36.「心で繋がる」
第四章、インチキ教祖視点の最後のエピソードです。
「インちゃん……良かったの? 幻ちゃんを行かせて」
幻鏡を見送ったあと、隣のアミーラがそう尋ねてきた。
「ああ、別にいいさ。何もタウンで暮らすことが〝インチキの信者〟になる絶対条件じゃない」
「……〝信じること〟、いや、たとえ信じていなくても。心で繋がることを拒まなければ――それは立派な〝インチキの信者〟だ」
俺はアミーラに、インチキ信者の定義をもう一度教える。
「ふーん……心で繋がる、ねぇ」
アミーラは頬に手を当てながら、少し考えるように言った。
「繋がるといえば、今回さ、幻ちゃんから魔力貰ってないじゃん。インちゃんからも渡してないし……どうしてなの?」
「うん? どうしてとは?」
「だって、インちゃんと幻ちゃん〝スキルタイプ・コネクト〟でしょ? 本来、他者から魔力を貰うことで強くなるのが真価なのに……どうして、どっちも魔力を渡そうとしなかったの?」
「……別に、俺の信者だからって魔力を渡すのは強制じゃないぞ。たとえ俺が望んでも、信者には断る権利がある」
少し間を置いて、俺は肩をすくめた。
「それに――俺が渡さなかった理由か? ……なんとなく、かな」
あの時の幻鏡の顔を思い出し、言葉を濁す。
「……なんとなくって」
あやふやな答えに、アミーラは不満げな表情を浮かべた。
確かに、俺と幻鏡がお互いに魔力を渡せば、使える魔術の幅は広がる。やらない理由なんて、普通はない。
けれど、あの時の幻鏡は――他人の魔力を欲しがる雰囲気じゃなかった。
むしろ、これまで魔力を渡してくれた〝誰かとの思い出〟を、大切にしているように見えた。
「……幻鏡から魔力を貰うのも、俺が渡すのも……少なくとも〝今〟じゃないさ」
「まあ、インちゃんも幻ちゃんも納得しているなら、ボクはこれ以上とやかく言わないかな」
アミーラは小さく息をつき、少しだけ肩を落とした。
「心配するな――あいつが信者のうちは、またタウンに顔を出すさ。そのときは一緒に出迎えてやろうぜ」
「そのときに決着つければいいじゃないか! お前と幻鏡のバトルに!」
「それもそうだね!!」
アミーラは、美味しいご馳走を待つ子どものように、ペロリと舌なめずりした。
あの時の戦いでは、アミーラも幻鏡もお互いにボロボロで、勝負を決めるために――どちらも切り札の魔術を発動しようとしていた。
どちらが勝ったとしても、少なくとも片方は、死を免れないほどの戦いだっただろう。
だから俺は、二人の戦いを止め、代わりに幻鏡と戦った。
アミーラは俺の指示に従ったとはいえ、一方的に勝負を放棄した形になり、敗北を宣言した。
だが、当の幻鏡はというと――タウンを出る前に、アミーラにこう告げていた。
「戦士よ……次に会ったとき、戦いの決着をつけよう」
幻鏡はなぜか、アミーラのことを〝アーミー〟と呼んでいた。
要するに、幻鏡のほうは勝ったとは思っていないらしい。まあ、プライドが高そうなあいつなら、そう言うだろうな。
意味は少し違うかもしれないが――これもきっと、〝女の戦い〟というやつなんだろう。
アミーラは、幻鏡との再戦を楽しみに、どこか嬉しそうに笑っていた。
……俺としては、信者同士が戦うにしても、死者が出るような戦いだけは避けてほしいが。
「そろそろ戻ろうか……幻鏡には幻鏡の人生、俺たちには俺たちの人生を、精一杯生きていこうぜ!」
「……うん! それもそうだね!! ボクもそろそろ仕事に戻りたいし!」
元気になった幻鏡も見送ったことだし、今回の騒動もこれで一件落着。
俺とアミーラは、気持ちのいい雰囲気で締めようとしていた。
――が、そんな時、背後から。
「そう……良いこと言ったわアミーラ。確かに、そろそろ〝仕事の時間〟だしねぇ~~」
この声は……!
俺は、恐る恐る背後を振り返る。
「ジュ……ジュダス……」
そこには、満面の笑みを浮かべるジュダスが立っていた。だが、その笑みは決して喜びから来るものではない。
むしろ、激しい怒りを押し殺すための――恐怖すら感じさせる笑顔だった。
心なしか、「ゴゴゴゴゴ……」という緊張感ある効果音が聞こえるような気がした。
「インくん……忘れていないよね? 昨日、インくんが会議をサボって抜け出したせいで――この後の予定、びっっっっっっっっっっっっっしりと詰まっているからねぇ~~?」
「じゃあ、人生を充実させるために、仕事に戻ろうか、インくん♡」
そう言うと、ジュダスはインファイター顔負けの怪力で俺の腕を掴み、ずるずると引きずっていった。
「ひえええええええええっ! 勘弁してくれぇぇぇぇぇぇ!!」
俺は泣き言を言いながら、アミーラに助けを求める視線を送る。
だがアミーラは「お気の毒に」とでも言いたげに苦笑を浮かべ、静かに見送るだけだった。
――本日もインチキタウンの一日は、明るい……のか?
次回が、いよいよ第四章の最終話となります!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
この物語の行く末は――果たしてどうなるのか!?
ぜひ、あなたの目で見届けてください!
先週中に完結予定でしたが、なんだかんだ今週に持ち越してしまいました。申し訳ありません。
体調が万全ではありませんが、明日の投稿を目指して頑張ります!!
いつも読んでくださる読者が、大好きです!!




