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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第2章ザスジータウン編

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22.「ごめんなさい」

「おやおや、物騒なことを言うではないか。ならば、お望み通り我輩が出てやろう」


 立ち現れたのはやはりザスジーだった。


 人魚たちよりさらに奥から、水面に映る月影の上に確かに立っていたのだ。


「ザスジー!!!」


 まさかこんなに早く会えるとは思っていなかったが、こうなったらここが決戦場となるのか?


 俺はそう覚悟した。


「「「「「マスター!?」」」」」


 ヴェダを含め、ここの住民たち全員がザスジーの登場に驚いていた。


「我輩のかわいい信徒たちをこれ以上傷つけさせるのは本望ではない。ならば我輩自らザ・シーカーズを倒そうではないか!!」


 そう言って、少しずつ地面を歩くように水面に足をつけこちらに向かって来る。


 その言葉だけを聞くとまるで救世主ヒーローのような登場に思えるが、ヴェダを含め、住民たちの反応は言葉と裏腹に怯えていた。


 住民たちは、明らかに敵である俺たちよりもザスジーの方を恐れていたのだ。


 少しずつ、湖の上から近づいて来るザスジー。夜の薄暗い光の影響か、若干、ザスジーの姿が透けて見えるのが気掛かりだが、俺の行動は変わらない。戦うと決めたら先手必勝あるのみ。


「くらえ! 雷音」


 まずは挨拶と様子見も兼ねて雷音を放つ。さあどうでる? ザスジー。


 だが、雷音は、ザスジーの身体をスカっとすり抜けるように素通りし、そのまま奥の方へと飛ばされていった。


「な、す、すり抜けた? なんの魔術だ!?」


「あれは……霊魂(れいこん)系魔術!?」


「ご名答だ! ミス・ジュダストルカ」


 ザスジーはその場で一旦立ち止まり、サングラスをクイっと直す仕草しぐさをする。


「ザスジー・バイブル153の教え。魔術名は【湖上に立つ幽霊(ティン・トレット)】だ。魔術の分類は、霊魂系魔術。別名ゴースト魔術とも呼ばれるものだ」


「今の我輩は、霊体であって、実体ではない。ゆえにここで我輩への攻撃は無意味だ」


「なんだと!?」


「インくん。落ち着いて。あのような幽体離脱のような霊魂系魔術は、いわゆる相手を呪うみたいなダメージを与えることはできない制限があるの。本来の用途は主に偵察用に使われるから。そして、あのように霊体を維持している限り、魔力を消費し続けているはず~」


「その通りだ。それこそ種族が幽霊族の者でなければ、相手に害を与えることもできない。我輩が使っているこの魔術でさえもそうだ……だが、害は与えることはできなくても益なら与えることができるのだ」


 ザスジーはそう言った途端、飛行するように猛スピードでこちらに向かって来る。


 反射的に反撃するような構えを取ったが、霊体コイツには攻撃が通らないだった。ではどうするべきか?


 悩んでいるうちにザスジーがあっという間に俺とジュダスの目の前まで迫った。そして、両手で俺たちに触れた。


「腕力も下がるから、我輩の自慢のパンチも披露できないが、触れさえすれば魔力を渡すことはできるのだ!!」


 すると、俺の魔力が突然増えた!! この現象は……コネクトの魔力譲渡!?


 ジュダスも同様に譲渡されたのだろう。魔力のオーラが増えているように見えた。


「あの時、握手を拒まなければ、これをするつもりだったがな。少量だが、お前たちの魔力を増やしてやった。我輩をありがたく思えよ」


「何のつもりだ!? ザスジー。敵に塩を送るような真似をするなんて」


「しかし、本当に一人と一匹で来るとはな……勇敢な者とたたえるべきか……、それとも無謀な狂人と蔑むべきか……それとも本気で勝てると思い込めるほどの傲慢ごうまんな者と見るべきかどれだろうな……」


「質問に答えろよ」


 ザスジーは俺の質問を無視し、サングラスをクイっとしながら独り言をブツブツ呟く。


「だが、圧倒的に不利な戦いでも立ちむかうその覚悟! ……敬意を表そうではないか!! そこで我輩からお前たちに二つの道を指し示そう!!!」


 ザスジーは道の前方に置かれている大きな岩に指を差す。


「あそこの大きな岩の上に立つと我輩が住む城へと瞬間移動できる。我輩とすぐ決着をつけたいなら、岩を上ることだ」


「もしくは、瞬間移動しないで自分の足で我輩の住む城まで行きたいなら、それでもいいだろう。だが、その場合は、ここの住民たちをお前たちと戦わせる。確実にタウンの戦力を削りたいならこちらの道を選択するのも手だろう」


「さあ? どちらの道を選ぶ? ミスター・インチキ教祖とミス・ジュダス」


「生物そのものまで瞬間移動するほどの魔術!? ……そこまでの魔術を持っている者もいるというの!?」


 魔術の知識が博識なジュダスが露骨に驚いていた。ジュダスが驚くということは珍しい方の魔術ということか。


 瞬間移動。いわゆる、テレポーテーションというものだろう。前の世界でSF作品やファンタジー作品で一度は見たことあるからどんな魔術かは想像できる。


 だが、それより気になるのは、ザスジーが示した二つの道。どちらの道を行くべきか。俺の頭の中では、それが埋まっていた。


「インくん。気を付けて。罠かもしれないわ。瞬間移動できるとしても本当に城まで案内されるか不明よ。最悪の場合、瞬間移動先は崖の先か溶岩の中など、死に直結する場所に移動されるかもしれない」


「なるほど……ジュダスの言い分もわかる……」


「だが、アイツは噓をついていないと思う。アイツは自分の手で俺たちを倒すことをせず、ザ・シーカーズに任せた結果、失敗した。そしてザ・シーカーズは壊滅となったんだ」


「アイツの中では、こう思っているはずだ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ならば今度は自分の手で確実に倒す」


「だろ? ……ザスジー。もしくは、教祖のプライドとして、自分の手で俺を倒したいのか? だいたい、そんなところだろう?」


「フン……」


 ザスジーはフンっとほくそ笑む対応だけして、あいかわらず、俺の質問を返さなかった。


「ならインくんの選択は、岩の上に上るということ? それはつまり……このままザスジーと戦うということ?」


 ジュダスが何を言いたいのか分かっている。


 最強のスキルタイプ・コネクト。魔力譲渡を受けている限り、無限に強くなれるコネクトと真正面に戦うことは得策ではない。


 スキルタイプ・コネクトの倒し方を考えるなら、それはコネクトそのものに対処しようとするのではなく、コネクトに魔力を渡している魔力譲渡者を倒すのがセオリーだろう。


 だから、ザスジーに勝利することを考えるなら、タウンの住民から潰す方が最適解かもしれない。だが……俺はこの選択を絶対に取らない。


「俺の標的は、あくまでザスジーお前だけだ。お前と早めに決着をつけられるなら、岩に乗ってやろう」


 ジュダスとザスジーは俺の選択に黙ったまま見つめていた。


「インチキ教祖さん……」


 ヴェダが俺に話しかける。


「ヴェダ。聞いていた通りだ。ザ・シーカーズはもう壊滅させた。次はザスジーだ」


「インチキ教祖さん……ジュダスさん……聞いて欲しいッス。アタシは昨夜、あなたたちが、ザ・シーカーズに襲われることを分かっていながら、見捨てたッス……自分が生きたいから」


 ヴェダは、懺悔ざんげするように告白した。


「もし、この戦いがアタシのためだとか思っているところがあるなら、止めてほしいッス……アタシにそんな価値はないッス……アタシはダークカイトの一員として悪いことをしてきたから、救われるべき存在ではないッス」


 ヴェダは涙ぐみながら話し続ける。そして


「ごめんなさい」


 そう言って、涙を流して俺たちに謝罪した。


「そうか……」


 ヴェダの謝罪に最初はかける言葉を見つけられなかった。だが、俺は自分の考えを伝えるべきだと思いヴェダに伝える。


「救うべき存在かそうでないか。それを決めるのは、信者のお前じゃない。教祖の俺だ。ヴェダ。お前が信者である限り、俺は教祖としてお前にハッピーライフを送らせる義務がある」


「ヴェダ。お前は入信していいと言ったんだ。あの時からもうお前はザスジーの信者ではない! 俺の信者だ!!」


 ヴェダは俺の言葉に耳を傾ける。そして、俺は自分が着ている黄金色の羽織をヴェダに着せた。


「――――――――――――――――――――――――――」


 ザスジーに聞かれないために小声である事をヴェダに伝えた。その後、俺はごまかすためにも次のセリフを言う。


「その羽織さあ、着ていると邪魔でさ。悪りぃけど、帰ってくるまで服預かってくれないか?」


 ヴェダは涙を止め俺の目をまっすぐ見つめたまま頷いた。


「任せたぞ!! ヴェダ」


 よし! 後はヴェダに任せよう。俺はジュダスに顔を振り向ける。


「遅くなってすまないジュダス。行こうザスジーへの城へ」


「ええ」


 ジュダスはそう返事し、一緒に岩の上に立つ。すると、俺たちが、立っている岩の上に魔法陣が発生した。


 その瞬間、確かに聞いた。ザスジーが勝ち誇るかのように次の宣言を。


「この瞬間、お前らはトリガーを犯したァァ!! 罪と罰式トラップ魔術作動ゥゥ!!」



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