21. 「龍門飛鳥」
ジュダスには、思い当たるふしはあった。ウンコウのスキルタイプがコネクトであるということを。
禊が始まる前に、ウンコウは両親と手を取り合うようにしてから魔力を両者に渡すように見えた。これは四、のルール。コネクトの魔力譲渡方法と似ていると思っていた。
四、コネクトへの魔力の渡し方は、譲渡の意思を持って触れるだけでいい。ただし、触れて渡すだけなら渡す分だけ魔力が足されるだけだが、譲渡の際にコネクトに対して奉仕の度合が強ければ強いほど、単純な足し算ではなく、渡した魔力以上にコネクトの魔力は大幅に強化される
インチキ教祖は、コネクトから他者に魔力を譲渡できるとは一言も話していなかった。が、他者から魔力を貰うということは、逆に自分から魔力を渡すことができても不思議ではないとジュダスは考えた。そして、ジュダスはサン・サーラという魔術で寿命を代償に魔力を増やし続けているのに対し、ウンコウは魔術を使わずに己が持つ魔力だけでジュダス以上の魔力のオーラを噴き出していた。これらを見て、ウンコウがコネクトであることは間違いないだろうとジュダスは確信した。
「殺すには惜しい。女としてもナレーザ最強のエルフの価値としてもじゃ。おぬしには出家させ、その魔力を貰いたかった。ついでにサン・サーラとやらも使うかは別として、余が使える魔術の手札に加えたかったが」
「私のサン・サーラのことを知っていたとは。知っているのは、家族だけのはずだったが、今更驚きもしない。どうせパパかママに聞いたというところだろう」
「フン。そんなところじゃ。この屋上ではおぬしと余の二人きりじゃ。今更教祖として取り繕う必要もない。ジュダスお前を殺すからじゃ。余に楯突くというのなら、殺す」
「真実の禊、真実の口、真実の血。修行と称して、教徒たちから余は魔力を貰い続けていた。ただ、魔力を貰うのではないぞ。出家教徒限定かつ修行という儀式を経て余に魔力を渡すのじゃ。奉仕に伴い、渡された魔力以上に余の魔力は強化されたぞ」
ウンコウの発言に反吐が出るジュダス。ジュダスは怒りをこらえるように拳を握り、ウンコウに問う。
「みんな、お前を信じていた……パパもママも親戚のおばさんも友たちも……私だって……それなのに騙していただけだったのか!? 出家までして世俗の生活を捨てた教徒はただ搾取されていただけなのか!?」
ジュダスの責めるような言い分にフンとほくそ笑むウンコウ。
「騙される方が悪い。これこそが真実じゃ。自分で考えることを捨て、他者の考えに委ね、挙句には、人生まで捨てるとは馬鹿の極みじゃ」
「余はおぬしたちを家族だと思ったことはない。家族と言ってきたのは教団を居場所だと思ってもらうための都合の良い方便じゃよ」
ジュダスは湧き上がる怒りを抑え、冷静になろうと耐えていた。これは挑発だ。傍から見れば、戦闘中にお互い無駄話をしているように思えるかもしれない。だが、両者とも隙を探りながら会話していた。ウンコウはジュダスを怒りで我を忘れさせ、考えも無しに突っ込ませようとしているのだろう。だからこそ挑発に乗るわけにはいかない。ジュダスはそう決心していた。
「だが皮肉じゃのう。おぬしの両親はおぬしより余の方が愛してくれているらしい」
ヘラヘラ笑みを浮かべながら、ジュダスに同情するかのようなウンコウの態度にジュダスは耐えることはできなかった。
「ウンコォォォォォォォウ!!!!」
挑発だ。わかっていた。わかっていたが、耐えられなかった。ジュダスは怒りのままにウンコウに向う。
「安い挑発に乗りおって、扱いやすいわ。涅槃寂静」
ウンコウはジュダスに向かい右手で術を放つ。だが、ジュダスはウンコウから見て、左にジャンプし、術を躱す。
(涅槃寂静……術の仕組みは分かっている。術者だけが見える巨大な掌を放ち相手や物体を捉える魔術。放つ際は消費する魔力の大きさに比例し術のサイズは大きくなる。だが、その術は捉えるまでは掌から直進されるのみ。ゆえに掌の向きに注意すれば躱すことは可能よ!)
ジュダスはウンコウの術を躱し続ける。躱した後、えぐれる地面をいくつか見て、掌のサイズを想像していた。
「すばしこい小娘じゃのう。だがこれならどうじゃ。火天。涅槃寂静」
ウンコウは左手をアイアンクローの形にし、火天を連射した。そして右手には引き続き涅槃寂静を連射する。
火天の大きさはジュダスが先ほど放った火天よりもはるかに大きく、ジュダスの身長を覆いつくすほどの大きさだった。
弾幕を張るような勢いのウンコウの術をなんとか躱し続けるジュダス。だがこのままでは、らちが明かないと考え、ジュダスは右手をアイアンクローの形にし、反撃に転ずる。
「炎天」
魔術名【炎天】。炎火系魔術の基本技である火天の上位魔術。火天が火球を生じ、飛ばすのに対し、こちらは火炎放射器の如く手から炎を放ち続ける技だ。術者の意思で魔力を消費し続ける限りその炎は消えない。
ジュダスの炎天は、ウンコウの火天を飲み込みそのままウンコウに襲いかかる。
「なに!? くっ、涅槃寂静」
ウンコウは右手の魔力を集中することで間一髪に防いだ。ウンコウの左右に炎の道が生じ、その火力の大きさを物語る。ここまでの戦いでジュダスは、ウンコウの強さを分析していた。
(サン・サーラで、寿命をゴリゴリに削って魔力の枯渇を防いでいるが、一つの一つの術の出力量はウンコウの方が圧倒的に多い。なのに、魔力の底が見えない……)
長期戦になってもウンコウの魔力が枯渇することは中々ないだろうと考えた。それよりも出家教徒から搾取した魔力、そこから得た魔術の数々。まともに戦えば、ウンコウに分があると思った。
だが、ウンコウの体つき、動きを見れば、戦闘慣れをしていないことはジュダスから見て明白だった。教徒から魔力を貰えれば、楽に強くなれるのだから、まともに鍛えることや修行をしていないのは想像に難くない。
スピードならこちらに分がある。実戦は初だが、訓練校で試合してきた経験がこちらにある。スピードでかく乱し、接近戦に持ち込めれば、ウンコウが術を発動する前に仕留める。これがジュダスの戦術だった。
一方、ジュダスを捉えきれないウンコウも戦術を変える。ウンコウは、涅槃寂静で、屋上にある、自身をモデルにした黄金像や真実の目を意味するシンボルマークの構造物などを次々に掴んでは壊し、自身の近くまで引き寄せる。そして、再度涅槃寂静の術で粉々にしたそれらの物体を浮かせる。そして、今度は、浮かせた物体に、大量の魔力を纏わせていた。
「魔力のコーティング。火天など一歩間違えれば、術者も傷を負う危険な技は、発動する箇所に予め魔力でコーティングしてから発動する。本来は、防護のための技術じゃ。だが、道端に落ちている小石でも魔力でコーティングすれば、硬度は増し、使い方によっては、攻めるための十分な凶器となろう」
ウンコウは何やら解説しているが、聞く耳を持たないジュダスはウンコウの懐に向かって走る。
「そして、余の膨大な魔力でコーティングすれば、それはダイヤモンドよりもオリハルコンよりも硬い物質となる! このようにじゃあ!!」
ウンコウは右手をジュダスに向けて振り払うと粉々にした物体が広範囲に機関銃の如くの速さで襲いかかる。ジュダスのスピードでもこれを躱しきれず、ダダダっと鈍い音が鳴り、被弾した衝撃で吹っ飛ぶ。だが、クロスアームブロックで、両腕を胸元で交差する防御の構えを取ったおかげで致命傷をなんとか避けた。
「フン。おぬしのようなすばしこい奴には、面での攻撃が有効か。ならば次で決めよう」
ウンコウは次で決めると宣言すると、塔や煙突と思わせるような筒状の高い構造物に向けてジャンプし、その後、頂上まで登り切った。ジュダスはウンコウを追いかけるよりも、登っている隙に回復系魔術で傷を癒す選択をした。
(回復系魔術を使えるのはヒーラーだけの専売特許じゃない! オールラウンドだって、己の傷を癒すだけならば、集中すれば短時間での治癒は可能となる!!)
ジュダスは傷を全快した。その頃には、ウンコウの攻撃の準備ができていた。
ウンコウは頂上で男性教徒が住む施設の屋根、屋上にある構造物を涅槃寂静で片っ端から破壊し、自身の右手を垂直まで上げると壊した物体をはるか上空まで浮かせていた。しかも浮かしてある今度の物体は、ある程度原型を留めたまま大きい。このまま落として直撃すればそれだけで命にかかわると思わせる程だ。
「まだじゃ。これからじゃ。炎天」
ウンコウは左手で浮かせた物体に向けて炎天を放った。だが、魔力でコーティングしているためか、燃えていても、一向に燃え尽きる気配が見えない。ジュダスはウンコウがこれから何をするかその意図を理解した。
ジュダスはウンコウに対抗するために、右手を大きく広げ米大統領就任宣誓のように、腕を上げる。
「龍門飛鳥」
そう唱えると右手に魔法陣が発生し、やがて魔法陣の中央に刀剣の柄のようなものがあらわれる。
そしてジュダスは左手でそれを握り思いっ切り引き抜く。魔法陣から現れた正体は、柳葉刀と呼ばれる刀の種類だった。その見た目は、刀身には龍の姿が彫刻されており、鍔は鳥の翼のような形をしていた。ジュダスは演舞のように刀を舞わしたあと、右手をアイアンクローの形にし、「炎天」と唱えながら、切っ先までなぞる。すると刀身が炎で包まれた。ジュダスはそこまでしてからようやくウンコウに向けて構える。
お互い攻撃の準備ができた二人。見下ろすウンコウと見上げるジュダス。両者の間に緊張が走る。そしてウンコウから仕掛ける。右手を勢いよく下ろすとそれに伴い、燃え上がった物体が隕石の如くジュダスに襲い掛かる! ジュダスも塔に向けて高速でダッシュする。躱し続け、躱しけれない程、巨大な物体が迫ったとき、ジュダスは真正面から高速でシュバババと切り刻んで防いだ同時に突破する。ウンコウの攻撃をしのいだジュダスは、そのまま塔に向けてジャンプしながら登る。
「なっなんじゃとー!! 余の攻撃を防いじゃだとおぉぉ!!」
決め手のつもりで放った大技が防がれた。ウンコウは流石に動揺していた。ジュダスが向かってくることも併せて、焦りの色が見えるウンコウ。
「おっおのれぇぇぇ。余にはまだ、見せていない魔術がいくらでもあるわ! おぬしなんぞ……!?」
何かに気付いたのか、よそ見するウンコウ。
(勝てる! 殺れる!! このまま奴を切り裂ける!!! ウンコウ!!!! 覚悟!!!!!)
勝機が見えたと思ったジュダスは、笑みを浮かべる。そしてもうすぐウンコウの元へとたどり着こうとしたところで、よそ見していたウンコウはジュダスに顔を向き直す。その顔には笑みが浮かべていた。
「小娘よ。ベッドから立ち上がったとき、なぜ、両親に反撃をしなかったのじゃ?」
「あの時、両親から涅槃寂静をくらい続けていたというのに……おぬしの力量なら、殺すまでしなくても気絶させることくらいいくらでもできたはずじゃ」
今にも迫ろうというのに余裕な態度で、ジュダスに問うウンコウ。
「わかっているぞ。両親に攻撃しなかったのではない。出来なかったのだ。それがおぬしの弱みじゃ。火天」
火天と唱えた。今までよりも大きい火天だった。だが、手の向きはジュダスに向けて放たれていなかった。ジュダスは不審に思い、放たれた方向を見る。そして、気付いた。その方向の先には、両親がいた。このままだと両親に被弾する。
ジュダスは冷静さを失っていた。ジュダスはウンコウの直前まで向かっていたが進路を変え、思い切り塔の壁を踏み込みその勢いで、火天と両親の間に猛スピードで飛び込む。
ジュダスは冷静さを失っていた。冷静さが少しでもあれば、火天にたどり着いたら、剣術で火天を切り裂いて攻撃を防いでいたかもしれなかった。
ジュダスは冷静さを失っていた。火天の規模は大きいが、仮に両親に被弾してもなんとか生きられたであろう程度の火力のはず。両親も回復系魔術は使えるので、一命をとりとめたはずだ。最悪、ここで両親を見捨て、そのままウンコウを切り裂く選択をすれば、勝利していたかもしれなかった。
だが、ジュダスは何も考えられず、無我夢中で飛び込んだ。その結果、ジュダスは被弾した。結果、大きな爆炎が生じた。
「がっ…………………………………………はっ……………………………………」
ジュダスは、刀を地面に突き刺し、杖のように支え、なんとか倒れずに座り込んでいた。
「「ジュダス!?」」
両親は困惑していた。ウンコウとジュダスの様子見をしに屋上まで来たら、いきなり火球が目の前に迫り、次の瞬間、ジュダスが被弾していたのだから。
ジュダスは、両親に傷一つないことを確認すると、何か思うような表情をしていた。だが、その場で一歩も動けずにいた。ウンコウはジュダスの様子を見て宣言する。
「決着じゃ」
ジュダス敗れたり
明日も同じくらいの時間帯に続きを投稿します。




