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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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35.「カルト教祖は魔性の女の上位互換」 前半

 また例によって文章が長くなってしまったため、前半と後半に分けて投稿します。

 後半は、もう少し時間を置いてから投稿します。

 もし……もし、わがままが許されるなら――あなたと同じ場所に行きたいな……。


「……うっ、うん!?」


 次に目を開けたとき、私様の視界いっぱいに広がっていたのは――白い天井だった。


「……………………………………………………………………………………………」


 しばらく、天井を見つめたまま、呆然としていた。

 どうやら、病室のようなフカフカのベッドに寝かされているらしい。

 ほんのり冷たい風が頬をなで、気づけば窓が少し開いていた。


「ここは……?」


 死後の世界……ではないのか? 

 夢か、あるいはファントム魔術の幻覚でも見ているのだろうか。

 だが、もしそうでないなら――私は、まだこの〝新しき世界〟にいるということになる。


「あっ、目を覚ました!」


 ふいに声がした。

 振り向くと、そこにはひとりの妖精族が立っていた。


「待っていてください! 今、我らのリーダー呼んできます!!」


 そう言うやいなや、妖精族は慌ただしく飛び去っていった。

 そして、しばらくして――

 ――ダダダダダダッ。

 廊下の奥から、走ってくる足音が響いてくる。

 その勢いに思わず身構えた瞬間――。


「幻鏡! 元気になったッスか!? 起き上がって良かったッス!!」

「ヴェダ……」


 部屋に飛び込んできたのは、エルフ族のヴェダだった。私様の顔を見るなり、ホッとしたように胸を撫でおろす。


「それで、身体の方は大丈夫ッスよね? アタシが治療したから、もう元気になっているはずッスけど」


 ヴェダの言葉に促され、自分の体を確かめる。

 たしかに痛みも傷もなく、驚くほど軽い。

 あれほどボロボロだったのに――あまりの変化に、逆に戸惑いを覚える。


「……ヴェダ、なぜ、私様を治療した?」


 いちばん気になることを、率直に尋ねた。


「……それは、教祖の指示ッス。教祖がボロボロになったあなたを抱えて、アタシに〝治してやってくれ〟って」

「……インチキ――いや、寺島が!?」


 思わず声が漏れた。

 なぜ、彼は敵である私様を助けた? それに、どうして私様は生きている? あの時、五匹の天照山犬の直撃を受けたはずだ。 肉体が残らないほどの火力――ヒーラー魔術でどうにかなる次元じゃない。


「ヴェダ、寺……インチキ教祖はどこに?」


 私様はすぐに尋ねた。 ヴェダは少し逡巡したあと、ゆっくりと答える。


「教祖なら……この施設の、屋上にいるッス」


 その声音には、どこか不安が混じっていた。 ――おそらく、私様がまた戦うつもりなのではないかと警戒しているのだろう。


「わかった……ありがとう、ヴェダ」


 礼を言い、私様はベッドから身を起こした。

 ヴェダが「あっ」と小さく声を上げ、止めるべきか迷うように手を伸ばした、そのとき――。


「待って。あなたはインくんをどうするつもり?」


 ヴェダの背後から、もう一人の声がした。

 そして姿を見た瞬間――私様は息を呑んだ。


「……馬鹿な……久……奈子?」


 ナチュラルボブの髪。黄緑色の髪と瞳、そしてどこかあどけない顔立ち。

 一瞬、本当に久奈子がそこに立っているように見えた。

 だが、すぐに違うと分かる。

 金髪に碧眼、透き通るような白い肌――そして、何より長く尖った耳。あれはエルフ族特有の特徴だ。

 彼女は、私様と同じくらいの背丈の、紛れもない別人。

 ……それでも。

 その姿の端々に、懐かしい〝久奈子の面影〟が重なって見えてしまうのだった。

 私様がしばらく言葉を失い、ただ見つめていたせいだろう。エルフ族の女は静かに息を整え、再び問いかけてきた。


「……もう一度聞くわ。あなたはインくんに〝何をするつもり〟なの?」


 その声は、ただの質問ではなかった。

 ――〝あなたの返答次第では、ここであなたを始末する〟。

 そんな覚悟を帯びた響きだった。

 私様は、正直に答える。インチキ教祖――いや、寺島光当に会って、〝何をするつもり〟なのか。


「……〝真実と謝罪〟を伝えるつもりだ」

「「真実と謝罪!?」」


 ヴェダと、名も知らぬエルフ族は同時に声を上げた。まったく予想外の答えに、言葉を失ったように顔を見合わせるのだった。


「ああ……だから頼む、彼に会わせてくれ」


 私様の言葉に、二人はしばらく沈黙したまま視線を交わした。

 そして、渋々といった様子で入口の前から退き、私様の行く道を開ける。


「……ありがとう」


 そう告げて、私様は病室をあとにした。

 階段を上り、最上階――屋上へと向かう。

 屋上の奥では、薄暗い夜気やきの中、寺島光当が背を向けたまま何かを見つめていた。


「寺島……」


 私様は彼に歩み寄り、背後から静かに声をかける。


「待て。――そろそろ()()()のはずだ」


 寺島は振り向かず、ただ前方を凝視したまま、意味深な言葉を落とす。

 私様は気になり、彼の隣に立って、その視線の先を追った。


(来る? 一体……何が?)


 胸の内で疑問を抱いた、その瞬間――答えは訪れた。

 夜を終わらせるように、東の空がわずかに朱を帯びる。

 そして、ゆっくりと太陽が顔を出した。

 光が、インチキタウンをやさしく包み込み、世界に色を戻していく。


「……綺麗だな」


 思わず、言葉が零れた。


「だろう? たまに早起きしたときには――この瞬間を見るようにしているんだ」


 寺島は、朝陽ちょうように照らされるタウンを見つめながら応じる。

 古来より、多くの文明は〝夜明け〟を神聖視してきた。

 それは、絶望の終わりであり、希望の始まりを告げる光。

 日本神話における太陽神のように――。

 その気持ちは、確かにわかる。

 今この瞬間の光は、これまで見たどんな夜明けよりも、美しく感じられた。


「……寺島、なぜ、私様の命を助けた?」


 日の出を眺めながら、ぽつりと寺島に問いかける。


「……勘違いしているようだから教えてやる。幻鏡、お前の命を救ったのは、俺じゃねえ……お前が放った狼の魔術たちだ」

「なに!?」


 驚きが込み上げる。天照山犬が――私様を救っただと? 信じがたい話だ。寺島のカウンターで威力が増したはずの天照山犬がどうして救いになるのか。首をひねる私様に、寺島はすぐ答えた。


「五匹の狼は、お前に当たる寸前で互いの首を噛みついたんだ。はたから見れば、その共食いはウロボロスみたいに輪になって、グロくもあった……だが、その結果――五匹とも、お前に直撃せず、その場で爆発したんだ」

「当然、お前もその爆発には巻き込まれたが、それでも辛うじて虫の息で済んだ……つまり、お前が助かったのは、五匹の狼が自爆してくれたおかげだ」


 まさか、そんなことが――。

 だが説明を聞いて納得する点もあれば、納得できない点もある。


 納得できる点――天照山犬は、まるで生きた狼のように意思を持っている。それなら、互いに噛みつき合うことも起こり得るだろう。私様を守るために、自らを犠牲にするという行動も説明がつく。


 納得できない点――それでも、虫の息だった私様を、なぜ寺島は助けたのか。


「寺島、ならなぜ虫の息だった私様を助けた? 私様は貴様を殺そうとしたのに……放っておけばそのままくたばっていたはずだ」


 寺島からすれば、タウンの敵であり、自分の命を狙った相手だ。普通なら救う理由などないはずだ。もしかして寺島は、敵であっても救おうとする聖人なのか――そんな疑問を抱く私様に、寺島は頭をポリポリとかきながら言う。


「うーん……別に、俺からしたら殺す理由がなかったってだけだ。お前がタウンの信者一人でも危害を加えていたら話は別だが――」

「あっ、アミーラは確かにボロボロになったが、戦うこと自体があいつの望みでもあった。あいつは超喜んでいたぞ――お前と戦えてって」


 意外な返答だ。私様が問いを続ける前に、寺島はさらに続ける。


「それと……お前、あのときわざと狼にくらって死のうとしただろう? そのまま見逃して死なせてやれば、お前の望み通りになる。だから逆張りで助けてやった――そんなところかな」

「ぎゃ、逆張りだと……!?」


 さらに驚く私様。寺島の言葉が本心なのか、照れ隠しの作り話なのかは判断がつかない。



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