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11.「月の星団」

 ハサンの報告は続いていた。


「もう一つ大きな敗因である強い敵が一人いたこと。これについて説明しましょう」


「強い敵とは犬の獣人族。リチャード・モロサスのことです。彼が今回の相手だったのです」


「犬の獣人族? ……リチャード・モロサス? ……そうか! あの〝酔犬すいけん〟のリチャードか!?」


「ええ。あの〝酔犬〟のリチャードですよ」


「……信じられない。しかし、彼はディオネロ帝の騎士だったのでは?」


「〝元〟騎士ですよ。とっくにディオネロ帝の騎士を辞め、消息不明しょうそくふめいだったはずですが、まさかインチキタウンにいたとは」


 ハサンとサラーフはリチャードについて話が盛り上がっていた。だが、アミーラはリチャードのことは知らず、かといって二人の話にも入りづらいので、隣のイブンにコソコソと尋ねる。


「誰? リチャード・モロサスっていう人」


「リチャード・モロサス。この国を統治しているディオネロ帝の元騎士ですな。戦いに生きる者たちの中では、その名は有名で、何でもお酒を飲みながら、おつまみにするように数多あまたの敵の血肉けつにく犬顔の戦棍(ハウンスカル・メイス)に喰わせたとか」


「まあ、そういう恐ろしいエピソードもあるほどの強者ということですな。確かスキルタイプはインファイターのはず」


 イブンがリチャードについてアミーラに教える。そして、リチャードの強さとスキルタイプがインファイターであることを聞き、恐れるどころかワクワクするような表情へと変えていった。


「へえ~インファイターか。面白い! ボクとそのリチャードどっちが強いか試してみたいな」


 新しい獲物を発見した獣のようにアミーラはペロリと舌なめずりをしながらそう答えた。


 ハサンとサラーフの話は続いていた。


「それにしても酔犬のリチャードを引き込んでいるとは……新たに尽くす主君のインチキ教祖とはそれほどの器ということか?」


「その可能性も否定はしませんが、リチャード()には不幸な出来事に遭いましたからねえ……心が弱っているときに、インチキ教祖に付け込まれて信者になったのかもしれませんよ」


 パンパン


 ハサンとサラーフは芸能人のゴシップを語るようにリチャードの話を続けてばかりだった。イブンは手を叩いて、話を止めさせ、自分に注目させる。


「話が脇道わきみちにそれてきたので、戻しましょう」


「敵の戦力も知ることは重要だが、今決めなければならないのは、月の星団はインチキタウンに対してどう対応するかですな」


「イブリース。あなたの考えは? 〝報復〟かそれとも〝和平〟か?」


 イブンはイブリースに話を振る。


 イブリースは何かを考えるように(あご)に手を当てる。そしてついに口を開く。


「戦争するとなれば……あのリチャードがインチキタウンにいるならワタクシたち五行緑月の誰かが対処しなければ損害が大きくなるでしょう。それにオールラウンドの力を持ったヒーラーのエルフとやらも気になるわ」


「それに敵の戦力も知らないうちに攻めるというのも……という考えもある」


「なんだよ? いつになく弱気じゃないかイブリース」


 アミーラがイブリースに対して茶化すが、イブリースはそれを無視して話を続ける。


「だが、相次あいつぐ委ねる者が殺されている事件について……これを見過ごすことはできない。(かたき)は打たなければならない! ねえ? そうでしょうハサン?」


「!? ええ……その通りです……だからこそインチキタウンの連中を許すべきではないのですよ」


 ハサンは突如話題に振られ、驚くもイブリースの意見に同意する。


「それについてですが、本当にインチキタウンによる犯行だとしても、せない点がある。奴らが我々を襲う理由は? そもそも奴らが我々と戦争になるような事件を起こしてメリットでもあるのか?」


「さあ? 大方おおかた、異教徒を血祭りにする教えや異教徒の死体でなんかの儀式でもしているとかじゃないの? イカれたカルト教団に合理的な思考なんて求めても無駄だと思うよ。ボクはね」


 サラーフがインチキタウンを犯人だと決めつける考えに待ったをかけるが、アミーラはそれを軽くあしらう。


「それに仇を抜きにしても、インチキタウンを攻めるメリットがこちらにある。インチキタウンの周りには資源が豊富だ。今後、月の星団が布教活動していく上でも新たな活動拠点として、確保するのも悪くはないわ」


「カヒール、サギル、ワスト。確かタウンの長が変わってからまだ日が浅いのよね?」


 イブリースはカヒール、サギル、ワストに話を振る。五行緑月の話に割って入ることに遠慮していた彼らは急な問いかけに驚くもカヒールは大きな声で答える。


「はい! イブリース様。タウンの長がザスジーからインチキ教祖に変わってまだ二ヶ月程しか経っていません!!」


「イブリース……()だと!?」


 イブリースは「イブリース様」と言われてピクピクと眉を動かした。


「馬鹿!? お前――」


「あちゃ~やらかしたね」


 ワストは、カヒール向かって失言したことに驚く。アミーラはカヒールのこれからの運命に同情するかのような言動を見せる。二人の態度と同時にカヒールは自分がしでかしたことを自覚した。


「はっ! も、申し訳ございません。イブリース、わ、私は」


 カヒールは慌てて謝罪するも、ふと、イブリースの左腰につけていた剣がいつの間にか抜かれて右手に持っていることに気づいた。そして、カヒールは次のことにも気づいた。


 ズトン


 床に何かが落ちた音が聞こえた。


 カヒールはじわじわと来る痛みから何が床に落ちたのか気づいていた。だが、脳が現実逃避をしているのか、その視線の動きは、ゆっくりと恐る恐る()()()()()()()()()を見るような動きだった。


 そして、カヒールは床に落ちたものを見た。


 右の前腕ぜんわんが床に落ちていた。そうカヒールの右腕が切り落とされていたのだ。


「うおおおおおおおおおおおお!!?」


 カヒールが落とされた右腕を見た後すぐにブシャアァァと傷口から大量の血が流れ出た。


 カヒールは慌てて、魔力で傷口を纏い、そして左手で右腕を抑えて少しでも流れ出る血を止めようとする。


 カヒールの早急な対応により、流れ出る血はポタオタと雫のように落ちる程度に収まった。


「答えろカヒール!! ワタクシはあがめる立場か!? 月の星団は何に委ねている!?」


 イブリースは激高げきこうしながら、カヒールに問う。


「はっ! 我々月の星団は偉大なる神のみに委ねています!! ゆえに神以外に崇める必要なし!!」


「そうだ! ワタクシも含めて皆、神に委ねる者だ!! ワタクシは指導者に過ぎない!! 神から見れば、我々は皆平等なのだ!! 二度とワタクシに様などつけるなぁ!!!」


「はーッッッ!!!」


 カヒールは頭を下げる。イブリースも急な怒りから「ハァ……ハァ」と呼吸を整え、段々と冷静になっていく。


「わかればよろしい。その痛みとともに忘れないことね。カヒール。ヒーラーにその腕を治してもらいなさい。確実に元通りにするには、やはりヒーラーに見て貰うことが一番よ。サギル。あなたも落とした腕を持ってカヒールに付いて行きなさい」


「「はっ」」


 カヒールとワストは頭を下げ、そして礼拝堂から出ていった。


 この場に五行緑月とワストだけが残った。


「さて、話を戻しましょう。タウンの長が変わったばかりということはまだインチキ教祖もタウンに治めることに精一杯のはず。つまり攻めるのが早ければ早いほど勝ちの可能性は高い。タウンの総戦力が不明だとしても」


「だが」


 突如、イブリースは話を止める。そして話を再開する。


「だが神のためにも……彼らにも慈悲(じひ)を……生きるチャンスくらいは与えないとねえ~」


 イブリースは、インチキタウンに攻める方向で話を続けたが、最後の言葉だけはトーンダウンするように声を少し小さく言った。


「ワスト。あなたに頼みがあるわ」


 イブリースはワストに話を振る。ワストは「はっ」と答える。そしてイブリースは次の命令を与える。


「インチキタウンに使者を送れ。月の星団の要求は二つ。一つ。インチキタウン全員が月の星団に改宗すること。二つ。改宗しない者は、タウンを我々に引き渡しあなたたち住民は出ていくこと。このどちらかの要求を飲み込まなければ、月の星団は全勢力を持ってタウンに攻め込むと」



 次回久々のインチキ教祖視点に話を戻す予定です

 そして、申し訳ございません。ストーリーのストックも切れたため、次回の更新が遅れます

 次回は4/11(金)に更新予定(早めることができればそれより早く投稿します)ですので、ブックマークを入れて待ってもらえると幸いです

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