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異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す  作者: 朝月夜
第4章社陸幻鏡という女

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29.「ジョーカー」 後半

 お待たせしました。後半となります。

 幻鏡VSアミーラ戦――クライマックス!!

 そうして、約五分が過ぎた頃――

 虚ろだったはずのアミーラの瞳に、再び輝きが戻った。


「あれ? 幻覚が見えなくなった……戻ったぞ――っ!!」

「ハァ……ハァ……逃げ足が速い奴だ……」


 ボロボロになりながらも、アミーラはガッツポーズを決める。

 そして、私様は逃げるアミーラを全力で追いかけたせいか、息が上がっていた。

 ――つまり、この五分間、私様はアミーラを倒しきれなかったのだ。


「フフン! 体中が痛む……ボクが幻覚を見ていることをいいことに、ずいぶん痛めつけてくれたね……でも、もう大丈夫! ここからはボクの反撃ターンだ!!」


 アミーラは反撃の準備をするかのように、三節混をブンブンと振り回しながら、意気込んでみせる。


(くそぉ……ファントム魔術をかけたのに、それでも倒せなかった……残る手は――()()()()か)


 ゲルメズを葬った、あの魔術。

 つまり、私様の切り札の魔術(ジョーカー)だ。

 確かに、あれを使えば、いかにタフなアミーラであろうと、確実に仕留められるだろう。

 その発動に必要な魔力も、まだギリギリ残っている。


(だが、あの魔術を使えば……私様の残り魔力は限りなくゼロに近くなる。このあとの信者たちとの戦闘――ましてやインチキ教祖との戦いに耐えきれるかどうか……)


 私様は、最後のカードを切るべきか――まだ迷っていた。


「迷っているね……ボクを相手に、切り札の魔術(ジョーカー)を使うかどうか」


 アミーラは、まるで全て見透かしているかのようにフフッと笑った。


「いいこと、教えてあげようか。ボクを相手に――出し惜しみはしないほうがいいよ? 

 本気を出さずにボクに勝てるのは……インちゃんと、それと――父だけだったから……」


 そう言った彼女の目は、どこか懐かしさを湛えていた。

 同じ女性としての直感か、あるいは私様の得意とする第六感によるものか――それは定かではないが、私様にはすぐに察しがついた。


「そうか……貴様の父は、もう亡くなっているのか」

「うん、そうだよ」


 アミーラは驚くほどあっさりと答えた。


「……親は、好きか?」

「うん! 父さんも母さんも、だーいすきさ!!」


 その答えに、私様は少しだけ目を細める。


「そうか……羨ましいな……」


 戦闘の最中だというのに、奇妙な沈黙が生まれる。

 ほんの一瞬だけだが、激戦の空間に、あたたかな空気が流れた。


「……じゃあ、そろそろいいかな? 反撃するよ?」


 アミーラが三節混を構えながら、そう告げる。

 私様も二枚の鏡を構えながら、応じる。


「……フッ、いつでもかかってこい。だが、貴様に何ができる? 攻撃を放てば、私様のカウンター魔術が待っている。下手に近づけば、またファントム魔術の餌食になるだけだぞ?」


 ここまでの戦闘――私様は一切の傷を負っていない。対するアミーラは、すでに満身創痍だ。

 魔力の残量はわからないが、体力的には明らかにこちらが有利。

 アミーラがインファイターとしていかにタフであろうと、その事実は変わらない。


「そうだね……キミのカウンター魔術は、やっぱり厄介だ。それに、小手先の策じゃ通じない。だから――」


 ブンブンと振り回していた三節混をピタリと止め、アミーラは不敵に言い放った。


「やっぱり、ゴリ押しするか!」

嵐風装束ハブーブ、そして――雷電装束アースィファ


 風と雷、二種のトーブを重ねると、アミーラは再び三節混を高速回転させる。

 振る。

 振る。

 ただそれだけで、振るたびに飛ぶ斬撃が、私様を目がけて次々と襲いかかってくる。


(馬鹿か!? そんな正面からの攻撃など、カウンターしてやるまでだ――!)


 当然、私様は斬撃を跳ね返す。反射された衝撃は倍となって、アミーラに襲いかかるはずだった。

 だが――


「うぉおおお! カウンターしたいなら、させてやるよぉおおおおお!!」


 アミーラは三節混を回しながら、なおも真正面から突っ込んでくる。

 振るたびに飛ばす斬撃、それを跳ね返す私様。そして、その跳ね返された斬撃すら、アミーラは切り裂いて突き進んできた。


(馬鹿な……! 本気でゴリ押しするつもりか!? ……いや、違う、狙いは――!)


 私様は気づく。アミーラの本当の狙いに。

 これはただの無策な突撃などではない。

 アミーラは〝わざと〟カウンターを誘発している。

 彼女の攻撃は、まともに食らえば致命傷は免れない。しかも速い。回避が難しい以上、こちらはカウンターせざるを得ない。

 その結果――私様は、ファントム魔術など、他の魔術を発動する暇を完全に奪われていたのだ。

 それに気づいたときには、すでにアミーラは目の前に迫っていた。


「くらえ、幻ちゃん! ようやく一発――っ!!」

 アミーラが右腕で三節混を大きく振り上げる。


(来る……いや――これはフェイントだ!)


 刹那、私様の第六感が働く。

 左から迫っていたはずの斧は、突然引かれ、銀の鏡に当たる直前で止まる。

 それと同時に、アミーラの身体がジャンプし、時計回りにひねられる。

 ――本命ねらいは、回転斬り。


「見切ったさ……」


 私様は金の鏡で、その回転攻撃を正面から受け止める。

 そして、その衝撃は倍にされて、アミーラへと跳ね返されるはずだった。

 だが――


「だよね、キミなら通じないかもって思っていたよ――」


 アミーラは笑みを絶やさなかった。

 跳ね返された衝撃を――そのまま利用して、今度は反時計回りに身体をひねる!

 再び、左から迫る斧。


(なっ……馬――)

 ――ズバンッ!


 二枚の鏡の間を、見事にすり抜けた一撃が、私様の身体を深く斬り裂いた。

 気づけば、視界は空を向いていた。

 斬られた痛みを認識したのは、身体が地面に叩きつけられた、ほんの少し後のことだった。


「……がはっ……!」


 切り裂かれた傷口から、焼けるような痛みと、サンダー魔術による痺れが走る。体が、思うように動かない。

 ふらりと歩み寄ってきたアミーラが、ゆっくりと口を開く。


「いや、幻ちゃんって本当に凄いよ……あの一瞬で、背後に飛んで、魔力のオーラを斬られる箇所に集中させた。ダメージを軽減しようとするなんて……普通、そんな判断、できないって」


 私様は、なんとか身体を動かし、四つん這いになった。

 ――ドクドク

 斬られた箇所から、赤い液体が止めどなく流れ落ちていく。


「ハァ……ハァ……」


 動けない。先ほどから、まともに身体が言うことをきかない。

 視界はぐらつき、焦点が定まらない。気絶か、それとも――死が近づいているのか。

 そして、手元にあるはずの鏡は――ない。さきほどの一撃の衝撃で、どこかに吹き飛んでしまったのだ。

 つまり、今の私様には……防御手段すら残っていない。


「決着かな?」


 アミーラが目の前で仁王立ちし、三節混を肩に担ぎながら、まるで勝利を宣言するかのように呟いた。

 その声も、もうかすかにしか聞こえない。耳は遠くなり、まるで世界そのものが遠ざかっていくようだった。


(……負けるのか? 私様が? こんなところで?)


 自問が始まる。


(久奈子の犠牲を経て、力を増したはずの……私様が?)


 敗北という言葉が、現実味を帯びて胸にのしかかってくる。


「くそぉ……」


 悔しさからか、涙が――勝手に頬を伝い落ちていた。


(……ここまでなのか)


 そう思った――その瞬間だった。


 ――……泣かないで……相棒……

 ――大丈夫……あたしの……魔力は……あなたに残るから……


 懐かしい声が、耳の奥に響いた。

 久奈子の、あの時の言葉が。


(そうか……そうだったな……)


 私様は気づく。忘れていたことに。今の私様は、もはや独りではないことに――

 この身体に流れる魔力()には、あの相棒の力も混ざっていることに。

 それを思い出した瞬間、私様は右手の指を構える――

 ――指パッチンの動作。

 それだけで、アミーラが鋭く反応した。


「!?」

 そして、素早く後方へ飛び退く。


「……あれ? 魔術を……発動しない?」


 そう――魔術は発動していない。

 つまり、これは私様の――フェイント。


「うっ……ぐおおおおおおおおおおおっ!!」


 喉を潰すような咆哮と共に、私様は自らの身体を叩き起こす。

 足に力を込め、なんとか立ち上がり、両手を構える。

 左手は握るように指を曲げ、右手は人差し指をピンと伸ばす。

 両手首を重ね、構えの先――アミーラをまっすぐに射抜くように向けた。


「ハァ……ハァ……アミーラ……お望みならば、見せてやろう……」


 切り札の魔術(ジョーカー)を。

 その名が告げられた瞬間、アミーラの顔が歓喜に染まった。


「ハハ……ハハハッ! 待っていたよ!! キミの、切り札の魔術(ジョーカー)!!」


 この先の戦い? ――そんなもの、考えている余裕はない。

 私様は、大きなミスをしていた。

 アミーラを舐めていたのだ。

 いま目の前にいるこの敵は――全力を出しても勝てるかどうか、わからないほどの強敵。


「よっしゃ!! じゃあ、ボクも出すよ――ボクの死力魔術ジョーカーを!」


 私様とアミーラ、二人は構えたまま睨み合い――そして、同時に叫ぶ。

 切り札の魔術(ジョーカー)を!


限界突バルザ――」

「天照オ――」


 ――そのときだった。

 上空から、風を裂くような音とともに、一つの巨大な影が、私様とアミーラの前へと舞い降りた。



 何が起きた!?


 いつも読んでくれる読者あなたが大好きです!!

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