27.「金印紫綬」
幻鏡 VS アミーラ ―― FIGHT!!
「ルーベンス、ヴェダ……ここはボクに任せて一人で戦わせてくれ」
アミーラは二人に向かってそう告げた。
「なに!? ……いや、ここはオレも一緒に戦おう! アミーラ!」
「そうッスよ! アタシも加勢するッス!! アミーとルーベンスとアタシ、いやタウンの皆で袋叩きにすれば、こんな戦い楽勝ッスから!」
ルーベンスもヴェダも、アミーラの言葉に首を縦には振らない。
その間、私様はいつでも動けるように二枚の鏡を人差し指でピザ回しのようにクルクルと回し、相手の出方を伺っていた。
「……じゃあ、言い方を変えるよ。ボクは幻鏡と一対一で戦いたい。だから邪魔しないでほしいんだ。――ボクは、幻鏡の強さを知りたい。そして、ボクとどちらが強いのか、確かめたい。ただそれだけなんだ」
アミーラはペロリと舌なめずりし、私様をまるでご馳走でも眺めるように答えた。
(アミーラ……貴様、戦いそのものを楽しむタイプか)
私様は、アミーラの性格を少しずつ理解し始めていた。
「むぅ、こんなときに悪い癖が出ているぞ」
ルーベンスは苦い顔をしながらも、やがて決断する。
「……だが先ほど助けてもらった礼だ。ここはアミーラ、お前の望みを通そう。その代わり……絶対に死ぬなよ!」
「ああ」
アミーラが短く答えると、ルーベンスはヴェダの腕を無理やり掴み、この場から距離を取った。
「離すッスよ!」とヴェダが抗議しても、ルーベンスは耳を貸さない。
三対一も覚悟していたが、意外にも私様とアミーラの一対一という形に落ち着いた。
向かい合う私様とアミーラ。
張りつめた空気の中、私様は問いかける。
「貴様……インファイターか?」
「ん? そうだよ、よくわかったね」
やはり、そうか。
初めて出会ったときから感じていた。アミーラの強さを。
一目でわかる圧倒的なオーラ。その量も質も、最低でもゲルメズと同等――いや、それ以上の力を物語っていた。
「どうした……来ないのか? アミーラ」
アミーラはしばらく私様の出方をうかがっていたが、やがて左手の親指を右に残し、四本の指を揃えて構える。
――サンダー魔術の構えか。
「そうだね、キミがどんな魔術を見せてくれるか興味はあるけど……試しに、こっちから攻めてみるか」
「雷電装束」
アミーラが唱えると、バチバチと雷光が走り、トーブのような装束がその身を包んだ。
「心配しなくても、今から見せてやるさ!」
私様は応じ、二枚の鏡をブーメランのように鋭く投げ放つ。
「金印紫綬」
紫がかった金色の光線が鏡を目がけて放たれる。
同時に、アミーラは雷光のごとき速さで私様に迫った。
斧の刃が首元に届こうとした、その瞬間――
「ぐはぁ!?」
反射された光線が横合いから直撃し、アミーラは衝撃で吹き飛ぶ。
「アミーラ!?」
「アミー!?」
遠くから、心配そうなルーベンスとヴェダの声が響いた。
「強いのは貴様だけではない……ゲルメズ戦を経て、私様も鍛えられた。インファイターの速さにも慣れたし、何より――久奈子の犠牲によって得た、この膨大な魔力があるのだからな」
魔術名【金印紫綬】――それは、フラッシュ魔術『金印』の上位魔術にあたる。
莫大な魔力を消費するため、今までなら実戦でそうそう使える術ではなかった。
だが、今の私様には久奈子の犠牲によって得た膨大な魔力がある。ためらう理由はない。
「熱っ……つつつ! 最速の輝光系魔術に、さらにカウンターまで重ねるなんて……厄介だね」
煙をまといながらも、アミーラはあっさりと立ち上がった。
火傷は負っているが、その程度。致命傷には程遠い。
「馬鹿な!? ……なんてタフな奴だ!」
私様は驚きを隠せない。
カウンターによって威力を倍増させた金印紫綬をまともに受ければ、普通のインファイターなど肉体ごと貫かれていてもおかしくはない。
つまり、あの女……相当に鍛え抜かれているな。
「ふ~ん、正面から挑むのは、避けないとね――雷電装束」
アミーラの姿がフッと消え、残像のように稲妻が走る。
次の瞬間、私様の周囲を縦横無尽に駆け巡り、かく乱を狙ってきた。
(スピードで翻弄するつもりか……だが、甘い!)
「雷の速さなど、光の速さに比べれば遅いわ!」
私様は再び二枚の鏡を投げ放ち、そこへ光を撃ち込む。
「金印紫綬!」
光は跳ね返り、軌跡を変え、何度も何度も反射を繰り返す――そして背後へ回り込んだ。
その瞬間、斧の刃が迫る。
「……っ!?」
背後から二条の光線が突き抜ける。一本は両腕で弾かれた。
だが、もう一本は――アミーラの耳を貫き、その奥へと到達する。
「今度こそ終わりだ……アミーラ」
決着を確信し、私様は低く呟いた。
補足)
光速は、約秒速30万キロメートル(3.0×10⁸ m/s)。
一方で、雷光 の速度は、約秒速10万キロメートル(1.0×10⁸ m/s) 程度とされています。
つまり、雷の速度は光の約3分の1。
作中での「光と雷の差」は、この物理的な速度差をもとにしています。




