31.「偶然にしては出来過ぎている」
――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
音が鳴っているわけでも、暴風が吹いているわけでもない。
これは私様の〝イメージ〟。
インチキ教祖が戦う意志を見せた瞬間、そのオーラが――変わったのだ。
一言でいえば、巨大。
今まで戦ってきたカルト教祖たちの中でも、群を抜いて小さかったはずのオーラが、今はその誰よりも――圧倒的に大きい。
そして、その気配は禍々しい。
まるで、オーガ族のダエーワ・ファミリーすら霞むほどの〝鬼〟を思わせた。
(……どうなっている? なんだあのオーラは? どうして変わった!?)
……息を呑む。
身体中に嫌な汗が吹き出す。
胸の奥で、心臓が不規則に跳ねる。
気づけば、足が一歩、無意識に引いていた。そして、わずかに震えている。
(……これは、なんだ……恐れているというのか……この私様が……)
私様の第六感――いや、本能が訴えかけていた。
〝あの敵とは戦ってはいけない〟。
それは理屈ではなく、魂そのものが発する悲鳴のような警告だった。
そして、その瞬間、脳裏によみがえる。
――……これから、キミが戦う相手だけど……一つ助言しておこう。
キミの切り札の魔術――下手に出し惜しみせず、戦いが始まったら最初に出すべきだ。キミが勝てる道があるとするなら、その一手しかない。それほどまでの相手と思ってくれ
アミーラの声が、まるで耳元で囁かれたかのように響く。
その言葉の意味が、いまになって胸にしみた。
(たしかに……切り札を使うなら、今のうちかもしれない!)
私様は己の直感に従い、切り札を発動するため構えを取る。
だが、その時――
――幻ちゃん、どんな理由であろうと、一方的に勝負を下りたのはボクの方だ……だからキミとの勝負、キミの勝ちでいいよ
思い出すのは――勝ちを譲られ、そして一方的に勝負を下りた卑怯なアミーラの言葉。
あいつの思い通りに動くのは、どうにも癪だ。
(……フン! 見くびるな――切り札をどのタイミングで使うかは……私様が決めることだ!)
私様は構えを解く。
つまり、切り札をここでは使わない選択を選んだのだ。
薄々、間違った選択だと分かってはいた。
だが、私様の自尊心が、アミーラの言葉に従うことを許さなかった。
「幻鏡よ……」
インチキ教祖がゆっくりと呟いた。
「……何だ?」
その男が一言発するだけで、喉が鳴る。
今まで以上に迫力を増した男が、何を言うのか――私様はその言葉を待った。
そして、彼は人差し指を――
「おい、あれは……何だ?」
そう言いながら、私様の後方へと指を向けた。
なんだなんだと思いながら、私様はつい、その方向へと視線を向けてしまう。
すると――
「バカめ! 嘘に決まっているだろ!! 今だ、光明光明光明光明光明光明光明光明!!」
――ピカッ!!
インチキ教祖が、フラッシュ魔術を放った。
銀色に輝くその光線は、私様の金印紫綬に匹敵するほどの大きさと威力を感じさせた。
「馬鹿は貴様だインチキ教祖! その程度の不意打ち、私様には効かない!」
私様は回収した金と銀の鏡を向ける。
――キュインキュインキュインキュインキュインキュインキュインキュイン!
「何!?」
第六感で、奴の不意打ちに対応。
そして、インチキ教祖のフラッシュ魔術をそのまま〝倍返し〟で放つ。
光速による反撃。その速度は、インチキ教祖ですら躱すのが容易ではなかった。
光線が激突し、巨大な爆発が巻き起こる。
「フン……やはり大したことないわ。これだけの高威力のフラッシュ魔術……まともにくらって無事なはずが――」
「ごほっ、ごほっ……うえっ、ごほっごほっ!! 俺の魔術をそっくり、いやそれ以上にして返してきやがった……あれが反撃型魔術ってやつか? 初めて見たぜ……」
爆風が晴れると、インチキ教祖が姿を現した。
髪はアフロと化し、アミーラのときのように身体に火傷は負っているが、その程度。致命傷には程遠い。
(また、このパターンか? インチキ教祖もインファイターなのか? いや、しかし――先ほどのフラッシュ魔術の威力はオールラウンド級だった……まさか、奴のスキルタイプは……)
私様は、インチキ教祖のスキルタイプに心当たりがあった。
インファイター並みの頑丈さに、オールラウンド並みのフラッシュ魔術――その精密なコントロールと威力。
それらを同時に成立させられるスキルタイプといえば、ただひとつ。
「ちくしょう……アミーラめぇ。幻鏡が反撃型魔術使えるなら教えろよ……おかげで痛い思いしちまったじゃねえか……」
「貴様……スキルタイプは〝コネクト〟なのか? 私様と同じく……」
「ん? 〝私様と同じく〟ということは……お前もコネクトなのか?」
――私様とインチキ教祖。
同じ〝コネクト〟同士であることが、ここで明らかになった。
インチキ教祖がコネクト……その事実に、私様の中である思いが芽生える。
「……フッ、偶然にしては出来過ぎているな……」
「この新しき世界で、私様は様々なカルト教祖と戦ってきた。
神仙教教祖――サイ・オウボウはオールラウンド、
知識の門の先生――レウコス・カルポースはヒーラー、
ダエーワ・ファミリーの〝鬼頭〟――アフリマン・ゲルメズはインファイター……」
「そして、インキタウンの長――インチキ教祖、貴様がコネクトとはな……。 こうも見事にスキルタイプが分かれるものなのか?」
「……何をぶつぶつ喋ってやがる?」
「……いや、こちらの話だ」
「……不気味な奴だな、お前」
「自分で〝インチキ教祖〟と名乗る貴様に言われたくないわ」
(なるほど……コネクトか……厄介だな)
奴がコネクトとなると、話はまったく変わってくる。
一見すれば、私様とインチキ教祖は〝同じスキルタイプ〟として互角に見える。
だが、条件は天と地ほど違う。
コネクトの特性――〝魔力譲渡〟。
魔力を貰えば貰うほど、際限なく強くなるスキルタイプ。
たとえ譲渡される魔力がほんの一欠けらでもいい。
それだけで、コネクトは譲渡者の魔術を扱える上に、魔力量そのものも膨れ上がる。
そして、インチキ教祖は――このインキタウンに集う、六百を超える信者たちの長だ。
(つまり、単純計算で六百人分以上の魔力を……あの男は一身に背負っているということか……)
対する私様が魔力を貰ったのは――久奈子、ただ一人。
魔力量にしても、扱える魔術の数にしても、私様が圧倒的に不利なのは明らかだった。
(だが、それはまともに戦えばの話だ! アミーラから私様の戦術を聞けなかったことを後悔するがいい!!)
今度はこちらから仕掛ける。
「天岩戸!」
――スッ!
「なっ、消えた!?」
私様は透明人間と化す。
インチキ教祖は、露骨に動揺し、キョロキョロと私様を探す。
(……フッ、思った通りだ。アミーラとの戦いではオーク族の嗅覚があったため、この戦術は使えなかった。だが、インチキ教祖はただの人間。ゆえに――姿が見えなくなるこの戦術は有効!)
(加えて、私様のカウンター魔術を警戒するなら、迂闊に攻撃できないはず……)
そう確信し、足音を殺して静かに間合いを詰めた――そのときだった。
「……バカめ! カウンターを恐れて攻撃を止めるかよ!! やり方はいくらでもある!!」
インチキ教祖は地面に拳を構えた。
(あの構えは――土砂系魔術!?)
「――地空界!!」
――バキッ!!
叫びと同時に、地面が裂けた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
割れた大地の下から、深い奈落が顔を覗かせる。
(しまった! これはアミーラ戦とは真逆の戦法……! つまり、奴の狙いは――)
「落とし穴だ。これでお前も落ちてくれるといいんだが」
インチキ教祖はそう呟き、崩れた地面とともに自らも奈落へと身を投げた。
明日も続き投稿できるように頑張ります!
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