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14.「仲間の印」

「ここが本拠地アジトへの入り口か」

 

 ジュダス(今はガールの姿)が発動していたクロス・スタッフの指し示す方向には、地面に生えている草むらへと向けていた。その草むらをどかすと、マンホールのような鉄の扉が表れた。


「よし開けるぞ、準備はできているな?」


 俺はジュダスに心の準備ができているか、最後の確認をする。


「ええ。大丈夫よ」


 ジュダスはそう返答し、クロス・スタッフの魔術を解く。


 俺はその返答を聞いて俺は扉を開ける。


 そこは階段となっていた。さっそく大きな袋に入れたガール(今はジュダスの姿)を担ぎゆっくりと階段を下りていく。


 階段を下りていく中、俺はここまでたどり着くまでの道中を回想していた。


 クロス・スタッフの案内に従い、アジトへ向かっているところに、ヴェダと初めて会った場所、つまり最初に倒したザ・シーカーズの荷車を見つけた。


 せっかくだから荷車に積んであった食料を頂き、荷車でガールを運んでここまで来た。魔力は第二の血なので、食事を取れば、魔力も回復していく。昨日の昼から何も食べていないこともあり、荷車にあった食料を二人で食べつくした。


「(食事したおかげで肉体と魔力はそれなりに回復しただろう。戦闘は避けるつもりだが、もし、戦闘になったとしても準備だってできている)」


「(とはいえ、ここにきた目的は、ザスジーとザ・シーカーズが繋がっている確かな証拠だ。理想はさっさと見つけてとっととアジトから逃げることだ。)」


 俺はここに来る目的を心の中で再確認する。


 階段を降りるとそこは一本道のトンネルとなっており、そのまま進んでいく。


 やがて、受付所みたいな場所に着き、一人の男性が俺たちに気付いた。


「おお! ジョージ!! ガール!! 例の任務は完了したのか!!!」


 話しかけられたので、俺は声に出さず、手で挨拶した。


「その袋が例のエルフという奴か! 念の為、見せてくれ!!」


 そう言われたので、俺は袋を置き、袋を少し開けジュダスの姿をしたガールの顔を見せる。


 その男性はガールの顔を触り確かめているようだ。


「よし!! 確認した!!! いつも通りいい仕事だな!!!」


「後は、いつも通り俺に任せてくれ。任務で疲れただろう。ゆっくり部屋で休むといい」


 男性はそう言うと、袋を取り、どこかに立ち去ろうとする。これで受付所の先を行ける。


 ガールが起きれば、ややこしい事態になるが、魔術を使って、より深く眠らせたから丸一日は起きないだろう。仮に起きてもジュダスに変身させているので、時間を稼げる。その間に証拠を探さなくては。


 俺が受付所の先に行こうとすると、男性が振り向く。


「おおっと!! こっちも忘れていた。悪いな。アレも確認させてくれよ!!」


 男性は、袋を置き、慌てて俺たちのところに来る。


「ホラ! 見せてくれよ!!」


「(アレ……ってなんだ?)」


 俺はジュダスに目で聞くが、当然ジュダスもわかっていない様子だ。


「(どうする……思い切って、『アレ? ってなんだっけ? 忘れちゃった! てへぺろ』作戦でいくか!? それとも、ボロが出る前にコイツをこの場で気絶させるか!?)」


 俺が一向にアレとやらを見せないことに男性が不審に思っているようだ。


「(もう仕方ない。一旦ド忘れたフリをする。これで少しでもコイツが俺たちに不審に思うような態度を示したら、速攻で気絶させる)」


 俺が腹をくくる決意をしたとき、男性は口を開く。


「ホラ! 背中だよ。触らせてくれよ。我らの仲間の印」


 仲間の印? 俺は疑問に思ったが、とりあえずそれでこの場を切り抜けるならと思い、言われた通りに背中を見せる。すると、男性は俺の背中のファスナーを開け、背中を露出させる。


 今更だが、この服装には、背中にファスナーが着いているんだなぁと初めて知った。変身した姿は完全再現されることから特に調べようとも思っていなかったが。


 ジュダスは俺の背中を見て、なぜか、驚いていたようだった。当然だが、俺から背中がどうなっているのかは見えない。


 男性は俺の背中に手を置く。いきなりの対応に俺はビクっと驚く。


「ああ。悪いな。規則とはいえ、野郎に触らせていい気がしないのは分かっている……ふむふむ。なるほど」


 男性は俺の背中を触れて何か考えているようだ。


「OK!!! 間違いなく我らの証だな。いや~付き合ってくれてあんがとな!!」


 男性は俺の背中から手を放す。


 今気になることを聞いたが、証とは何だ? その答えはジュダスの検査の時に知った。


「次にガール。ジョージを検査したからほぼ必要がないことは分かっているが、念の為、お前も検査させてくれ」


 ジュダスは流石に男性に背中を触らせることに少しためらっていた。


「おいおい! どうした? 嫌なのは分かっているが、お前なら『規則なら仕方のない。やるからには完璧にやれ』っていつも言っているだろ? どうしたんだよ?」


 検査させないことをこれ以上不審に思わせてはまずいと思ったのか、ジュダスも渋々背中を見せる。


 男性は、ジュダスのファスナーを開ける。背中を露出させると、背中の中央にリンゴに似た形の果実に、十字架の先をぶっ刺したようなタトゥーが刻まれていた。これがコイツの言う我らの証というやつか。俺は納得した。


 男性は、ジュダスの背中を触り同じように「ふむふむ」としばらく触った後、手を放す。


「よし検査は終わりだ。特にすまないな。ガール。いつもこんなことやらせて」


「……まぁいい」


 ジュダスはあまり語らず、返事する。男性も納得したのか踵を返す。


「じゃあ、もう部屋で休んでいいから!! 本当にお疲れさん!!!」


 男性はそう言って、ガールが入っている袋を担ぎ、どこかへ行ってきた。


 男性が遠くに言ったことを確認してから、俺はジュダスに聞く。


「ごまかせた……ということだよな?」


「ええ。おそらく。変身系魔術はDNA上まで完全再現されているから、あのタトゥーは紛れもない本物のはずよ」


 俺たちはヒヤリとしながら、先へ進む。この場を切り抜けたとしても時間はそんなにない。急いで探さなくては。


 ◇


 施設の中なんて俺たちが知っているわけなんてない。


 だからそれっぽい証拠がありそうな部屋を片っ端から探す。具体的に俺たちが想像している証拠とは、計画書のような書類をイメージしている。


 昨夜、ザ・シーカーズが俺たちを襲わせたように、ザスジーがタウンの住民をザ・シーカーズに売っていると仮定する。その場合、計画書やら何か書類のようなものでやり取りを残している可能性がある。


 例えば、エルフ族の中からヴェダを狙うなら、獲物を間違いないようにするために、ヴェダの見た目の特徴をまとめた書類があるかもしれないし、それ以外にザスジーとザ・シーカーズがやり取りしている書類が残っていればそれも証拠になりえる。


 もちろん、書類だけ限定していない。証拠になりえるものがあればそれを必死に探すだけだ。


「これは……!?」


 ジュダスが何かを見つけたような声がした。


「どうした? 何か見つかったのか!?」


 俺はさっそくジュダスに尋ねる。


「いえ……これは、証拠に関係ないものよ。期待させてごめんなさい」


 ジュダスがそう言うと、薬瓶くすりびんのようなものをポケットにしまった。


「そうか……いや、いい。そう簡単には見つからないだろう。気を取り直して探し直そう」


 そう言って、探す作業に戻ろうとしていた。だがその時―。


 ガチャ!


「あっ! ここに居たの! ガールとジョージ。アンタたちここで何をやっているの?」


 俺たちが必死に書類を探している中、知らない女性が扉を開けて部屋に入ってきた。


「(やべ……どうやって切り抜けよう)」


 俺が悩んでいたところ、女性の話は続く。


「しかも……アンタたちがプライベートでも一緒なんてなんか変ね……」


「そ、そんなことよりお前何しに来たんだよ? 俺たちを探しに来たのか!?」


 俺はこれ以上自分たちのことを聞かれないために、話題を切り替えようとする。


「アンタじゃなくて、正確にはガールだけだけど、リーダーが突如集会を開くってことだから、集まろうとしているの。だけど、部屋にガールがいないし、集会にもいなかったから探しに来たのよ」


 その女性は俺の質問の内容を返答した後、ジュダスに向けて顔を向ける。


「そうだったわ!! わざわざ探させてごめんなさい! なら行きましょう!!」


 ジュダスは思い出したような演技をし、その場のノリに合わせようとする。


 ジュダスがその女性ところに行き、集会に行こうとする。するとその女性は俺の方に振り向く。


「ジョージ。アンタも来るのよ。これは全員参加なんだから」


「ああ。そうだな!! いや、たった今、俺も出ようとしていたところだよ!!」


 流石に俺だけ部屋に残るわけにはいかないか。


 まぁジュダスを一人にするのは心配になるから一緒に着いていくのはいいかもしれない。変身できる時間もまだあるし、焦る段階じゃない。


 俺とジュダスは女性の後に着いていくように歩く。女性は歩きながら、俺たちが部屋にいた理由を聞いてくる。


「ところで、なんでアンタたち資料室にいたの?」


「いや、ちょっと探し物していてな……ガールにも手伝って貰っていたんだ。そんな大した物じゃないから、気にすんな」


「へぇ……まぁいいっか。それより全メンバー集めるなんてリーダーなんのつもりなんでしょうね?」


 女性は俺たちが資料室とやらにいた件をあまり深掘りしようとはしなかった。よかった。コイツが思ったより馬鹿そうな奴で。


 やがて倉庫のような場所にたどり着く俺たち。ここがコイツの言う集会場なのか?


 そこには俺たちと同じような恰好をした、ザ・シーカーズのメンバーが集まっていた。


 ここの集会場は、一階には広場となっていて、二階にはライブ会場のように手すりが設けられているような造りだった。一階には数十人くらいのメンバーが集まっていて、二階には、手すりに寄りかかっている何人かのメンバーが下を見下ろしている。


 そして、一階の中央には高級そうなソファーが設置されており、身長二メートル以上はありそうな男性が腕を広げて座っていた。


 明らかにコイツがリーダーであるような雰囲気を漂っていた。


 やがて、リーダー格のような巨漢がゆっくりと周りを見渡した後、口を開ける。


「よし……そろそろ、集まったところか」


 巨漢は、ゆっくりと喋るが、その声は低くて威圧感のある声だった。見た目とその一言だけで、このザ・ならず者集団をまとめ上げていることに納得できるほどの威圧感を放っていた。


「はじめようか。今日お集まりいただいたのは、他でもない。仕事だ。しかも、メンバー全員でする大きな仕事に入って貰おうと思っていてな……」


「メンバー全員!?」


「大きな仕事!? また、いつものお得意さんから依頼でも来たンですか!?」


 メンバーがそれぞれいいリアクションを取ってくれる。


「(仕事か……呼ばれたのはいい機会かもしれない。大きな仕事とやらの内容次第では、ザスジーとザ・シーカーズが繋ぐ手がかりを得ることができるかもしれない)」


 この集会はできれば避けたいと思っていたが、結果的には、参加して良かったかもしれない。俺はそう思い始めていた。


「いや、今回の仕事は、いつもの依頼形式ではない。アジトの大掃除だ」


 巨漢は、ピースサインをして話を続ける。


「ゴミが二つあるんだよ。大きなゴミが二つほどな。それを片付けるのに全メンバーに集まって貰った」


「ゴミ? ゴミってなンですか? そんな大きなゴミってこのアジトのどこにあるンですか?」


 メンバーの一人が巨漢に尋ねる。


「ああそれはだな~」


 そして、巨漢は、ゴミの内容を説明しようとしながら、突如、顔をグルンっと振り向ける!


「ゴミとは、お前らのことだよ。ジョージ。ガール。いや、インチキ教祖とジュダス・トルカ」


 仲間の印? このタトゥーどこかで見たことが?

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