エピローグ:「インチキ教祖ハーレム」
集会を終え、一旦俺はザスジーの城へと戻る。
「この城も壊さないとな……こんな豪華な城は俺には合わないだろうし……」
ガチャ
「帰ったぞ~ジュダス~?」
そして、ザスジーの寝室とは別の寝室へと行く。ここにジュダスがいるはずだが……部屋にいるはずのそのジュダスが見当たらない。
「あれ? もしかしてまだ来ていないのかな~」
俺がベッドの前で独り言をブツブツとつぶやく。すると
バン
バン
ベッドから見て右の扉と左のクローゼットから何者かが襲ってきた。
「うおおお!?」
俺はそのままベッドへと押し倒された。
「(なっ!? ザスジーの狂信者か!? 敵討ちを狙って……)」
ベッドにまで押し倒されるまでの一瞬。そんな深刻な展開を考えたが、押し倒した者に顔を向けたらそんな考えはすぐに吹っ飛んだ。
「フフ。ビックリした!? インくん?」
「教祖! 驚かせてすみませんッス!」
そう。ベッドに押し倒した者の正体は、ジュダスとヴェダだった。右の扉からジュダスが。左のクローゼットからヴェダが現れたのだ。二人は悪気なく驚かせただけだと思うが、一応これは言っておこう。
「ああ。驚いたぜ。あの……真面目に言っとくけど、前の世界で死んだときは、こうやって突然刺されまくって押し倒されたから……俺にとっては、心臓に悪いドッキリなんだよね……」
「あれ? そうなの!? ごめんなさい。そういえば、見知らぬ人に殺されたっていうのは聞いたことがあったわ」
「えっ!? そうだったッスか? すみませんッス!」
二人は、しょぼんと落ち込み。この場にどよ~んと重苦しい空気が流れる。俺が慌てて二人を励ます。
「いや……二人に悪気ないのは知っている。気にするな」
と言ったものの依然として、重苦しい空気のままだ。どうしようか何か話題を変えないと。
「そう言えば、ヴェダ? なんでお前までこの部屋に来たんだ?」
ヴェダに話振ると、ヴェダは顔色を変えて答える。
「ああ! それなんですけど、ジュダスさん……いや姐さんから聞いたッス! 教祖はカルト教祖らしく信者のハーレムを作りたいって! それでもしよかったらアタシも教祖ハーレムの一員になりたいッス!!」
「えっ……確かに俺はカルト教祖として、信者のハーレムも作ってみたいが……」
俺は申し訳なさそうにジュダスの顔を見る。ジュダスはやれやれという顔をしながら説明する。
「まあ……いいでしょう。無理にやめさせようとしても、インくんはこの道に行くと決めたら突っ走るような人だから。隠れて浮気されるくらいなら最初から言ってくれた方がマシかな~て」
「本当にいいのか? 無理していないか?」
「まあ……思うところがないと言えば嘘になる。ただし! 信者のハーレムを作るなら条件がある!!」
ジュダスとヴェダは互いに目を合わせる。そしてせーの! の勢いで同時に喋る。
「「私『アタシ』たちのことは絶対に愛し続けてね『ッス』」」
「私とヴェダさんでハーレム作るなら、絶対に百の愛を二人に注いでね!」
「間違っても二人だからって百の愛を半分にしちゃ駄目っスよ! まあ正妻の特権で、若干姐さん優遇でもアタシは許すッスけど、それでもアタシのことはたった一人の彼女、妻のつもりで全力で愛してほしいッス!!」
「ヴェダさんと話し合ってこう決めた。極端な話、インくんが私たちを全力で愛し続けてくれるなら十人だろうが、百人だろうが、一万人だろうがハーレムを作るのを許すわ。これが信者側の意見よ……インくんは教祖としてこれを約束できる?」
これがジュダスとヴェダが話し合って決めた答え。
ジュダスから問われ、俺は目をつぶり今一度考える。
「(当然、約束を守る気がなくても、性欲のままに「約束できる」と噓をついて回答することも可能だ)」
「(だが、それは二人の思いを踏みにじる選択だ。俺は教祖として、この道を選択するか今一度考えるべきだ)」
「(確かに、ヴェダもインチキ教祖ハーレムに加えるのは、望みだった。だが、そもそも彼女いない歴=年齢そのままだった俺には、ジュダスという女性がそばにいてくれるだけであり余るご褒美だ)」
「(そんな俺がハーレムなんて本当に作っていいのか? 一人の女性も愛し続けた経験もない癖に、二人の約束を守れると誓えるか……)」
俺はこの期に及んで弱気になる。というか前の世界で寺島光当という名で生きていた頃の俺はこんな風に土壇場で消極的になり、その結果、何度も人生で変わるチャンスを逃した。
俺は目を開け、ジュダスとヴェダの目を見る。二人とも真剣な目で俺の回答を待っている。多分、いつまでも待ち続けてくれる。当然だ。これはジュダスとヴェダなりに真剣に考えて選んだのだから。なら俺は……覚悟を決める!
「(今の俺は消極的で弱気だった寺島光当ではない。今の俺はインチキ教祖だ! ハッピーライフを信者と共に目指すためならハーレム全員全力で愛してみせようじゃないかッッ!!)」
「約束する。二人とも全力で愛する……そもそも俺はハーレムを多く作りまくればいいとは思っていない。俺はそんな安い男性じゃない。ハーレムに加えたいと思う女性は俺なりに信念を持って決める!」
「ジュダス……ヴェダ……俺から言わせてくれ。二人ともインチキ教祖ハーレムの一員になってくれ」
ジュダスとヴェダは互いに目を合わせる。そしてせーの! の勢いで同時に喋る。
「「喜んで」」
俺はベッドから起き上がり、窓からタウンの風景を見ながらこれからの未来を語る。
「本当に大変なのはこれからだ……予期せぬ形でタウンの住民という大量の信者を獲得してしまったからな。タウンから出てもいいとは言ったが……きっと大半はタウンに残る選択をするだろう」
「そうッスね……アタシも含めて大半は、タウンの外の世界で生きていける自信がないッス。タウンに長く住んでいる者ほど、その傾向が強いはずッス」
「今までどんなに苦しい生活をしたとしても、住民にとっては隔離されたこのタウンが世界の全て。ザスジーとザ・シーカーズがいなくなったとはいえ、ザスジーによって植え付けられた価値観はそう簡単に拭えないでしょうね……」
「それならばしょうがない。どんな理由であろうとインチキタウンに残るということは、俺にとっては、インチキの信者だ。ならば教祖として信者にハッピーライフを送らせる義務がある……本当は、もっと段階を踏んで、信者を十人、五十人、百人と着実に増やすやり方で行きたかったが……乗り掛かった船だ。集会で宣言した通り俺はタウンの長としてやっていく」
「長をやっていくうちに色々な課題も見えてくるだろう……元々俺は集団の組織の上に立ったことがない。きっと俺だけでは力不足で抱えきれないはずだ。そこは二人いや、インチキの信者たち皆にも頼っていく。まずは二人共協力してくれるか?」
二人は俺の目を真っすぐと見つめて答える。
「ええ」
「任せて欲しいッス!! 教祖」
不安がないと言えば嘘になる。だが、俺にはジュダスとヴェダがいる。信頼できる者がいるから前に進める。それを改めて理解した。
「そう言えばヴェダ? お前俺のこと“”教祖“”って呼ぶようにしたのか? そしてジュダスには“”姐さん“”か?」
「えへへ。そうッス。これからはインチキ教祖さんのことは“”教祖“”ジュダスさんには“”姐さん“”と呼ぶことにしたッス!」
「“”姐さん“”なんて……そんな柄じゃないけど、でもヴェダさんがそう呼びたいなら、そう呼んでもいいわ」
柄じゃないとは言うが、どこかジュダスは満更でもなさそうな雰囲気だった。
「あっ! 姐さんもアタシのことは“”ヴェダさん“”じゃなくて、ヴェダと呼び捨てでいいッスよ!! 教祖みたいに」
「そうすればいいじゃないか。それにしてもヴェダはいい信者だ。俺のことはちゃんと“”教祖“”と呼んでくれるし! 誰かさんと違って~」
俺はチラっとそのジュダスに目を向ける。
「インくんはインくんよ! 何度言われようが、私は私なりに呼びたい名で呼ぶわ!」
「「「アハハハ」」」
こうして俺に大勢の信者ができた。だが、大事なのは信者の数ではなく、信者たちとどんな道のりを歩むか、そこが教祖として問われるところだろう。
そう胸に刻んだ俺は手始めにカルト教祖としてジュダスとヴェダにこの提案をする。
「ジュダス……ヴェダ……今夜俺たちで夜の三位一体をヤラないか?」
これにて第二章は完結となります!
最後までお読みいただきありがとうございました!!
第三章についてですが、申し訳ございません。
作品の質を上げるためにも充電期間を頂きたく、3月の下旬頃投稿予定となります!
少しの間、お待ち頂けると幸いです。
最後に、読者の皆様に作者からお願いとなります。
もし面白いと思っていただけましたら、評価(★)とブックマークを入れてもらえると幸いです。
つまらないと思った方も、★一つでいいので評価頂けると参考になりますので、是非ご協力お願いいたします!
それでは第三章で皆さんまたお会いしましょう。
インチキタウンはこれからどうなっていくのやら?