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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
創世記第1章真実教編

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23.「あいつのためじゃない。俺のためだ」

「ちっ、いってぇぇぇ。なにが、ウンコウだよ、ウンコみたいな名前しやがって。かなり吹っ飛ばされたじゃねえか」


 道場からウンコウに吹っ飛ばされたインチキ教祖は、森の中の茂みにいた。所々に痛々しい擦り傷があるが、命に別状はないようだ。道場の方向には、木々が倒れていた。


「木がクッションになったおかげで助かったところもあるが、今更ながら魔力で身体を纏うとそれなりに丈夫になるらしい」


 転生前の白き世界で、もう少しこの世界のルールや法則を聞けたら良かったのにとインチキ教祖は思った。


「とりあえず、回復系魔術とやらを使おうか。ジュダスが色々な魔術を使えるおかげで助かるぜ。ありがとう。ジュダスちゃん」


 インチキ教祖はこの場にいないジュダスに向けて感謝の意を述べるとジュダスから貰った魔力の情報を読み取り、回復系魔術を行使した。インチキ教祖は数秒後、立てるところまで回復し、所々まで破れていた服装まで元通りに治っていた。


「魔力を使うということは、自分の中のエネルギーというより、血が減った気分になるから、若干怖い気分になるなぁ。まあ、とりあえず全快になったから、良しとしよう。さて、ここからどうしようか?」


 ウンコウに真正面から喧嘩を売るような態度で挑んだインチキ教祖。その結果、ウンコウの術で殺されかけた。また会えば、今度という今度こそ、殺されるかもしれない。


「真実教の信者に見つからないようにジュダスと話せればベストかな。ジュダスは俺がコネクトだと知っている。その上で、ウンコウは俺がコネクトでないと断言したんだ。これでジュダスを説得し、俺の信者になってもらう。そして二人でナレーザとやらから脱出する。この計画がいいかな」


 インチキ教祖がウンコウにクイズを出した目的は、ジュダスの信仰を揺さぶるためだった。


 自分の言うことが全て正しいみたいなことを言うカルト教祖は自らの過ちを認めようとしない。ウンコウがスキルタイプを間違えたように見せれば、さっきのウンコウのように言い訳を言うとインチキ教祖は踏んでいた。その結果、殺されかけたのは想定外だったようだが。


 ウンコウが意地でもインチキ教祖のクイズに乗らなかった場合は、「真実を見抜けていないからクイズに乗らなかったんだ」というような方向でジュダスを説得するつもりだった。


「今ならジュダスは俺の信者になるかもしれない。ならジュダスに会うべきか」


「それとも……このまま一人だけナレーザから逃げようかな? これ以上、面倒なことに首を突っ込むと、本気で死ぬかもしれないし」


 ウンコウ、真実教信者、下手したらジュダスもインチキ教祖が死んだと誤解している今が逃げるチャンスかもしれないとインチキ教祖は考えた。ジュダスもインチキ教祖が死んでいると誤解していれば、魔力を返してほしいという考えは浮かばないかもしれないし、危険を冒して、信者になるか不明なジュダスを追いかけるよりも魔術が使える今の状態なら、自分だけナレーザの外に出てインチキを布教する方が安全かもしれないという迷いがインチキ教祖にはあった。


(逃げた方が楽かな……)


 だが、そんな風に逃げようと考えた瞬間、頭の中にジュダスを思い浮かべた。自分と対等に目を向けて話してくれたこと、対等に喧嘩し合ってくれたこと、洞窟で手を取り合って、魔術を教えてくれたこと。前の世界でそこまで自分と向き合ってくれた者はいただろうか。


 前の世界で生きていた頃の名であるてらしま光当みつまさだったならこの場で逃げる道を選択したかもしれない。何事も消極的で自信がなく、面倒ごとから逃げていた彼なら。だが、今の彼は寺島光当ではなく、インチキ教祖だ。


「違う、俺はあいつに惚れたんじゃない。俺は女性に惑わされる安っぽい男性じゃない。俺は教祖としてあいつを信者に。俺の愛人の一人に加えるために頑張るんだ――決してあいつのためじゃない。俺のためだ」


 誰もいないというのに、インチキ教祖は言い訳のような独り言をつぶやく。そして、その足取りは、道場の方へと向かっていった。


 ◇


 そして、遂に真実教の二つの施設が見えるところまで着いたインチキ教祖。先ほど道場があった、かんぼくな作りと思わせる施設の中に入るべきか、まだ入ったことがないごうけんらんな作りと思わせる施設の方に入るべきか迷っていた。


「そもそもジュダスが家に帰宅していたら、施設に入っても骨折り損に終わるかもしれない。さて、どうしようか?」


 インチキ教祖が迷いながらも、施設に近づくと、あることに気付いた。先ほど道場があった、閑古素朴な作りと思わせる施設には、屋根や構造物など所々壊れていたのだ。一方、豪華絢爛な作りと思わせる施設でも、こちらの施設ほどにないにしても所々壊れていた。


 そして、豪華絢爛な施設の屋上を見ると、何か燃えている巨大な物体が浮かんでいた。そして、次の瞬間その巨大な物体が施設に向けて勢いよくゴオオオっと落下していった。丈夫な作りをしているためか、施設そのものが壊れてもおかしくないのに、損害としては、屋上で火事が発生している程度に留まった。


「えらいことになったな。てか、周りの信者たちも大騒ぎしてもおかしくないのに、なんでこんなに静かなんだ?」


 インチキ教祖は教徒のエルフが一切騒ぎを起こさず、この外で歩いているのは自分だけなのが気になった。自然と、巨大な物体が落ちた豪華絢爛な施設の入口前まで来たインチキ教祖。ジュダスがいる確証もないのに、なぜかこの中にジュダスがいる気がしたのだ。いざ、施設の中に入ろうとすると、足がガクブルと震えていることに気付く。


「そうか……やっぱ怖いんだな――俺。もう遊びの領域じゃない。中に入ったら本当に死ぬかもしれない。また何も果たせずに死ぬかもしれないんだ」


 ジュダスから貰ったのは少量の魔力程度。魔術を使えるようになったとはいえど、それでどんなピンチも凌げると思えるほど自信を持ったわけではない。そもそも今まで殴り合いのような喧嘩は避けてきた、インチキ教祖は戦い方など全然知らないのだ。


 怖い。逃げ出したい。もうここまででいいだろう。お前なんかが何もできるわけないだろう。そんな言葉が頭の中に浮かんでくるインチキ教祖。だが、震える足に手を置いて震えを止めたあと、インチキ教祖は、それらの迷いを振り切るように、勢いよくダッシュし、施設の中へと入っていく。


(へっ、俺ってやつはどうしたんだ。こんなに勇気があるような人間だっけ? 以前の世界の俺ならこんな覚悟なんてできなかったと思うのに……死を経験したことによって、俺の中の何かが変わったのか!? いや、もしかしたら勇気というよりやけくそになっていないか俺!?)


 自分で自分の行動に驚くインチキ教祖。彼の足取りは屋上に向かって階段を上り続ける。そして、屋上の入口前の扉を開けた瞬間、目にしたのは、自分を見つめているジュダスだった。


「ジュダス!」


 自然と大声が出た。その声にびっくりするように、ウンコウ、タマル、カリオテの三人が、こちらに顔を向けた。



 果たしてインチキ教祖はウンコウを倒せるだろうか!?

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