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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第2章ザスジータウン編

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27.「切り札」

 ザスジーの首が床に落ちた後、残りの身体も床に落ちた。


「お、終わったのか!?」


「……おかしい……」


 ザスジーに勝ったのか? 俺は自分でも信じられていなかった。やはりジュダスも腑に落ちていないようだ。


 それもそうだろう。ザスジーとの戦いでは、ザスジーは()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ザスジーは、六〇〇を超える住民からの魔力譲渡を受けた、つまり六〇〇を超える住民の魔術を使い放題のはずなのに。


 魔術を使わずに俺たちに勝てると踏んでいたのか?


 それとも魔術を使わなかったのではなく、使えなかったのか?


 ……魔術を使えなかった? ……まさか?


「インくん!? 後ろに誰か来る!」


 ジュダスが俺にそう言ったとき、後ろの階段がある扉からパチパチと拍手しながら、一人の人間が現れた。


「フイポッリよ。よくやった」


 眼鏡をかけた、俺と同じくらいの背丈で短髪の男性がそう言いながら、倒れたザスジーに視線を向ける。


「そして、おめでとう。インチキ教祖とジュダス。魔術を使えなかったとはいえ、()()を倒すとは」


 次に、俺たちに視線を向けて、俺たちを褒める眼鏡の男性。しかし、その身体は少しずつ目に見えて変化していた。


 俺と同じくらいの背丈だったはずなのに、その身長は少しずつ大きくなり、短髪だった髪型は、少しずつ伸びていった。


「やはり変身系魔術を使っていたのか!?」


「そうだ。お前たちがこの部屋に来る前に、十一使徒のフイポッリ・ドラコに変身していたのだ。そしてお前たちが今まで戦っていたのは……我輩に変身したフイポッリ・ドラコなのだ」


 フイポッリとやらに変身していたザスジーは解説しながらもとの姿へと戻っていた。


 身長190cmはありそうな長身と、司祭平服キャソックのような真っ黒なコートを身につけ、そして、眼鏡を外し、ポケットからトレードマークであるサングラスをかけた。あのザスジーの姿へと戻っていったのだ。


「ザスジー・バイブル」


 変身系魔術を解いた直後、ザスジーはそう唱える。


 すると左手から少し大きい魔法陣が発生する。


 その魔法陣から鮮血のような赤い色をした分厚い本が一冊現れた。


 その赤い本にザスジーは手に持つことはなく、不思議と空中を漂っていた。


「(あれがザスジーの武器か!!)」


 俺は直観的にあの赤い本が、ザスジーの武器だと理解した。そして同時に次のことも理解した。


 あの赤い本はおそらく上級魔術に関わるのだろう。先ほどのザスジーの偽者が変身系魔術の制限として、赤い本を使えず、こちらのザスジーが赤い本を出していることから、今度こそ本物のザスジーだと確信した。


「ならば今度こそ本物を斬ればいい!! 千風」


 ジュダスは、ザスジーの本に臆せず、右手を刀印の形にし、「千風」と唱えながら、龍門飛鳥の刀身を切っ先までなぞる。すると刀身に小さな嵐が包まれた。そして、ザスジーに向かって、跳躍し、嵐の斬撃を繰り出す。


 ガキン


 ザスジーは先の偽者との戦いと同様に右腕に魔力を集めそれで防御する。またもや防がれたように見えたが……


 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ


 その嵐の斬撃はチェーンソーのようにザスジーの魔力の防御を削り続けた。


「ぐっ!?」


「もうその手は食わない!! このまま魔力の防御を削り続け、お前を一刀両断する!!」


「(ナイスだ! アイツが、赤い本で反撃しようとしたら、俺が妨害する。そのまま切っちゃえジュダス!!)」


 ザスジーは魔力のオーラを右腕に最大限コーティングし、耐えようとしている。時間の問題で、ザスジーは腕から身体全体両断されるはずだが、ザスジーは笑みを浮かべる。


「なぜ、本物の我輩がここに来たかわかるか!? 勝利が確定したから来たのだよ。トドメとしてな」


「お前たちはまたトリガーを犯したのだ、罪と罰式(トラップ)魔術は作動する!!」


 そう宣言したとき、赤い本は自動的にパラパラとページがめくれた。


「(まずい気がする!? ならばあの赤い本を燃やせば……)」


「火天」


 俺は左手をアイアンクローの形にし、ザスジーに向かって火天を放つ。今回の火天は、ジュダスに当たるのを防ぐため、極限まで圧縮させ、本より少し大きい程度の火球を放った。


 しかし、その代わり遥かな高熱のため、本に当たれば一瞬で燃やし尽くすほどの火力を持っていた。持っていたはずだったが……


 ボウ


 と今もページを自動でめくり続けている本に当たった。当たっていたが、本は燃えていても一向に燃え尽きる気配がなかった。そのまま死へのカウントダウンのようにページはパラパラとめくり続けていたのだ。


「本を燃やそうとしても無駄だ。この本はちょっとやそっとでは壊れはしないように作られているのだ」


「そして、このページにたどり着いた。ザスジー・バイブル370の教え」


「【滅びの穴(レマ・サバクタニ)】」


 すると、部屋の床は急に消え……いや、ザスジーが今いる足場以外に床に深淵のような深い穴が発生したのだ。


 そして、その深い穴にザスジー以外、俺とジュダス含め部屋の全てが落とされた。ただ落ちていくのではなく、まるで吸い込まれるように勢いよく落ちていったのだ。


 落ちていく瞬間ザスジーはジュダスによって切られた右腕の傷の血をペロリと舐めた後、解説する。


罪と罰式(トラップ)魔術である【滅びの穴(レマ・サバクタニ)】。トリガーはこの食堂で我輩を殺したことによって発動する。本来は、道連れを目的とした魔術だが、変身した偽者の死でも罪を満たしたことになるのだ」


「ザスジィィィイィィッィイ」


 俺は手を伸ばし、ザスジーを捕まえようとするがその手は届かない。


 ザスジーはサングラスをクイっと直す仕草しぐさをした後、見下しながらこう告げた。


「地獄に堕ちろ。インチキ教祖とジュダス。これで我輩はお前たちのことがやっと好きになれそうだ」


 ◇


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 ズオオオと凄まじい吸引力で底が見えない深淵の穴に落とされ続ける俺とジュダス。


 明らかに城の中とは別の異空間の底に落とされ続けているようだ。


 最初に城に入門したときに嵌った落とし穴では、嵐風系魔術の千風で切り抜けることができた。だが、今度の穴は吸引力が凄まじいため、風のロケットを発生しても、引っ張られて抜け出すのは難しいだろう。


「(このまま落ち続ければ、二度と這い上がれないかもしれない。なんとか……なんとか抜け出す方法を考えないと)」


 俺は周りを見渡す。幸い全てが闇一色ということではなく、左右の横を見ると、壁らしきものはある。


 壁? ……ならば、この壁を利用するしかない。


「地空界」


 俺は左手をグーにして、深淵に向かって放つ。そして、俺の左拳から大量の土を発生させ、それを左右の壁にまで広げて隙間なくビッシリと塞いだ。


 俺とジュダスは、その土の壁に着地した。


「インくん!!」


「ジュダス!! ()()()()の準備だ!! このまま、地空界で土と地形操作でザスジーに向かう!!!」


「コンビ技!? わかった!!」


 ジュダスはそう言い、刀を地面に突き刺し、両手を刀印の形で準備する。


 俺は、ザスジーの偽者によって破壊された血まみれの右手を左手である形へと無理矢理変形させる。


 痛みは生じるが、回復系魔術で右手を直す選択はしない。今は少しでも魔力を節約したいからだ。


「さあ、ザスジーと決着をつけるときだ!!!」


 ◇


 ザスジーは元食堂に引き続き立っていた。ザスジー・バイブルはボウボウと燃えていたままだが、ザスジーは消火しようともしていなかった。


「ウッ……ぐすん……。インチキ教祖……ジュダス・トルカ。タウン設立から四年。この世界に転生して五年。我輩は、ここまでの恐怖と危機感を抱いたことがなかったぞ。だが、お前たちという強敵が現れたおかげで我輩の精神力は鍛えられた。これも全てお前たちのおかげだ!!!」


 ザスジーは泣いていたのだ。インチキ教祖とジュダスが今度こそ始末したと確信し、インチキ教祖とジュダスを称賛しょうさんする。


「インチキ教祖……信者がエルフ一匹だけというのに……あれだけ自信を持てるとは……だが、我輩はお前を尊敬する!!! 我輩が逆の立場ならあそこま自信を持つことはできなかったかもしれん」


「自信を持つことは大事だ。我輩はお前からそれを学び直したぞ………………うん?」


 ザスジーは深淵の闇からドドドドドドドドドと何かが昇ってくる音が聞こえていた。


「ほう。まだ向かって来るか」


 ザスジーは想定の範囲内であったか動じていなかった。


「ザスジィィィイィィッィイ」


 深淵から見えてきたのは、地空界で作成した土をエレベーターのように昇ってくるインチキ教祖とジュダスだった。


 インチキ教祖とジュダスは構えの姿勢で魔術を発動する準備をしていた。ザスジーはそれを見て「フン!」とほくそ笑む。


「行くぞジュダス!!」


「ええ!!」


「千風」


 まず初めにジュダスが両手からザスジーに向けて千風を放つ。


「炎天」


 次にインチキ教祖が左手をアイアンクローの形にし、炎天を放つ。


 ジュダスの千風とインチキ教祖の炎天が混ざりそれは炎の嵐と化す。


「まだだ、この魔術も混ぜる」


 インチキ教祖は、そう言うと、右手を前方に突くように向けた。右手の形は、いびつながらも親指を左に残りの四本指は束ねた状態だ。そして。


天鼓雷音てんくらいおん


 魔術名【天鼓雷音てんくらいおん】。雷電系魔術の基本技である雷音の上位魔術。


 右手から放たれた雷の獅子は、炎の嵐と混ざる。そして、炎の嵐のところどころには、稲妻が走り、ザスジーに向けた頂点には、獅子の頭へと形作り、今にもザスジーを喰らおうと襲う。


 これがインチキ教祖とジュダスのコンビ技。だが、激しい炎雷の嵐の獅子を見てもザスジーの笑みは崩れない。


「いいだろう、こうなれば我輩の切り札で、地獄に堕とそうではないか」


 未だに燃えているザスジー・バイブルが再度開かれた。あるページに向けてパラパラと自動的に開いていった。


「ザスジー・バイブル」


 パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ


「666の教え」


 パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ


 ザスジー・バイブルのページが突如止まった。すると、本が回転し、本の中身である本文をインチキ教祖たちへ、表紙はザスジーに向けられることになった。そして、ザスジーはそのページ記載された魔術名を唱える。


「【誘惑の恩寵(ラース・ガラサ)】」


 そう唱えた瞬間、そのページはピカッと光り、そのページから龍と思わせるほどの巨大な大蛇が飛び出た。


 光でできた大蛇はザスジーや食堂の周りをくねくねと蛇行だこうしていた。光で出来ているとはいえ、見る者に安心や救いを感じさせる光ではなく、見る者に恐怖と絶望で全てを呑み込むような不気味な輝きを放っていた。そして、今にも襲いかかろうとする獅子を獲物ように見定め、舌をチョロチョロと出す。


 そして、獅子を丸吞みせんと光速で襲いかかった。


 全てを破滅の道へと誘う大蛇サタンと神がいる天を喰らおうとする獅子ルシファーが激突する。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオと両者の咆哮のような爆音が鳴り響く。


 激突した瞬間は拮抗していたが、すぐにザスジーの大蛇が押していき、獅子よりも大きな口は丸吞みせんと少しずつインチキ教祖たちへと向かいつつあった。


「ぐう……踏ん張れジュダス。ここが正念場だ」


 インチキ教祖たちにもう駆け引きはなかった。残り少ない全魔力フルパワーの魔術でザスジーにぶつける。それが作戦だった。


 インチキ教祖が踏ん張ったおかげか少しずつ少しずつ獅子が口で飲み込まれんと押していく。


 予想以上に粘るインチキ教祖たちにザスジーの笑みは消えイライラするような表情へと変わる。


「むう……無駄にしぶとくてイラつかせる奴らだ……まだ悪あがきしてくるとは」


 ガッとザスジーは燃えている本を両手で掴む。掴んでいる箇所は、本の上部である ””天”” と下部である ””地”” と呼ばれる箇所だ。


 そして、ザスジーは己の魔力を本に流し続け、大蛇をより巨大化させた。ザスジーも全魔力フルパワーで応戦しようとしていた。


「抵抗しても無駄だ……だからお前らを……」


 ザスジーは歯を食いしばりながら、次の言葉を叫ぶ。


「はやくきにさせろぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉ」


 さらに巨大化した大蛇は獅子を再度呑み込み、インチキ教祖たちまで吞み込まんと近づいてきた。


「インくん!! アレを使うときよ!!!」


「ああ!!! わかった」


 ジュダスは掛け声を掛ける。インチキ教祖も応じる。


「ザスジー! 切り札があるのはお前だけじゃねえ!! 見せてやるこれが俺たちの切り札だ!!!」


 インチキ教祖とジュダスは一呼吸置いて次の魔術名を叫ぶ。


「「サン・サーラァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」


 これがインチキ教祖とジュダスの切り札。魔術名【サン・サーラ】。寿命を削ることを代償に魔力を大幅に増やす魔術だ。


 サンサーラを叫んだ瞬間インチキ教祖とジュダスの魔力のオーラは凄まじいほど大きくなった。それに合わせて、獅子も大きくなり、大蛇の口から全てを喰い破ろうとあっという間に貫通した。そして、大蛇の尻尾から獅子が飛び出てザスジーに向かう。


「なにぃ!? クォ・ヴァぐぎゃぁああああああああああああああああああああ」


 ザスジーは魔術名を唱えようとしたか、間に合わず獅子は遂にザスジーに喰らいついた。


「死ねぇぇぇぇええええええええザスジィィィィイイイイイイイイイ!」


「フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 インチキ教祖はトドメのつもりで叫ぶ。それに合わせてザスジーは断末魔のように叫ぶ。


 圧倒的な火力の前に、堅固な本は燃え尽き、ザスジーまで焼き尽くす。


 サングラスは砕け、服が燃えつきるザスジー。さらに裸になったザスジーの皮膚が燃え今度は筋肉が剝き出しになる。そしてその剝き出しとなった筋肉は焼けすぎた焼き肉のようにザスジーを焦がし消し炭へと変わろうとした。


 獅子はとどまることを知らず、ザスジーを喰らいついたまま、城を壊し、天にまで昇ろうとしていた。


 ザスジーは天空から落とされ、消し炭になりながら、城の外へと落下していった。


「終わったのか!?」


 インチキ教祖は破壊した城の壁から、落ちていくザスジーを見てそう言った。


 ザスジーの死を確認するため、インチキ教祖とジュダスは破壊した城の壁から飛び降り、消し炭となったザスジーへと向かうのだった。



 ザスジー敗れたり

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