27.「教祖としてお前を倒す」
最終決戦。インチキ教祖VS教祖ウンコウ
時はジュダスがインチキ教祖にキスをしながら魔力譲渡する場面に戻る。
インチキ教祖の魔力のオーラが爆発的に跳ね上がり、周囲に荒々しい風圧が生じていた。
最初は唖然としていたウンコウだが、やがてある可能性にたどり着く。
「ま、まさか……小童おぬし、おぬしのスキルタイプは……」
急に焦った表情をするウンコウは、インチキ教祖とジュダスに向けて左手を向ける。
「やめろぉぉぉぉぉっぉぉ小童! 小娘! 炎天んんんんんんんんんん!」
凄まじい火炎がインチキ教祖とジュダスに向けて放たれる。しばらくその場を燃やし尽くした。
「はは。危ないところじゃった……これでやったか!?」
そう言ったそばから、ウンコウのはるか背後の先にインチキ教祖がジュダスに腰に手を回して回避していたことにウンコウは気付いた。
インチキ教祖はジュダスの顔を見て思案していた。
「(よくよく考えれば、俺が危険を冒してウンコウと戦う理由はない。ジュダスを連れてナレーザから逃げることだって今ならできるはずだ。だけど……だけどジュダスは神に祈りをするように俺にウンコウを倒すという願いを託したんだ)」
「(ったく、信者が教祖のために体を張るべきなのに、教祖が信者のために体を張るなんて、俺が目指すカルト教祖像とかけ離れているぜ。マインドコントロールされているのはむしろ俺か? まさに本末転倒じゃねえか……)」
インチキ教祖はフっとジュダスに向けて笑う。ジュダスはインチキ教祖を真っ直ぐと見つめたままだ。
「(だけど……なんでかな? それが悪い気がしないな。この娘のために頑張ることが……)」
「ジュダス。頑張ったな。後は任せてくれ」
その一言を聞いた時、ジュダスは涙をポロリと零れ落ちた。そしてなんとかこらえるように歯を食いしばり、ゆっくりと頷いた。
冷静に考えれば、インチキ教祖はジュダスの頑張りを知らない。彼が読心系魔術や接触感応系魔術を使えるなら、話は違うが、ジュダスはそんな魔術を持っていない。
だが、たとえ、彼が深い意味で言っていなかったとしても、今のジュダスにはその一言が大きかった。
「小童! スキルタイプはオールラウンドだと言っていたはずじゃ! 騙したのか余を!? 余がコネクトだと言い当てたのは正しいではないか! 人のことをいんちき呼ばわりしおって、おぬしの方がいんちきじゃないか!!」
ウンコウの責めるような怒涛の言い分に、インチキ教祖はウンコウに顔をゆっくりと向ける。やがて口を開き……
「騙される方が悪い」
「お、おぬしめぇぇぇえええええええええええ」
ウンコウが何も言えなくなるとインチキ教祖はフッと笑い、話を続ける。
「ウンコウ。お前の言っていることは今も真実だ。確かに俺はインチキだ。ハッピーライフを目指すためにインシュレイティド・チャリティ教を布教するインチキ教祖だ。ウンコウ。俺の信者を傷つけた罪だ。教祖としてお前を倒す」
「イン……なんじゃ、よくわからんカタカナを並べおって、……それよりおぬしが教祖じゃと!?」
「そうだ」
そう言うとインチキ教祖は背後にある高い塔に向けてジュダスを抱えたままジャンプする。そしてひとっ飛びで一気に頂上まで登り詰めた。そして頂上からインチキ教祖は左手をアイアンクローの形に変え、ウンコウに向ける。
「火天」
その規模は、まるで太陽だった。ウンコウが今まで放った火天を遥かに上回る大きさの火球がウンコウに襲いかかる。
「なに!? こんなもの余の炎天で喰らいつくしてくれるわ!」
左手で炎天を放つ。だが、火天の勢いは強く、やがて右手を左手首に掴むウンコウ。最大限の炎天でインチキ教祖の火天に対抗するが、火天の上位技であるはずの炎天が押し切られ火球を浴びることになった。
「ぐおおおおおおおおおっ」
「いやぁぁぁぁぁぁウンコウ様ぁぁ!!」
火だるまになりながら悲鳴をあげるウンコウ。ウンコウの姿を見て口に手を当てながら悲鳴をあげるタマル。
「凄い……たかが火天でこの火力」
ジュダスはインチキ教祖の隣で火天の大きさを見て驚いていた。インチキ教祖は火だるまになるウンコウを見て手応えを感じるのだった。
「これでやったのか!?」
「いや、おそらくウンコウはこの程度じゃ死なない」
ジュダスがそう言うとウンコウを燃やしていた火が急に消えた。そして焼け焦げになったような姿から一瞬で服まで元通りの姿まで全快した。
「回復系魔術。ウンコウはヒーラーの教徒から魔力譲渡を受けているから、ヒーラーレベルの回復系魔術を行使可能なの。回復系魔術に限ってはインチキさんよりあちらの方が上よ」
「いくらダメージを与えても回復するのか……倒す方法はないのか!?」
「魔力が枯渇すれば回復系魔術は使えないけど、そうそうアイツの魔力が切れることはない。魔力切れを除いて、ウンコウをこの場で倒す方法は二つ」
「一。一撃で仕留めること」
「二。回復系魔術でも追いつかない速さで継続的に攻撃し続けるかのこの二つよ。」
「一つ目の一撃で仕留める案だけど、さっきの火天を喰らっても死ななかったように、あいつも即死しないように注意を払っている。涅槃寂静で防いだり、回復系魔術を使用しながらなんとか生に喰らいつこうとしている。つまり、一撃で仕留める案は難しい」
「となると。二つ目の回復系魔術より速い技で攻撃し続ける案か……だがそんな技あるのか!?」
インチキ教祖は少し考え込むとやがてハッとした顔で何か思いついたような表情でジュダスに顔を向ける。
「そうか! 炎天か」
ジュダスもインチキ教祖に顔を向け、「正解」と言わんばかりに笑みを浮かべながら頷く。
一方、ウンコウの方もわなわなと身を震わせながら作戦を考えていた。
「(くそぉ……まともにやっても勝てる気がせんわ。弱みじゃ。小童の弱みを突くのじゃ! 弱みはわかっている! 小娘じゃ!! コネクトは譲渡者が死ねば、譲渡者の魔力がコネクトから消えるのじゃ。じゃが、小娘を殺ろうとしても小童が守るじゃろう。正直、小童から身を守るのが精一杯で、小娘を殺るチャンスがない……どうすれば……)」
しばらく考え込んだあと、ウンコウはひらめく。
「そうじゃぁぁ! タマルゥ、カリオテェ!!」
「「は、はい!」」
急にウンコウから呼ばれかしこまる二人。ウンコウは、苦笑しながら二人に命じる。
「おぬしたちの涅槃寂静でジュダスをやれ。ジュダスの身体全体を抑えようとするのではなく、首だけに力を一点集中し、二人がかりの手で、首を折るのじゃ。そうすれば、おぬしたちの力でも十分にジュダスを祓える」
「えっ、ですが、ウンコウ様。それは流石に……」
殺生という真実教徒として戒律を犯す禁忌をするためなのか、それとも親の情としてなのか、ウンコウの命に頷けないカリオテ。
「早くしろぉ!! このままでは余が悪魔たちに殺される。そうなったら真実教は終わりじゃぁぁ」
焦るウンコウ。タマルは娘を殺せという命にも動揺したが、ウンコウが殺されるという言葉を聞きさらに動揺する。
頂上から聞こえていた、インチキ教祖とジュダス。インチキ教祖はジュダスを心配する。
「やばいな。あの二人まで敵に回ったら、ジュダスお前が危ない。お前は俺が守――」
「いい。大丈夫。家族の問題は家族で解決する。インチキさんは、ウンコウを倒す準備だけして」
インチキ教祖の話を遮り、ジュダスはその場でじっとしゃがんでいた。
「余が良いと言っているんじゃぁあ!! おぬしたちもさっき聞いたじゃろ!? ジュダスは真実教をやめて悪魔の信者になるとぬかしておったのじゃ!!! おぬしたちが知っているジュダスはもうおらんわ!!!!」
その言葉を聞いて何か決心をしたような顔つきになるタマル。そしてカリオテに顔を向けて口を開く。
「祓いましょうジュダスを。親である私たちが終わらせるのよジュダスを。これ以上悪魔のものにならないようにするためにも」
「!? タマル様……ですが、それは……!」
反対しようとしたとき、うっすらと涙を浮かべるタマルを見てカリオテもやがて覚悟を決める。
「ハッハッハ。どうじゃ小童!? 小娘の両親も参戦するぞ!? 両親の攻撃を防ごうとすれば余が小娘を仕留める。余の攻撃を防ごうとすれば、両親が小娘を仕留めるであろう。果たしておぬしに小娘を守り切れるかなあ!?」
ウンコウに言われ、厳しい表情をするインチキ教祖。ジュダスは、傷も癒えていないのに立ち上がった。
「ジュダス。回復系魔術を使えるなら使うことに専念してくれ。使えないならじっとしていてくれ。ここは俺が対処する」
ジュダスは、インチキ教祖を見ると、大丈夫だからと言わんばかりに首を振った。
「「涅槃寂静」」
両親の術がジュダスに向けられる。やがて術にかかったように、ジュダスは、その場で動きが止まった。
「ジュ、ジュダスゥ!?」
焦るインチキ教祖。だがジュダスは術にかかり今にも首をへし折られそうなのになぜか無表情だった。
「ジュダス、お前は悪くない。全ては隣の悪魔が……お前が悪魔に取り憑かれてなければ……だから悪く思わないでね」
そう言うとタマルはカリオテに目で合図するようにする。そして術を放った二人の手が動こうとした瞬間。
「涅槃寂静返し」
ジュダスは急に動き、右手の掌を前に向けて術を放つ。すると両親が今度は術にかかったようにその場で動きが止まった。
「「!?」」
「ウンコウがママとパパに攻撃する命令を出している間、ひそかに回復系魔術を行使していた。まだ傷は全快していないけど、あなたたちを倒すなら今の状態でも十分よ」
「……………………………………………………っ!?」
術に掛けられている影響で中々話せないタマルとカリオテ。
「涅槃寂静返し。涅槃寂静をくらったときにのみに発動できる魔術。ウンコウレベルの涅槃寂静ならこの魔術を出せるほど身体を動かせないでしょうけど、あなたたちレベルなら抵抗して発動できる。このように!」
「ジュ、ジュダス……や、やめて……!?」
懇願するように命乞いするタマルの言葉を無視して、ジュダスは思い切り右手を振り払う。するとタマルとカリオテ両親とも物凄い速さで壁にたたきつけられた。
「が……はっ……」
「ぐふ!?」
タマルとカリオテは壁にたたきつけられた衝撃で気を失う。初めて両親に手を掛けたジュダス。何かをこらえるようにその場でじっとしていた。
「ジュダス……」
話しかけるインチキ教祖。やがてジュダスはインチキ教祖に振り向ける。
「さぁ……後はウンコウを倒すだけよ! 炎天であいつを倒して!!」
そう言うと、インチキ教祖も頷き。決着の一手を決めるように左手をウンコウに向けて構える。
タマルとカリオテが壁を叩きつけられて気を失った頃。ウンコウは、ギリっと歯を食いしばる表情を見せた。
「くそぉぉぉ、使えん奴らめ……」
ジュダスを倒してインチキ教祖の弱体化を狙うウンコウの作戦は事実上崩れ去った。今からウンコウがジュダスに向けて攻撃しようとしてもその前にインチキ教祖が攻撃を仕掛けてくるだろう。つまり、ウンコウはインチキ教祖の弱みを突くことが出来なくなった。
インチキ教祖が左手をアイアンクローの形で向けてくるのを見て、ウンコウも覚悟を決める。
「舐めるなよ小童。おぬしの炎なんぞ、余の切り札でかき消してくれるわ!」
「コオオオオオオオ」
息継ぎしながら両手を前に向けながら、ゆっくりと左右に回すウンコウ。
やがて、右手の掌を前に向けた施無畏印。左手の掌を外に向け下げた与願印と呼ばれるポーズをとったウンコウ。そして、両手の形をそのままに正拳突きをするように一度胸の位置まで引く。
見下ろすインチキ教祖と見上げるウンコウ。見つめる両者。そして両者ともに決着の一手が放たれた。
「炎天」
「涅槃寂静弐流波凪」
インチキ教祖の業火が放たれる。ウンコウの見えざる強大な手が放たれる。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオと爆音が響く。
一件拮抗しているように見える両者だったが、徐々にウンコウの勢いに押されていくインチキ教祖。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!余の全魔力を!! ここにそそぐ!!!」
「ぐっ……!!」
インチキ教祖とジュダスの視点からは見えない壁が炎を少しずつ押してきて、今にも自分たちの目の前に押してきそうな勢いだった。ジュダスも危機感を感じ、回復系魔術を中止し、左手を向ける。
「私も『いやいい』」
加勢しようとしたジュダスに向けて、インチキ教祖は視線をウンコウに向けたまま話を遮る。
「ジュダスは回復系魔術に専念していてくれ。大丈夫だから」
ジュダスはインチキ教祖の言葉を信じ、左手を下して、言われた通りに回復系魔術に専念する。
ウンコウは見えざる強大な手をインチキ教祖の目の前まで押し切り勝利宣言のように高らかに笑う。
「ハッハッハッハ。覚悟しろぉ小童! 小娘! 余が二人仲良くあの世に……いや別の世界へと送ってやるわい!」
「サン・サーラ」
インチキ教祖がそう唱えるとインチキ教祖の魔力のオーラがさらに吹き荒れる。それと同時に炎天の大きさは増す。そして今まで、押されていた見えない壁をウンコウの直前まで一気に押し返した。
「なに! サン・サーラか!? うおおおおお余が負けてたまるか! ……負けてぐおおおおおおおおおっ!?」
遂に直撃するサン・サーラによる炎天。圧倒的な火力がウンコウを燃やし尽くす。
「(回復系魔術を……くそ間に合わない。余が……死ぬ……!?)」
灼熱の業火に包まれる中、ウンコウは確かに見た。人生二度目の走馬灯を。
「ちっ、また走馬灯を見るのか。なぜ、まったく同じ内容なんじゃ……」
在りし日の記憶。それは、幼少期、カルト宗教によって家族を破壊された日々まで遡る。
ウンコウ敗れたり