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エピローグ:「インチキ教祖様」

「児童養護施設で赤ん坊の俺は置き去りにされた……いわゆる捨て子だった。俺は。親の名前も顔も知らない」


「前の世界で名乗っていた名は寺島光正。その名は親から貰ったものではなく、村長から貰った名だ」


 インチキ教祖は語る。寺島光正という名でいた頃の自分。自分のことを話したくなかった。つらい過去と大っ嫌いだった自分を思い出すことになるから。だが、インチキ教祖は自分のことをジュダスに聞いてもらいたかった。同情して欲しかったのか、理解わかって欲しかったのか、それとも何かしらの別の感情からなのかインチキ教祖自身わからないまま話を続ける。


「捨てられた施設で俺は育った。そこでの暮らしは最悪だった。職員は言いふらさないような俺のような気弱な子を教育と称して殴ったりした。全員がいじわるというわけではなかったが、おかげで職員たちが大っ嫌いだった。同じ施設で育つ子も一時は仲良くなる子ができても、一年くらいで退所する。最初は連絡とれても、段々と音信が不通となっていくのがザラだ。だから人と長期的に関係を築いたこともないし、築き方もわからない。35歳になった頃は、休日に一緒に遊ぶような友人はゼロで恋人もできたことがない」


 淡々と自分の過去を話す。インチキ教祖。ジュダスは無反応のままで聞いているかは不明だった。


「自分の人生が上手くいかないのをよく他人のせいにしていたよ。自分が恵まれないのは俺を捨てた親が悪い、職員の奴らが悪い。俺のやさしさに気づかない皆が悪いって。俺に大切な人が一人でも出来れば、俺は変われると思うのに、俺をわかってくれる人を大切にすると思うのに、なんで俺にそんな人が一人もできないんだ! ってね」


「何一つとりえがなかった俺は出自もあわせて、人から馬鹿にされることが多かった。承認欲求を飢えた俺は死ぬ前にある存在に憧れた」


 ごくりと生唾を飲むインチキ教祖。今から言うことは、ジュダスに嫌われるかもしれない。渡された魔力も返されるかもしれない。それでも……それでも言いたかった。


「カルト教祖だ。まさにあのウンコウのような。信者を騙し搾取してやりたい放題やって生きる姿に憧れた」


「カルト教祖ならば、信者からいくらでもしょうさんされる。カルト教祖ならば、嫌なことは信者にいくらでも押し付けられる。美人信者だってたくさん抱けるかもしれない。今まで嫌なことが多かった人生。その分俺はカルト教祖としていい思いしてやる! 社会への復讐ふくしゅうと自分を見てほしいという渇望かつぼうが根底にあったんだ」


「社会や他人から大切にされなかったから俺が他人を大切にするもんか! っていう考えだったんだ。……まあそんな考えだからモテないんだろうな。俺。不遇な生い立ちでもやり方次第でいくらでも人生良くできただろうに、そうわかっていたけど、そこから目を背けていたんだ」


「だが運悪いのか運が良いのかわからないが、前の世界でインチキを立ち上げるまえに見知らぬおっさんに殺された。そこで、この世界に転生することになったのだが、この世界でも懲りずにカルト教祖として、インチキ教祖として生きようとした。その中で、ジュダスお前と出会った」


「ジュダス。お前を真実教から脱会させようとしたのは、俺の信者にさせるためだった。そして、あわよくば、俺の愛人の一員に加えるつもりだったんだ。決して、ウンコウからお前を守りたかったからでもない。ましてや、真実教は間違った宗教だからという宗教家としてのプライドからでもない。そもそも真実教がカルト宗教かどうかなんて俺からしたらどうでも良かった。大事なのは、ジュダスお前が真実教をカルト宗教だと思わせて脱会させることだったからな」


 決して嘘ではない。当初の目的は完全にそれだった。だが今のインチキ教祖は別の考えが生まれていた。


「だけど……だけど、ウンコウを見てあんなカルト教祖になりたくねぇって思った。ジュダスお前を見て信者の幸せを考えないカルト宗教が教祖として幸せの道なのかって疑問に思った……ったく、インチキ教祖としてハッピーライフを目指すためにインチキを立ち上げたというのに早くも挫折しつつあるな。やっぱ俺ってちゅうはんでつくづく駄目な奴だよ」


 インチキ教祖は踵を返す。そしてジュダスに顔を向けお別れの口調で話しを終わらせようとする。


「長々と聞いてくれてありがとう。と言っても聞き流していただけかもしれないな。ごめんな。こんなに自分語りなんか聞かせて、俺もこんなに自分のことを話すのが初めてでさ。結局何を言いたいのか、話している自分でもわからなくなってきたよ。最後に一つ俺から言えることがあるなら――」


「幸せになってくれ。何かにすがろうとせず、自分の意思で考え選択し、ジュダスにはジュダスの人生を切り開いてほしいんだ。だから俺の信者にならなくてもいい。渡した魔力だって、俺にかまわずジュダスの元に戻してもいい。元々ジュダスのものだしな」


 インチキ教祖は笑顔を見せ、部屋からでた。ジュダスは先ほどから無反応のままだった。だが一つの涙がポロリと頬を伝ったように見えた。


 ◇


「どこ行けばいいのかな? 行き先なんて決めていないし、とにかく森から出ればいいからな。とりあえずお日様に向かって歩こうかな」


 随分長い一日のように感じた。だが外の明るさから察するに半日も経っていないような気がした。夜にはどんなモンスターが現れるかわからないから明るいうちに森を突破したいのだが。


「なんかノリでジュダスを家に置いてきたけど、あいつ大丈夫かな? ウンコウの敵討ち目的から真実教の信者に殺されなければいいけど……まあジュダスより強いエルフはいないみたいだし大丈夫『大丈夫なわけありませんよ』だろう」


 びっくりした。急に声を掛けられたこともそうだが、なにより知っている声を聞いたからだ。この声は間違いない。


 俺はすかさず振り返る。


「まったく、信者を置いていくなんてとんだ教祖様ですね。()()()()()()()


「え、な……んで?」


 言葉を失って、ありきたりな言葉しか出せなかった。先ほどまでの自暴自棄のような表情はなくなり、どこか落ち着きを取り戻したかのような笑みを浮かべて俺の後ろにいた。


「真実教は争いを好まず、殺生も禁じられているからって安全とは限らない。ウンコウみたいに教えをかくだいかいしゃくして、悪魔だから殺してもOKみたいな思想で襲ってくるかもしれない。今頃多分、真実教の中で、インチキ教祖様と私は、真実教に仇なす悪魔みたいな位置付けでしょうね。私だっていつまでもナレーザに居られませんよ」


「違う。なんで? と言ったのは、なんで俺の居場所をわかったのか? と、俺のことを()()()()()()()って……」


「あれ、インチキ教祖様は知らないの? 教祖様なのに? コネクトに魔力を譲渡した者は、渡したコネクトの中に自身の魔力を感じるの。そこからあなたがどこにいるか位置がわかるわ。マーキングしたように。まあ、道場での一件のように物理的に離れすぎると感じなくなるけど」


「それにインチキ教祖様というのは、あなたが呼べって言ったじゃない。最初に自己紹介したときに」


 そういえば、そうだった。「俺のことは、インチキ教祖と呼んでくれ」って俺が言ったのだった。そして、俺のことを教祖と呼び、自分のことを信者と呼ぶということは、それがジュダスの選択ということだろう。俺と共に歩むということが。もう会えないと思っていたのに、また一緒に居られる事実に頬が自然と緩んだ。


「ゴホン……よくぞ。俺の信者になることに決めたな。信者一号のジュダス君。我々はインチキを布教するため、森から出る必要がある。まずは、このナレーザから出発するぞ」


 指を前に向け教祖として宣言する俺。そしてジュダスもこのノリに合わせる。


「フフ。ハハアッ! インチキ教祖様。まず、ナレーザから出るには、呪文、もっと言えば、合言葉が必要なのですよ」


「合言葉?」


 合言葉が必要なんて考えもしなかった。誰に言うんだ? 門番? その辺の道を真っ直ぐ通れば森を出られると思ったのに、違うのか?


「あれ、最初に言ったの忘れました? このナレーザには、結界術を張っているのです。外敵を防ぐことも目的ですが、内からでるときも、そのままでは出られないのですよ。出るために鍵となるのが合言葉です」


 結界術? そういえばそうだったな。ジュダスが一緒にいないと下手したら一生ナレーザに閉じ込められた状態になってたかも? 良かった。ジュダスがいてくれて。


 数歩先ジュダスが歩くと、岩壁に立ち止まる。「この辺りね」と言い。合掌のポーズを取る。そして。


「マーゴケラーヒミサセプーオ」


 合言葉のようなものを唱えると同時に、合掌から何かを開くように両手を肩の位置までもっていき、掌を前に向けた。すると空間に裂けめが生じ、岩壁から切り裂き、道が生まれた。


「さあ、道はできたわよ。インチキ教祖様!」


「よし! よくやったぞ! ジュダスよ。いや敬虔なインチキ信者よ!」


 俺とジュダスはナレーザからついに出る。


「家族の絆はまやかし……そうかもしれない。」


 ジュダスは真っ直ぐ見つめたまま俺に話しかける。


「でもまやかしだったとしても、それでも私は信じたい。それこそ己の意思で宗教を信じるように。まやかしなら私がその絆を実現させる」


「……いつかあなたと共に」


 ジュダスは俺に顔を向け見つめる。最後の言葉をボソッと言ったからよく聞こえなかった。でも実はうっすらとは聞こえた気がする。聞き間違いでなければいいなと思った。多分今俺の顔少し赤面してるだろ。


「そうか。それが、ジュダスの選択か」


 俺は目を閉じ、うっすら笑みを浮かべる。


「ねえ、インチキ信者として最初に聞きたいことがあるんだけど?」


「うん? なんだ」


「インチキとはどんな教義ですか? これ自宅でも聞いたけど、あのときよく聞く機会がなかったから」


「ああそういえばそうだな。なら教えよう。インチキの教えを。俺は色々考えたけどさ――」


 こうして俺に最初の信者ができた。これから俺がインチキ教祖としてどんな道のりを歩んでいくのか。


 それはまた別のお話で。



 これにて1章は終わりとなります。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 現在、2章を作成中でして、(およそ作成3割ほど)完成次第投稿します。

 2章で皆さんまたお会いしましょう。(2章投稿は、おそらく来年の1月くらいになりそうです。)


もし面白いと思っていただけましたら、評価(★)を入れてもらえると幸いです。


特に楽しんでいただけた話がありましたら、その話の「いいね」を押してもらえると励みになります。

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