24.「死んだら好きになれる」
「マッテヤの魔力は残ったのか……」
インチキ教祖たちが城に入った頃、我輩は城の中の礼拝堂にいた。
十字架の前で、我輩は主なる神と向き合っている最中だ。
後ろの席には、十一使徒のペトロス、ティグリ兄妹、マテオ、アルファイの五人が祈っている最中だ。
「魔力が残っているということは……あいつは……最後まで我輩を信じていたということに……ウッ……ぐすん……そうか……お前は信じたのだな」
我輩はマッテヤに感動して涙を流す。
なぜ、感動したのか? それは、コネクトの魔力返却のルールに関わる話だ。
譲渡者(コネクトへ魔力を渡す者を指す)の魔力が、コネクトから返却されるには、二つのルールがある。
一.譲渡者が死亡する
二.譲渡者が魔力の返却を強く望むこと
このルールに間違いはない。間違いはないが、このルールには足りない箇所がある。
それは、 “”一.譲渡者が死亡する”” の箇所についてだ。
原則、魔力の返却を望んでいなかったとしても、譲渡者が死亡すれば、譲渡者の魔力が、コネクトから譲渡者へと戻る。
だが、何事にも原則があれば例外もあるものだ。
この場合の例外とは、譲渡者が死亡しても魔力がコネクトの中に残るというケースだ。
譲渡者が死亡する時、コネクトに対して強い思いを抱いたまま死ぬと、稀にだが、魔力は返却されずコネクトの中に残り続けることがあるのだ。
これは元から知っていたのではなく、用済みとなった信徒をザ・シーカーズに売り飛ばした後にたまたま判明した事実なのだ。
故に譲渡者の魔力がコネクトから返却されるルールについては次が正しいのだ。
一.譲渡者が死亡する。ただし、例外的に魔力を渡した者に対して、強い思いを抱いたまま死亡した場合、稀に魔力は返却されず、渡した者の中に残るケースがある
二.譲渡者が魔力の返却を強く望むこと
つまり、マッテヤは死ぬときまで我輩のことを強く思い、その結果、魔力が残ることになったのだ。
「マッテヤ……我輩は信仰を試すという名目でお前をサンドバッグにしただけだというのに……素晴らしい! 我輩はお前のような信徒に信じられて幸せだぞ!!」
トーマスやネッシンアの魔力は我輩の中から消えた。口ではいくら我輩のことを信じていると言っても、結果はこのザマだ。死に際にこそ、その人の信仰は試されるものだ。
薄情なトーマスやネッシンアのことは忘れても、マッテヤという敬虔な信徒がいたということは忘れないようにしよう。我輩は、そう心に固く誓った。
マッテヤのおいらとか語尾の~っすという馬鹿みたいな喋り方は不愉快だったが……今思えば、あの喋り方も愛嬌があって可愛らしいではないか。もう聞けなくなるのは、寂しいと我輩は思う。
前の世界からもそうだった。あれだけ不愉快だ、嫌い、憎いと感じていた人間や生き物に対しても、その者が死んだ後は、悪いところを忘れて、好きになるのだ。
誰にだって一度はあるはずだ。
死者を美化したくなる感情は。
我輩はこの新しき世界に転生する前……すなわち前世の幼少期を振り返っていた。
◇
死者を美化する感情は、幼少期のマックスとの出会いから始まったのだ。
マックスとは我輩の家で飼っていた犬の名だ。マックスはなぜか、我輩にだけ懐かなかったのだ。我輩以外の家族や他人には、甘えるくせに、我輩が触ろうとすると、いつも唸って吠えてくるのだ。
我輩はそれが気に食わなかったのだ。ペットの分際が、主人である、人間様に逆らうとは。お前のせいで、動物が嫌いとなったではないか。
お前が我輩に逆らわなければ、お前が我輩に甘えればこんなことをしなかったのに……マックスへの怒りでエサの中に……
マックスへの葬儀の時、我輩は思わず泣いてしまった。
それは殺したことへの後悔ではない。マックスとの思い出に感動して泣いたのだ。
思えば、人懐っこいマックスが我輩にだけ懐かなかったのは、それだけ我輩のことが特別だったということに他ならない。
マックスの気高さ、マックスのかっこよさ、マックスの可愛さ、生きているときはあれだけ憎かったのに、振り返れば、あの憎らしいところが逆に好きになれたのだ。この時、我輩は自分の感情の動きに感動したのだ。
それからというもの我輩は、この感動を何度も味わうために、近所の野良猫、学校で飼っていたウサギ、友が飼っていたハムスター。たくさんの動物たちと出会いと別れを繰り返すようにしたのだ。
動物を埋葬するとき、動物嫌いの我輩は、初めて、その亡き者のことを好きになれるのだ。死んだら好きになれるのだ。
この幼少期の体験が、前世でもザスジータウンという楽園を作る上で糧となったのだ。
まあ……前世のザスジータウンは滅亡し、我輩はこの世界に転生することになったのだが、誰しも失敗はあるものだ。
◇
幼少期の頃を振り返り今の我輩は思う。
インチキ教祖とジュダス。我輩に逆らう生意気な小物たち。
あいつらは殺したいほど憎い。憎いが……
「もしかしたら死んだら好きになれるかもしれん」
不思議とそんな感情が芽生えてきたのだ。
次回もザスジーのモノローグとなります。
次回で一旦ザスジーのモノローグ回は終了になりますので、最終決戦までもうしばらくお待ちください。




