26.「最弱かつ最強のスキルタイプ」
「うん。そうだな。コネクトの凄さを説明する前に、コネクトと対極に位置すると言ってもいい、スキルタイプ・オールラウンドを例にあげて説明しよう」
「【オールラウンド】。コネクトが魔術を学んでも修得できないのに対し、こちらは、多種多様な魔術を覚えやすいスキルタイプだ」
「だが、オールラウンドでも全ての魔術を修得できるわけではない。どんなに大きい箱でも、入れられる容量が決まっているように、魔力量に応じて、覚えられる魔術の数には限りがあるんだ」
「そうだな。オールラウンドが全ての魔術を使えるならオールラウンド強すぎるよな」
どのスキルタイプもできることできないことみたいなことは当然あるのか。と俺はなんとなく納得できた。
「君にとって身近な例で例えるなら、魔力量が、スマホやPCでいうストレージ容量であり、魔術はアプリケーションソフトウェアだと思ってくれ」
「強力な魔術を覚えようとするなら修得つまりインストールするのに時間はかかるし、強力な分、サイズが大きく容量は圧迫する」
「逆にそこまで強力ではない基本技程度の魔術なら、修得に時間はかからないし、サイズも小さくたくさん覚えやすい」
「故にオールラウンドの選択肢としては、次の二つだ」
一.魔力量を増やすトレーニングして、一つでも覚えられる魔術を増やす
二.どんな魔術を修得していくか取捨選択する必要がある
「このことから、オールラウンドは、万能になれたとしても全能になれない。これが、オールラウンドの在り方であり、限界でもある。そしてここからがコネクトの真価につながるコネクトだけにね」
最後の寒いギャグは無視して、ようやくコネクトの凄いところを説明してくれるのか。やっと一番聞きたいところが聞けそうで俺はほっとした。
あと話が脱線するが、スマホやPCの話を聞いていて次のことを思った……
(新しき世界にスマホやPCはあるのか?)
魔術を使える世界ってファンタジーや中世ヨーロッパのようなイメージがあるから……やっぱりスマホPCはないよな。スマホPCとお別れであろうことに現代人の俺はひそかに悲しみを覚えた。
「あれ? 笑ってくれないのか? ……まあ、話を戻そう。コネクトのみが持つ特性。魔力譲渡。これは、外付けストレージのようなもので、譲渡される魔力量に限界はない。つまり、理論上、魔力を貰える限り無限に強くなれることを意味する」
「無限? 空気を入れすぎて自転車のタイヤがパンクするように、魔力を貰いすぎてパンクということはないということか? ……それは確かに凄いな!」
だがそれを実現するためには、最低でも手で触れて渡す意思が必要なのに対し、返却される際は強く念じるだけで返却されるというデメリットはあることは痛いが。
「オールラウンドから魔力譲渡を受ければ、コネクトはそのオールラウンドと同等の魔術の手札を持てることになる。だが、もしそのオールラウンドが、炎の魔術や幻惑系魔術を持っていなかったらどうする? 簡単だ。炎の魔術や幻惑系魔術を使える他のオールラウンドから魔力譲渡を受ければいい。それを繰り返すことによって、コネクトはオールラウンドでは実現できない魔術の手札の枚数を持つことが可能となる! 万能を超えて全能になれる可能性を秘めたスキルタイプ。それがコネクトだ!!」
「全能になれる!?」
インパクトのある言葉に俺は唾を飲み込む。
「最初にスキルタイプを説明したときにこれを言ったのを覚えているかな?」
「『全能な神でもない限り、一個人ができることは限られているんだ』とね」
「嘘は言っていない。コネクトもコネクトだけでは、何もできない全能から最も程遠いスキルタイプだ。オールラウンド、ヒーラー、インファイター他のスキルタイプがいることによって、コネクトは初めて価値が生まれる。ゆえにコネクトは最弱かつ最強のスキルタイプとも言える」
「最弱かつ最強? 凄い……なんてロマン溢れるスキルタイプだ。よかったコネクトで。さっきは変えてって言ったけど」
「自分のスキルタイプに納得してくれて良かったよ。説明したかいがあったね」
俺がコネクトであることを受け入れたためか、何者かは安心したようだ。
「もう一度言うが、コネクトは他のスキルタイプの協力を得ることによって価値が生まれる。つまり友たちが作るのが苦手な人や君たちに合わせた言葉にするなら、いわゆるコミュニケーション障害にはキツイスキルタイプだよ?」
友たちが作るのが苦手な人、コミュ障と聞いてギクっとなった俺。確かに人と深い関係になることを避けてきた俺にはキツそうに感じた。だが、話を聞いていて、コネクトの価値を活かす別の方法を考え始めていた。そうそれは当初、前の世界でやろうとしていた目的と合わせて……
「相手に魔力を貰うのを媚びるように頼むか、もしくは、相手から魔力を貰ってくださいとお願いされる立場になれるかだな。……そうカルト教祖のように」
俺はボソッとつぶやく。
「……ちなみに聞きたい。俺が新しき世界に転生したら、俺がどんな生き方をしてもあなたは文句ないだろうか?」
「うん? ああ……まあ。私は、あくまで案内人に過ぎない。転生後は君の人生だ。君がどう生きようが君の自由だよ」
「なら……俺が教祖になっても文句はないな?」
「えっ」
あるじゃないか。コネクトの価値を活かせる手段を。そう魔力を貰うのは俺の信者限定にする。信者にお布施と称して魔力を貰えばいいじゃないか。
「俺は寺島光当じゃない。インシュレイティド・チャリティ教の教祖。インチキ教祖だ」
「新しき世界で、俺はインチキ教祖として生まれ変わる! 今度こそ幸せを掴んで見せる!!」
コネクトの話を最初に聞いたときは、『カルト教祖なんぞ不純なものにならずに、悟りを探求した釈迦のように、特別な俺は魔術を探求するのもいいかもしれない』みたいな考えを一瞬でも思い浮かんだというのに、俺寺島は、いやインチキ教祖は、やっぱりカルト教祖を目指す道を選ぶのであった。
「い、いきなり何を言い出すのかと思いきや……びっくりしたよ。さっきも言った通り、君の人生だから君の自由だ。だが、一つ言えるとしたら、また刺されまくって、人生終えないように気を付けてね」
「お気遣いありがとう。段々、コネクトのこと、魔術のことに興味を持ってきたぞ。さぁもっと魔術、新しき世界のこと教えてくれ!」
「そうだね。魔術は奥深いからね。まだまだ話すことが多いよ。いや、君のような人間は、新しき世界で暮らす異種族のことも知った方がいいかも知れないね。う~ん。どこから話そうか……おや?」
何者かの姿は見えないので、態度はわからないが、口調から察するに悩んでいるみたいだ。だが、悩んでいる間、俺の身体はなぜか透明になっていくのを感じた。若干怖い予感がする。
「あれ? なんか俺の身体、消えかかっている気がするけどこれどうなってんの!?」
「あっ、ごめん時間切れみたいだ。……忘れてた。実を言うとね、君がこの世界に居られる時間が限られているんだ」
「は?」
「だから今から、君は新しき世界に転生するんだ。まあ、この先は君の目で確かめてくれというやつだ」
「は?」
「案内はここまでだよ。コネクトに該当するのは本当に珍しいからね。短い時間だけど、君と話せて楽しかったよ! じゃあ。頑張ってね。」
「……最後に一ついいですか?」
「なんとなく……想像がつくけど……どうぞ」
「時間制限があるなら………………………………………………………最初に言えぇぇえええええええええ!!!!!!」
「ごめ~ん! 本当に忘れてたんだよぉ~」
俺の視界は、白き世界から死んだときに見た暗黒の世界へと変わっていった。そして、次に視界に映ったのはナレーザの森の中であった。
ここから、6.「今の俺には目的があるからだ!」にお話は繋がっていきます。
コネクトの説明理解できましたでしょうか?
この辺どうすれば読者にわかりやすく伝えられるだろうっと苦労して考えました。




