3.「おれが行こう」
「はい。結論から申し上げます。アンナ・マリーマリオネット率いる調達部が何者かに襲われて行方不明となっています」
「アンナ隊に……危険が迫っています!!」
シルヴァーナは確かにそう報告した。
アンナ隊だと!? アンナと言えば……。
「お、襲われた!? アンナたちに何があったッスか!?」
ヴェダは露骨に動揺していた。
「アンナ隊には、エルザもいる。そんな元ダークカイトのメンバーが……」
マミーまで動揺していた。スザンナは言葉を失っていたようだった。
マミーが発言したダークカイト。
これはここにいるヴェダ、マミー、スザンナ、そして、今話題に出ている、アンナ、エルザ、そしてこの場にいないが、タウンの門番係をやっているプーランをリーダーとした盗賊団のチーム名を意味する。
ヴェダたちがタウンに来る前はダークカイトという盗賊団として、旅する人間の金品や食料を奪い取って生活していたらしい。もちろんタウンに来てからは、もう盗賊団から足を洗っているが、ヴェダたちにとってはダークカイトというチームは長年一緒に過ごした仲であり、家族のような存在なのだろう。
「それは本当なのか!? 詳しく聞かせてくれ」
俺は教祖としてタウンの長として、冷静に的確な判断をするためにも、今は、シルヴァーナの話を聞くことにする。
「はい。経緯としては、門番のプーラン・デックからの報告です。『アンナ隊が二時間経ってもタウンに帰ってこない。様子がおかしいから捜索に動いて欲しい』とそのため、捜索隊を結成し、向かわせたところ……」
「アンナ隊の荷車は見つかりましたが……肝心のアンナ隊が見つからないのです!!」
シルヴァーナは最悪の事態であるかのようにそう報告した。
「なるほど……見つからないのはわかった。だがそれでどうして襲われたとわかったのだ? もっと状況を知りたい。例えば戦った形跡があったとか……」
再度、捜索に乗り出すにしてもより状況を知ってから捜索に乗り出すべきだと俺は思った。そして、シルヴァーナの話をより聞こうとしたところ、ヴェダは黙っていられなかった。
「そ、そんな悠長な! 一刻も早くアンナ隊を探すべきッス!!」
「黙っていなさい! ヴェダ!! こういう時こそ落ち着くことが必要よ!!!」
取り乱すヴェダにジュダスはキツく怒鳴って制止させる。
まさにジュダスの言う通りだと思う。
こういう時こそ落ち着いて行動すべきだ。なにより教祖の俺まで焦って行動すれば付いてくる信者は不安に思ってしまうだろう。
だが、ヴェダの気持ちも分かる。もし、行方不明になったのが、ジュダスやヴェダだったらと思うと俺は今のように落ち着くことはできていなかったかもしれない。ヴェダ、マミー、スザンナ。辛いと思うがここはどうか耐えて欲しい。
「はい。インチキ教祖様の言う通り、まさに荷車の辺りには魔術で交戦した形跡がありました。燃えている草木。抉れた地面。その他の傷といい、間違いなくアンナ隊たちは何者かと戦ったという形跡がありました。だが……不可解なのは……」
「(不可解?)」
不可解という言葉に引っかかった。そして、シルヴァーナはすぐにその答えを教える。
「荷車そのものには、まったくの傷の形跡はなかったのです。捜索隊の報告によると中身も奪われた形跡はなかったとのことです」
シルヴァーナが言いたいことはつまり……
「つまり……襲った者の目的は荷車の中身の奪取ではなかった……アンナ隊たちを襲うことが目的だったということか?」
「はい……その可能性があります」
シルヴァーナは俺の推理を肯定する。
「そ、そんなことって……」
マミーがショックの声をもらす。
「襲うことが目的だったとすれば、怨恨の線か。それとも狩猟の線かもな。それこそ狩人たちのような組織が」
リチャードがスキットルというお酒を入れる小型の水筒をグビグビ飲みながらそう回答する。
「そんな馬鹿な……ザ・シーカーズはインくんと私が壊滅させたはず」
今話題に出た。ザ・シーカーズという組織名。
こちらは異種族を狩猟して売買する人間で構成された組織だ。かつてはタウンに住む異種族をよく標的にして狩っていたが、ジュダスが今言った通り、俺とジュダスによってその組織は壊滅しているはずだ。
「だからザ・シーカーズのような組織だって言っているだろう? ザ・シーカーズそのものとは言ってねぇさ。狩猟を目的とした組織はザ・シーカーズ以外にだっていくらでも存在する。ザ・シーカーズの人員だって生き残りがいれば、後継の組織だって作られたかもしれねえ」
「まあ、おれが言いたいことはここからだ。救援に向かうならそれなりの実力者を引き連れて向かうべきだ」
「救援に向かった部隊まで返り討ちにされたら元も子もないからな」
リチャードの言う通りだと思う。今のところわかっていることは少ない。襲った者の正体は? 敵は単独か複数か? アンナ隊は無事なのか? と肝心の知りたいことはわからないだらけだ。
ただわかっているのは、助けるなら戦うことを前提に救援部隊を編成することだ。
「それならルーベンスの兄貴に頼むのはどうッスか!? 兄貴なら実力もあるし、救援だって、アンナ隊を見つければ、背中に乗せて飛んで帰れるッス!!」
ヴェダは救援部隊にルーベンスを推薦する。「いい考えだ!」と言いたいところなんだが……
「参ったな……そのルーベンスなんだが……さっき飛んで行ってしまってな。運が悪いことに、飛んで行った方向が北東。そしてアンナ隊の帰宅経路である南西からの入り口と反対側の方向なんだ」」
「えっ!? じゃあルーベンスは今タウンにいないってことですか!? 飛んで行った方向とアンナ隊と違うからルーベンスが見つけてくれることもないってことですか!?」
「つまりそういうことです……一旦ルーベンス抜きで救援部隊を編成しましょう。もちろんルーベンスがタウンに帰ったらアンナ隊の救援に向かわせてもいいのですが」
スザンナが疑問を投げ、ジュダスが答える。
ジュダスの言う通りルーベンスは一旦抜きにしよう。そもそもいつ帰ってくるかは不明だしな。となると……。
「よしならば俺が行こう。実力だけ考えるならタウン最強の実力者である俺が出るほど安心感はないだろう。俺がアンナ隊を見つけて無事に帰らせてみせる」
「待ってインくん! 長であるあなたが、簡単にタウンの外を出ては行けないわ。あなたがいない間タウンは誰が守るというの!?」
「ジュダスちゃんの言う通りだ。旦那がいくら最強だろうと世の中何が起こるかわからねぇ。アンタにもしものことがあれば、おれは後悔してしまう」
ジュダスとリチャードは俺が動くことを即座に却下する。二人の言い分もわかるがどこか釈然としない。
「ここは私『ならおれが行こう』」
ジュダスが自ら出ると言おうとしたところ、まさかのリチャードが名乗りを上げた……えっ!?
「『お前『あなた『リチャード『あんた『アナタ『リチャードさんが!?』』』』』』」
リチャード以外全員ほぼ同時に聞き返した。聞き間違いじゃないよな? リチャードが仕事するだと!?
「そ、そんなに驚かなくたっていいじゃないか。おれじゃ不安なのか!?」
「(むしろ不安しかないのだが……)」
俺は別に心の声を読める魔術を持っていない。だが、なんとなく、皆も俺と同じような感想を抱いていることはどよ~んとするこの空気感からわかった。
「まあ、あらためて言うがおれが行こう。旦那はさっきの理由から却下で、ジュダスちゃんもタウンの中にいて旦那をサポートして欲しい。それに戦いに関しては俺のようなスキルタイプが本来は専門だろ?」
「そ、そんな私も行った方が……」
ジュダスも救援部隊に加わろうとするのをリチャードが却下する。
「やめたほうがいい。確かに救援部隊に実力者は欲しいが、戦力を分散にし過ぎるのも得策じゃねぇ。もしかしたら、アンナ隊を囮に大軍でこのインチキタウンに攻める可能性だってあるだろう?」
「だから旦那を含め強力な戦力はタウンにどっしりと待ち構えて欲しいンだ」
「……なるほど!」
リチャードの言い分に妙に納得した。確かに敵にどれくらいの勢力があるか不明だ。もしかしたら、数百人から数千人……いやもっとそれ以上の敵勢力だって考えられる。アンナ隊を助けに行っている間にタウンが壊滅なんてオチは本末転倒だ。
「まま。俺に任せてくれよ。先ほどのプールを壊した件の挽回もしたいしな」
「あんた……」
リチャードはプールを作ったマミーに向けてそう言った。マミーはリチャードの対応に見直したようだ。
そして、俺もなんとなくだが、リチャードに任せてもいいかもと思い始めている。
リチャードはやる気を出すように指をボキボキと鳴らして宣言する。
「このリチャード・モロサス。元騎士の……いやスキルタイプ・インファイターの力を見せてやろう」
リチャード動く!?




