26.「インチキ教祖を殺す」 後半
久奈子の幽霊!? それとも……
「な……ん……で?」
「あたしが死んだのに……幻だけは未だに生き残っている――なんで、幻だけが生きているの?」
「幻は何のために生きているの? カルトを狩る元カルト教祖……それが社陸幻鏡という女でしょう? なら、死ぬまでその存在意義を示し続けないと……」
頭でわかっている。
これはファントムだ。久奈子がここにいるはずなどない。
そもそも、久奈子がこんなことを言うはずもない。
敵からファントム魔術をくらっていない限り、これは――私様の頭が生み出した虚像だ。
「精々悩み、あがき、もがき、そして苦しむといい。そなたも鬼道の使い手……やがて妾様たちと同じく、鬼の道へと堕ちるその時まで……」
また現れた。あの女、私様の母のファントムだ。
「幻は、カルトを狩る元カルト教祖」
「その両の瞳も、いずれは濁るでしょう……鏡のような娘よ……」
久奈子と母のファントムが、呪いのように私様へ語りかける。
私様は何を見せられている? いや……私様はこのファントムを自身で生みだして、いったい何がしたい?
両者のファントムが私様の肩に手を置き、耳元で囁く。
「――あんたはカルトを狩る元カルト教祖。鬼の道へと堕ちろ」と。
そのとき、外から明るい声が飛び込んできた。
「社陸さん! 今、兄貴と話していたッスけど、良かったらタウンの出口まで乗せてやるって言っているッスよ!!」
ヴェダが、いい話をするように私様に語りかける。
「ああ、オレなら一飛びで行ける! 入口はどこだ? 教えてくれればそこまで乗せてやろう」
ルーベンスまで笑いながら話しかけてくる。
その答えに、私様は静かに言った。
「……いや、いい。私様はまだこのタウンから出るわけにはいかない――やることがあるからだ」
「やることッスか?」
ヴェダが尋ねる。
「ああ……インチキ教祖を殺す。私様はそのためにこのタウンに侵入したのだ。無断でな」
「インチキ教祖を殺す!? タウンに侵入した!? おい、どういうことだ?」
驚愕するルーベンス。
「……社陸さん、冗談言うにしても笑えないッスよ……」
ヴェダは戸惑っている。今の言葉を冗談だと信じたいのだろう。
私様だって驚いている。急な心境の変化に、自分でも戸惑っていた。
「本気だ。私様がインチキ教祖を殺すというなら……貴様らはどうする?」
もう演技は終いだ。
ここからは正々堂々、インチキ教祖を探し出し、狩る。
それがこの新しき世界での、私様の存在意義だ。
邪魔する者がいるなら、誰であろうと倒す。
「ヴェダ、離れていろ! ここはオレが対処する!!」
ルーベンスはヴェダに指示を飛ばし、彼女を安全な場所へ退かせた。周囲には住民の姿はほとんどなく、戦うには申し分ない場所だ。
ルーベンスは戦闘の構えを取りつつ、低く告げる。
「社陸幻鏡とやら……オマエはタウンへ無断での侵入――住居侵入罪、そしてインチキ教祖の殺害予告――脅迫罪により、治安部のオレが逮捕する!」
続けざまに、ゆっくりと音を刻むように言った。
「オマエには、この魔術で速攻やっつけてやろう……チッチッチッチ」
(チッチッチッチ――特殊な呼吸。あれがドラゴン族特有の魔術の構えというやつか)
私様は静かに武器を取り出す。
「三角縁神獣鏡」
ルーベンスが口元に雷を溜め、魔術を放つ。
「チッチッチッチ――雷竜の息吹」
――バリバリ!
音を置き去りにするほどの速さで、激しい雷光が一瞬にして迫る。
――キュィイイイイイイイイインン!!
鏡にルーベンスのサンダー魔術がぶつかると、その雷光はまるで掃除機のように一瞬で吸い込まれた。
「なっ、オマエ、反撃型魔術の使い――」
「まずは一体目。終わりだ……ルーベンス!」
――バリバリバリバリバリバリバリバリバリ!
カウンター魔術で跳ね返された力は倍以上となり、巨大な雷光がルーベンスへ直撃しようとした。
その瞬間――
巨大な雷光の軌道に、何かが飛び込んできた。
「イプシロン・アックス」
ブオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
雷光は突如として掻き消え、その衝撃で濃い煙が立ち込めた。
「なに!?」
「ふぅ、危なかったね……ルーベンス、怪我はないかい?」
その声は、私様の記憶に刻まれている。最初にインチキ教祖と会ったとき、隣にいたあのオーク族だ。
「貴様……アミーラか?」
煙が晴れると、姿を現したのは予想通りアミーラだった。
だが彼女の手には見慣れぬ武器が握られている。長い棒の両端に両刃斧が備えられ、棒には三つの節があり、それらは鎖で繋がれていた。
あの武器は――
「ヌンチャク――いや、三節混というやつか!?」
「そうだよ」
アミーラが着地する。鎖の音がジャラジャラと響いた。
「両刃斧と三節棍を合体させた武器――これこそがボクの武器、〝イプシロン・アックス〟だ」
次回、幻鏡VSアミーラ




