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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第3章月の星団編

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閑話其の一

「はっ! ハァ……ハァ。こ、ここは?」


 とんでもない夢を見た気がする。


 ……いや、もしかしたら今も夢を見ているのか?


 眠りから覚めたワタシの目には、暗闇くらやみな世界が映っていたのだ。


 最初はこの景色は夢かもしれないと脳が思い込みいや、ワタシの()()がこの現実を否定しようとした。


 だが、段々とこれまでの記憶を思い出してきたこともあり、その信念も揺らいできた。


 よくよく考えれば、ワタシには、この暗闇の世界を一度見たことがあった。あの時、死ぬ寸前にも見た世界の全てが黒く染まっていくあの視界と今の暗闇の視界は似ている景色だったのだ。


 そして、ワタシが気付いたことはそれだけではない。


 ワタシの身体の中に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それは実体があるものでもあり、実体がないようにも思える矛盾した何かがワタシの身体の中に巡っていたのだ。そうそれはまさに血液のように。


 そうか。これが第二の血液である魔力というものか。


「状況が掴めてきたぞ。やはりワタシが見たあの白き世界は現実だったのか……ならば、ここが新しき世界というところか?」


 白き世界。ワタシが死んだとき、その世界へと送られた。そして、その世界の何者かによって、ワタシはこれから新しき世界で生きていくことと、その世界に存在する魔術とそれを扱うための魔力のスキルタイプについて教わった。


 だが、ワタシはその白き世界の何者かが語る内容を始めは信じられなかった。いや、信念から信じたくなかった。なぜなら、ワタシが……教団から教わった天国というものは。こんな場所ではなかった。ワタシは教えの通り、天国に行くはずなのに。


「歩くか……このままこの場にいてもな」


 色々と考えるよりワタシはまず、この暗闇から脱出することを選ぶ。ひとまず、風の流れは感じるので、風が来ている方向を辿たどって歩む。


 歩いていくうちに、ピチャピチャと水が落ちる音、ところどころに岩があることと、なにより歩いていく先に段々と光が見えてくるのに気付いた。なるほど。つまりこの場所は。


「ここは洞窟か」


 ワタシはそう結論付けた。


「まだ希望は捨てたくない……この洞窟を抜ければワタシが知る天国がそこにあるかもしれない」


 そう言葉に出し、ワタシが行くはずだった世界であることを祈り、歩み続ける。


 そして、もうすぐ、洞窟の入口、ワタシにとっては出口に着いた。その世界の光景は。


「ここが……新しき世界……なのか!?」


「そんな……」


 ワタシはその光景に()()して膝をついた。


 ワタシが行くはずだった死後の世界はこんな世界のはずじゃなかった。教団の教えを律儀に守り、誰もがワタシが天国に行くことを疑う者などいなかったはずだ。ワタシ含めて。


 その光景は広大な砂漠だった。


 前の世界と変わらないような一面砂だらけの世界。灼熱の温度。水を全て蒸発させるような太陽の輝き。いずれもウンザリするほど体験した世界だった。


「はは……はははは……はーはっは! はーはっは! はーはっは!」


 この洞窟を抜ければ……ワタシが知る天国の世界はそこにあるかもしれない。


 そう信じて歩んだのだが、洞窟からの景色を見てワタシの淡い期待が完全に打ち砕かれた。


 ワタシが教えられた天国は、安らぎに満ちた楽園だと聞かされた。


 清らかな水、酒の川が流れ、泉や美女……とにかくその世界はオアシスのような清涼で美しい場所だったはず。少なくともこんな砂漠とは違った世界だった。


 ワタシが知る世界とまったく違う死後の世界を見せつけられ、もう信仰心はズタズタだ。


 だから笑うことしかできなかった。


「ははは。ワタシの信仰心が足りないからこんな世界に来たのか?」


「それともワタシが信じてきた教えは……嘘だったのか!?」


 今まで教団の教えを疑ったことはなかった。死ぬときもワタシの死が教団の繁栄になればと思い恐怖もなかった。


 だが、ここにきて初めてその教えを疑うことになった。これはワタシの信仰心が試されているのか?


「くそっ!」


 バキ!


 ワタシは洞窟の入口付近の岩を横から殴りつけた。一瞬触れた岩は凄く固い感触だったが、それは卵の殻のように簡単に割れた。なのに、自分の手は痛くも痒くもないほど頑丈がんじょうだった。


 だが、そんなことはどうでもいい。


 今は、この現実をどう受け止めればいいのか。その悩みだけが頭の中を埋めていた。


「あ、あのう……」


 これからどうやって生きていけばいいのだろうか? こんな世界でワタシは何をすればいい?


「す、すみません……今、お話しても……大丈夫でしょうか?」


 例えば、無神論者(むしんろんしゃ)がこの世界に来たらどう思うのだろうか? 単純に第二の人生を歩めることになんの迷いもなく、喜びを感じるのだろうか? くそっ! 無神論者が羨ましく思える日が来るとは――。


「す、すみません! そこの人間の方!!」 


「うん?」


 突如大きな声で呼びかけられて、ワタシは呼ばれた声の方向に振り向く。


 声を掛けたぬしの正体は、ワタシにとって初めて見る異形な生物だった。


 見た目が豚の鼻に下のあごに鋭い牙を二本上に伸ばした人間とも違った異形な生物が洞窟の入口付近の岩に寄りかかってワタシを呼んだのだ。


「あ、すみません……呼んだのは、あなたに……どうしても頼みたいことがあり……まして」


 声の質からして性別は女性メスか。


 ワタシと同じ言葉を喋るが、やはり同じ人間とは思えない。


 ケープと呼ばれる袖のない肩掛けマントを被っているが、露出ろしゅつしている肌の色は、灰色が混ざったような暗い緑の色であり、それは肌を塗ったものではなく、自然な肌色と思わせた。それも併せてその者が人間と違った生物であるとワタシに理解させた。そうか。これが異種族というものだろう。


「あ、あのう……すみません。私の言葉がわかりますでしょうか?」


「はっ!? は、はい。頼みたいことがあるのですね。なんでしょうか?」


 この見慣れない生物を見て、思わず固まってしまった。それをこの生物はワタシが自分の言葉が通じないと思ったのだろう。


 よくよく考えれば、この人間とは違う生物はなぜワタシと同じ言葉を喋れるのか? なぜワタシの言葉が通じるのか? その疑問が一瞬()いた。だがその疑問も、次の事実に気付いたことですぐに忘れた。


「(この生物弱っている!?)」


 よくよく見れば、この生物は今にも倒れそうなほど弱っている状態であり、話し声からして話すことも苦しそうな様子だった。そしてこの生物は、手をプルプルしながら、革製の水筒のような物をワタシに渡そうとする。


「これは!?」


「あなたにお願いが……あります……洞窟を真っ直ぐに……泉があります……それを飲ませてください」


「お願い……します……あなたにしか……頼めず」


 言葉が途切れ途切れだが、頼みの内容は、泉水せんすいを水筒に入れて飲ませてくれと理解した。


 正直言って、この得体が知れない生物の頼みを聞くべきか一瞬悩んだ。だが、気付いたら、身体が勝手にその水筒を受け取り、ワタシは立ち上がっていた。


「この洞窟を真っ直ぐ向かった先の泉ですね? 話すのが苦痛なら頷くだけでいいですよ」


 ワタシがそう言うと安堵の表情を浮かべ、ワタシの質問に対して、縦に首を振って頷く。


「わかりました。必ず水を届けますので、しばしお待ちください」


 そう言ってワタシは今抜けたばっかりの洞窟に向かう。暗闇の中、明かりや松明もないまま向かうことになる。見えない視界の中、注意を払いながら進む。さらに迷わないために手を壁に当てながらただひたすら真っ直ぐへと向かう。


「魔術が使える世界なら、光や火を用意できればいいのにな。ワタシにもそのようなことができるのか?」


「いや、そもそもなぜワタシはこんなことをしているのだ?」


 そうぶつぶつとつぶやきながら、進むと見つけた。


 辺り一面大きな泉が。それは洞窟の天井が空いていることもありそこから太陽の光が照らして、この暗闇の中でも泉があることに気付かせたのだ。


 ここが目的の泉であると確信し、さっそく水筒の中に泉水せんすいをチュプチュプチュプと満タンになるまで入れる。そして、満タンになったことを確認したら、すぐに引き返した。


 来た道を戻ると生物はぐったりとしながら倒れていた。


「大丈夫ですか!? 水を持ってきましたよ」


 水筒を前に出すも、受け取る気配もなく、そして目を閉じて「ううう……」とうめき声だけを発していた。


「失礼」


 ワタシは無理矢理でも飲ませるために顔を掴み、口をこじ開ける。そして開けた口の中へと水を注ぐ。水が多少こぼれたが、喉が動いているところから見ると、飲んでいることはわかる。脱水症状か何らかの病気なのかはわからないが、水を飲ませていくうちに生物はみるみると元気になっていく。そして、水筒をワタシから取り、自分で持ちながらゴクゴクと飲んでいった。


「ぷっはー! ハァ~。本当にありがとうございます!! あなたのおかげで助かりました!!!」


 先ほどまで暗い表情だったのが一転して、明るい表情へと変わり、ワタシに感謝する。


「いえ、礼を言う必要はありません。ワタシは教団の教えに従いあなたを助けたまでです。この程度の行いは当然ですから」


 今のワタシは今までと違い、教団の教えに初めて疑っている状態だ。信じてきたものが(くつがえ)されたのだから。だが、身体の方は教えが染み付いていたためか、今でもその教えを守ろうと勝手に動く。


「(ワタシは何をやっているのだろうか?)」


 そう自問自答していた。そしてそんなワタシの悩みを察してか、この生物はワタシに尋ねる。


「あのう大丈夫でしょうか? 浮かない表情をしていますが……何か悩みがあるのでしたら私にできることがあれば」


 悩みはある。だが、こんな悩みを誰に言えばいい。仮にこの者に伝えたところで信じるだろうか? 信じたとしてもそれでどうなる?


 ワタシは別の世界で死に、この世界に来た。だが、ワタシが今まで聞かされてきた死後の世界はワタシが教えられていたものと違っていた。それをそのまま伝えたとしてどうなる?


 これはワタシの中で解決すべき問題だ。これからこの新しき世界で生きていくなら、教えと違っていたことを受け入れなければならない。そして、この世界で生きるための行動をとるべきだ。そうワタシが黙って考えていたところ、この生物はワタシにスッと水筒を差し出す。


「この水をあなたも飲みますか? この水は特殊な水で、私のような身体が弱い者でも、あなたのように精神が弱っている者にも元気にさせるお水です!!」


 元気を取り戻したこの生物はニコニコしながら、ワタシに水を飲ませようとする。あいにく飲みたい気分ではないことと、断食だんじきの経験から飲まないでいることに慣れているためワタシは断る。


「いえ、お気持ちだけで十分です。ところであなたは一体何者なのでしょうか?」


 初めて見るこの生物のことを知りたいと思ったワタシはやっと尋ねる。すると、その生物ハッと驚いたような表情へと変化する。


「あっこれは申し遅れました。私の名はロクセラーナ……ロクセラーナ・」



 投稿時間が遅れて申し訳ございません

 明日も本日と同じくらいの時間かそれよりも遅い時間に投稿になるかもです

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