12.「勝つ方法」
タウンへと帰還したヴェダたちはさっそく報告するが……
「月の星団がインチキタウンと戦う。ハサンとやらは本当にそう言ったのか?」
第三地区の集会所にて俺とジュダス。アンナ隊とアンナ隊救出に向かったヴェダ、リチャード、マミー、スザンナのメンバーが集まった。
「本当ッス……あの言い方は脅しではない雰囲気だったッス」
そしてタウンへと帰還したヴェダたちからとんでもない報告を受けている最中だ。
月の星団という武闘派教団の存在。そして、インチキタウンの信者が月の星団の信者を殺しているという事件。その報復としてインチキタウンと戦うという話。いずれも俺には初耳だ。
「連中は本気だろう。信者が殺されているのに黙ったままなら武闘派教団としての面子に関わるからな。戦争は避けられないと考えて対策を講じるべきだ」
「いきなりすぎる……そもそもこちらが本当に月の星団の信者を殺しているかどうかもわかっていないのに」
「真偽はどうであれ。あちらさんからしたら先に襲ったのはおれたちだ。大義名分だってあるからな」
リチャードがヴェダの話を補足し、ジュダスの疑問にも答える。リチャードの話はまだ続く。
「ハサン、カヒール、サギル、ワスト、いずれも話が通じるような相手じゃなかった。連中全員がそうとは言うつもりはねぇが、話し合いによる解決は難しいだろう」
「リチャードがこう言っているが皆もそう思うか? 戦いは避けられないと思うか?」
俺は月の星団と戦ったメンバー一人一人に顔を向けて尋ねる。
リチャードの意見に同意するかのようにコクと頷く者もいれば、「多分……」とボソッと言う者もいれば、黙ったままだが、恐らく同意のような雰囲気を出す者もいた。だが、いずれにしてもリチャードの言う通り、やはり戦いは避けられないような反応だった。
「そうか……」
「敵の強さにもよるけど、百人や二百人程度ならインくんと私で殲滅できそうな自信があるけど」
「連中をナメちゃいけねえよ。砂漠地方には、ならず者が多く、少し前まで殺し合いは日常茶飯事の世界だった。そんな過酷な環境で二十年以上生き残った教団なンだ。弱いはずがねぇ」
「リチャード。その月の星団の信者数はどれくらいいるんだ?」
「悪りぃ。そこまでは知らねえ。ただ、二十年以上も教団は続いているンだ。そして、こちらの戦力も不明なのに戦争する気マンマンということはまぁ……戦力には自信があるということだろう」
リチャードが月の星団の強さを説明する。
確かに俺とジュダスならその辺の相手に負ける気がしない。が、敵が一人一人強い上に数が多いなら流石に負けるかもしれないだろう。
対するこちらインチキタウンは戦闘訓練なんて受けていない信者が大多数だ。戦いになったら、俺とジュダスとそして実は強いらしいリチャードまで負けたらそのままタウンの負けとなるだろう。
「もっと強力な戦力があれば……インくんまでとはいかないけど、私かリチャード並みの強さの信者がもっといたら……」
ジュダスがあごに手を当てながら俺と同じ悩みを言う。
「(もっと強力な戦力か……俺やジュダスやリチャード並みの戦力……いや、ないものねだりしてもしょうがない。ここは今ある戦力でどうやって切り抜け……待てよ!)」
俺は今とんでもないアイデアをひらめいた気がする。
「ジュダス。あるかもしれないぞ。俺並みの戦力を増やす方法が」
「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」
ジュダスに向けて言ったが、この場にいるほぼ全員が俺の発言に注目する。
「変身系魔術だよ。インチキタウンの信者が俺に変身すれば解決じゃないか!?」
「あっ、そうか! その手があった!! 流石インくん!!!」
ジュダスが俺の発想に驚き興奮する。
変身系魔術。別名:カフカ魔術とも呼ばれている。変身したい対象のDNAを一定量、口に摂取することで、変身が可能となる魔術だ。俺が持つ変身系魔術は、変身時間が二十四時間までと、変身しても上級魔術という強力な魔術は使えない制限がある。要は変身対象の者より強くはなれないということだ。だがそれを差し引いてもタウン最強の実力者である俺に変身すれば、戦力はそれだけでアップだ。
「(俺に変身した者十人、いや百人くらい用意すれば、月の星団なんて楽勝だ。いや、マジでその気になればこの魔術で世界征服までいけるんじゃないか!? 力づくでインチキの教えをこの世界で一番の宗教に……いや、流石に世界征服までする気はないけどね。あくまで妄想の話だから~)」
「いや……旦那。ジュダスちゃん。盛り上がっているところ悪りぃが、その手は使えねぇよ」
「「えっ?」」
リチャードから意外な反応で俺とジュダスは同時に驚いた。
「旦那が考える『とりあえず強い奴に変身して戦え作戦』はもう使えない。理由はとっくに変身系魔術を解く魔術が普及しているからだ」
「確かに変身系魔術が開発された当初は、旦那が考える作戦や、諜報戦で猛威を振るった。だが、今の時代はもう対策ができちゃっているからなぁ。旦那に変身した信者の軍隊で突撃しても、連中にすぐに解かれるのがオチだろう」
「そ、そうか……」「そ、そうなの……」
いい案だと思ったが、リチャードの言うことを信じるならこの案は使えないということだ。
話が振り出しに戻ったか……いや、変身系魔術が使えないとわかっただけでも一歩進んだとポジティブに解釈すべきか。
「フン! 無様だなインチキ教祖!!」
突如、そんな言葉を掛けられた。その声を掛けたのはー
「アルファイ! あんた!!」
そう。マミーの言う通り、アンナ隊の一員であるアルファイ・ダーウィンだった。アルファイは勝ち誇った笑みのまま話を続ける。
「あなたがここの長に就いてから、早くもタウン壊滅の危機だ。前の長の頃はこんな危機なんて一度もなかったのになぁ~」
「ふ、ふざけるな! ザスジーの頃は、狩人たちがいたでしょ! それにザスジーの教えに反したものは死んでもおかしくないような厳しい罰があった!! あの頃に比べたら今の方がはるかに平穏よ!!」
「それでも! 前の長は最低でも四年間はタウンを存続させていた! だが、それに対してインチキ教祖はどうだ!? たった二ヶ月でこのザマじゃないか!!」
マミーを中心に周りから敵意のこもった目を向けられるが、アルファイは動じない。
「……言いたいことはそれだけか? アルファイ?」
「いや! まだある!! 月の星団と戦争を避けたいのか!? なら方法はあるさ!」
アルファイはそう宣言する。その言葉に一瞬皆、アルファイへの怒りを忘れ、アルファイの意見に注目する。
「簡単だ。住民全員タウンから出ていけばいい。つまりこのタウンを月の星団へと引き渡すんだ。そうすれば奴らも我々の命まで取ることはないだろう」
アルファイの意外な発言に皆目が点になった。だが、ドム・モビルがツッコミを入れる。
「なぜそう言い切れるのだ? 奴らは信者を殺された恨みがあるのではないか? タウンから出たところで我々を追いかけてくるだけでは?」
「いや! 賭けてもいいが、タウンを引き渡せば穏便に済む。そもそも奴らはなぜ戦争を起こそうとするのか? 恨みからか? ハッキリとした証拠もないのに本当に恨みだけで襲いに来ると思うのか? ワタシが思うに、戦争をすることになってもメリットがあるから戦いの道を選ぶのだ」
アルファイの話は続く。
「そのメリットとは? 恐らく、タウンの周りにある豊富な資源だろう。砂漠地方で活動している教団なら、水や食料不足の問題はつきまとうはずだ。だからこそ、このタウンの環境は奴らにとって喉から手が出るほど欲しいに違いない!」
「試しにこんな提案をしてみればいい! 『タウンを渡すから住民には手を出さないでくれ』と。それで許して貰えるだろう。奴らは犠牲なく、タウンがタダで手に入るのだからな」
アルファイがそう宣言した。
確かに奴らの真の目的が、アルファイの言う通り、このタウンを手に入れることなら、それで戦争は回避できそうだが……
俺がアルファイの意見について考えていたらアルファイはニヤニヤと笑みを浮かべながら、話を続けた。
「あ~それともこんな提案はどうだろうか?」
「『月の星団の信者を殺した罪で、教祖が代わりに犠牲になりましょう』と。我らの崇高な長ならきっとこれくらいの自己犠牲だって『そんな案は絶対にしない!!!』『そうッス!! 駄目ッス!!』」
アルファイの話を遮るようにジュダスとヴェダがにらみながら怒鳴る。
「二人の言う通りだ。それ以上おれのクソみたいな提案をしてみろ……ヒーラーでも治せないほどてめぇの顔面をぶっ壊す」
怒るところを見たことがないリチャードまで、アルファイをにらみながら、ドスの利いた声で言う。
「ハハ。今の案は冗談さ。だが、最初のタウンを引き渡す案は本気だ。是非検討してみてくれ」
言いたいことを言い終えたのか、アルファイは満足した表情でガチャと扉を開けて部屋を出ていった。
アルファイいなくなった後、しばらくこの場がでシーンと静かな状態となった。
「イ、インチキ教祖さん」
突如、マミーから話しかけられた。
「アルファイがあんなこと言っていたけど、気にしないで。住民の大多数はあなたが長に代わってくれて感謝しているから。もちろん私もよ」
「そうよ! アルファイは幹部から地位が下がったからインチキ教祖に八つ当たりしているだけだよ」
「マミーやエルザの言う通りです。私はあなたの判断に従います。戦う選択か? それともタウンを引き渡す選択か? どちらにしてもあなたが決めた決断なら信者として信じます」
「……ありがとう」
マミー、エルザ、アレシュが俺を励ましてくれている。別にアルファイの言葉に俺は傷ついていない。前の世界も含めて人から馬鹿にされることや、嫌われる経験はいくらでもあった。だから今更あのような言い方をされても慣れている。だが励ましてくれる、彼女たちの言葉が素直に嬉しかった。
「だが、アルファイの意見も大事だ。すまないが、考える時間をくれないか? 皆もこれを機に自分はどうするべきか考えてみてほしい」
皆は俺の意見を受け入れ、一旦この場は解散となった。
◇
部屋の中にいるのは、俺、ジュダス、ヴェダの三人だけになった。
俺は部屋にあるインチキタウンのシンボルマークを見つめていた。
十字架の形のように四つの手を重ねあう手のマーク。こんな時俺は、このマークを見つめていた。
いや……本当はわかっている。月の星団と戦う道を選ぶならどうするべきか。俺の頭の中ではわかっているんだ。
「インくん……まさかとは思うけど、アルファイの言う通り犠牲になるつもりはないよね?」
「うん?」と俺はジュダスとヴェダの方に振り向く。
すると、ジュダスとヴェダが不安そうな顔で俺を見つめていた。どうやら俺が深刻な表情をしていたから誤解させたらしい。
「大丈夫だ! 俺はみすみす犠牲になることなんて選ばないから。そんなの俺が目指す教祖としてのハッピーライフから離れた道だ。ただ別のことを考えていただけさ」
二人はアルファイの第二の提案である信者の罪を俺の命で贖罪する案を選ぶかもしれないと思ったのだろう。その案を否定したら、二人は不安そうな顔からホッとした表情へと変わった。
「それにカルト教祖が信者のために犠牲になるかよ。むしろ信者が教祖のために犠牲になるのがカルト宗教だろ? なんてね」
「アハハ。それもそうッスね!!」
俺は冗談を言い、この暗い雰囲気を少しでも和ませる。
「実を言うとなぁ……俺は月の星団に勝つ方法をもう考えている」
「えっ?」「本当ッスか!?」
二人が予想通り驚いた。
「ああその方法は俺のスキルタイプ・コネクトの力を使うことだ」
そう言った途端、二人は俺の狙いを理解した表情へと変えた。俺の話は続く。
「知っていると思うが、コネクトは魔力を貰うことで無限に強くなるスキルタイプだ。極論このインチキタウンの信者全員から魔力を貰えれば、俺一人で月の星団を壊滅できるほどの力を手にすることができるはずだ」
俺は自分のスキルタイプ・コネクトの力を利用する案を二人に説明する。だが、ヴェダは俺の案を聞いているうちに段々と気まずい表情へと変わっていった。
「教祖でもそれって……」
「ああ。これはザスジーと同じやり方を取ることになる。場合によっては、信者たちのトラウマを思い出させるかもしれない……」
ノオウ・ザスジー。このタウンを設立した者かつ前のタウンの長の名だ。今いる住民のほとんどはザスジーが長の頃に住んでいた者たちだ。
表向きは、全ての異種族が手を取り合い、共存していく楽園をこのタウンに築くことだった。が、実態は、タウンの住民を奴隷のように恐怖とマインドコントロールによって、魔力と尊厳を搾取しザスジーだけの楽園を築くことが目的だったのだ。俺と同じコネクトだったザスジーは住民から魔力を貰い続け、その力に溺れたのだろう。だが、俺も一歩間違えれば、コネクトの力に魅了され、彼と同じ道を辿るかもしれない。
「ジュダスとヴェダ以外の信者から俺は魔力譲渡を受けていない。他の信者から魔力譲渡を受けなくてもタウンの運営をやっていけると思っていたし、一度強大な力を手にしたら今度はそれを失うことに恐れてしまうかもと思ったからだ」
「インくん……」
ジュダスの心配する声が聞こえる。
「だが、手段を選んでいる場合じゃないかもしれないな……そして、月の星団の脅威を排除した後に、俺の心は変わらず今のままでいられるのか……」
俺はインチキタウンのシンボルマークを見つめながら、そうボソッとつぶやいた。
いつもより長くなってしまいました!
次回は別のキャラの会話を中心に描く予定です。
不定期の投稿となりますので、動画サイトのチャンネル登録のようにブックマークを入れて貰えると幸いです。




