20. 「ジュダス。お前まさか、あの術を!?」
「よくもママを汚したなぁぁぁぁぁああぁあ」
怒声とともにジュダスの魔力が爆発的に跳ね上がった。ジュダスの凄まじい魔力のオーラに圧倒され、ウンコウは反射的にベッドから離れた。ウンコウは何が起きているのかわからず、困惑したままジュダスを見つめていた。
タマルとカリオテもジュダスの変化に驚いたが、三人がもっと驚くのはこれからだった。
なんと、ジュダスは見えない拘束具を振りほどくかのように、少しずつ身体を動かし、起き上がろうとしていた。その様子にウンコウは血の気が引くように顔を青ざめ、タマルとカリオテに向けて怒鳴る。
「何をしておる! タマルゥゥゥ、カリオテェェェ、術を解くな! 涅槃寂静し続けろおぉぉお!!」
タマルとカリオテはこの状況が信じられないのか、ウンコウの問いかけにすぐに返答せず、ジュダスを見続けていた。だがやがて、タマルがおそるおそる口を開き状況を説明する。
「ウンコウ様。せっ、僭越ながら申し上げますが、術を解いていません。カリオテもそうです。ジュダスは依然、涅槃寂静を喰らい続けたままです!!」
「なっなんじゃとー!! どうなっているのじゃ。余が大量の魔力を渡したというのに、それを物ともしないということか!?」
ジュダスは完全に立ち上がると、ベッドからウンコウを見下ろす。ウンコウは「ひいぃ?」と怯える。
次にジュダスは父と母を一瞥した。ジュダスに見られて、緊張するカリオテとタマル。だが、ジュダスは何も言わず、ウンコウに視線を戻すのだった。
カリオテはハッとした表情で何かに気付いた顔をした。カリオテはジュダスが何をしたのか、心当たりがあるようだ。カリオテはジュダスに向かって問う。
「ジュダス。お前まさか、あの術を!?」
今から1186年前、ナレーザの滅亡の危機から救ったとされる伝説の魔術。その術を使えたのは、開発者のアルーブ・キャシャ。ただ、一人のエルフだけのはずだった。だが、ナレーザの長い歴史の中で、ついに二人目の会得者が現れた。
その二人目こそがジュダス・トルカだ。そしてその魔術の名は。
「サン・サーラ」
ジュダスがそう唱えた瞬間、ジュダスの魔力はより爆発的に跳ね上がった。
魔術名【サン・サーラ】。これは分類としては、肉体強化系魔術。別名:ドーピング魔術にあたる。
この術を発動中、自らの寿命と引き換えに、魔力量を大幅に増やすことができる。魔力を大幅に増やすということは、その分、使える魔術の絶対数が増えることになる。また、一つの術に消費する魔力を大きくすることで、その分、術の威力を強化することが可能となる。
三百年は生きるとされる長寿のエルフがその寿命を代償に力を得る術。だが、その代償に得た力は計り知れない。
ジュダスは、ベッドからウンコウを見下ろしたまま、口を開く。
「ウンコウ……覚悟しろ。私は、お前を殺す」
そう言うと、ジュダスはゆっくりとベッドから降りた。だが、次の瞬間、ウンコウの視界からジュダスはフッと消える。
ウンコウはジュダスがどこに行ったのかわからず、辺りをきょろきょろ探したが、見つけられなかった。だが、背後にジュダスがいる気配を感じた。そしてウンコウが反応するより先に、ジュダスは思いっきりウンコウの金的を蹴り上げた。
グチャっと一瞬小さな音が鳴るとともにウンコウは悲鳴を上げる。
「にょよょょよぜぇぇええええええぇえええええええええええええええええええええええええ」
焼けつくような強烈な痛みがウンコウを襲う。蹴りの衝撃でウンコウは奇声を発しながら吹っ飛び、天井に穴が開く。
唖然として一連の流れを見るタマルとカリオテ。だが、ジュダスはそんな二人を無視し、追撃のために、空いた天井に向かってジャンプする。
「がぁもぅぅぅうんんんんなぁぁぁぁぁぁぁあぁああ」
施設の屋上で、ウンコウは蹴られた箇所を手で押さえながら、もだえ苦しむように悲鳴を上げながらじたばたしていた。蹴られた箇所は、服の上からでもわかるほど出血したので、どうなったのかは明白だった。
空いた穴から現れたジュダス。ジュダスは苦しむウンコウを見るが、容赦なく両手をアイアンクローの形で構える。そして。
「火天火天火天火天火天火天火天火天火天火天火天火天火天火天火天火天火天かてぇぇん!!」
正拳突きの如く、腕を押して引いて、火天と唱えた数だけ、両手から火球をウンコウに向けて飛ばし続ける。
ウンコウに直撃し、大きな火柱が発生する。ジュダスは手応えを感じ、手を止める。
「ハァハァ……やったか!?」
しばらく火柱を観察すると、火柱の中から人が現れた。言うまでもなく、ウンコウだ。
ウンコウは、身体中やけどをしていたが、生きていた。そしてジュダスと匹敵。いやそれ以上の魔力のオーラを噴き出していた。
「ハァハァ。余をここまで追い詰めるとは……それがサン・サーラか!? ハァ……なるほど大したものじゃ」
ウンコウは、そう言うと、やけどしたはずの身体がみるみると癒えていった。
「あの時、余のあそこを蹴るのではなく、頭や心臓をつぶしていたら、おぬしの勝ちじゃったのに……殺しはしたことはないじゃろう? 詰めが甘いわ」
ウンコウは、傷どころか、服まで全快していた。先ほどまでの傷は嘘のように無くなっていた。ウンコウは、構えの姿勢をとる。
「出家教徒……ああ、家族と呼んでいたな。家族の中にはヒーラーのスキルタイプだっている。そいつの魔力譲渡を受けた余はヒーラーと同レベルの回復系魔術を行使可能なのじゃ。蹴られたあそこだってこの傷を癒したように元に戻したわい」
「魔力譲渡? ……そうかやはりお前のスキルタイプは」
ジュダスは怒りながらも冷静に話す。
「小娘が。おぬしがいくら強かろうとたかが一個体の力では余には勝てん。こうなれば見せてやろう。最強のスキルタイプと言われたコネクトの力を」
やっっっっっっっっっっっと書きたかった魔術のバトルが始まりそうです。
明日は19時30分過ぎくらいに続きを投稿します。
どの時間帯なら読まれやすいのか調べたく。投稿時間統一しない形となり申し訳ございません。




