28.「ゴリ押し」 後半
だが――
「言ったろ……ゴリ押しするって……」
アミーラはそう呟くと同時に、再びその二本の光線を二枚の両刃斧で受け止めた。
しかし今度は、光線に押されるどころか――逆に、じりじりと押し返してくる。
「なにぃ!?」
アミーラはなおも光線を押し返しながら、あっという間に間合いまで詰めてきた。
「貴様! 私様のカウンター魔術があっても、なお近づくつもりか!」
「あいにく、身体の丈夫さが取りえでね。――重傷負っても、キミに一発やり返せるなら万々歳さ!」
アミーラはニヤリと笑いながら、さらに迫る。
――イカレてやがる。
だが、こういう捨て身の相手ほど厄介なものはない。止めるのは至難の業だ。
「くそっ、桃源郷!!」
――パッチン。
私様は指を鳴らし、目前に迫ったアミーラを止めるべく、ファントム魔術を発動する。
紫煙が立ち上り、霧のように私様の全身を包み込む。
「うぉ!? まさか幻惑系魔術まで持っているのかよ!! ――嵐風装束!」
アミーラは叫ぶや否や、即座に風のトーブを纏い、一気に空へと舞い上がった。
紫煙を吸い込むことなく、風の渦をまとって離脱したのだ。
――アイツ、空まで飛べるのか……。
互いに距離を取り、牽制するように空中で睨み合う。
次の瞬間、二人は同時に地面へと降り立った。
しばらく睨み合ったあと、アミーラはフフっと笑った。
「……反撃型魔術を活かした戦術に、幻惑系魔術まで……フフ、はっきり言って、ボクにとって苦手なタイプだよ」
弱音のようでいて、その顔はどこか満面の笑みを浮かべている。
「……貴様、何が可笑しい?」
「だって、楽しいだろ? このバトル……攻めようとするボクに、攻めさせないキミ。シンプルな戦いだけど、その攻防が最高だよ」
アミーラはニヤニヤしながらそう答えた。
その笑みに、私様は背筋が寒くなる。
「そうか。私様は貴様と違って、戦闘を楽しむ趣味はない」
「えっ? そうなの? そんなに強いのに? もったいない……」
「そもそもこの戦い、私様にとっては通過点に過ぎないのだ……貴様を速攻で片付けたあと、インチキ教祖を殺すための通過点にな」
私様が「インチキ教祖を殺す」と言い放つと、アミーラの顔つきが急に真剣になる。
「……そういえば、キミ、なんで急に暴れたんだ? ノリでこのまま戦ってたから、詳しい事情は知らないんだよね」
「……」
「最初にキミを見かけたときは、もっと頭良さそうにうまく立ち回るタイプかと思ったのに……こんな敵地で思いっきり暴れるなんて、無茶もいいところだよ」
「……私様の勝手だ」
アミーラの言うことは尤もだ。
なぜ私様がこんな強引なやり方でインチキ教祖を殺そうとしているのか。本気で倒すつもりなら、暗殺を狙うのが最良なのに。
私様は自分の行動を問いかけるように考え込む。すると、そんな私を眺めながらアミーラはまた笑みを浮かべた。
「まあ、いいや……キミがなんでインちゃんを殺したいのかわからないけど、今はこの戦いを楽しもうよ!」
「キミ、切り札の魔術を隠し持っているよね? ボクも同じだけど、いざとなれば使うつもりだろう?」
アミーラは笑みを崩さず、したり顔で言った。
「でも、インチキ教祖を殺すためには、その魔術は温存したいだろう?」
「……」
「でもさ、このままだとお互いジリ貧だよ。それに、ボク如きをさっさと倒せないと、インちゃんを殺すなんて到底無理だ」
(そんなことは分かっている。今までの戦い方が駄目なら、変えるまでだ――)
そう決心した私様は、アミーラへ向かって猛ダッシュした。
「!?」
私様の突然の行動に、アミーラは虚を突かれたような表情を見せた。
今まで受け身だった私様が、自ら向かって来るとは思わなかったのだろう。だからこそ、そこを突く。
「うおらああっ!」
――バキンッ!
アミーラは再び地面へと衝撃を与え、私様の接近を阻もうと地形を変える。
「フン! その手はもう乗らない」
私様は右手の金の鏡を思いきり投げ放つ。
同時に、左手の銀の鏡を足場にして跳躍した。
カウンター魔術が作動し、私様の身体はより高く、より速く――アミーラの頭上へと迫る。
「嘘!?」
「今だ! ――桃源郷!」
――パッチン。
再び紫煙が弾け、香水のように私様の身体を包み込む。
アミーラはその意図を読めず、一旦後方へと飛び退いた。
「フン! 攻めるんじゃなかったのか?」
今度は私様が、したり顔で挑発する。
「そこだ! ――八風!」
手刀の構えから、テンペスト魔術による飛ぶ斬撃を放つ。
だが、アミーラはそれすらも柔軟に躱した。
……いや、躱したように見えただけだった。
ちょうど、金の鏡がアミーラの背後に回り込んでいたのだ。
「!? ここまで計算して――」
言葉を終える前に、金の鏡が斬撃を反射。威力を倍化して放つ。
「こんなもの効くかよ!」
――ザシュン!
三節混を振り抜き、斬撃を弾き飛ばすアミーラ。
……だが、それすらも計画の内だった。
「あっ、しまった……」
アミーラがそう呟いた直後、全身が金縛りにあったように硬直する。
「気づいたところで遅い……」
今のテンペスト魔術は、攻撃ではなく――〝煙〟を運ぶための一撃。
その煙こそ、ファントム魔術《桃源郷》の紫煙である。
「今度こそ、本当に終わりだ……アミーラ」
ファントム魔術に囚われたアミーラには、私様の勝利宣言が届くことはなかった。
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