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4.「マスターのところに戻らないと」

「ヴェダさんありがとうございます。ヒーラーに出会えたのは不幸中の幸いでした。何せ、ヒーラーはスキルタイプの中ではコネクトの次に希少だから」


「ああ……そういえばそうだったな」


 スキルタイプの一つであるヒーラー。特徴は、回復系魔術が得意なスキルタイプだ。


 様々な魔術を修得しやすいオールラウンドと比べると、ヒーラーが修得しやすい魔術は回復系魔術に特化される。


 しかし、その回復系魔術クオリティの高さは、他のスキルタイプのそれと比べると追随ついずいを許さない。


 例えば、オールラウンドの回復系魔術は、一つの魔術に魔力を多大に消費するが、ヒーラーの回復系魔術は同じ回復系魔術を行使したとしても魔力の消費は軽少となる。さらに回復系魔術をより深い専門分野まで、ヒーラーなら修得することが可能だ。


 しかし、その代償に回復系魔術以外の魔術は体質的に修得しづらい上に扱うのは苦手とのこと。


 例えば、俺が先ほど使った魔術である雷音。雷音はヒーラーでも頑張れば修得できるが、使用した場合、オールラウンドよりも魔力の消費量が大きくまた、術の威力も落ちる。つまり戦闘には向いていないスキルタイプだ。


 そんな回復専門のイメージがあるヒーラーであるが、このスキルタイプに該当する者は少ないらしく、一つのグループや組織には必ず一人は欲しいとされるほど貴重なスキルタイプとのことだ。


 最後にヒーラーの利点をもう一つ付け加えると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これはヒーラーが一人いれば、大勢の者たちを回復系魔術で救えることを意味していると言えよう。


「いやぁいやぁ~助けてくれたお礼として当然の対応ッス。……でもそこまで褒められると嬉しいッス。そうだ! せっかくだからジュダスさんもルルドで疲れ取りますか? ついでにアタシなら魔力の回復もできるッス!」


「魔力の回復まで!? ヒーラーとやらはそこまで出来るのか!? ……ならお願いしようかな?」


 ヴェダが良いと言うなら俺は素直にサービスに乗ろうとする。だが、ジュダスは少し悩んでいる様子だ。


「私は……」


「せっかくだから、受けてみたら? タダでヒーラーに治療して貰えるなんてお得じゃん。もちろん、ジュダスの意思に任せるけど。なあ? ヴェダ。当たり前だけど、金取る気ないよ~、うん?」


 ジュダスと話していてふとヴェダに話題を振る。すると、ヴェダの顔色が段々と蒼くなっていくことに気付いた。


「し、しまったッス。……こんなところにいては駄目なんだ……早く! 早く! マスターのところに戻らないと……」


 そう言いながら、ヴェダは極寒の中薄着でいるようにガクガクブルブルと身体を震わせていた。そしてその表情は怯えて歪んでいた。


 すると、ヴェダは突然、焦るように立ち上がり、荷車から降りて、どこへ向かうのか急に歩き出した。


「タウンは!? どっちの方角にあるッスか!? ああ。行き場所さえわかれば、落ち着け落ち着け落ち着け。そういえば、あるじゃないか? 渡したアタシの魔力を辿れば………………………………………………」


「駄目だ、マスターの居場所を感じることができない!? タウンまで遠すぎるんだ! どうしよう! どうしよう! どうしよう!」


 ヴェダは混乱したように怯えた顔で、ボソボソ話しながらその辺をウロチョロと歩き回る。俺とジュダスはそんなヴェダを見て明らかにただ事ではないと察する。


「ヴェダ? どうした? おーい。聞こえるだろう? どうかしたのか?」


 俺はヴェダの近くまで歩く。聴覚が人間より優れているはずのエルフが俺の呼びかけに反応しない。いや、聞こえていないはずはないのだが、あの怯えようから俺の声に耳を傾ける余裕がないようだ。


 俺は心配になり、強引にでもヴェダの肩を掴み目の前で呼びかける。


「おい! 落ち着けって! どうしたんだよ!!」


「うるさいッス! とにかく、アタシは今すぐにも戻らないといけないッスよ!!」


 さっきまで、人当たりが良さそうな(いや、相手が人じゃなくても優しいと思うけど)性格だと思わせたヴェダがまるで別人のように激しい剣幕へと変わり、俺の手を拒絶するように振りほどく。


 しかし、振りほどいた瞬間、我に返ったのか、気まずそうな顔つきへと変わる。


「申し訳ございません。インシュレイティドさん。ジュダスさん。急用でアタシは今すぐここから帰る必要があるッスよ……特にジュダスさん。サービスできなくなって本当に申し訳ございません。また、あなたたちに会うことができたら……今度こそ、サービスすることを約束するッス」


 俺たちに何度も頭を下げて謝罪するヴェダ。帰ると言うが、どこへ帰るのだろうか? しかもザ・ならず者集団に拉致されて移動されていたというのに、帰る場所なんて分かるのか? 


 そんな疑問をヴェダに聞こうとすると、ヴェダはハッと何か思いついた表情へと変わり手をポンと叩く。


「そうだった! クロス・スタッフを使えばよかったっス! なんで、こんな簡単なことに気付かなかったんだろう。アタシって本当に馬鹿ッス」


「クロス・スタ? って帰る場所わかるのか? 急用があるなら仕方ないが、送って行こうか!? お前はヒーラーだし、また変な奴らに捕まらないか心配なんだよな」


「……お気持ちはありがたいけど、そこまでして貰うのは悪いッス。捕まったときは油断していただけだから今度は大丈夫ッス」


 何が大丈夫なのか。俺たちの面倒をかけさせることが悪いと思っているのか、それとも根拠のない自信からからか、先ほど拉致されたばかりのヴェダは一人で帰ろうとしている。


 すると、ヴェダはなにやら、右手を前に差し出した。その手の形は、他者の頭にそっと手を置くような柔らかく広げた形だった。


十字架を負う(クロス・スタッフ)


 そう唱えたと同時に手の甲から手よりやや大きい十字架の形をしたエネルギーの塊が発生した。


 その十字架はやがて、左斜め前の方向に傾く。するとヴェダは傾いた方向へと走っていた。


 ヴェダは走りながら、俺たちに振り向き、お別れの手を振る。


「助けていただきありがとうございました~。いつかまた会おうッス~」


 俺たちもヴェダに向けて手を振る。


 俺たちに振り向きながら、走っていったためか何かに突っかかりさっそく転ぶヴェダ。


 心配になり、駆け付けようとしたら、すぐ起き上がり、俺たちに両手を挙げて丸を作るOKのサインを見せてきた。そしてそのまま走っていった。


 まぁ、彼女はヒーラーだから、傷ができても治せばいいだけなのだから大丈夫と言えば、大丈夫かもしれない。が、多少のドジっ子っぽいところも心配だが、やはり俺がヴェダを心配しているところは……


「なぁ……さっきのあの怯えよう……ジュダスはどう思う?」


 ジュダスも考えているのかすこし沈黙した後、口を開く。


「……ただ事ではなさそう。私もやるべきこと、大事なことを急に思い出したとき、あたふたすることはあると思うけど、にしても、あそこまでオーバーなリアクションはしないと思うわ。まるで()()()()を感じると思わせるほどのあのリアクションは」


「だよな……」


 俺はヴェダが走っていった方向を見ながら、顎に指を当てジュダスの意見に同意する。


()()し苦労ならそれに越したことはないけど。インくんはどうしたいの?」


 今度は逆にジュダスから問われる。俺はヴェダが心配なのとある考えが生まれてきているのをジュダスに話す。


「ヴェダを追いかけたい。そして……あいつを俺の信者に加えてみたい」


「……………………………………………………………」


 ジュダスは何か思うところがあるのか俺の顔を見たまま黙っていた。


 ◇


「夕方までに着くといいっスけど……」


 アタシは暗い森の中を歩いていた。拉致されたこともあり、暗闇から何かに襲われないか余計に心配だ。


 安全を考えて森を通らずに回り道や遠回りをする選択もあったが、それを選択する考えはアタシにはなかった。


 それよりも「早くタウンに着くこと、もっと言えば、マスターに気付かれる前に戻ること」アタシはその考えだけを優先し、自身の聴覚を活かして最大限、周りを警戒しながら歩く。


 魔術名【クロス・スタッフ】。分類は方位系魔術。


 この魔術は、アタシの魔力でマーキングした箇所を目的地として案内してくれる効果を持つ。マーキングできる対象は、生き物以外と限定されるが、アタシはそこまで不便だと思っていない。


 クロスが傾く方向が目的地への最短距離となるため、アタシはそれに従い進み続ける。


 するとアタシが歩いてきた道の後ろから足音が聞こえてきた。


「(ヤバい!?)」


 アタシは直感的に危機を感じた。先ほど拉致された経験もあり、余計に恐怖心も増していた。足音から察するに、同じエルフや人間くらいの身長サイズが二人ほどこっちに向かってくる。どうしよう?


 人間だとしたら、アタシを拉致してきた奴らの仲間かもしれない。なら、このまま隠れる? でも見つかったら捕まるかもしれない……なら走って逃げる?


 走っていた疲れを取ることと、視界は暗いので安全を考えて歩いていたが、ここは思いっきり走って森を抜ける選択をするべきか。また捕まったら今度は助からないかもしれない。ああ。森の中なんて進むんじゃなかった……と悩みと後悔で頭がいっぱいだったが、ふと脳裏をよぎる。


「(……待てよ? 二人? もしかして、こっちに向かってくるのは……)」


 アタシが思い当たる二人を考えていると、答えが現れるように、知っている声が聞こえた。


「お~い。ヴェダ~居るか? 俺だよ。インチキ教祖様とジュダスだよ~」


 インチキ教祖様? そんなフレーズ一度も聞いたことがないが、この声は間違いない。インシュレイティドさんとジュダスさんだ。


「お~い。こっちにいるッス!」


 アタシは安心して手を振って行ってきた道を戻る。すると前方に白衣に黄金色の羽織を着たインシュレイティドさんとこの暗闇だと服装が見えづらいが、横に深いスリットが入った黒いワンピースを着たジュダスさんが現れた。


「一体、どうしたッスか!?」


「いやぁ、あれからジュダスと話し合ってなぁ~やっぱりお前が無事に帰れるように送ることにしたよ」


「えっ!? そんな悪いッスよ。二人にも帰る場所があると思いますし、旅の邪魔になると思うと」


「いいのです。今の私たちに帰る場所なんてありませんし、ヴェダさんに何かあったらと思うと、私たちも気が気でないのです。だから一緒についていく方がかえって落ち着きますから是非送らせてください」


「それに俺たちの布教の旅は、目的地も決めてない自由気ままな旅だからな。それとヴェダがどこに住んでいるか興味があるんだ。自分の信者の住む場所くらい教祖ならば把握しときたいものだからな」


 二人はアタシが心配でお供するとのことだ。正直この二人がそばにいてくれるなら安心だ。嬉しい反面、少し複雑な気持ちもある。二人がタウンに入るにことになったらと思うと……マスターに会うと思うと……


 うん? 今話をスルーするところだったけど、気になるフレーズを聞いた。布教? 信者? 教祖?


「インシュレイティドさん……布教って何のことッスか?」


「インシュレイティドなんて呼ばなくていいよ。正直呼びづらいだろ? この名前……俺のことは、インチキ教祖と呼んでくれ」


「ヴェダ。お前もインシュレイティド・チャリティ教、略してインチキに入信しないか?」


 果たしてヴェダは入信するのでしょうか?

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