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30.「異界転送」

「つまり、諸君がいつも接種していた薬物は……漢方薬でもあり……爆薬でもあったのだァアアアアアアアアアアアアア」


 ザスジーから驚愕の真実が放送から伝わった。


 周りの信徒たちはそれを聞きざわざわと動揺していた。


 ザスジーの放送は続く。


「我輩はこれを漢方爆薬と呼んでいる。さて、起爆曲ダンテを教える前に我輩から信徒へ最期に伝えたいことがある」


 ザスジーは先ほどまで、興奮気味に話していたが、今度は優しい口調で次の言葉を話した。


「今まで我輩を信じ共に歩んでくれてありがとう。我輩は君たちと出会えて感謝している」


「案ずるな。一人で死ぬわけではない。我輩も一緒だ。残り僅かな時間。旅立つ準備のために、隣人にお別れの言葉を伝えるのもいいだろう。好きなだけ美味しいものを食べてもいいし、やりたいことがあればなんでもしていい。我輩は初めてお前たちに自由と権利を与えようではないか」


「ただし、 “”タウンから脱出すること“” これだけは赦さない。これだけは守れ。これ以外になら何をしても赦そうではないか……愛しい信徒ペットたちよ」


 ザスジーはタウンからの脱出以外は、最初にして最後に信徒へ自由に生きる時間を与えた。


「伝えたいことは以上だ。そろそろダンテに話を戻そう」


「ダンテ。これは新しき信徒へ歓迎するときに歌っている曲の名前を指している。昨日インチキ教祖たちを歓迎した歌がまさにそうだ。」


「だが……普段歌っているダンテは二番までしか歌っていなくてな……本来は三番まで歌詞があるのだ」


「今から、我輩が三番の歌詞を歌う。歌ったのち自動放送で一番から三番の歌をフルで流す。この曲が終えたとき。それが、漢方爆薬の起爆合図だ」


「それでは三番の歌詞はこれだ!! Death ついに来てしまった。この時を♪」


 ザスジーは吹っ切れたように漢方爆薬へのトリガーとなる三番の歌詞をノリノリで歌いだした。


 だが、放送を聞いていた信徒たちの多くは聞いているどころではなく、「うわああああ」と悲鳴をあげながらパニックになっていた。


 ◇


 ザスジーからタウンの外に出るなと命令を受けていたが、多くの信徒たちは、逃げるように外の世界へと繋がる門扉へと急いで向かっていった。


 だが、そこは門番たちが信徒の脱出を防いでいた。


 ある地点では、門番である吸血族のドラヴと獣人族のウルフルーズが怒鳴っていた。


「駄目だ! マスターからタウンの外に出るなと言われているだろう!! お前たちを外に出すわけにはいかない」


「そうだ! そもそも今までだって、マスターの許可なく、タウンの外に出ることはザスジー・バイブルの教えに反するだろう!!」


 門番の態度にある信徒は抗議する。


「おい! そんなこと言っている場合じゃないだろ!! あんたら放送聞いていなかったのかよ!? このままじゃ、皆漢方爆薬で死んじまうぞ!!」


 一人の信徒が言ったことを皮切りに他の信徒たちも同調して抗議する。


「その通りだ! マスターはいずれ我々を始末するために爆薬を服用させていたのだ。我々信徒はマスターに騙されていたのだ」


「通せよ。門番のあんたらだって一緒に逃げればいいじゃないか」


「そうだ! そうだ! ここを通せ!!」


「そうだ!」「通せ」という抗議が増していく信徒たちに毅然きぜんとした態度で門番たちは対応する。


「何度言われようが駄目だ! マスターにはマスターの考えがあってこうするのだろう!! 我々門番はここを通すわけにはいかない!!!」


「これ以上無理矢理通ろうとするなら、力づくで止めるぞ」


 一食触発いっしょくしょくはつの雰囲気の中、信徒たちの人混みから一人の人間が門番たちの前に現れる。


「愚か者ッッ! ここを通しなさい!! 門番風情が私の命令でも聞けないかッッ!!!」


 立ち現れたのは、十一使徒の一人。タータイ・ハルピュイアだった。


「た、タータイ様!? ま、まさかあなた様までタウンから出るとおっしゃるのですか!?」


 幹部クラスの信徒である十一使徒の登場に、流石の門番たちも動揺する。


「その通りよ。聞こえなかったの? 私はここを通ると言ったのです。もう一度言う、門番共よ。ここを通しなさい」


 タータイからの命令で門番たちは悩んでいる様子だった。タータイより後ろにいる信徒たちは、「もしかしたら、タータイ様と一緒に抜けられるのでは?」という期待が生まれ、ワクワクするような表情へと変えていった。


「で、ですが……マスターは、 “”タウンから脱出すること“” は赦さないとおっしゃっていました……タータイ様の命とはいえ、やはり従うわけにはいきません!!」


 門番たちは、マスターの命令を守るため、タータイの命令を拒む。その姿に、タータイは「ハア……」と呆れたような態度を見せる。


「馬鹿ね。私はそのマスターからの命令でタウンを出るのです」


「な、なんですと!?」


 思ってもみないことをタータイから聞かされ、門番たちはさらに動揺する。


「考えてもみなさい。ここで全滅したら誰がザスジー・バイブルの崇高な教えを後世に残すと言うの? 私たちが生きていた歴史を誰かが伝えることによって、ザスジー・バイブルの教えは不滅となるのです。言わば私は伝道師の任を果たすためにここを出るのですよ」


 もっともらしい言い分を聞かされ、門番同士はひそひそ声で次のことを相談し合っていた。

「ここを通すべきか?」「通さないでおくべきか?」の二択で。


 その様子を見た、タータイはフッと笑い、ダメ押しの一言を加える。


「それとも何か? マスターからの命令は聞けないと言うの? マスターに確認する時間なんて取ったら爆発で手遅れになるでしょうね~」


 その一言を聞いた門番たちは頷いた。そして。


「承知いたしました。ここを開けます。今までのご無礼をお許しください」


 ギィィィィイっと門扉を開けていく門番たち。タータイより後ろにいた信徒たちは期待の表情を浮かべ言う。


「おい。俺たちも通して貰おう。伝道師の任は流石にタータイ様だけでは心許こころもとないだろう。俺たちはタータイ様と一緒に伝道すると約束する」


「えっ、それは……」


 タータイがいることもあり、信徒たちが強気になる。それに対し門番たちは弱腰へとなっていた。


 すると、タータイが信徒たちに向けて告げる。


「馬鹿ね。マスターから外に出ていいと言われたのは私だけよ。お前たちは言われていないのだから、出ていいはずがないでしょう?」


 蔑んだ目で信徒たちの希望を打ち砕くタータイ。タータイの言動に信徒たちは絶望の表情を見せる。


「そ、そんな。なら我々はどうすればいいのですか?」


「さあね? それこそマスターに聞いて許可貰えばいいじゃない? 許可貰えればだけど」


 それだけ言って、タータイは一人で門の外へと出た。信徒たちがタータイを呼び続ける声があるが、タータイは無視しながら外の世界へと向けて走っていく。


 しばらく走ったあと、タータイはほくそ笑む。


「(やったわ……タウンから脱出できたわ! 私は生き残れた!! 伝道師なんて嘘に決まっているじゃない)」


 そう。タータイはタウンから出ていいなどと言われていない。生き残るためにそう嘘をついたのだ。


 タータイはタウンの方へ、もっと言えば、もう見えない先ほどの信徒たちに向けて振り向く。


「(ごめんなさいね。私一人だけで。でも悪く思わないで。ぞろぞろと抜ける者が現れるとマスターに気付かれる可能性があるから。まあ精々知恵を振り絞って抜ける方法でも考えることね)」


 タータイはまた前を向き直し、漢方爆薬について分析する。


「(漢方爆薬の魔術。これが罪と罰式魔術の一種なら、曲の終わりまでタウンにいることも罪にあたる可能性がある。ならば、曲の終わり前にタウンの外にいれば、罪を満たさず、罰は作動しないはず!!)」


 タータイは己の推理を確信し、走り続ける。だが、しばらくすると自身の身体に異変が起きていることに気付いた。


「なに……あれ、足が急に重くなって? あれ、なんで、腕の中がブクブク膨らんで……熱い!!」


 その瞬間、タータイは理解した。これは身体が爆発の前兆であるということに。


「な、なんで!? まだ曲は始まっていないはずなのにぃ~」


 ボン!


 それがタータイの最期の言葉となった。その爆発の火柱は天に到達するのではないかと思わせるほどあまりに大きく、タウン全域からその火柱は見えていた。


 当然、信徒たちもそしてザスジーもその火柱を見えていた。


「おやおや。これから曲を流そうとしたところで……言いつけを守らなかった者がいたのか」


 三番の歌詞を歌い終え、これから曲を流そうとしたところで、ザスジーの手が止まった。


「ハア……一応言っておくが、今更逃げても無駄だ。我輩が魔術名を唱え、三番の歌詞を教え始めたところから魔術は始まっている。途中でタウンから距離が離れすぎると起爆するようになっているのだ。しかもこの条件で起爆しても完全な威力を発揮する」


 ザスジーは漢方爆薬の新事実を伝え、周りの信徒たちはさらに絶望するように火柱を見ながら声を失っていた。


「また、誤解がないように言っておくが、仮にこの放送を聞かなくても、タウンの至るところのスピーカーを壊したとしても防げない。曲を流し終えたところで起爆する。ゆえに曲は聞いても聞かなくてもどっちでもいいのだ」


 さらに付け加えた新事実に信徒たちは諦めたようにその場で立ち尽くしていた。中には、膝を地面に着く者もいた。中には「ハハ……もう駄目だ」と軽く笑みを浮かべながら絶望する者もいた。


「それでは曲を流そう」


 ザスジーはレコードのような円盤を起動し、曲を流す。


「間奏 42秒

 カーモン ベイビー カーモン ベイビー

 ん~ようこそ! ザスジータウンへ ここは全種族の夢の楽園よ♪」


 タウン滅亡までのカウントダウンが始まった。


 ◇


「まだなのか!? 妹者いもうじゃ!! 」


 ザスジーが曲を流し始めた直後、十一使徒のヤーコボ・ティグリは妹のヨハネア・ティグリに焦るように問う。


「待って! 焦らせないで!! もう少しだから……出来る!!!」


兎の縁起(オリオン)


 魔術名らしきを唱えると、ヨハネアの身体が一瞬、アクアブルーの色に変化したかと思えば、すぐに元の肌色へと戻った。


「お待たせ! これで解除できる。兎の縁起(オリオン)


 そう言うと、ヨハネアは、ヤーコボに触れる。すると、ヤーコボの身体も同様に一瞬、アクアブルーの色に変化したかと思えば、すぐに、元の肌色へと戻った。


「ありがとう。待ちくたびれたよ。だが流石は我が妹だ」


 ヤーコボはヨハネアにお礼を言う。


「あなたの解除は不要でしたよね? 漢方爆薬の」


 ヨハネアはこの場にいるもう一人の十一使徒、ペトロス・スミンテウスに話しかける。ペトロスが返事するより先に、ヤーコボが言う。


「ペトロス殿は漢方爆薬を接種したことがないですからね。本当に隙がないお方だ」


 ヨハネアは速やかにある計画を進めるためにペトロスに進言する。


「ペトロス殿お待たせして申し訳ございません。そろそろ始めましょうか?」


「……うむ」


 ペトロスはそう返事した。ここはタウンにあるその。ここにペトロス、ヤーコボ、ヨハネアの三人の十一使徒が隠れていた。


 そして、ペトロス、ヤーコボ、ヨハネアの三人は何かを念じるように目を閉じ、その場で立ち尽くしていた。


 しばらくすると、三人はほぼ同時に目を開ける。


「よし! これでマスターから私の魔力は戻った。二人共上手くいけましたか?」


 ヤーコボは、二人に確認を取ると、二人とも頷いた。つまり上手くいったということだ。


 三人が実行したのは、コネクトの魔力返却のルールその二.を実行していた。


 二.譲渡者が魔力の返却を強く望むこと


 三人共魔力返却が成功したということは、ザスジーは以降ペトロス、ヤーコボ、ヨハネアの三人の魔力は消え、三人が持つ魔術を行使できないことを意味する。


()()()()は、たった今から私の瞬間移動の魔術は使えなくなった……脱出してもザスジーが我々にできることはないだろう……」


 ペトロスはザスジーのことを「ザスジー」と呼び捨てにする。それはもうザスジーの弟子から決別を意味していた。


「……準備はよろしいか?」


 ペトロスは、そう言って、左手をヤーコボの左肩に右手をヨハネアの右肩を掴んだ。


「はい。私も兄者も大丈夫です。三人も一度に飛ばすのは、魔力の心配もあるでしょうが、安心してください。私が回復させますから」


 ヨハネアは、ペトロスにそう言い。ペトロスは黙ったまま頷いた。


 そして、ペトロスは次の魔術名を唱える。


異界転送クォ・ヴァディス


 そう唱えた瞬間、三人の足元に大きな魔法陣が発生し、あっという間にその魔法陣に吸い込まれていった。


 こうして、三人はタウンから消えていった。三人がどこへ行ってしまったか知る由もないだろう。



補足)起爆曲ダンテの歌詞はこちらになります。


 曲名:起爆曲ダンテ


 作詞・作曲:ノオウ・ザスジー


 間奏 42秒


 (一番)

 カーモン ベイビー カーモン ベイビー

 ん~ようこそ! ザスジータウンへ ここは全種族の夢の楽園よ~

 ぽっかぽっかででみんなやさしい~差別も偏見もない唯一の居場所~ 


 間奏 42秒


 (二番)

 う~う 私ここに来られて良かった~な~ぜなら

 馬鹿にもされない みんな 仲良くなれるから~

 暮らすなら ここザスジータウン一択でしょ

 やぁ~だからあなたも怖がらないで

 暮らそう 全種族の夢の楽園 ザスジータウンへ~~~~~~~~


 間奏 42秒


 (三番)

 Death ついに来てしまった この時を~

 いつか来ると分かっていた 審判の日だ~

 こうなったのは敵のせい~ アイツさえいなければ~ こうならなかったのに~

 う~う それでは皆さんさようなら また会える日まで マスターとかわいい信徒たちよ



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