?」


 アルファイがそう質問をしたとき、周りの信者たちはドッっと驚いた。


 だが、アルファイはそれに動じず、ただ俺の目を見つめてひたすら回答を待っていた。


「真実を知りたいか?」


「ああ……」


 アルファイはただそうつぶやいた。


「インくん。遂に言うのね?」


「ああ。話すときが来たんだ」


 ジュダスが確認取るが俺はそう答えた。当時はザスジーの狂信者とこれ以上戦いになることを避けるために信者全員にザスジーは生きたまま、自らの意思で長を下りたということにした。


 俺は左隣にいるヴェダにも顔を向けた。ヴェダは俺の判断を尊重するように黙ってコクと頷いた。


 俺は再度アルファイに顔を向ける。アルファイが真実を知りたいなら教祖として教えなければならない。たとえこの後、アルファイや未だに残っているかもしれないザスジーの信者と戦うことになったとしても。


「直接は手を掛けていない……が、俺が殺したようなものだ」


「ザスジーは死んでいる」


 俺はそう答えた。あの日ザスジーは、タウンの全住民を巻き添えに一緒に死のうとした。だが、ヴェダ、俺、ジュダスの三人が協力してそれを阻止した。結果ザスジーはしんじんぶかい十一使徒と一緒に死んだ。


「そうか……」


 アルファイの態度を見ると薄々気づいていたようだが、実際に俺から言葉に伝えられると複雑な表情を浮かべた。


 アルファイは、しばらく何かを考えるようにうつむき、黙ったままだったが、やがて、もう一度俺に顔を向けた。


「なぜ……マスターを殺そうと思ったのだ?」


 アルファイのその問いは怒りや悲しみが混じっていなくただただ、答えを知りたい。そんな問いを感じさせた。


「教祖としてアイツが許せなかったからだ。自分の幸せために信者を食い物としか考えていなかったアイツが」


「タウンの皆を脅かしていた狩人たち(ザ・シーカーズ)。あれはザスジーとグルだった。ザスジーは信者がタウンから逃げないようにするために、ザ・シーカーズを利用していた。この羊皮紙が証拠だ」


 俺はヴェダからザスジーとザ・シーカーズが繋がっていた証拠である羊皮紙を受け取り、それをそのままアルファイに渡した。


 受け取ったアルファイは黙ったままその羊皮紙を読んでいた。ザスジーの信者とはいえアルファイも思うところがあるのか、羊皮紙の内容を否定するでもなく、目を背けることもなく、ただ読んでいた。やがて読み終えてしばらく経った後、俺に顔を向けた。


「インチキ教祖。マスターを殺したあなたはなぜタウンの長に就いた? 権力が欲しかったからか?」


「……それは否定できない。だが、俺とザスジーとの戦いに巻き込ませたここの住民たちには、俺なりに贖罪しょくざいをすべきだと思った。その贖罪とは、ザスジーとは違うやり方で信者を導く。そのためにここの長になることを選んだ」


「……ワタシが今も生きているのは、マスターのおかげだ。マスターのあのひと言がなければ、ワタシは命を絶っていただろう」


「今にして思えば……もしかしたらマスターはワタシを信徒にするために聞こえのいい言葉を掛けたに過ぎないのかもしれない……それでもワタシが救われたのは事実」


「だからワタシはマスターの信徒であってあなたの信者ではない。この思いは誰になんと言われようとも変えるつもりはない……たとえどんなにマスターが酷い人間だったとしても」


「そうか……何を信じるのか信じないのかはお前の自由だ。その思いは尊重されるべきだ」


「だからこそ」


 アルファイは一呼吸置いてそう告げた。その目は先ほどまでの迷いがあるような目ではなく何か覚悟を決めたような迫力がある目つきへと変わっていった。


「マスターが作ったこのタウンをよそ者が滅茶苦茶にするのは、許せない。そしてインチキ教祖。お前がマスターとは違う道を目指すというなら……」


「この目で見せてもらう」


「ワタシはこのタウンを守るために月の星団と戦う!!!」



 次回インチキ教祖、信者たちに勝つための秘策を伝授する

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