28.「ゴリ押し」 前半
前回の投稿から遅くなり、申し訳ございません。
本日、第四章 第二十八話 の投稿となります。
後半は、本日朝 8時過ぎ 頃の投稿を予定しております。
読者の皆さま、いつもお読みいただきありがとうございます。
ダエーワ・ファミリー戦でシヤーフを仕留めた、〝耳の穴に光線を通す射撃術〟。
どれほど鍛え抜かれたインファイターの鋼の肉体であろうと、耳の穴まで鍛えることなどできるはずがない――そう思って放った一撃だった。
「痛っ……たたた! いやぁ、鼓膜破れるかと思ったわ……」
(……はっ?)
あっさりと立ち上がったアミーラが、右耳を軽く押さえながら苦笑する。
「ずっと思っていたけど、コントロール力、凄すぎない? 反射まで計算して、ちゃんと当てるとかさ」
(……なぜ?)
「……貴様、なぜ生きている?」
私様が問いかけると、アミーラはわざとらしく顔をしかめ、怪我を負った右耳をこちらに向けてきた。
「え? なにか言った? キミのおかげで右耳がちょっと聞こえづらくて」
耳の穴を貫いた光線は、わずかに数滴の血を垂らす程度にとどまり、致命傷には至っていない。
「うん、耳も筋トレしておいてよかったよ。……本当は音で攻撃してくるタイプの敵に備えていたんだけど、まさかこんな応用が利くとはね」
(……耳も、筋トレ……だと?)
(あいつ……どうやって倒せばいいんだ……)
その不死身にも思える耐久性に、私様は思わず内心で呆れるしかなかった。
「ふ~ん、中々楽しいね……キミのスキルタイプは、搦め手で戦うオールラウンドかな?」
アミーラは軽くストレッチをしながら、こちらのスキルタイプを探るように言う。
「……それとも、オールラウンドから魔力を得たコネクト?」
「……意外に鋭いな」
私様はそれだけ答える。アミーラはその言葉にフッと笑った。
「さて……ボク、さっきからやられっぱなしだから、戦い方を変えないとね――」
そう言って、アミーラは何かを仕掛けるように、三節混を構える。そして――
ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブン……
高速で∞の字を描くように三節混を振り回すたび、空気を裂く唸りが響いた。
「……真正面から攻めてもダメ。スピードで押してもダメ~~ってなると、うん、となれば――」
アミーラの目がギラリと光る。
「もっとゴリ押しするか!」
その瞬間、アミーラは地面に向かって渾身の一撃を振り下ろす。
「うおらああっ!」
――バキンッ!
轟音とともに地面が大きくひび割れ、裂け目は一瞬で、底の見えない深い谷と化した。
「なにっ!?」
私様は咄嗟に飛び退き、崩れ落ちる大地を回避する。
「なんて馬鹿力だ……!」
視線を落として谷底を覗いたその一瞬――アミーラの姿が消えていた。
「……奴はどこだ?」
辺りを見回しても、どこにも姿はない。音も気配も感じられない。だが――
「土砂装束!」
突如、地中からアミーラの声が響いた。
次の瞬間、私様の足元の地面が爆発するようにえぐれ、土煙を巻き上げて遥か上空へと吹き飛ぶ。追い討ちをかけるように、無数の土砂と石の塊が、私様めがけて猛スピードで襲いかかってくる。
「今度は物量で攻める気か!? だが――無駄無駄無駄!!」
私様は両手の鏡を構え、それらの攻撃を次々と跳ね返していく。
(こんな攻撃が通じるとでも……)
そう思った矢先、あることに気づいた。
(いや……これは――)
土や石の破片は、私様だけを狙っているわけではない。まるで、空中に浮かぶ私様を囲むように、立体的にばら撒かれていたのだ。
(まさか! 奴の狙いは――)
「雷電装束」
一筋の雷光が、私様のすぐ横を鋭く駆け抜けた。
「くっ! 金印紫綬!!」
――キュインキュインキュインキュイン!
私様はフラッシュ魔術を鏡に向かって放ち、それを何度も反射させる。死角から襲ってくるであろうアミーラを仕留めるためだ。そして――放った光線が、雷光に命中した。
「わぉ! 何度も同じ手を食らうかよ!」
しかしアミーラは、反射して飛んできた二本の光線を、両手に持った両刃斧で受け止める。衝撃で吹き飛ばされながらも、落下する土や石の破片を踏み場にして、そのまま雷速で、私様の周囲を縦横無尽に駆け巡りはじめた。
(やはりそうか! あの土と石は、私様を狙った攻撃ではなかった……奴の狙いは、〝空中に足場を作ること〟。そして、その即席のフィールドを使って、落下中の私様を仕留めるつもりだったのか!!)
目では追いつけない雷光が、何度も何度も私様の周囲を走る。私様が空中で落下している間、アミーラにとっては、私様が〝止まって見える〟ようなものだろう。
(だが、大丈夫!! たとえ空中戦であろうと、私様には〝第六感〟がある!)
目を閉じ、自らの感覚に集中する。迫るアミーラの殺気を、呼吸すら止めて計る――
「そこだ!!」
再び、鏡を使って狙いを定め、雷光に向かって光線を撃ち放つ。
ビームは、疾駆する雷光に確かに直撃した――




