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8.「ザスジー・バイブル」

 夕闇が夜の暗さへと変わっていく頃、タウンのある集落で、住民たちが一箇所に集まっていた。


 その中心には、椅子に座っているザスジーと膝を地面に座らされているヴェダがいた。


 ザスジーはふんぞり返るような姿勢で椅子に座り、前方のヴェダを漆黒のサングラスから見下していた。


 ヴェダは判決を待つ被告人のように視線を下に成り行きを任せていた。


「なんで呼ばれたかわかっているな。ヴェダよ。この裁判の目的は、お前がタウンから抜け出した件についてどのような措置をとるか決めるためだ」


「それで? なぜタウンから抜け出したことを黙っていたのだ?」


 ザスジーは口を開き、ヴェダに問う。その口調には若干のイライラが混じっているような声のトーンのため、ヴェダは余計に委縮いしゅくしていた。


「抜け出したつもりは……ありません。外で調達部を待っていたら……突然、わ、()()()()連れ去られたのです。そうあのシーカーズ共に。……マスター! やつらがタウンの近くにいたのです!!」


「なるほど。シーカーズの件は一旦置いておこう……我輩が聞きたいのは、なぜ、許可なくタウンの外に出たのか? そこを聞きたいのだ」


「きょ、許可はありました。マスター。十一使徒のネッシンア様から命令を受けました」


「『ヴェダ。あなたが調達部を出迎でむかえなさい。タウンの外に出ると結界術が反応するけど、わたしからマスターに説明するから大丈夫』だと」


「なぜ、わたしが調達部を待つ必要があるのか、その理由を聞いてもはっきりとは答えて貰えなかったのです。ですが、それくらいの命令ならば、従おうと思いまして、外で調達部をお待ちしていたのです」


 ヴェダは、何かを探すようにキョロキョロと顔を動かす。


「ネ、ネッシンア様は? ネッシンア様はこの場にいらっしゃらないのですか? ネッシンア様に尋ねれば裏が取れます!」


「十一使徒のネッシンアとマッテヤの二人はこの場にいない。二人とも別件で忙しいのだ。つまるところ、ヴェダ。お前は、ネッシンアのせいで、シーカーズに連れ去られた。ネッシンアが悪い。そう言いたいのだな」


 ザスジーはサングラスをクイっと直す仕草しぐさをして、ヴェダの話す内容を勝手に結論付ける。

 

 ヴェダはあわてて、手を振り、ザスジーが言ったことを訂正するように弁明する。


「いえマスター! ネッシンア様が悪いと言いたいのではなく、ただ、わたしはタウンの外に出た理由を述べただけでありまして、決してタウンから逃げようとかそんなことは一切考えていません! 誓っても言えます!!」


「愚か者がッッ!!!」


 ザスジーがいきなり大声を上げる。ヴェダは突然の大声にビクッと驚き、口を閉じる。そしてゴクリとつばを飲み込む。


「ネッシンアに言われたから外に出た! シーカーズに連れ去られたからタウンから離れた! なんでも誰かのせいにするのだな!!! お前は」


「ネッシンアに言われたから思考停止に従ったのか。お前は? 本当にタウンから外出していいのか、我輩に確認しようと考えなかったのか! ……じゃあ、なんだ? 仮にネッシンアから『死ね!』と命じられたら思考停止に死を選ぶというのだな。お前の理屈だと」


「(それとこれとは話が違うのに……タウンの近くならシーカーズに捕まるとは思わなかった。油断していたことは、言い逃れできない事実だけど、調達部を待つ程度の命令でこんな大ごとになるとは思わなかっただけで)」


「お前の心の声を当ててやろうか? ……今こう思っているだろう。『それとこれとは話は違うのに』だと」


「なっ!!?」


 ザスジーは指を差し、ヴェダが考えていることを的中させた。ヴェダは当たっていることが分かるほどの動揺が態度に出ていた。


「まったく……まるで反省の色が薄いな。お前は。シーカーズに連れ去られた件でもそうだ。過去あれだけの住民が被害にあったというのに、タウンの近くだからと油断をしおって」


「いや、本当は、これを機にタウンから逃げようとしたのではないのか? お前は。ネッシンアの命を口実にタウンから離れようとした。その道中に奴らに捕まった。事実はそうではないか?」


「で、ですからそんなことは決してありません! わたしはタウンから逃げるつもりはなく、本当にタウンの近くで待機していたらいつの間にか眠らされて」


「我輩が生きていた()()()()では、こんな言葉がある」


「『過去を忘れる者は過ちを繰り返す』」


「哲学者でもあり、詩人でもあった、ジョージ・サンタヤーナの名言だ。ヴェダ。今のお前がまさにそれではないか」


 ヴェダの弁明を無視し、ザスジーは持論を続ける。


「命じたネッシンアも連れ去ったシーカーズも悪いところはあった。……でっ、それがどうした?」


「何も考えずにタウンから出たお前は本当に悪くないのか?」


「タウンの外では、奴らに狙われる危険性があったのに、油断していたお前は本当に悪くないのか?」


「お前のように自分の非や問題から目を背けて、周りを責めるような考えを何と呼ぶかわかるか?」


 ザスジーは話す内容を一旦止める。そして、強い口調で次の言葉を話す。


他責たせき志向しこうと呼ぶのだッッ」


「(ああ……もうだめだ。マスターに何を言っても聞いてくれない。マスターはどうしてもアタシを責める方向に持っていきたいんだ。お赦しされるにはもう()()しかないのか……)」


 ザスジーに責められ続け、ヴェダの心の中では、諦観ていかんの境地に入っていた。


「今回のお前の罪を整理しよう」


 ザスジーはそう宣言すると、何かの魔術を発動するように、左腕を前に伸ばす。そしててのひらを天に向けて大きく広げた。


「ザスジー・バイブル」


 そう唱えると掌から手より少し大きい魔法陣が発生する。


 すると魔法陣から鮮血のような赤い色をした分厚い本が一冊現れた。ヴェダが着ている服装の色よりも、血を連想させるような赤い色だった。


 やがてその本はザスジーが触れてもいないのに、パラパラと自動でページがめくれた。ページの動きが止まったところで、ザスジーは本を見ながら内容を読み上げる。


「お前が犯した罪はザスジータウンからの脱走。これはザスジー・バイブル128の教えに反する。これに対する罰は、我輩が許すまで、ひたすら肉体に痛みを与える刑となるが……」


「ハァ……ヴェダ。お前には失望した。タウンから逃げようとしただけではなく、この期に及んで、自分は悪くない周りが悪いと主張するお前には」


「他責志向であることはザスジー・バイブルの教えに記載していないから罪ではないが……正直言って、罰を与えるのも馬鹿馬鹿しくなってきた。改心する見込みのない奴に罰など与えても無意味だからな」


 ザスジーは呆れたのかような態度を見せ、顔をヴェダから背けて横に向ける。


「マスター!!!」


 ヴェダは大声でザスジーに呼びかける。ザスジーがヴェダに顔を向き直した後、ヴェダは慎重に言葉を選ぶようにゆっくりと語る。


「ば……罰を……罰をお願いいたします。どんな罰も受けますから」


「ほぅ……罰を受けるというのか、我輩は罰すら不要だと思っていたが……ヴェダ。あくまでお前の意思で罰を受けたいと言うのか?」


 ザスジーは興味を持つようにヴェダに向けて口元を緩める。


「(そう言ったって、この裁判の目的はアタシに罰を与えることだ。タウンから脱走しようとした住民、つまり信徒を見せしめにして脱走者が出ないようにするために。つまり罰を与えることは始めから決まっていたんだ)」


 ヴェダはこの裁判が始めから仕組まれていたことを理解した。しかも、ザスジーから罰を言い渡すよりヴェダ本人から罰を与えるように言うのをザスジーは待っていたのだ。


 だが、罰を受けるしかこの場を収めるしかないことを理解し、ザスジーの望み通りに罰を受ける選択をした。その結果、死ぬことになったとしても……ヴェダは止められなかった。


「はい。罰を受けます」


 ヴェダは懇願こんがんするように土下座した。その姿を見たザスジーはニヤリと笑みを浮かべる。


 ザスジーは椅子から立ち上がった。今度は周りを見渡し、周りに向かって大声で問う。


()()の皆よ! ヴェダは自ら罰を受けたいと言っているが、皆の判断も聞きたい!! 十一使徒の諸君はどうだ? それ以外の信徒たちもどうだ?」


 信徒。それはタウンに住む住民のことを指す。インチキ教祖たちのようにお客様がいる前では、信徒のことは信徒と呼ばずに住民と呼ぶのが慣例だが、本来は住民とは呼ばずに信徒と呼ぶのがタウンの決まりだ。


 十一使徒。それはザスジーから選ばれた十一の幹部クラスの信徒を指す。タウンに住む信徒ならどんな種族だろうと選ばれる可能性があるとされているが、設立当時からこの四年間、人間以外の種族がその地位に就いたことはない。


 呼ばれた十一使徒。マスターの背後にいる9人の人間の男女からザスジーの問いかけに返答する。


「……罰を……与えるべきでしょう……」


 初めに返答した者の名は、ペトロス・スミンテウス。


 見た目は、ザスジーと同じくらいの背丈で、肌が白く、髭をボウボウに生やした寡黙な雰囲気を感じさせる中年男性だ。


 彼は、十一使徒の中でマスターの一番弟子であり、つまり事実上ナンバーツーの地位にいる男性だ。


「同じくッッ! 罰をさっさと与えればいいんだよコイツには!!」


 声をあららげるように返答した者の名は、アンドレ・ミタノウロス。


 見た目は、インチキ教祖と同じくらいの背丈で、肌が黄色く上半身は裸の男性だ。


 二本の刀剣をX字になるようにベルトで固定し背中に携えていることが特徴だ。


「本人が罰して欲しいと言うのなら、止めはしません」


 そう返答した者の名は、ヤーコボ・ティグリ。肌が黒く、まじめそうな印象を抱かせる男性だ。


「兄者と同じ意見だわ。ヴェダがそう言うのならそうしましょう」


 そう返答した者の名は、ヨハネア・ティグリ。先ほど返答した、ヤーコボ・ティグリの妹だ。


「彼女の犯した罪は看破できない。罰を与えるのは至極当然だ」


 そう返答した者の名は、フイポッリ・ドラコ。眼鏡をかけた男性で、ザスジーと同じように眼鏡をクイっと直す癖がある男性だ。


「罰ねぇ~う~ん♡ 僕は彼女がどんな叫びをするのか、楽しみだよ♡」


 そう返答した者の名は、ナタナエル・ピュウトン。獲物を前にした獣のように、口舐くちなめめずりする男性だ。


 変態そうな性格を抱かせる印象を持つこの者は、タウンの女性信徒たちから不人気であることに本人は気付いていない。


「コラ! ナタナエル。不謹慎ふきんしんですよ!! 私は……罰を与えるか与えないかは多数決で決めればよろしいのではないのでしょうか?」


 そう返答した者の名は、マテオ・アニュス。自分の意見を言いたがらない小心者のような印象を抱かせる男性だ。


「ヴェダがタウンの外で生きたいと言うなら、行かせればいいじゃないでしょうか? 最も外の世界で長く生きられるかは不明ですが。自分は罰を与えることは反対ですね。罰を与えてもまた脱走しようとすると思いますから」


 意外にもヴェダに罰を与えない派で返答した者の名は、アルファイ・ダーウィン。男性だ。


「罰を与えたらヴェダの罪を許す? 話をそんな簡単に終わらせてよろしいのですか? それより、捕まっていたヴェダがシーカーズからどうやって逃げられたのか? 私はそこが気になるのですが……」


 現在、この場にいる十一使徒の中で、最後に返答した者の名は、タータイ・ハルピュイア。女性だ。


 彼女は罰を与える、与えないで本件を終わらせる前に、もっと、ヴェダの件の深堀りをすべきではないかと意見を提示している。


「罰だ! ヴェダに制裁を!」


「ザスジー・バイブルの教えに反したものには罰を!!」


「ヴェダを許すな!!!」


 十一使徒の発言が一通り終えたところで、今度は、周りの信徒たちがヴェダに罰を与えるように口口くちぐちに言う。周りの信徒たちの中にヴェダに慈悲を与えるように発言する者は誰もいなかった。


 パンッ!!


 いきなり大きな音が鳴った。その音の正体は、ザスジーが拍手のような手の形で、両手を打ち合わせた音だった。大きな音が鳴ったあと、一斉に信徒たちは発言を止め、場は静かになった。


 ザスジーは左手で持っていたはずの本を手放した。本来は、重力に従い、本は地面に落ちるはずだが、なんらかの魔術を使用しているためか、本は落ちずに、空中にとどまっていた。


「信徒の皆よ! 意見をありがとう! ほとんどの者が罰を与えることに賛成だとわかった。そしてなにより、ヴェダ自身が、自分の罪に悔いて、罰を受けることがお望みだ。我輩は、ヴェダの責任を取る姿勢には拍手を送りたい!! お望み通り罰を与えようではないか!!!」


 そう宣言すると周りの信徒たちは一斉にパチパチパチパチと拍手をした。


「では、これにて裁判は閉廷だ!!! 以上!!! 解散!!!」


 ザスジーが終了を宣言すると周りの信徒たちはぞろぞろとその場から離れていった。周りの信徒たちがいなくなった後、その場に残っていたのは、土下座したままの姿勢でいるヴェダとそれを高い身長から見下ろすザスジーだけとなった。


 サングラスの隙間から見えるその目は、ヴェダをさげすむような冷酷れいこくな目をしていた。


 やがて、ザスジーは左手から魔法陣が発生させ、本を収納するように、ザスジー・バイブルはその魔法陣に吸い込まれるように消えていった。本が消えたあと、ドスンと椅子に座り直した。


 その後、椅子に寄りかかり、リラックスするように左足を右足の上に組み、ヴェダをしばらく観察した後、ようやく口を開く。


「フン! そろそろ顔を上げてもいいぞ。姿勢もリラックスできるように崩してもいい。我輩は、お前と話がしたいのだ」


 ザスジーからそう言われた後、ヴェダはゆっくりと顔を上げてザスジーを見つめる。だが膝は正座したままだった。


「さきほど、面白そうなお二方がこのタウンに泊まりに来たぞ。一人は、我輩と同じ人間。もう一匹は、お前と同じエルフだ。お前なら誰か心当たりがあるのではないか?」


「(人間とエルフの二人!? ……まさか、インチキ教祖さんとジュダスさん!? 二人がこのタウンに来たってこと!?)」


 ヴェダは表情から悟らせないように精一杯せいいっぱい反応を顔に出さないように努めていた。だが、ザスジーはヴェダの顔を見てフッと笑う。


「いや、わざわざ答えなくてもいい。そんなところだろうと思っていた。そもそもお前がどうやって、シーカーズから逃げられたのか不思議だったからな。だが、これで腑に落ちた。インチキ教祖とジュダスが言っていたぞ。シーカーズと戦ったと」


 ザスジーは、己の推理をヴェダに披露ひろうする。ザスジーはそのまま推理を続ける。


「状況はこうだろう。シーカーズに捕まっていたお前は、たまたま道中でインチキ教祖たちに助けられた」


「つまり、お前とインチキ教祖たちは知り合いの関係だ。お前がこのタウンのことをどう吹き込んだのかは知らんが、インチキ教祖たちは旅人のフリをして、このタウンに訪れた。目的はヴェダ! お前を探すためだろう!!」


 ザスジーに指を差され、ヴェダは動揺する。実際にインチキ教祖たちと出会った経緯けいいは当たっていたことも併せて。


「まぁ……我輩に迷惑さえかけなければ、どんな目的だろうと……このタウンに来るのは許そう」


 ザスジーは、いつもの癖で、サングラスを左手で、直す仕草しぐさをしようとする。しかし、今回の左手は、いつもとは違い、怒りを堪えるようにプルプルと手を震わせていた。クイっと直す仕草しぐさをした後、表情を豹変ひょうへんさせる。


「だが、我輩が許せないのは、握手を拒んだことだ!! しかも変な理由で!!! 偉そうにな!!!」


 ザスジーは左手を握り、椅子の肘掛けに向かってドン! と叩く。肘掛けにヒビが入るほどの威力だった。突然の大きな音にヴェダはビクッと身体が一瞬震えた。


「信者がエルフ一匹だけの弱小教祖が!!! よくもまぁ~あんなデカい態度を取れたものだ! おかげで信徒の前で恥をかいたではないか! あああ今思い出してもムカムカする!」


 ザスジーは早口でくどくどと愚痴ぐちを並べる。ヴェダはザスジーの怒りの矛先が自分に向かないようにするため、ここは静観していた。


「フン! このままタダでタウンから出られると思ったら大間違いだ!! 我輩にナメた態度を取ったことを奴らは後悔することになろう……」


「なっ!? マスター! インチキ教祖さんとジュダスさんには、何もしないでください!! 彼らはマスターのことやこのタウンのことを勘違いしているんですよ!! わたしから彼らに説明させてください! 彼らが納得さえすればそのまま穏便にタウンから出て貰えるはずです!!」


 ザスジーがインチキ教祖たちに良からぬことをするような言動を取ったので、ヴェダはインチキ教祖たちと知り合いであることを隠すよりも、かばう方向で対応する。



「フッ勘違いするなよ。我輩が奴らに手を出すことはない。だが、今までもタウンから脱出しようとした信徒は誰一人生き残れなかったよな? お前を除いて。それはシーカーズの餌食えじきとなるからだ。逃げようとした今までの信徒たちのように、インチキ教祖たちもタウンから抜け出した後、奴らの餌食となるかもしれん」


「そして、いつも通り、首、もしくは遺体の一部をタウンの入口前に置かれるのかもしれないなぁ~」


 ザスジーはニヤニヤしながらインチキ教祖たちの末路を楽しそうに話す。ヴェダはその笑顔を見て、ある考えが浮かんだ。


「(な、なんで、信徒たちがシーカーズに殺されてきたのに楽しそうに笑えるの? ……ま、まさかマスターとシーカーズはグルだった!? ……となると、アタシが捕まったことはマスターの計画のうちだった!? そして今度は、インチキ教祖たちを標的に!?)」


「おっと、少し話が過ぎたな……そろそろ終えようではないか。お前は罰を受けると言ったのだ。この後、()()()に向かえ」


 ザスジーはそう話すと、椅子から立ち上がり、その場から離れようとする。


「マスター! 待ってください!! 命の恩人なのです!! インチキ教祖さんとジュダスさんは!!! だからー」


 ヴェダはインチキ教祖たちを守るためにマスターの足を止めようとする。その結果、ザスジーの怒りが自分に向けられることになったとしても。


 ヴェダの声に反応するようにザスジーは歩みをピタッと止めた。そして、顔をヴェダに振り向ける。


 ヴェダは自分の話を聞いて貰えると思い、一瞬ホッとするヴェダ。だが、その希望はすぐに打ち砕かれることになる。


「そういえば、お前一人称をアタシではなく、()()()に治したな。癖であった、語尾のなんとかッスも言わなくなったし、いい成長ではないか。あの話し方は馬鹿っぽいし、実に不愉快ふゆかいだったのだ」


 それだけ言ってザスジーは歩みを再開した。ヴェダは話をして貰うために、何度も「マスター、マスター」と呼ぶがザスジーはその声を無視し、歩み続ける。


 そして、ザスジーは夜の闇の中へと消えていった。


 次回は痛そうなシーンがありますので閲覧注意です

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