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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第2章ザスジータウン編

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26.「最後の晩餐」

 傲慢なインチキ教祖と憤怒のザスジーがぶつかるッッッ!!!

 俺とジュダスは階段を上り最上階であろう部屋にたどり着いた。


 その最上階であろう場所には、大きな扉が一室だけあった。


「インくん。気を付けて……中に数名いる。おそらくザスジーもその中に」


 ジュダスの聴覚が扉の先で待ち構えている者に気付いた。


 やっとだ……そしてここからが正念場だ。


 ジュダスと目を合わせて、心の準備がお互いできたことを確認する。


「(ザスジー決着をつけるぞ!!)」


 俺はそう思い、勢いよく扉を蹴破る。


 バン!!


 すると、目の前に、ザスジーが中央に、その左右に人間が、合計十人が、横一列に座り、大きなテーブルで食事をしていたのだ。


 周りの人間は俺とジュダスを見て、食事を止め警戒している様子だった。だが、肝心のザスジーは俺たちにお構いなく、クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャと不快になるほどの咀嚼音そしゃくおんを鳴らしながら、食事を続けていた。


「来たぞ……ザスジー」


 ザスジーは確かに俺を見るが、クチャクチャと音を鳴らしたまま、食事を続ける。


「この期に及んで、悠長ゆうちょうに食事とは……それは挑発か? それとも死刑囚が執行前に美味しい食事をするように……お前にとってそれは最後の晩餐か?」


 ザスジーのクチャクチャしたまま、大きなワイングラスに赤ワインを注ぐ。そして、注いだワインをグイっと一気飲みする。ゴキュンゴキュンと音を鳴らしながら飲み干す。


 飲み干した後、俺たちに顔を向き直し、笑みを浮かべながら口を開く。


「最後の晩餐かぁ……いい表現をするではないか」


 ニヤニヤした表情をしながらそれだけを言う。今にも殴りたくなるような表情だった。


「俺に殺される準備ができたと受け取るぜ!! 八風」


 両手で、刀印とういんの形にし、嵐風系魔術の基本技を発動する。


 風による斬撃を十名に向けてまとめて放つ。まずは、基本技で様子見だ。


 今にも全員に当たりそうになったとき、ザスジーと同じくらいの体格で、白い髭をボウボウに生やした男性は、次の言葉を確かにつぶやいた。


「クォ・ヴァディス」


 そして白い髭の男性は、またに俺の視界からフッと消える。


 ズバ


 ザシュ


 ザク


 ズバ


 パキン


 ザシュ


 ザク


 ゾク


 スパン


 風の斬撃を放った結果はザスジー含め、残り九人に直撃した。


「ぐぉ~~~」


「うぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああ」


「うわあああああああああああ」


「ぎゃああああああああああああああああああああ」


 ザスジーと消えた男性以外の悲鳴が轟く。


 ザスジー以外の人間は、腕や耳を切り落とす程度に、ザスジーにはニヤニヤした顔面に向けて風の斬撃を当てるようにした。


 だが、ザスジーは魔力を顔に集めて防御したためか、片目のサングラスの眼鏡にヒビと、口元から僅かに血のしずくが垂れる程度となった。


「フン! 中々の威力ではないか」


 ザスジーは余裕を見せるように、笑みを浮かべたままだ。


「インくん。消えた人だけど、階段付近にいるわ」


 ジュダスは後ろを振り向いたまま俺に聞こえるように話す。


「生物をも瞬間移動させる魔術。あなたがその使い手ね」


「………………………………………………………………………」


 ジュダスは問うが、階段にいるらしい白い髭の男性は返事しない。


 白い髭の男性も気になるが、今この場でザスジーから下手によそ見したらそれが命取りになるかもしれない。


 それに後の白い髭の男性は、ジュダスが見張っているだろう。俺はジュダスに背中を任せザスジーから一時も目を離さないようにする。


「八風……嵐風系魔術の基本技で、この威力とは……トーマスを倒しただけのことはある。やはり、十一使徒では、相手にならないな……我輩一人でろう。その方が足手まといがいなくて済む」


「……………………そのようでしょう……………………」


 階段の方で白い髭の男性はザスジーの発言に同意した。


「ホラ! そういうことだ。十一使徒おまえらはさっさと立ち去れ。そんな傷、後で、回復系魔術を使えばいい!!」


 ザスジーは痛みで苦しんでいる周りの人を退出するように催促する。


「インチキ教祖。すまんが、こいつらを通してやってくれ。」


 ザスジーの言う通りにするのは癪だが、俺も他の人間には用がない。俺はそのまま人間たちが通っていくのを許した。


 カツンカツンと白い髭の男性含め、九人が階段を下りる音が聞こえる。


 これで、この部屋には、俺、ジュダス、ザスジーの三人だけになった。


 やがて、階段を下りる音も聞こえなくなり、部屋に沈黙の時間が流れる。


「よいしょっと」


 そう言いながら、ザスジーはゆっくりと椅子から立ち上がる。


 そして、サングラスをクイっと直す仕草をしてからこう告げた。


「始めようではないか」


 その一言が戦いの火ぶたを切る合図となった。


「涅槃寂静」


「炎天」


 俺が涅槃寂静をジュダスが炎天でザスジーに放つ。


「ふはああああああああああああああああああああ」


 ザスジーはそう雄叫びを上げながら、凄まじい魔力のオーラを爆発的に噴出する。そのオーラは、部屋に入りきらないほど、広がっていた。そして、その勢いで、俺とジュダスの魔術をかき消したのだ。


「な、なに!?」


「魔術を使わずに!?」


 魔力だけで、俺たちの魔術を防いだことに驚く俺とジュダス。六百を超える住民から得た魔力は伊達じゃないということか。


 やがて噴出した魔力のオーラは、ズズズと圧縮するようにザスジーのところに戻った。


「まずは、お前からだ。ジュダス・トルカ」


 ザスジーはジュダスに顔を向けてそう宣言する。そして、トーマスと同じレベルの高速移動で、ジュダスにパンチを繰り出す。


 ジュダスはそれを間一髪で躱す。


「(野郎! よくもジュダスを……)」


 俺はザスジーに向かって走り出す。


 ジュダスは、龍門飛鳥による斬撃をザスジーに当てる。だが、ザスジーは、魔力のオーラを右腕に集め、それをガキンと無傷で受け止めた。


 ザスジーは、残る左手をパーの状態からググググとリンゴを潰すように殺意を込めるようにゆっくりと強くグーの形で握り始めた。


 ジュダスにパンチをする構えを取ったのだ。


 たかが、パンチといえど、ザスジーの膨大な魔力を纏ったパンチは絶大な威力を誇るだろう。


 それこそジュダスに直撃すれば、命に関わるほどに。


「(間に合うか!?)」


 ザスジーを止めるために最大限全力で走る俺。ジュダスの両手は刀を握ったままの状態だ。


 今のジュダスの体勢では、ザスジーのパンチを防ぐことはできないだろう。だが、ジュダスは経験則からこの状況を切り抜ける。


「雷音」


 スライム戦にも使った戦術。


 雷音を柄から刀に向けて流し、それをザスジーに同様のやり方でビリビリと感電させる。


「ぐはッ!?……」


 右腕に魔力のオーラを集めていたためか、全身に感電し、一瞬の隙ができるほどザスジーの動きが止まった。


「(ナイスだ!! ジュダス。このままいくぞ!!!)」


 俺とジュダスは目を合わせて合図する。


 ジュダスがザスジーの首元に斬撃を俺が右腕に魔力を集め、ザスジーに向かってパンチしようとする。だが次の瞬間。


「ンガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 そう叫びながら、またもや膨大な魔力のオーラを噴出させる。その勢いで俺たちは吹き飛ばされる。


 そして魔力のオーラを噴出したところで、ザスジーは痺れから回復したように、身体中を動かす。


 そして、引き続き、ジュダスを標的に動こうとする。


 俺は反射的に、ジュダスの目の前に移動し、ザスジーを迎え撃つような形をとる。


「ザスジー。ジュダスの前に俺から仕留めたらどうだ!?」


「フン! そんなにそのエルフを守りたいか!? ならばお望み通り、お前から仕留めようではないか」


 ザスジーは右手を強く握る。対する俺も強く右手を強く握る。


 俺とザスジーは向かい合う。そして。


「体格と魔力が優れた我輩のパンチをくらえ!!!」


 それを皮切りにザスジーは猛スピードで右ストレートパンチを俺はその場で右ストレートパンチを繰り出す。


 二つのパンチが激突した時、バキンっと空間に音が鳴ったような気がした。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


「フハハハハハ。その程度かお前のパンチは!? ぬるいわ」


 そう言ってザスジーの右拳の魔力のオーラはさらに大きくなる。


「じ、じくうぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅ」


 俺は叫びながらも、抵抗するが、やがてザスジーのパンチに押し負けられ、俺の右拳は出血するほど破壊された。さらに、押し負けられた勢いで床に倒れされる。


「インくん!!!」


「さあ、この勢いでそのままトドメを……うん?」


 ザスジーの右拳から大量の土が発生し、その土はザスジーの顔まで覆いつくした。


「な、なにぃ!?」


「かかったな。俺はパンチで負ける前に、地空と叫んだのさ」


 そう。「じ、くうぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅ」と言ったのは、うなり声で言ったのではない。


 あの時、魔術名【地空】を唱えていたのだ。まともに殴り合えば、ザスジーに分があるのはわかっていた。それでも、応じたのは、魔力から土を発生させ、ザスジーの視界を一瞬でも封じるためだ。


「インくん!? ナイス!! 炎天」


 ジュダスは、炎天を放つ。だがザスジーは。


「何度も無駄だ!!! 我輩の魔力を噴き出すだけで、お前たちの攻撃など」


 ザスジーはまた魔力を膨大に噴き出し、顔面に付着した土とジュダスの炎天をかき消す。


「フハハハハハ!!! お前たちの攻撃などこれだけで防げ!?」


 顔面の地面を飛ばしたとき驚いただろう。なぜなら、ザスジーの視界から俺は消えていたのだから。


 だが、ザスジーが背後を振り向いた時にはもう遅い。


「千風」


 左手を刀印の形で、俺はザスジーの首を切るように斬撃を放った。


 ズバンッ


 ザスジーの首に嵐の斬撃が貫通した後、ザスジーは問う。


「な、なぜ吹っ飛ばない?」


 少しずつ首をずれながら問うザスジー。顔面の土と炎天を防ぐために、ザスジーは全方向に魔力のオーラを噴き出した。今までならその勢いで俺たちの動きを止められていたはずだった。


「地空だよ。今度は土を発生させるのではなく、地形操作に使った。もう一度俺は地空と言ったはずだぜ」


 そう俺はあの時言った。地空と。


 ―かかったな。俺はパンチで負ける前に、()()と叫んだのさ―


 あれはただ、得意顔でザスジーに解説したのではない。解説するフリをして、左拳で地面にパンチをし、ザスジーの背後に魔力のオーラで吹っ飛ばないように固定する形を作ったのだ。


 そして、ザスジーの顔面を土が覆った後、俺は急いで背後に回る。そして、ジュダスは俺の意図を理解し、炎天を囮に再度ザスジーの魔力の防御を発動させる。そして、俺は吹っ飛ばないようにし、左手の魔力を一点集中し、ザスジーの首を切る。ここまでが俺の作戦だ。


「あ、あの時かー」


 そう言いながら、ゴトっとザスジーの首は床に落ちた。


「そして、これも言ったはずだぜ。 “”首を洗って待ってろ“” とな」


「しっかりと洗っておいたか?」


 床に落ちたザスジーの顔からは返事が来ることはなかった。



 やったか!?

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