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16.「ザスジーとザ・シーカーズが繋ぐ証拠」

 周りが火の海の中、俺たちは、二階の奥の部屋が気になった。


 扉には、ザ・シーカーズがタトゥーを入れていた、リンゴに似た形の果実に、十字架の先をぶっ刺したようなマークが彫刻ちょうこくされていた。


「あれは!? こいつらが言っていた仲間の印というやつか?」


「気になる……見てみましょう」


「そうだな。まずは、扉の周りの火をどうにかしないとな。自分で蒔いた種だが」


 俺は扉の周りの火を消化するため、右手を指鉄砲の形に変える。そして


閼伽あか


 そう唱え、人差し指の先から、ビーチボールのような形をした水のボールを放つ。


 魔術名【閼伽あか】。これは、これは氷水ひょうすい系魔術に分類される基本技。大量の水をボール状に圧縮し、弾丸のように放つ魔術だ。


 閼伽は扉の周りの火を消化させる。消化したのを確認した俺たちは、二階の扉に向けて跳躍し、扉の入り口まで迫る。扉を馬鹿正直に開ける必要もないので(鍵がかかっているかもなので)、扉を破る。


 蹴破った扉の先の部屋は、マンションのワンルームのような部屋だった。一人暮らしにしては少し広い印象を持つ部屋だった。


 寝室の近くには、先ほど、トーマスが武器として出していた、槍の予備品スペアが置いてあった。


「あの馬鹿でかい槍があるということは、ここはトーマスの部屋ということか!?」


 トーマスの部屋ということは、ザスジーとザ・シーカーズが繋ぐ証拠もしくはその手がかりがこの部屋にあるかもしれない。あいつはザスジーの弟子だと言っていたから。


 俺たちは部屋の中を物色する。しばらくするとジュダスが「あっ!」っと何かに気付いたような声が聞こえた。


「インくん。これを見て!」


 ジュダスがそう言うと、二つの物を見せてきた。


 一つは透明な袋に包まれた茶色い粉だった。……なんだっけ? これどこかで見たことがある気がする。


 もう一つは、ホッチキスのようなもので閉じた、羊皮紙の束だった。こちらは初めて見る。


「なんだ? なんだ? ……この茶色い粉……どこかで見たことある気がするんだが、気のせいか?」


「気のせいじゃないわ。これはタウンで泊まった部屋にあった粉よ」


「あっ」


 そう言われると思い出した。確かにこれは宿泊施設の部屋にあった、茶色い粉にそっくりだ。


「それにこれも見て。この茶色い粉に関することがこの羊皮紙に書かれている」


 俺は「うん? なになに~」と言いながら、羊皮紙を読む。


 う~ん。……最初の4ページは、ぶっちゃけると、読む必要なしの内容だった。


 なぜなら、トーマスからザスジーへの恋文こいぶみみたいな内容がひたすら書かれていたから。


 ただの教祖と信者の関係だと思っていたが、まさかアンタら、そんな関係だったとは。


「あっごめん。粉のことは、5ページ目から書いてあるから」


 ジュダスは思い出したかのように、肝心の粉の内容で書かれたページを言う。言うの遅いよ。


 俺は肝心の5ページ目から読む。するとその内容は以下のように記載されていた。


          ・漢方薬の効用とその製造方法

 ============================================


 〇漢方薬使用による効用

 一時的な興奮、ストレス解消、不眠、多幸感、感覚鋭敏(えいびん)等の効用が期待される


 〇漢方薬使用によるデメリット

 漢方薬を使用していくと、依存性と耐性がつくが、それ以外に身体的、精神的な影響は一切なし


 依存性についての概要:漢方薬を使用したいという強い渇望と薬物がないと精神に不安が生じやすい


 耐性についての概要:漢方薬の体内の分解速度が速くなる代謝的耐性と脳が漢方薬の影響に適応し、効用が弱くなる神経学的耐性がつく


 繰り返すが、依存性と耐性の問題を除けば、それ以外の悪影響はなし。つまり、薬物乱用でイメージされる、幻覚・幻聴、妄想といった症状は一切現れない


 漢方薬の使用方法は、6ページ目に記載


 漢方薬の製造方法は、7ページ目に記載


 漢方薬の渡し方は、8ページ目に記載


 その他は9ページ目以降に記載


 ============================================


                −5−


「読んだ感想としては、漢方薬というより、まるで麻薬や違法薬物だな」


「まっ、この茶色い粉の正体はそんなところだろうと思っていたから驚きはしないな。それより驚くとしたら、この茶色い粉、つまりこいつらが呼ぶ漢方薬の説明書みたいな内容がなぜ、トーマスの部屋にあるんだ?」


 俺はジュダスに読んでいて疑問に思ったことを問う。


「私も、読んでいて同じところで疑問を思ったわ。タウンで使われている、漢方薬はザ・シーカーズと無関係に思えるのに……でも、この5ページ目の最後の方で記載されている、製造方法と渡し方を見てみて。漢方薬は、このザ・シーカーズのアジトで製造されていて、それをザスジーに渡しているとは考えられない?」


「確かに!? ……もし、漢方薬の製造が、ここアジトで作られていて、それをザスジーに渡しているなら、ザスジーとザ・シーカーズが繋ぐ証拠となるのか……!?」


 俺はこの羊皮紙の内容の続きが気になった。


「ちなみに、6ページ目以降はまだ私も読んでいない」


 ジュダスはそう言う。


「よし! なら、ここから先の続きを一緒に見るぞ」


 俺はジュダスと一緒に羊皮紙の内容を見ることにした。唾をゴクッと一飲みした後、恐る恐る5ページ目をめくろうとする……


 5ページ目をめくり、6ページ目を読もうとした瞬間、なぜか、手が熱くなった。いや、これは……


「インくん!? 羊皮紙が燃えている!!」


 ジュダスに言われたと同時に羊皮紙がボウッと燃えていることに気付いた。俺はあまりの熱さに手を放す。


「アッチ!! なんで!? 突如、燃えているんだ!?」


 俺は、あわてて、先ほど放った氷水系魔術である閼伽あかで消化する。


 消化したが、羊皮紙はほとんど燃え尽きていて、黒く焦げたものと化していた。当然、羊皮紙の内容は解読できないような状態となっていた。


「し、しまった!! 罪と罰式魔術が仕掛けられていたかッッ!!!」


 ジュダスは、黒く焦げた元羊皮紙の一部を掴みながらそう叫んだ。


「罪と罰式魔術? なんだ? その魔術は?」


 罪と罰式魔術。俺はその魔術は不明だったので、ジュダスに尋ねる。ジュダスはさっそく解説する。


「罪と罰式魔術。別名トラップ魔術とも呼ばれる魔術よ」


「術者が指定したルールである、トリガーを犯すとそれに対してトラップが作動する魔術」


「罪を犯さない限りは、魔術が発動できない代償を持つけど、この魔術の厄介なところは、罪のルールを満たすのが、厳しければ、厳しいほど、それに対する罰の威力は高くなるところなの」


「ルールを満たすのが厳しいほど? 具体的にはどんなだ?」


「そうね……代表的なのが、あるAの地点を足で踏むと雷電系魔術の雷音が作動する魔術を仕掛けたとしましょう。私たちはこれを地雷と呼んでいる」


「罪の条件がAの地点を踏むだけだと、罰の雷音の威力は、術者が仕掛けた雷音の威力そのままの威力でしか作動できない。だって罪の条件が軽すぎるから」


「これに罰の雷音の威力を術者が仕掛けた雷音以上の威力を発揮したいのなら、罪の条件を厳しくしないといけない」


「やり方の一つとしては、罪の条件を “”雨の日限定“” かつあるAの地点を足で踏むという罪を満たしにくい条件を設定するの。それを満たしたときの罰の威力は、術者が仕掛けた雷音以上の威力を発揮することになる!!」


「なるほど、雨の日以外は、地雷を踏んでも罰が作動しにくい仕掛けをする分、罰が作動した時の威力を高める方向で魔術を仕掛けることができるわけか!!」


 俺はなんとなく罪と罰式魔術を理解することができた。そして、話の流れからこの羊皮紙が燃えたのも罪と罰式魔術が仕掛けられたということか。


「ええ。今回羊皮紙が燃えたのは、セキュリティチェックのために罪と罰式魔術が仕掛けられたのでしょう」


「この羊皮紙が流出したときを恐れて、罪の条件は、順番通りにページをめくったことか、ザスジーやトーマス以外の指紋が検知したことか断定はできないけど、とにかくザスジーやトーマス以外が読んだ時を想定して証拠隠滅のために仕掛けたということ」


「単純だが、やるなこいつらも……って敵を褒めている場合じゃない! どうするんだ……これ? もう読むことができないのだが、なんとか復元はできないのか!?」


 せっかく掴めた証拠。ここにきて、それが水の泡と化すとは……なんとか復元できる可能性がないのか?


「方法は一つしかない。回復系魔術で羊皮紙を再生させること。だけど、ここまで燃え尽きてしまったものを再生させるには、それこそ、優れたヒーラーでないとできない」


 優れたヒーラー? そう聞いて、思い浮かべる人物は一人しかいない。ジュダスもそうだろう。


「つまりヴェダなら、この羊皮紙を再生できると?」


「ええ。ヴェダさんならこの羊皮紙を再生できるかもしれない。罪と罰式魔術は一度の仕掛けに一度しか作動しないから、羊皮紙を再生した後は、問題なく読めるはずよ!」


 次の目標が決まった。タウンに逆戻りだ。ヴェダと会って、この羊皮紙を再生して貰う。そして、ザスジーと決着をつける。どの道、タウンに戻ってヴェダと会うつもりだから丁度いい。


「インくん。ヴェダさんに再生して貰うなら、燃え尽きた羊皮紙をできるだけ持っていくこと。できるだけパーツがあった方が、ヴェダさんも再生しやすいから」


「わかった」


 俺はそう返事すると、漢方薬が入っていた透明な袋の中身を全て取り出し、代わりに燃えカスとなった羊皮紙を入れた。さあ後は、アジトからタウンへ向かうだけだ。


 扉から出て、そのまま下の一階に飛び降りる俺たち。


 すると、突如、前方に何かの物体が飛んできた。あわてて左右に飛ぶ俺とジュダス。


 飛んできた物体は、壁に突き刺さった音がした。俺は壁の方を見ると、その正体は馬鹿でかい槍だった。


 そう、部屋でも見たトーマスの槍が飛んできたのだ。こんな重そうな槍を持てるのは俺が知る中で一人しかいない。


「見たなッッッ!!! 俺の……マスターへの……ラブレターを!!!」


 前方に振り返ると、全身に火傷の痕を残した、トーマスが憤怒の形相で立っていた。


 漢方薬の羊皮紙についてですが、内容を考えるのに苦労しました。

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