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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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30.「魔性の女だから気を付けて」 後半

 

「それはアタシが教えたッス! アミー!!」


 上空から声が聞こえた。

 その語尾の「〜ッス」は――先ほど会ったヴェダだ。

 バサバサバサバサバサバサバサバサバサ――

 空を見上げると、ドラゴン族のルーベンスと、その手に乗ったエルフ族のヴェダが静かに着地した。


「ヴェダちゃん! なんでキミまで、ここに来たのさ!?」

「教祖から頼まれたッス! アタシにアミーの傷の治療をお願いするように」


 ヴェダの返答に、アミーラは驚き、しばし考え込むような素振りを見せた。


「……ヘイヘイ――教祖様の指示なら――信者のボクは従うよ」


 アミーラはしょんぼりした表情で折れた。


「ああ、ありがと――」

「だけど、インちゃん! ボクの代わりに戦うというなら――条件がある!!」


 お礼を言おうとしたインチキ教祖の言葉を、アミーラが遮る。一本指を立ててから、一呼吸置いて条件を告げた。


「ヴェダちゃんによる治療はボクじゃなくて……幻ちゃんにやってくれ! 肉体の傷だけじゃなく、魔力の全回復まで」

「えっ?」

「なに!?」

「どういうことッスか?」

「……なんだと?」


 アミーラ以外、この場にいる全員が驚いた。私様も含めて。


(私様を……回復するだと?)


 アミーラの狙いがわからない。


「だってそうだろう? 一人の女の子を寄ってたかっていじめるなんて、可哀想じゃん。 幻ちゃんは、あの傷と戦いでかなり魔力を消耗している。このままインちゃんと戦わせたら確実に負ける!」

「一度幻ちゃんをベストコンディションに戻してから戦わせる――これこそが、男女平等ってやつさ!!」


 ……なるほど、戦闘狂のアミーラらしい。

 男女平等の使い方は明らかにおかしいが、筋は通っている。


「……待て」


 だが、その提案を私様は受け付けなかった。何となく、アミーラたちの言動が気に食わん。


「黙って聞いていれば……貴様らだけで勝手に進めるな!!」

「アミーラ! 私様は納得していないぞ!!」

「貴様との決着はまだついていない! 最後まで戦え!!」


 私様はアミーラを睨みつけ、そして次にインチキ教祖へと視線を向ける。


「その次は貴様の番だ、インチキ教祖!!」


 さらに、ヴェダとルーベンスをも睨みつけて叫ぶ。


「そもそも――私様は敵の情けを受けるつもりはない!!」


 沈黙が流れる。

 風の音さえも止んだようだった。

 やがて、インチキ教祖が口を開く。


「アミーラ……ヴェダから聞いたんだが、あいつは俺を殺したいんだって?」

「ん? そうらしいよ」

「仮にヴェダに治療させたとして……たとえば、ヴェダに危害を加えたり、人質を取るような行動は?」

「大丈夫だよ、インちゃん……彼女はそんな卑劣な人間じゃない。ああ見えて芯があるし、自分のことを『様』呼びするくらいプライドが高い。インちゃんを殺すとしても、信者に対しては、邪魔をしない限り危害は加えないはずだよ……」

「……その、肝心の俺を殺そうとするのはやめてほしいんだけどな……」


 インチキ教祖は軽く笑ったあと、しばらくしてから口を開いた。


「……ヴェダ、幻鏡の傷と魔力を回復してやれ!」

「えっ? いいんッスか? 教祖」


 インチキ教祖は「ああ」と短く答えると、ヴェダが釈然としない表情を浮かべながらも、私様の元へと向かった。


「おい、ヴェダを行かせていいのか? それと、アミーラ、お前のその傷はどうするんだ?」

「ああ、ボクの怪我なら、自分で治すよ――」


 ――キュイン!

 アミーラがヒーラー魔術を発動すると、彼女の身体の傷はみるみるうちに癒えていった。


「なに? ……どういうことだ? あの回復の速さは……」


 ヒーラー魔術。

 インファイターでも使えないことはないが、そのクオリティは他のスキルタイプに比べて著しく劣る。

 本来なら、生粋のヒーラーはもちろん、オールラウンドよりも回復速度は遅いはずだ。

 だが、アミーラは――一瞬で、ボロボロだった身体を癒してみせた。

 あの回復の速さ……紛れもなくヒーラー級だ。いったい、どういうことだ?


「幻ちゃん、どんな理由であろうと、一方的に勝負を下りたのはボクの方だ……だからキミとの勝負、キミの勝ちでいいよ」

「なっ、勝ちでいいだと!」


 アミーラの言い方が気に入らない。勝ちを〝譲られた〟ように感じられるのだ。するとアミーラは意味深に続ける。


「そして……これから、キミが戦う相手だけど……一つ助言しておこう。

 キミの切り札の魔術(ジョーカー)――下手に出し惜しみせず、戦いが始まったら最初に出すべきだ。キミが勝てる道があるとするなら、その一手しかない。それほどまでの相手と思ってくれ」


 まるで、自分との戦いなど比べ物にならないと言わんばかりだ。


「なぁ……アミーラ、アイツ、どんな魔術を使うか教えてくれよ? ついでにスキルタイプもわかっているなら」

「ええ~~っ、教えたら、幻ちゃんが不利になるじゃんか!」

「アミーラ、テメェ、男女平等ってぬかした癖に、俺にはノーヒントなのか? なんで、教祖の俺には教えなくて幻鏡アンチには教えるんだよ!!」

「あ〜あ、それもそうだね……じゃあ、公平にヒントを一つ上げるなら……彼女は魔性の女(ファム・ファタル)だから気を付けて」

魔性の女(ファム・ファタル)? おい、どういうことだ!? 匂わせやめろ! ちゃんと教えろよ!!」


 インチキ教祖は勝率を少しでも上げようと、しつこくアミーラに問い詰める。彼の姿はどこか小物っぽく見える。やはり、かつてのカルト教祖たちと比べると求心力カリスマやオーラは小さい。


(しかし、こうして改めて見ると、やはりどこかで見たことがあるなぁ……もしかして、前の世界では芸能人かインフルエンサーでもやっていたとかか?)


 インチキ教祖を見つめると、やはり見覚えがあるような気がする。これから殺す相手だというのに、私様はなぜかその顔を思い出したくなる。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「よし! 終わったッス!!」


 そんなことを考えているうちに、ヴェダの治療は終わった。身体を動かして確認すると、本当に傷も魔力も全快している――本当に治したのだ。敵の私様を。


「よし! 治療も済んだことだし、オレはヴェダとアミーラを連れて離れる。インチキ教祖、お前が全力で暴れるようにな!!」

「ああ! ありがとうルーベンス!」

「教祖! 油断は禁物ッスよ!! 絶対勝って!!」

「ああ! 幻鏡の治療引き受けてくれてありがとうなヴェダ!!」

「インちゃん、ボクが幻ちゃんの回復を選んだのは、平等な条件で戦わせたいという思いもあるけど――それ以上にインちゃんなら勝てると信じているからだよ。遠くからキミの戦いっぷりを見ているよ」

「ああ……まあ、そういうことにしといてやるか! あとは俺に任せとけ、アミーラ」


 インチキ教祖と会話を交わすと、アミーラとヴェダとルーベンスはその場を去った。残ったのはインチキ教祖と私様、二人だけ。


(今更だが……こんなに早くインチキ教祖と相対できるとは思わなかった)


 ここに至るまでには、何人、何十人、最悪何百人の信者を薙ぎ倒す覚悟もしていたのだ。


「さてと……そろそろ始めるか」


 彼がぽつりと呟いた瞬間、見えていた彼のオーラが突如、変わっていった――。


 インチキ教祖のオーラに、いったいどんな変化が起こるのか!?


 ──第四章・ラストバトル、ついに開幕!!

 インチキ教祖 VS 幻鏡──二人の勝負の行方は、果たして……?

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