6.「今の俺には目的があるからだ!」
「ここはどこだ……」
目を覚めたとき、森の中だろうか……あたりが樹木の生い茂った所で俺は目覚めた。
最初は状況が掴めず、しばらく茫然としていたが、段々と思い出してきた。
前の世界で、滅多刺しにされて死んだこと。かと思い気は、あたりは何もない白き世界でわけわからん存在にお前は異世界で魔術を使って生きていくんだと説明されたこと。スキルタイプ・コネクトについて詳しく聞いたこと。
「……ということは、ここが異世界ということか。今までの話は本当ということなのか!?」
点と点が繋がり、ようやく今の状況が掴めてきた。
つまり俺は、今異世界に来ているということだ。魔術が使える世界に。
一応、ここまでの一連の流れ全て壮大な夢を見ている可能性も考え、ありきたりではあるが、ほっぺをつねって夢かどうか確かめてみた。
「痛い」
よし、痛みを感じるということはこの光景は現実だ! この痛み含め、夢を見ているんですよ~というオチも考えられると言ったら考えられるが、それを考えたらキリがない。いったん、これを現実として、受け入れよう。
ここがどこかわからない。が、いつまでもここにいても仕方ないため、とりあえず歩くことにした。
「人がいそうなところがいいよな……まあ、森の中だから人なんて簡単に見つからないと思うが」
俺は森の中を慎重に歩く。こんな森の中では、熊よりも恐ろしい人食いモンスターが現れるかもしれないとびくびく怯えながら歩いている。
何せ俺のスキルタイプ・コネクト。それは皆が魔術を使える世界の中で魔術が自力で使えない唯一のスキルタイプ。
つまり今の俺は、無力に等しいわけだ。襲われたらひとたまりもない。
だが、歩き始めてすぐ、意外にもあっさりと集落を見つけることができた。
少しほっとして(と言っても余所者を歓迎してくれるか不明だが)集落に近づいたのだが、人が一切いなく、まるで、集落にいた村人全員が神隠しにあったかのような不気味さを感じた。
また、妙なことに集落にはカンフーの達人が着るような服装をした坊主頭のおっさんの黄金像が建てられていた。
さらには、家の玄関などに車輪状の中央に目を描いたシンボルマークのようなものが見受けられた。
あのシンボルマークは、この土地に根差した宗教なのだろうか?
そう俺が疑問に思いながら、引き続き集落の中を歩く。
すると一軒、人がいそうな雰囲気をした家を見つけた。この世界のことを何も知らないし、もしかしたら人を襲ってくる怪物が家の中に住んでいるかもしれない。そう思いながら、警戒をしつつも勇気を振り絞って、戸を叩いて声を掛けることにした。
「ごめんくださーい。誰かいますでしょうか?」
待っていると女性の返事が聞こえた。
「は~い。今でますからしばしお待ちを~」
しばらく待っていると家にいる者が扉を開けてくれた。
種族はエルフというやつだろうか? 耳が長く尖っていて、ナチュラルボブの髪型をした金髪碧眼の20歳くらいの女性が現れた。
服装は先ほど見たおっさんの黄金像と同じようなカンフーっぽい黒い服を着ていた。
なにを話そうか前もって頭の中で十分に整理しないまま声をかけたことと、そのエルフが美しい女性なこともあり(さらに俺自身女性と話すのに慣れていないことも加え)言葉に詰まっていた。
「何か用でしょうか?」
とエルフから問われた。
とりあえず、俺は今の状況をありのまま伝えることにした。
「突然すみません。信じてもらえないかもしれませんが、気が付いたらここに迷い込みまして……ここがどこかわからず、色々聞いてもよろしいでしょうか?」
しかし、本当に美人なエルフだ。仕事場も男性しかいない上、女性と接する機会が極端に少なかった俺には目を見て話すにはハードルが高いぜ。
と悩んでいたら、エルフはその場で考え込むような態度を見せた後、次の提案をした。
「事情はよくわかりませんが、詳しい話は中で聞きましょうか? よろしければお入りください」
「ええっ!? いきなり入ってもいいのですか?」
家の中には、そのエルフ一人しかいない雰囲気なのに、得体も知れないであろう俺を家に入れてもいいと言うのだ。
もし逆の立場で、この知らないエルフがいきなり自分の家に来たとして、思惑もわからないまま、自分から家に入れと言えるだろうか? 相手が美人と言えども、流石の俺にも言えない。何か裏があると考えるべきだろうか……
「あなたが、困っているならば……私の立場としても放っておくわけにはいけませんからね……もちろん無理に入れとは言いませんが」
面食らった態度をしたせいだろうか、エルフは気を遣うような態度を示した。
エルフの提案に乗るべきか? このエルフの目的は何だ?
このエルフ以外、あたりには人がまったくいなさそうだ。凄っっっっっっっっっく自分の都合の良い解釈をするなら、このエルフは欲求不満であり、久しぶりに男の俺が現れたから、家に入れて、性的な意味で喰おうとしているかもしれない。長い間欲求不満ならこのエルフに俺の生気を絞りつくされるかもしれない。……悪くないかも。
もしくは、人間の肉が久しぶりに現れたから、逃げられないように家に入れて、本来の意味で俺を調理して喰おうとしているかもしれない。あたりに人の気配がまるで無いのは、このエルフがここに住んでいた者たちを喰い尽くして家に住んでいることも考えられる。エルフが人を食べるかは知らないけどね。
後者のように俺を襲うつもりなら、これは罠だ。無力な俺が家に入るのは自殺行為かもしれない。
安全を考えるなら家に入らず、立ち去るか様子見をするなら、このまま玄関で話を続けることを選ぶべきだろう。
「わかりました……お言葉に甘えて、邪魔しましょう」
だが俺はあえて、そのエルフの提案を乗ることにした。危険な賭けかもしれないが、提案を乗れば、このエルフは安心、つまり心に油断が生まれるからだ。油断があるということは心に付け入れる隙があるということだ。
「(なぜ、危険を冒してでも前に進むのか……それは今の俺には目的があるからだ! この異世界に転生したらやりたいこと……それは、インシュレイティド・チャリティ教を布教し、俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指すことだ!!)」
魔術で勝てないなら話術で対抗すればいい。
ピンチはチャンスだ。このエルフが俺を襲う怪物だとしても、俺がマインドコントロールさせ、俺の信者にすれば、用心棒として使えるかもしれない。
また、前者のように俺とムフフなことをしたくて誘っているとしても、俺は乗るわけにはいかない。
なぜなら俺は教祖だからだ。まだ信者でもないこのエルフとセックスするわけにはいかない。
確かに教祖は何をしてもいい。女性信者を教義や儀式の名をもとにハーレムを作る例は山のようにある。勿論、俺もそうするつもりだ。だが、そんなクソな教祖でもセックスする相手はいつだって信者だけだ。
教祖が信者以外と肉体関係を持った例を聞いたことがない。それは信者に禁欲を押し付けながら自分は例外! している教祖でも教祖なりのプライドや自分で決めたルールを守ろうとしているかもしれない。
ならば、俺もインチキ教祖の端くれとして、セックスする相手はインチキの信者だけだと決めよう!
このエルフとセックスする時、それはインシュレイティド・チャリティ教(略してインチキ)に入信した後だ。
「(分かるかエルフよ。お前がどんな思惑があるにせよ、利用するのは、お前ではなく俺だ。必ずお前をインチキへと入信させる。そして当然、俺の愛人となってムフフなことを)」
俺は意を決して人喰い怪物? エルフの家へと足を踏み入れる……
今回のお話の時系列は、プロローグ:「俺のことは、インチキ教祖と呼んでくれ。」のインチキ教祖視点で描いたものです。
今回以降から主人公の名前は「インチキ教祖」として、記載します。
インシュレイティドなんて読みづらいし、書きづらいので良かったです。
明日も21:00、7話投稿します!
2025年4月28日追記)
敬虔な真実教徒としてジュダスの思いを踏みにじるかのようにインチキ教祖は、邪な気持ちで家に入る決心をした。