13.「変身系魔術」
真夜中になった頃だろうか、森の中で俺とジュダスは一旦隠れていた。担いでいた奴らは依然として気絶したままだった。
「タウンの住民が俺たちを探すにしてもこの森の中なら時間がかかるだろう」
「そろそろ聞かせてくれないか……こいつらのアジトを探す方法を?」
ジュダスは、キョロキョロと周りを見つめ、安全であることを確認してから口を開く。
「そうね。結論から言うと変身系魔術を使って、こいつらの身体に刻まれた魔術の中から、アジトまで案内して貰おうと思うの」
「えっ? ごめんジュダスの言っていることがよく分かってねぇや。変身系魔術を使う? それがどうしてこいつらのアジトの特定に繋がるんだ?」
「そうね……実際に見せながら説明するわ」
ジュダスはそう言うと、ガールが持っていたナイフを手にし、自分の髪と服装の一部を切る。そして次にガールの髪と服装の一部を切る。
「これから変身系魔術を行う。まずは、私の髪の毛を使って、ガールを私に変身させる。理由は、獲物を捕獲したように手土産として、シーカーズに渡すの。次に私がガールに変身させるわ」
ジュダスはガールの猿ぐつわを首の下まで外す。そしてガールの口を開け、切った自分の髪と服装の一部を口の中で押し込む。
「これで、発動条件を満たした」
ジュダスはパシッと音を立てて合掌のポーズをする。
「変化観音」
そう唱えてからジュダスはガールに触れる。するとピカッと光りガールの身体に変化が起きた。モヒカンの髪型は、金髪のナチュラルボブへと変化し、身長もジュダス並みに縮んだ。
つまり、姿がジュダスへと変わったのだ。しかも、服装まで、ジュダスが今着ている、チャイナドレスのような黒い服装へと再現されている。
「魔術名【変化観音】。さっき言った変身系魔術。別名カフカ魔術とも呼ばれている」
「この魔術は変身したい対象のDNAを一定量、口に摂取することで、変身が可能となる」
「変身した姿は対象のDNAと完全一致となる。つまり、このガールはDNA上では、完全にもう一人の私となっているのよ。変身を保持していられる時間は変身してから最大24時間まで。術者の意思でこの時間より前に変身を解除できるけど、一度変身した者がさらにもう一度、変化観音を使うには、最低24時間待つことと、DNAを再度摂取する必要があるの」
「なるほど、つまり何度もそう簡単に変身できないということか……」
「ええ。でっ次は、私の番ね。変化観音」
ジュダスは、ガールの髪と服装の一部を口に入れて、合掌のポーズをし、魔術を唱える。すると今度は、ジュダスの身体がピカッと光ったのちガールへと姿を変えた。
「ええ。ここまでは順調ね。問題はアジトまで案内する魔術があるかどうか……あったわ!」
ジュダスはガールの姿で何かを考えるようにボソボソと話す。声色まで変わっているので、ジュダスがジュダスじゃないような気がした……いや、DNA上では、別人となっているけどさ。
「十字架を負う」
ガールの姿をしたジュダスはそう唱えた。唱えたと同時に手の甲から手よりやや大きい十字架の形をしたエネルギーの塊が発生した。これは、ヴェダが地図アプリのようにタウンを目指して使っていた魔術だった。
「おさらいだけど、魔力は第二の血。変身系魔術を使うということは、魔力まで変身対象者と同じになることを意味する。つまり今の私はガールと同じ魔術を使えることになる。……まぁ魔力の出力量は限られるし、上級魔術は使えない制限があるから全ての魔術を使えるわけではないけど」
「でもこの低コストの魔術程度なら使える。これは方位系魔術の一種で、自身の魔力でマーキングした場所まで案内する魔術よ。つまりこれがあればアジトまで行けるってこと!」
「おお!! やったな!! 流石ジュダスだ!!! おまけにこいつらの姿なら堂々とアジトの中で動けるし、良いこと尽くめじゃないか!!」
「インくん。油断は禁物よ。姿だけが一緒なだけで、こいつらの癖とか私たちは知らないのだから。やはりアジトでは、人との接触は避けるべきよ。バレないためにも」
「分かっている分かっているって。よし! 俺はさっそくジョージに変身すればいいだな」
「ええ。あっ、言い忘れていたけど、服装まで再現する気なら、髪の毛と一緒に服装の一部を口に入れる必要があるから!」
俺はジュダスの話を聞きジョージの髪と服装の一部を切り、それらを口に含む。そしてジュダスと同じように変化観音を発動し、俺はジョージへと変わる。
「よし! さっそく向かうぜジュダス!! ……いや、今はガールと呼ぶべきか。ジョージはこの場で置いておこう。必要なのは、ジュダスに変身させたガールを手土産にアジトに潜入すればいいからな!!!」
「ええ!!!」
俺はジュダスの姿をしたガールを担ぐ。俺とジュダス(今はガールの姿)は十字架を負うが指し示す方向へと歩く。
ここまで特に計画に支障がなく、俺たちの思い通りに運んでいた。
だからこの先も上手くいく自信があった。だが……俺たちは油断していたんだ。ザ・シーカーズを。ザスジーを。侮っていたんだ。
この時の俺たちは気付いていなかったんだ……蜘蛛の糸に引っ掛かる獲物のような道を歩いていたことに……
不穏な予感