5.「信じること」
「~今後のタウン拡大方針ですが、皆さんの意見はどうでしょうか?」
「はい。自分は、とにかく拡大しまくっていいと思います! 幸いこの辺りの資源は豊富なので、じゃんじゃん拡大しましょう! 今はとにかく増やす時期だと思います!!」
「待ってください。私は慎重に動くべきだと考えます。近辺の安全を確保してから拡大すべきではないでしょうか」
(ヴェダたちとアンナ隊は無事だろうか? 早くタウンに帰ってくれればいいのだが~)
「いい意見だ。そんな急いで動く必要もないし。色々と見極めてから拡大していけばいい」
(いや、俺が信者を信じないでどうする? 信者が教祖の俺を信じるなら俺も信者のことを信じなければ……ああ。でもやっぱり心配だ)
「見極めると言っても具体的にどこまでみて、どの基準から拡大に動くというのですか? まずは基準を設けるところから必要じゃないでしょうか?」
「いや、下手にインチキタウンが大きくなるとあの帝国から目をつけられるかもしれない。あんまり拡大せず、今のままの路線でもいいのでは?」
「インチキ教祖はどう思いますか!?」
(クソ! ただ待っているだけだと余計な不安が出てくる)
「あれ? インチキ教祖聞いています?」
「インくん!」
ジュダスに大きな声を掛けられて、ハッとする。今は第三地区の集会所で会議の真っ最中だった。ただ、俺はいつからか、会議に集中できず、未だ帰りがないアンナ隊と救援に向かったヴェダたちの心配ばっかりしていた。
「ああ……色々と意見があるのはわかった。一旦ここら辺で休憩に入ろう」
無理やり会議を中断させて部屋から出る俺に、周りの信者たちは呼び止めようとする。
(悪りぃ。でも今は会議に集中できないんだ)
自分でもどこに向かっているかわからない。
ただ、俺の足は集会所にあるバルコニーへと無意識に向かった。
そしてバルコニーの手すりを掴みながら、タウンの景色を見る。
いや、自分でもわかっている。俺は今アンナ隊たちの帰還経路と救援に向かったヴェダたちの方向を心配で見ているのだ。
「クヨクヨしているなんて、インくんらしくないですね」
ジュダスが、手を後ろで組み、上目遣いで覗き込むようなポーズで俺に話しかける。
「ジュダス……」
「ヴェダたちとアンナ隊が心配?」
「ああ……信じて待つしかないとわかっているが」
ジュダスは俺の隣に移動した。そして、顔を上げて懐かしいエピソードを話すような顔へと変わった。
「インくんがタウンの長に就く前は、いつもインくんが行動していたからね。でもタウンの長として多くの信者を獲得した今のインくんが全て一人で背負うなんて不可能よ」
「ああ……それはわかっている。そして今の立場を選んだのは俺自身だし、俺の望みでもあった」
「ただ、あの時、俺が行動していれば……選択を間違えていなければみたいな後悔はしたくないんだ……」
「それは誰にでもそう思うよ。インくんだけじゃない……でも、そうやって悩むことはいいことだと私は思う」
ジュダスもバルコニーの手すりを掴み、俺と同じヴェダたちが向かった方向を見る。
「持論だけど、“”自分の考えが正しい、自分の選択は正しい“”って信じて疑わない者よりもインくんのように悩みながらも進む者の方が私はトップに相応しいと思う」
「もちろんただ、悩んでいて何もしないなら駄目だけど。いつでも自分のやっていることが正しいか間違っているか考えるからこそ、今、出来ることを最大限にする。悩んでいるからこそこうやって私の意見も聞いてくれる」
「それはインくんが独善的じゃなく、悩んでいるからこそ出来るんだよ?」
「……そうかもな」
俺はジュダスに励まされ、少し心の重荷が楽になってきた。
「だけど……難しいかもしれないけど、例えあなたが悩んでいても、あなたには自分を信じて前に進んで欲しい。いつでも。例え、それが間違った選択だったとしても、信者たちにとっては、暗闇の中を歩くあなたこそ進む道を照らす光となるのだから」
俺はこの時、かつてジュダスに言った自分の言葉を思い出していた。
―間違った道だとしても自分が歩むべきだと思った道なら進め。俺はそうするー
「そうだな……悩みながらも今できること……それはヴェダやリチャードたちを信じること。そして俺はタウンの長として、今やることを頑張ることだな」
「ええ! なにかあったら、グーリュかヴェダたちが知らせてくれるはず。その時にまた一緒に悩みましょう!」
「ありがとうジュダス! そして悪かったな……会議室へと戻ろう。仕事を放り投げたままだった」
俺とジュダスはバルコニーから会議室へと戻ろうとする。そして、俺はジュダスの凄いと思ったところを伝える。
「しかし、ジュダスは凄いな。ヴェダやリチャードを……俺よりも仲間のことを信じられているなんて」
「あら? 信じることならインくんより得意なつもりよ。だって私は信者としていつでもインくんを信じてきたんだから」
確かに! 信じること。これは信者が常日頃、行っている基本中の基本だった。
「なるほど! これは一本取られたな」
俺とジュダスはヴェダたちを信じ、会議室へと戻っていった。
明日ヴェダたちの視点に戻ります




