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8.「改宗してみれば」

「ジュダスさん。……あなたもあなたの両親も騙されていますよ。その真実教に」


 思ってもみなかった! 本当に思ってもみなかったこと? な意見を突然言われ、冷や水を浴びせられたような表情をするジュダス。


 しばらくはその表情のまま固まっていたが、段々と怒りがこみ上げていった。


「なッ!? なんですか! いきなり、騙されているなんて失礼な」


 真実教を否定されむきになるジュダス。


「もう一度言いましょう。ジュダスさん。あなたもあなたの両親も騙されている。受け入れるのは難しいかもしれませんが、真実教はカルト宗教というやつだ」


 最初は自分の悩みに寄り添うような態度だったので、ジュダスは心を開いて悩みを打ち明けた。この人なら私の悩みをわかってくれるかもしれない。簡単な解決策が出なくても、話すことによって自分の考えが整理され、一歩進めるかもしれないとジュダスは思っていたのだ。けど、インチキ教祖がこんな言葉をかけてくるとはジュダスには想定外だった。


「会ったばかりのあなたに何が分かるのですか! 私も! 私の両親も! 真実教も!」


「両親が出家を勧めるのは、両親の意思とは限らない。裏にいる教祖や幹部がジュダスさんの出家を勧めるように、両親に指示しているかも」


 ジュダスの反発に意を介さずインチキ教祖は尚も話を続ける。


「出家についてですが、恐らく表向きには、信者への強制ではなく自由意志のはずではないのでしょうか? それでも両親はジュダスさんに勧めてくる。幸せになれるからだーとか。あなたには才能があるからだーとかそんなところでしょう」


 インチキ教祖の言葉に少なからず心当たりを感じていたジュダス。


「(出家は真実教では、世俗の生活を捨てて、真実への道を極めるまでその生涯を修行に費やすことになる)」


「(だからこそ、相当の覚悟を持って教徒の意志で選ばなければならない。インチキさんの言う通り、誰に言われて無理矢理するものではないはずだけど……)」


 ジュダスはこの時、強引にでも出家を迫ってくる両親の顔を思い出した。


「ジュダスさんを出家させたいのは、教団側になにか狙いがあるのかも、ちなみに真実教の教祖とやらは男性でしょうか?」


「ええ。確かに真実教の教祖は男性ですよ。それがどうかしましたか?」


 先ほどまでの怒りを抑え、平静を装うように努め、インチキ教祖の問いに答えるジュダス。


「あちゃ~。そういうことか。多分、その教祖はジュダスさんの肉体を狙っていますね。出家をさせ、自分への忠誠心マインドコントロールを育ててから、ジュダスさんを愛人にする気だ。ジュダスさん綺麗な人だから」


「悪いことは言わない。その教団から手を切るべきだ。あなたもあなたの両親も。そして良ければこの俺の宗教()()シュレイティド・()ャリティ()。略してインチキにあなたたち家族も改宗してみれば――」


 自分の容姿を褒められたが、嬉しいという感情は芽生えない。それよりも聞き捨てならないことを言われたからだ。ジュダスはインチキ教祖の話を遮るかのように、バンと机をたたき、突然立ち上がった。


「あのウンコウ様が、私を愛人に!? ハッ! 聞いてあきれますね。煩悩を断ち切り、真実を極めたと言われたあのウンコウ様が私にそんなことするわけないわ!」


「だいたい、私が真実教からインチキに改宗するわけないわ! だってこの世の真実を全て知り、幸せになれる方法を知っている真実教に勝る宗教なんて存在しないですもん!」


「インチキとはどんな教義ですか? 私をインチキに入信させるというならこの場で布教してみればいいわ! 絶対に真実教よりくだらない宗教だとわかりきっていますけど」


 興奮し早口でまくし立てるジュダスに気圧されるインチキ教祖。


「逆に私があなたに真実教を布教しましょうか? 真実教とは……いえ」


 話を突然やめるジュダス。考え込む素振りを見せるとやがて、ニヤけた表情をみせる。


「口で説明するより見てもらう方が早いわ。いい機会ですね。もうすぐ教祖ウンコウ様の説法会が始まります。あなたも聞いてみてはいかがでしょうか? 聞けば、真実教がどれほど素晴らしい宗教か知ることになるでしょう」


「これを機に逆にあなたが改宗してみればいかがでしょうか? あなたも教祖の端くれというならウンコウ様のカリスマをこの目で見てみればいいわ」


 真実教のプライド、強迫観念というものだろうか、インチキへと改宗させようとするインチキ教祖に対し、意地になって逆に真実教を勧めるジュダス。悩みを打ち明けるはずだった場が互いに己が信ずる宗教を布教し合う場へと変わっていった。


 インチキ教祖はジュダスの提案に……


「いいでしょう。その説法会とやらに行きましょう。……正直言ってあなたが真実教にそこまで深く信仰しているとは思いませんでした。ならばいい機会だ。その説法会でウンコウとやらのペテン師っぷりをその場で暴きましょう。そしてこのインチキこそが最高に素晴らしい宗教だと証明してみせよう」


 インチキ教祖は提案に乗ることにした。


「その代わりと言ってはなんですが、もし真実教がカルト宗教だとあなたが分かってくれたなら、代わりにインチキへと改宗して貰いますでしょうか? インチキならば、真実教なんかよりも幸せになれると断言できますから」


「えっ!? 私がインチキに……!?」


 インチキ教祖から思ってもみない提案をされ動揺が顔に表れるジュダス。しかし、ジュダスは意地になってりんとした表情へと変えて、インチキ教祖の提案に答える。


「いいわ。真実教は正しき教えをする宗教だと自負していますわ。もしも……万が一にでも私が騙されているのならばインチキとやらに改宗してやろうじゃない」


 インチキ教祖の提案に食い下がらずジュダスも承諾する。


 こうして二人は、真実教の教祖ウンコウの説法会へと向かうことになった。



 作中の「インチキ」と「インチキ教祖」の意味について説明。

 インチキ=「イン」シュレイティド・「チ」ャリティ「き」ょうの略称。

 インチキ教祖=「イン」シュレイティド・「チ」ャリティ「き」ょうの「教祖」の略称で記載しています。

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こんにちわ! 少しずつ読ませてもらってます! 昨日感想を書いたはずですが反映されていなかったのでもう一度。(ログインせずに打ったからかな?) ジュダスが真実教等と言っていたはずなのに、実は真実教に侵…
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