18.「宣戦布告」
「トーマス。君を含めて十二使徒なのだ。我輩はお前を他の使徒たちと同様に信頼しているぞ」
「マスター……」
俺の部屋にマスターがいる。久しぶりの二人きりだ。
「だから君に住民の売買を依頼しているし、漢方薬の製造も任せている」
「はい。俺もマスターに信頼されたく、背中のタトゥーをマスターと同じように皆にもさせました」
「俺の心にはマスターがいつもいます」
「そうか……ところで、今夜どうだ?」
俺の膝に手を乗せるマスター。これは誘いの合図だ。俺の心は決まっている。
「はい……マスター喜んで」
◇
死ぬ前にこれを思い出すとは。最後にもう一度だけマスターとシテから死にたかったな。
マスター。俺が魔力返却をした意味。あなたなら理解して貰えるはずです。ザ・シーカーズは終わりました。ですが、あなただけは、どうか死なないで。
◇
プルプルプルと電話のような音がトーマスの部屋から鳴り響く。
「ジュダス。一応確認するが、この世界にも電話ってもう発明されているのか?」
「電話!? 電話って何?」
ジュダスも電話を知らないということは、科学としての電話はまだ発明されていないということか。となると、なんらかの魔術で電話のような役割をしている道具があるのか? まあ魔術なら俺はそういうものだと納得するしかないか。
雷電系魔術あたりを応用すれば電話のような物も作れるだろう。多分。
俺は電話の疑問を置いておいて、さっそくトーマスの部屋に入る。
そして、音が鳴り響く方に視線を向ける。そして、音が鳴っている正体が判明した。見た目は、たしかガランガランベルと呼ぶんだっけ? クリスマスで鈴を鳴らすような、鐘に持ち手に木材できた。あの鈴を鳴らす道具。形はそれに似ていて、違うのは音が鳴っているその道具は、全て木材で作られているところだ。
「インくん。電話とはわからないけど、きっとザスジーからの連絡よ。そんなもの無視した方がいいのでは?」
「いや、今頃俺たちがタウンから出ていることはザスジーも承知だろうし、トーマスの魔力もザスジーから消えたんだ。ザスジーだって、トーマスが俺たちに倒されたことに気付いている可能性がある」
仮にこのまま電話に出ないで、タウンに向かうにしても、着いた頃のタウンでは警戒態勢を取られていることだろう。ならば……
「ちょうどいい。宣戦布告といこうじゃないか」
俺は電話のようなものに出る決意をした。
俺がそのガランガランベルに似た道具を取ると、電話の音が消えた。そして鐘のような形のところを耳に当てる。
「我輩だ……トーマスか!?」
この声は間違いない。ノオウ・ザスジーだ。
「なぜ応答しない? ……それともお前は」
「ああ俺だ。インチキ教祖だ」
「インチキ教祖!? な、なぜ……お前が電話に出るのだ!?」
「理由はわかっているだろ。俺たちはトーマスを倒し、ザ・シーカーズも壊滅させた」
「そして次はお前の番だ。ザスジー」
「お、お前ぇぇぇぇ」
最初は現実を受け入れたくなかったのか、俺が電話に出たことに怒りよりも困惑の声が強かった。だが、ザ・シーカーズを壊滅させたことを伝えると、電話越しにも伝わるほど、その声は怒りで震えていた。
「フン! 本当にタウンに乗り込む気でいるのか!? 住民六〇〇を超える全勢力を相手に勝つつもりか!? たった一人の人間とたった一匹のエルフ如きで!!」
「ああもちろんだ。ザスジー。今からタウンに向かってやるから……それまで首を洗って待ってろ」
俺はそれだけ言うと、電話機を握りつぶして壊す。ザスジーの耳に壊れた音が聞こえて、嫌な気分になったことだろう。
「インくん……」
ジュダスは俺の背後で俺とザスジーの電話を見守っていた。その顔はどこか浮かない表情だった。
「さあ、次はタウンだ。奴と決着をつけるときが来たんだ!! いくぞ!!!」
「……………………………………………………………ええ」
「どうした? 何か気になることはあるのか?」
「いや、何でもない」
一瞬ジュダスの返事が遅いことに気になったが、俺たちはアジトから出ることにする。
補足)
作中の電話機のイメージは、電話機を発明したとされる【アントニオ・メウッチ】の電話機をモデルにしています。
作者は、見た目がガランガランベルに似ていると思ったことと、私の中のインチキ教祖は、最初の電話機のことは知らないと思うのでガランガランベルに似ている電話機という表現で記載しています。
皆さんも興味があれば、「アントニオ・メウッチ 電話」で調べて見てください。




