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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第2章ザスジータウン編

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3.「アタシが治しましょうか?」

(来る! 避ける!? 魔術で撃ち落とす!? いやガードだ!!)


 放たれようとする吹筒。一瞬の判断が迫られる中で、俺はガードするため、両腕を胸元で交差する防御の構え、クロスアームブロックをする。防御力を上げるため、魔力を大幅に出力し、それを腕にコーティングする。


 なぜ、避けようとするでもなく、魔術で撃ち落とすでもなく、あるいは、放たれる前に、スキンヘッドを先に仕留めようとする選択をしなかったのか。


 この時は一瞬で判断したため複雑な理由は考えられていなかったが、後から考えたら、もし避ける選択をしたらヴェダに当たる可能性があったこと、俺が避けることに気付いたら、標的をジュダスに向けられる可能性があることを俺は直観で察したのだと思う。


 後、魔術で反撃する案は、俺の魔術は強力だが、加減が難しく、ジュダスやヴェダが巻き込まれる可能性があった。


(最悪、生きてさえいれば、後で回復すればいい。こいよ! 撃ったらそれがお前の最期だ!)


 そう俺が覚悟を決め、遂に吹筒から矢が放たれる。すると、ジュダスが矢の射線上と俺の間に入り込む。


龍門飛鳥りゅうもんあすか


 ジュダスは一瞬でそう唱え、右手に手より少し大きい魔法陣を発生させ、その中央に鞘のようなものが出現した。ジュダスが愛用する刀剣だ。ジュダスは既に左手でその鞘を掴み、いつでも抜き出せる状態だった。


(大丈夫! この程度の矢なら、切り落とせる! インくんに傷一つつけさせない!!)


 おそらく、そのままジュダスに任せていたら、誰一人傷づかず済んだであろう。だが俺はジュダスが危ないと焦り、慌てて、前にでたジュダスの腰を後ろから掴み、俺の身体ごと90度回転する。


「えっ、なんで!?」


「悪りぃ、つい」


 ザクッ


 矢は、俺の背中に刺さった。しかも腕に防御の魔力を大きく割いていたので、その反面腕以外の防御力は落ちていた。そのため、矢は結構深く刺さった。下手したら前の身体にまで貫通しそうになるほどの深さに。


「ぐっ……」


「インくん!?」


「インシュレイティドさん!?」


 激痛に俺はその場でしゃがみ込む。すると矢を放ったスキンヘッドが息継ぎしながらもクククと笑う。


「ハァハァ、へっ、ざまぁみろ。俺たちは()()なら殺すつもりは無かったってのによ……いきなり殺しに来やがって……なんて外道な奴だ。だがこれでてめぇは終わりだ」


 ジュダスは魔法陣から刀剣を取り出した。刀の名は、龍門飛鳥りゅうもんあすか。刀の種類は、柳葉刀りゅうようとうと呼ばれる刀。刀身とうしんには龍の姿が彫刻されており、つばは、鳥の翼のような形をしていた。


 ジュダスは刀を持ちながら、スキンヘッドに近づく。


「……それが最期の言葉か? 終わりなのはお前だ」


 グサッ


 突き刺す音が聞こえた後、スキンヘッドが動くことはもうなかった。


「さっきまで気絶していたのに……もう起き上がってくるとは、この人間、もしかしてインファイター? いや、そんなことはもうどうでもいい。インくんは!?」


 ジュダスは片付けた後、急いで俺のところにまで戻ってくれた。ヴェダはあわわわと少し怯えていた。


 俺は自分の傷はそんなに心配していないので、ヴェダを安心させる方を優先する。まあ、かなり痛いけど死なないだろうから多分。


「大丈夫……きっと大丈夫。こんな矢思いっ切り抜けば後は回復系魔術を使えばいいだけだから。でも矢を抜くのには勇気がいるな……」


 少しでも矢を抜こうとすると激痛が走る。ジュダスに頼んで矢を抜いて貰おうか……と考えていると。


「これを抜けばいいのね。なら早く済ませましょう。舌をかまないように歯を食いしばって」


 ジュダスは、有無を言わさずうずくまっている俺の背中に足をのせ、思いっ切り矢を抜こうとする。


「ああん! まって! まだ心の準備が……せめて優しくムゥゥゥゥゥウモ!」


 ギュポ!


 という音ともに矢は抜かれた。無理に矢を抜いたから血はどくどく流れているが俺はすかさず自分の回復系魔術を使う。


 正確には、ジュダスから魔力譲渡を受けた上で手に入れた魔術なので、元々は、ジュダスが修得した回復系魔術だ。さっきの雷音だってそうだが。


 俺は数秒間そのままじっとして回復系魔術を使う。すると傷口は閉じた。痛みも引いていき。やがて立てるようになれた。


「ふぅ……」


「回復する時間がそれなりにかかった……もしかして、インシュレイティドさんのスキルタイプは、オールラウンドッスか!?」


 ヴェダは俺が立ち上がったのを見て安心し、質問してくる。俺は自分のスキルタイプをヴェダに隠す理由もないと思ったので素直に自分のスキルタイプを教える。


「いや、俺のスキルタイプはコネクトだけど。まあ、今の魔力はオールラウンドに近いと言えなくもないが、その辺口で説明するとややこしいんだよな……とりあえずコネクトだ」


「え、コ、コネクトッスか!? すげぇコネクトなんて生まれて初めて見ましたよ!! マジで実在するスキルタイプなんッスね!!」


 ヴェダが驚いたのも無理もない。


 スキルタイプ・コネクト。もはや実在しているかどうか怪しいとされるほどの希少なスキルタイプと言われている。


 他のスキルタイプ、オールラウンド、インファイター、ヒーラーの全貌が判明されている中、このコネクトだけが、未だに全貌が判明されていないらしい。かく言う俺自身もコネクトについて全て知っているかはわからない。だが、基本的な特性は流石に知っている。


 最弱かつ最強のスキルタイプ。俺がコネクトをそう表現したのを覚えているか?


 まず最弱な理由。それは、魔術をいくら勉強しても体質上、魔術を修得することができないのだ。他三つのスキルタイプが魔術を覚えられる中、コネクトだけが魔術を覚えることはできない。これを見れば、最弱なのは一目瞭然だろう。


 魔術は何も戦うためだけに存在するわけではないが、他三つのスキルタイプは魔術さえ覚えることができれば、究極的には一人でも生きられるだろうが、コネクトは一人だけでは魔術を使えないので、実用性の面で見ても不便この上ないだろう。あくまでコネクト一人だけならね。


 そして最強な理由。魔術を覚えることができないコネクトでも魔術を使えるようにする唯一の方法がある。


 それは魔力譲渡。コネクトは相手または自分の魔力を手渡しできる唯一の特性を持つ。最低でも触れること、そして魔力を渡す意思があることが条件だが、他者の魔力を自身(もしくは自身の魔力を他者に)に貰う(渡す)ことで魔力が混ざり、貰ったスキルタイプと今まで修得してきた魔術を受け継ぐことができるのだ。


 魔力を貰うとなぜ魔術を使えるのか? それも説明すると長くなるのだが、この世界では、魔術を修得する際は、魔力に刻むという行為が必要らしい。


 スマホ、PCで例えるなら魔力はストレージ容量であり、魔術はアプリだ。魔力にインストールが済めば魔術を使えるようになる。ゆえに魔力の中に魔術のデータが入っていると考えていい。コネクトはそのデータをコピーするイメージだ。


 現に俺は、オールラウンドのジュダスの魔力譲渡を受け、ジュダスが持つ魔術の数々と同等の魔術数を保持している。


 そういったうんちくをヴェダに話す。ヴェダは欲しかったおもちゃをプレゼントされる子供のように興奮した。


「すげぇ! コネクト半端ねぇ! 条件さえ満たせば全部のスキルタイプを兼ね備えるとかヤバすぎるでしょ! ちょっとインシュレイティドさんがうらやましいッス」


 話の途中でジュダスが「そこまで話していいの?」みたいな顔で心配をされた。確かに理由もなく自分の手の内をさらすなど、愚かとしか言いようがないだろう。こんなにペラペラと話していることに俺自身驚いている。


 だが、ヴェダの純粋な反応といい、裏表なさそうな性格といいこのなら話しても大丈夫だとどこかで安心しているのかもしれない。


 俺、自分では結構疑い深い性格だと思っていたけどなぁ。


「ところで、ヴェ、ダ……君帰る……あれ?」


 視界が急にぐらついてきた。やがて景色がドロドロと溶けるような景色へと変わり、何を見ているのかわからなくなった。しかも、立っていられなくなり、急に身体が倒れた。意識があるが、身体が凄く熱い。


「インくん!?」


「インシュレイティドさん!」


 二人が俺を心配する声がまた聞こえた。傷は癒したはずなのに……もしやこれは?


「……毒ッスね。インシュレイティドさんが行使した回復系魔術の対象はあくまで肉体の傷だけ。毒は別に毒から回復する魔術の使用が必要なんスよ」


「インくん。きついなら無理をしないで。毒を回復させるなら私が魔術を使うから」


 体調がきつい俺を心配し、ジュダスが毒を回復させる魔術を使うことを提案する。確かに回復系魔術で他者の治療はオールラウンドのジュダスでも可能だ。


 だが、ジュダスが覚えている回復系魔術はどちらかと言えば、応急処置のレベルであり、強い毒性や病気レベルの治療は、それこそヒーラーでないと対処できないと聞いたことがあるが……


「ならアタシが治しましょうか? 助けていただいたお礼としてもアタシに治させてくださいッス」


 ヴェダが治療の提案をした。


「あなたが!? そうね……そういえば、起きたとき自分のことヒーラーと言っていましたね。確かにヒーラーならこの程度の治療は造作もないけど……」


「早めの治療が大事ッス! この症状……ヒーラーの観点としては、悠長にしていられないッスよ」


 ジュダス自身も治療はヒーラーに見てもらうのが一番だと頭では理解していただろう。


 だが、悩んでいる暇がないと分かっているジュダスでもヴェダの提案に承服しょうふくしかねるようだ。


 俺は自分のこと疑い深い性格の方だと思っているが、それに対し彼女はどちらかと言えば、信じやすい性格だ。いや信じやすい性格だったと言える。


 彼女はインチキに入信する前に別の宗教に入信していた。が、そこはカルト宗教だった。家族関係が壊された痛みを経験したことにより、今の俺以上に何事にも不信の念を持つようになったように見える。


 うまく喋れない俺はジュダスの手を握り、「大丈夫だから」というメッセージを目で伝える。


 ジュダスは俺の目に気付いた。そして、ジュダスも勇気を一歩踏み込むような決意じみた表情に変わり、ヴェダの提案に乗ることにした。


「ごめんなさい。ヴェダさん。インくんの治療をお願いします」


 ジュダスの提案と俺の目を見たヴェダは肯定するように頷く。


 疑い深い性格は必ずしも悪いことばかりではないだろう。何事も疑ってみることは大事だ。だが、疑い過ぎるのもよくない。


 とはいえ、今すぐそれをジュダスに直せと強いるのは酷だと思った。ゆっくりでいいんだ。改善するのは。ヴェダの提案を吞んだジュダスに「ありがとう」というメッセージを目で伝える。ジュダスは俺の目を見て、握った手を少し強めた。


 ヴェダは俺の身体に触れ、なにか考えているようだ。どう治療すればいいのか、毒の成分など分析しているのだろうか。やがて、祈りをするポーズのように両方の掌を合わせた。すると


治療泉ルルド


 彼女がそう唱えると、合わせた掌に水を思わせるようなアクアブルーのオーラが纏うようになった。


 そして、合わせた掌をほどき、ビーチボールをトスするような感覚で優しく俺に向かって放つ。すると纏っていたオーラが俺の身体を覆いつくすほど大きくなり、俺の身体全体を包む。


(はぁ……落ち着くなぁ)


 そのオーラに包まれたときに生まれた感想はそれだった。他者から見れば、透き通った水の中にいるように見えると思う。


 肝心の中の感触はというと、プールのように冷たくもなく、かといって温泉のように熱くもなく、なんとなく少し生暖かさを感じていた。


 そしてそのオーラに包まれていると、体調が少しずつ良くなってきた。いつまでもこの中で浸っていたい。そう思えるほどの心地よい空間だった。だが、俺の体調が回復したのと同時に、そのオーラは俺の身体の中に染み込むように消えていった。


「終わったのか!?」


 元気になったとは言え、治癒が終わったのか念の為ヴェダに確認する。


「はいッス。魔術名【ルルド】。毒のみならず、傷も体力も一緒に治す回復系魔術ッス。ほら、毒だけじゃなく、疲れも一緒に取れたでしょ? せっかくなのでサービスしておきましたッス」


 ヴェダにそう言われ、俺は疲れまでとれたのか確認するため、軽く腕を左右それぞれに回す。さらに首を前後左右に倒す。俺は自然と笑みを浮かべる。


「本当だ……疲れまでバッチリ取れている。ありがとう。これはいいサービスだ」


 魔力は回復していないが、それ以外は、ヴェダと会う前より元気になった。そう言えるくらい調子が良い。


 ジュダスは俺が元気になった姿を見てホッと胸を撫で下ろすのだった。


 スキルタイプ・コネクトの説明分かりやすかったでしょうか?


 何やともあれ、インチキ教祖が元気になって良かったです!

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